会社の値段 (ちくま新書)

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会社に値段をつけるのはなぜか

本書は、企業価値の算定とM&Aをテーマにしている本です。企業価値の意義やこれまでの経緯、アメリカ的な価値評価が行われる理由など企業価値評価そのものというより、その背景などの解説が多くなっています。M&Aについては、日米での比較もされており、M&Aの基本が理解できるようになっています。

森生明 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2006/2/6) 、出典:出版社HP

目次

はじめに――会社の値段がわかると世の中が見えてくる

第一章 なぜ会社に値段をつけるのか
会社の役割
株式上場もM&Aも中身は同じ
反対者の言い分①―会社は安易な金儲けのネタではない
反対者の言い分②―バブル長者は勤勉日本人の敵
資本主義とは会社に値段をつけること―株式会社と資本主義の誕生
公開株式市場への発展
会社に値段がつくフェアな社会―ホリエモン発言の真意
カネさえあれば何でも手にはいる、でいいの?
日本企業によるアメリカ買いの顛末
日本の転換期―会社の値段が重要になる時代の到来

第二章 基本ルールとしての「米国流」
「米国流」がグローバルスタンダードな理由
投資価値算定の万国共通ツール
永遠に同じキャッシュを生みつづける金融商品の値段
お金の時間価値――現在価値という発想
企業価値算定の原理
リスクを数値化する
最低限覚えておくべき公式
株主至上主義の紆余曲折
オーナー一族経営の時代
所有と経営の分離
一九六〇年代のM&Aブーム
一九八〇年代以降―株主の逆襲
機関投資家の拡大とコーポレート・ガバナンス
敵対的M&Aとその防衛策の発達
強いアメリカの復活と株主至上主義

第三章 企業価値の実体
会社の持ち主
企業価値にあたる英語はない?
企業価値という言葉にひそむ曖昧さ―ニッポン放送の企業価値と株主価値
誰にとっての「価値」なのか
すべてのステークホルダーという事なかれ体質
誰が企業価値を創るのか
経営者を選ぶということ

第四章 「会社の値段」で見える日本の社会
「会社の値段」という共通テーマ
全ては「金余り」からはじまった
高度経済成長の終わりからバブル崩壊へ
バブル崩壊から貸し渋りと金融再編
銀行の機能不全からハゲタカファンドの登場へ
ハゲタカと事業再生
事業再生と企業スキャンダルのつながり
ハゲタカファンドから産業再生機構へ
事業再生と外人社長
若手起業家の登場とネットバブル

第五章 企業価値算定―実践編
基本公式をどう使いこなすか
倍率は本質を語る
答えは市場から探す
株価、企業価値と会社の値段の関係―家電メーカー四社の比較
株価をそのまま比較しても意味はない
株式時価総額=会社の値段?
株式時価総額(=株主価値)と企業価値は違う?
バランスシートをイメージする
株式時価総額とのれん価値
企業価値にはすべてが織り込まれる
キャッシュフロー倍率で比べる
EBITDAというスタンダード指標
EV
EBITDA倍率は経営者の通知表
「客観的に正しい企業価値」はあるのか

第六章 ニュースを読み解く投資家の視点
正しい市場評価の前提
情報開示の重要性
投資家層の厚み
転換社債や新株予約権
買収資金は誰のカネ?
ベンチャー起業家は本当に稼いでいるのか?
財務優良会社がなぜ狙われる?
投資ファンドばかりが儲ける世の中でいいのか?

第七章 M&Aの本質
健全なM&Aの姿―支配権の売買
100%買収があるべき姿
支配権価格に「相場」はあるのか?
オーナーのわがままは構わない?
経営者のわがままは許されない?
なぜM&Aが企業価値を生むのか
M&A価格算定とDCF方式
支配権の値段の数値化作業
流動性の有無―なぜ上場廃止を選ぶのか
隠された負の遺産を見つけ出す

第八章 日本の敵対的M&A、米国の敵対的M&A
三タイプの敵対的M&A―良い、悪い、微妙
ライブドアとフジテレビ―何をめぐる争いか?
米国の敵対的M&A合戦―ディズニーの場合
新たな展開―楽天とTBS

第九章 日本らしい「会社の評価」のために資本主義は万能?
敵対的買収防衛策の必要性
会社への依存―国民性の違いか?
会社の金融資産は本当に株主のものか?

おわりに――投資家が形作る国と社会

森生明 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2006/2/6) 、出典:出版社HP

はじめに――会社の値段がわかると世の中が見えてくる

私は、二〇年ほど前、留学中に米国の企業買収の世界に触れたことがきっかけとなり、以後、企業価値の算定やM&Aの世界で仕事をしてきました。「どういう仕事をしているのですか?」と訊かれれば、
「企業価値を算定したりM&Aのアドバイスをしたりしています」
と答えていました。こう自己紹介すると昔は大抵、耳よりなインサイダー情報を持っていると期待され、「じゃあどの株が儲かるのか教えてくれ」と訊かれたものです。M&Aという用語が、Mergers(合併)&Acquisitions(買収)という英語の略であることを説明し、M&Aのアドバイザーというのは、会社の中身を調べて値段を算定して企業の合併や買収の交渉をする仕事です、と説明すると、今度は、
「企業を買収しちゃうなんて、なんだかぶっそうな仕事だね」
と眉をひそめられたものでした。
会社を運命共同体、人々が助け合い生活を支えあう場、ととらえる伝統的な日本の会社観からは、会社を買収しようとする人間は村を襲撃する山賊のように映ります。会社の財産は村びとが冬に備えて蓄積してきた食料で、買収者はそれを横取りしに来る、そんな構図を思い浮かべる人も多くいるでしょう。だとすると、会社の中身をあれこれ詮索して値段をつけて売り買いするのを助ける仕事は、山賊の手先が村の蓄えを調べまわるようなもので道徳的によろしくない、と言いたくなる気持ちもわかります。実際のところひと昔前は、そのように強引な買収を仕掛ける人の中には、会社の資産を売り払い社員の首切りをして安易な金儲けをしようとする人や、「会社を乗っ取るぞ」と脅しをかけて高値で株式を引き取らせることを狙っている人が多くいました。そこから、「会社の買収=会社の乗っ取り=人の道をはずれた強欲な人間のやること」という構図が、多くの人の頭にインプットされてしまった面もあります。そもそも、会社を買う行為を「買収」という犯罪用語と同じ呼び名にしてしまったことが、偏見の始まりなのかもしれません。

ところが最近では、M&Aはすっかり日常用語となりました。企業買収というと拒否反応を示す人は相変わらず多くいますが、M&Aが、会社中心の日本社会において避けては通れないトピックであり、ひとりひとりの人生設計に大きな影響を及ぼす出来事として受け取られるようになってきたことは事実です。株主価値についての議論が堂々と展開されるようになったこと、外資系、日系、政府系を問わず、経営者を交代させて事業を再生し売却して利益をあげるケースが出てきたこと、には隔世の感があります。
「M&A」だけではありません。ここ一年ほどの間で、急に「企業価値」「事業再生」「ハゲタカファンド」「株式上場廃止」……こんな言葉が新聞・テレビで毎日飛び交う世の中になりました。
そして、これらの言葉は、ただ一時的に流行しているだけではない、日本の社会・経済の大きな変化を表しているのだ、と私には感じられます。小泉内閣の「構造改革」「民営化」の流れと、「銀行再編」「不良債権処理」「デフレ」という動き、さらに遡って「バブル経済の崩壊」という出来事と、「企業売買」の話は、根がつながっています。
現代日本を賑わせているこれらの出来事の背景や理由は、「会社の値段」を軸にして考えることによって、全てすっきりと見えてくるのです。それが、この本を書こうと考えたきっかけです。

この本では以下の順序で、話を進めていきたいと思います。
まずは、会社に値段をつけて自由に売り買いできるようにすることが、世の中を便利で豊かにするための大切な原動力であることを説明します。
次に、ではどうやってその値段を算定するのか、という疑問に取り組みます。そうすると、昨今世の中を騒がせている「M&A」や「投資ファンド」の活動の意味と仕組みがわかるようになります。
その上で、「金が全て」という拝金主義的な考えにどこでどう歯止めをかけるべきなのか、欧米的な手法と日本的な良さとの間にどう折り合いをつけられるのか、という問題を考えます。
企業価値の算定やM&Aは、実際には複雑な数式や会計知識が必要な世界ですが、それらのテクニック面には深入りせず、「なぜそうなるのか、そうするのか」という素朴な疑問に、歴史的背景や世の中の移り変わりの脈絡や具体的な事例を引きながら答える「読み物」となるよう心がけました。国民ひとりひとりの「教養」としては、細かいテクニックより、大雑把ではあっても、その本質を押さえておくことの方がずっと重要だと思うからです。
また、企業価値算定やM&Aの話題は、とかく「米国的、外資系的」な発想や手法と「日本的」なものとの対立、どちらが良いか悪いか、という議論になりがちです。しかしあまり表面的な「日本vs米国」的構図にとらわれると物事の本質を見誤る、と私は感じています。この本ではいわゆる「米国的」な考え方を「日本的な頭と心」で理解できるように説明し、その上で、「では、日本的とは実際にどういうことなのか」を改めて考えるための材料を提供したいと思っています。

森生明 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2006/2/6) 、出典:出版社HP