企業価値の神秘

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コーポレートファイナンス理論の考え方と面白さがわかる

本書は、コーポレートファイナンス理論を解説した本です。基本的な理屈をしっかりと解説しており、初学者でも理解できる構成にしています。企業の価値をつけることの意義や割引現在価値、資本コスト、キャッシュ、評価の種類など企業価値がどのように評価されるかが理解できるようになっています。

宮川壽夫 (著)
出版社 : 中央経済社 (2016/10/25) 、出典:出版社HP

はじめに

このたびは本書をお買い上げいただきありがとうございます。著者の宮川壽夫です。私はコーポレートファイナンス理論の実証研究を専門としている研究者です。大学では学部生,大学院生向けにコーポレートファイナンス理論を教えています。学外でも,事業会社や金融機関の経営者・ビジネスパーソン向けに企業価値評価に関するセミナー,コーポレートファイナンス理論をテーマにした講演,研修などを行っています。
大学の教室や講演会場で,私はコーポレートファイナンス理論への「愛」と,この学問分野のおもしろさをわかってほしいという「情熱」を語ってきましたが,このたび私のコーポレートファイナンス理論に対する愛と情熱を1冊の本にしていただきました。本書は「企業価値」という概念を中心に,コーポレートファイナンス理論が持つ独特の思考回路とそのおもしろさを説いた本です。

ゴツゴツの理屈をバリバリと噛み砕く因果律のおもしろさ
そのために,語り口調はソフトであるものの,厳密で正しい理論の積み重ねがしっかりできることを意識しました。本書は「なぜ現在価値に割り引く必要があるのか」,「なぜ資本にコストなどというものがかかるのか」,「なぜMM理論は俳大なのか」,「配当と企業価値はどのようなメカニズムでつながっているのか」といったゴツゴツとした基本の理屈をバリバリと噛み砕きながら,初心者の方が厳密な理論のおもしろさを楽しめるよう解きほぐした本です。
したがって,詳細な数値例を用いて企業価値計算のノウハウを学ぶ本にはなっていませんし,これ1冊で企業価値の悩み解決という実践書でもありません。また,研究者として私の発見や創見を主張する本でもありません。強調したいのは,なぜこう考えるのか,こう考えないとなにが困るのか,といった因果律で整理された「思考回路」です。これが実はコーポレートファイナンス理論をマスターする早道だと私は思っています。
MM理論は現実にはあり得ない仮定に基づいているので意味がないと誤解していないでしょうか。増資をすると希薄化して株価が下がると思ってはいませんか。リキャップCBを発行して自己株式を取得すると企業価値が上がると考えたことはないでしょうか。初心者の方にはなんのことだかわからないかもしれませんが(本書を読み始めればすぐにわかります),もし“玄人”の方で少しでもこれらのことに不安がある方は,是非とも初心者の方と一緒にこの本でスタートしてください。もう一度だけ厳密な理論のゴリゴリさ加減を楽しんでいただきたいと思います。それが企業価値の計算プロセスを正確に理解する早道になるはずです。

想定する読者層への願い
この早道を知るとなにがうれしいのかは読者層によって異なると思います。本書はやや欲張って広範な読者層を想定しています。
まず,これからコーポレートファイナンス理論を学ぼうとする学部生,大学院生の初学者のみなさん,あるいはなにかのきっかけでコーポレートファイナンスに興味を持ったり,なにかの理由でこの分野の勉強をせざるを得なくなったビジネスパーソンの方々にとっては最初に読むべき1冊となることを願っています。
また,コーポレートファイナンスは一通り勉強したけど今ひとつ腹に落ちていない,実をいうと「割引現在価値」とかでいきなり挫折してそのままにしている,という方々には「なんだワリとおもしろいじゃないか」と思っていただくことを願っています。
さらに,企業価値計算ならエクセルで計算できるけど実は計算の意味がわからないままやっている,あるいは,すでにこの分野は勉強して「理論ではそうだけど実際にはネ」,「企業価値なんていうから世の中,短期志向に走るんだよ」とニヒルな笑いを浮かべていらっしゃる方々には「そういう考え方もあるのか」と新たな発見をしていただくことを願っています。以上のような願いをわずか1人の方にでもかなえていただければと考えている本です。

うれしくて眠れない講義の前日
ところで,実に僭越なことではありますが,私は人にモノを教える,ということが心の底から大好きです。場合によっては見知らぬ人に道を尋ねられただけでも興奮します。ですから,大学の講義の前日などうれしくて眠れません。「明日はこういう話から始めよう」とか「ここでこのネタをはさんで」とか「この話ウケそうだなあ」などと考えているうちにワクワクしてきて,気がついたら朝になっていたりします。寝不足の目をギンギンにさせてハイテンションのまま教室に入っていきますので学生にとってはいささか迷惑な話です。
ゴルフにも「教え魔」という人がいます。私の昔の上司だったF岡課長がそうでした。F岡課長は「んー,惜っしいなあ」と言いながら近づいてきて,「左ひざがサァ,開いちゃってるわけ。こう,ほら。ここにネ,壁があると思ってさ,ここまでググゥーッと下半身止めて。グーッとがまんする。でもって,ここから一気にダァーンッと。全身の力でインパクト。ね?このときヘッドアップ気をつける。」
F岡課長は教えることそれ自体が大好きです。ちょっと目を放した隙に他の知らない人のところへ行って「んー,惜っしいなあ」とまたやっています。私も教えること自体が好きですが,F岡課長と違うのは,私はどこから話を始めて,どのような手順で進めていくか,という理解に至るプロセスをずっと考えることが大好きなのです。そして,要するになにがポイントとして重要なのか,なぜそのポイントが重要なのか,という知識の意味づけをキッチリと説明したいのです。左ひざの開きとヘッドスピードの因果関係とか,そもそもボールが真っ直ぐに飛ぶメカニズムとかを追及して整理できないと気が済みません。
自分の中で整理できたら今度は相手に「なるほど。そういうことだったのか」と腑に落ちてもらうためにはどうすればいいかをひたすら考えています。この思考過程がたまりません。
単に理屈っぽいだけではありますが,それでもその甲斐あってか私の講義は昨年も290人収容の大教室が最終回まで立ち見が出るほどの満席状態でした。講義では,F岡課長のように「ググゥーッと」とか「ダァーンッと」といった擬態語で表現することができませんし,9番アイアンを持って手本を披露することもできません。そのかわりに私はゲームや実験を考案してさまざまな演出で講義を盛り上げるのも大好きです。
しかし,結局のところ理屈を1つひとつ地道に積み重ねて,言葉を紡いで情理を尽くして,「ググゥーッ」という気持ちをなんとか言語化して,最後に「どうよ,これ!めちゃめちゃおもしろくない?」と語りかけたとき(なかば強制的ですが),学生諸君が「ほぉー」という表情を見せ,大教室全体が静かにうなずくような気がします。この瞬間がたまりません。もしうなずいてもらわなければまた一からバラバラにして考え直します。

企業価値のブラックボックスをどう開けるか
さて,本書も以上のようなスタンスとテンションで書きました。だから文体もこのような語り口調で通します。コーポレートファイナンス理論は決して万人ウケしない,難しくてイヤなカンジの理屈です。そのため多くの人が理屈を素通りしてしまいます。正確な理屈をおろそかにした結果,「株主至上主義」とか「市場原理主義」という皮相な表現が独り歩きして大きな誤解を招いているというのが私の問題意識です。
企業価値というブラックボックスを,手順を間違えないようにうまく開いて,中の回路がどこからどうつながっているのか,なにがわかっていてなにがわかっていないのかを白日の下にさらし,その構造を多くの人にうなずいていただくためには本書のような構成とノリが必要だと考えました。何とか1人でも多くのみなさんに,コーポレートファイナンス理論がいかにエレガントで美しいか,また,いかに油断とスキを許さない「思考回路」で世の中の謎を解明しているかに共感していただきたいと思っています。
再び私ごとで恐縮ですが,なにしろ私の人生はコーポレートファイナンス理論によって変わったといっても過言ではありません。証券会社に入社して若さに任せて仕事していた当時はコーポレートファイナンスの「コ」の字も企業価値の「キ」の字も知りませんでした。自分の仕事との関係すら考えたこともありませんでした。その後,アナリストの資格試験を嫌々ながら受けたときも証券分析とポートフォリオ理論は本を開いただけで頭がクラクラするほど嫌いな不得意科目でした。
しかし,何を思ったか40歳を過ぎてコーポレートファイナンスの分野を研究するため大学院に通い始めました。大学院では,自分が実務で抱いてきた問題意識を科学的な理論がサクサクと見事に解説してくれることに衝撃を受けました。最初は修士論文を残すことが目的でしたが,それでは飽き足らず,一気に博士論文まで無酸素運動のように突っ走りました(今思い出しても息が苦しくなります)。そして,企業価値の神秘的魅力にすっかり取り憑かれ,ついには会社を辞めて研究者になってしまいました。コーポレートファイナンス理論に出会ったことによって,それまで平和で幸せな会社員生活を送っていた私の人生は一変してしまい,現在はさらにもっと平和で幸せな毎日を送っています。
この理論,一体どのあたりが「来る」ポイントなのか,どのあたりで胸が高鳴って,どのあたりで思わず感動してしまうのか,本書ですべてを語り尽くすことは到底不可能ですが,こういう気持ちも散りばめながらじっくり「語って」いこうと思います。

本書の使い方についてのお願いです
ここで本書の使い方としていくつかお願いしておきたいと思います。
まず,本書はコーポレートファイナンスの硬い教科書ではありません。読み物として電車の中やベッドの中でリラックスしてお読みください。そして,本書の内容を理解した後は,できれば興味に応じてきちんとした基本書にもチャレンジしていただくことをお薦めします(参考までに,私の学部ゼミでは『Principles of Corporate Finance』の日本語版『コーポレートファイナンス』ブリーリー/マイヤーズ/アレン(日経BP社)を教材にしています)。
本書では正統派といえる古典的文献や代表的教科書など名作名著をいわば換骨奪胎しながら平易に説明しますので,その都度必要に応じて読んでおくべき基本書のいくつかを脚注で紹介していきます(ただし,本書は研究論文ではないのでいちいち詳細な文献情報を掲載することは避けました)。本書はリラックスしながら読んで,紹介した基本書はどうか机に向かってガリガリと読んでください。
本書は,これからファイナンスの専門分野への入門にチャレンジしようという学部生や大学院生には体を慣らす1冊として打ってつけとなるはずです。試合前のアップの感じで気軽にお読みください。事業会社や金融機関にお勤めのビジネスパーソンや経営者の方々が本書を読んでコーポレートファイナンスに興味を持って,分厚い教科書も読んでみたいと感じていただければうれしいですし,本書でだいたいのことは掴めたと感じていただいても当面は大丈夫だと思います。
また,本書は幅広いコーポレートファイナンスのトピックをすべてカバーするのではなく,企業価値という概念を中心にコーポレートファイナンス理論という学問の思考回路を身につけていただくことを目的としています。たとえばポートフォリオ理論やオプション理論などはバッサリと切り捨てました。ポートフォリオ理論やオプション理論は勉強しているうちになんのための知識だか途中でわからなくなりがちなテーマですが,本書で学ぶ企業価値に根ざした思考回路に慣れれば理解しやすくなるはずです。
さらに,本書は前提の知識がない方でも読めるように書いたつもりです。コーポレートファイナンス理論は高山植物の研究のような,一般の方々にとって別世界の話ではありません。おカネとか会社とかビジネスといった,私たちの日常にさまざまな影響を及ぼす知識です。「世の中こうなっているのか」と感じていただければありがたいですし,「理屈って,考えるとおもしろいなあ」と少しでも思っていただければ望外の喜びです。
最後のお願いとして,できれば本書は最初のページから順を追って最後までお読みいただきたいと思います。このような本のまえがきでは「どこからでも興味を持った章から読んで構いません」とか「自分にとって必要のない章は適宜飛ばしながらお読みください」というのが普通かもしれません。それは,正眼の構えをして「さあ,どこからでもかかってきなさい」といえる達人の書いた本です。私は達人どころか研究者としてはまだまだ駆け出しの身で,今なおコーポレートファイナンス理論の森の奥でもがいている人間です。
しかし,神秘の森の奥にはなんとか入ってきて,ときどきは美しい湖や山の景色を満喫している立場にいます。したがって,これから森に入っていこうとされる方々には,「そこ,穴あいてますから気をつけて」とか「そっちの道に行くと,とんでもないことになりますよ」とか「その先に水が湧いてますから,もうちょっとがんばって」といったアドバイスができます。だから,できる限り本書の道順に従って読んでいただいたほうが安全ではないかと思います。

では,これから皆さんを美しい神秘の森へ安全にご案内しましょう。

宮川壽夫 (著)
出版社 : 中央経済社 (2016/10/25) 、出典:出版社HP

本書の構成とあらまし

これからはじまる神秘の森の全体像を見晴らしよくしておこうと思います。
本書は大きく分けると第1章から第7章までの前半部と,第8章から第13章までの後半部という2つの構成になっています。前半で企業価値評価の基本的な方法論を学び,後半では現実の世界で企業価値に影響を及ぼす要素をさまざまな理論によって明らかにしていきます。コーポレートファイナンス理論の入門書としては各章の構成もかなりユニークです。

第1章から第7章までの前半は企業価値がどのような理屈によって評価されるのかというお話を進めていきます。
まず第1章で株式会社がなぜ価値を生む必要があるのかというお話をし,第2章では,そもそも価値とはなにかについて考えます。企業価値が資本市場で観測されるという大事な前提について説明した上で,第3章から具体的な計算過程を説明します。第3章では,企業の出資者である株主と債権者の立場の違いを明らかにし,まず資本コストを加重平均する理屈について説明します。第4章は,企業価値の計算においては避けて通れない割引現在価値の計算方法を学ぶ章です。そして,第5章で企業価値を計算する際の分母になる資本コストを説明します。ベータ値とはなにかをわかりやすく解説し,一気にCAPM理論までをマスターします。第6章は企業価値計算の分子にくる要素の話です。ここでは3つの企業価値評価モデルを学びます。第7章はマルティブル法の意義と活用方法についてです。

以上で企業価値の評価はすっかりお手のものですが,おもしろいのは実はここからです。第8章からはじまる後半では企業価値が理屈どおりに市場で観測されない現実に挑みます。
まず第8章では,人間と企業の行動が必ずしも完全に合理的ではない点から市場メカニズムに限界があることを説明します。この現実を具体的に説明する理論を第9章で組織の経済学として学びます。そして,完全市場という仮定を緩めながら企業の現実的な行動に迫るのが第10章と第11章です。MM理論から話をはじめて,第10章では資本構成が企業価値に影響を与えるメカニズム,第11章では株主還元が企業価値に影響を与えるメカニズムについて代表的な理論を紹介しながら検討していきます。第12章はさらに発展して,人的資産が企業価値に与える影響を取り上げるとともにエージェンシー理論の現実性について疑問を投げかけます。最後の第13章では本来コーポレートファイナンス理論ではあまり取り上げられない企業戦略に対する評価について企業価値評価の観点から実践的な整理を行います。
「おわりに」で「企業価値の神秘」について,読者の皆さんへ私からメッセージをお届けします。
なお,本書の内容の一部には文部科学省科学研究費補助金・基盤研究C(2014年度~2016年度)の援助を受けた研究が含まれています。

宮川壽夫 (著)
出版社 : 中央経済社 (2016/10/25) 、出典:出版社HP

目次

第1章 コーポレートファイナンス理論と株式会社
1 コーポレートファイナンス理論とはなにか
まず視点をどこに置くべきか
なぜ価値がつくとうれしいのか
2 株式会社という便利でキケンな仕組み
株式会社を舞台にしたドタバタ劇
経営者の能力が低いと世の中みんなが迷惑する
家計が提供する資本と労働だから経営者というシゴトは楽なはずがない
企業価値拡大の原理原則

第2章 企業に価値をつけるという大胆不敵
1 人はなぜモノをほしがるのか
「価値」という豊かな日本語
カイシャには値札がついている
割引現在価値という理屈
将来の利得とリスクが価値を決める
2 すぐれた経営をどう評価するか
企業価値を定義すると
すぐれた経営とはなにか
コーポレートファイナンス理論の3つの原則
なぜ企業価値概念が普遍的なのか
企業価値は一企業の問題にとどまらない
しかし世の中はそこまで単純ではない

第3章 企業価値=株主価値+債権者価値という理屈
バランスシートの意味
株主と債権者,その立ち位置の違い
もしもバランスシートが時価だったら
なぜ資本コストを加重平均しなければならないのか
なぜ「1-実効税率t」をかけるのか? 節税効果を入れてWACCの計算式完結

第4章 割引現在価値という考え方
黄金の卵を産むガチョウの話
ガチョウが長生きすればするほど価値は上がるか?
黄金の卵を産むガチョウはだいたい2,000万円くらいの値段がつく
再び企業価値の定義
イソップ寓話が教える教訓
補論/なぜそんなに簡単な式になるのか? 永久債の価値

第5章 分母にもってくるもの〜資本コストという考え方
1 ベータ値という考え方
株式市場はなんでも知っている
株価は一次方程式で決まる?
2 ベータ値の意味と実際
ペータは企業によって異なる
ペータが表す意味
実際のペータ値を観察する
3 株主資本コストの計算
これで完成,美しくも強引な悪魔的魅力 CAPM理論
株主資本コストの導出
補論/分散と共分散の簡単な計算方法とペータ値の意味

第6章 分子にもってくるもの~キャッシュの考え方
1 株式価値評価モデルの原点:配当割引モデル(DDM)
もしも毎年同じ金額の配当がもらえたら?
もしも配当が毎年同じ割合で増えていったら?
2 実務でも活躍:割引キャッシュフローモデル(DCF法)
企業全体を主体に考えるエンタープライズDCF法
継続価値と永久成長率
フリーキャッシュフローの考え方:要するに「ゼニ」がなんぼ残っているか
なぜ利益ではいけないのか
会計と正反対のコーポレートファイナンス
負債を考慮しないフリーキャッシュフロー
それでも公式は通用しない:最終的な企業価値の算出
3 会計情報で計算できる:残余利益モデル(RIM)
B/SとP/Lの連続性で企業の行動を見る
もしも株主がその利益に満足しなかったら?
計算式は多いですが,理屈はスッキリしています
ROEと資本コストの関係ROEは高ければよいという指標ではない
4 公式を覚えることに意味はなし
どのモデルでも同じ答えが出る?
なぜDCFが実務で使われるのか
補論/配当割引モデルによくある勘違い

第7章 株価の割高割安が本質ではない〜倍率法の考え方
1 PERとDDMの関係
株主価値だから当期純利益で割る
日清食品と東洋水産のPER比較例
PERの分母が当期純利益である理由
PERが語る企業のリスクと成長
2 PBRとRIMの関係
株主価値だから株主の資本で割るPBR
PBR1倍割れというけれど
PBR1倍にあえぐ日本市場のミステリー
3 PBRとPERの関係
PBRはROEとPERのかけ算
PBRとPERの関係から作れるストーリー
4 回収期間で見るEV/EBITDA倍率
EVの再定義
実際の計算過程
なにがわかる数値なのか

第8章 本当に市場は正しい答えを知っているのか
1 市場で価格がつくとなにがうれしいのか
株式市場は本当に異質な場なのか?
市場価格が正しいとはどういう意味か?
市場メカニズムの限界に挑む
2 基本的競争モデルという理想
基本的競争モデルからの出発
経済学の教科書にはなぜ数式ばかりが並んでいるのか
3 限定合理性という現実
人間は効用最大化できない
企業は利潤最大化できない
基本的競争モデルという仮定の役割
4 情報の非対称性という現実
あなたの知らない世界
情報の非対称性が惹き起こす問題
なぜ保険料は高くなるか:アドパースセレクション
サポリ営業マンの給料は高いか低いか:モラルハザード
情報の非対称性問題への対応方法:シグナリング
エントリーシートは有効な経済的行為か:スクリーニング
補論/市場経済は本当に日本人になじみにくいのか?

第9章 組織の経済学三銃士
1 エージェンシー理論
企業が利潤を最大化できない理由
どういう問題が発生するのか?
エージェンシー関係はコストを発生させる
コーポレートファイナンス理論への応用
2 取引費用理論
市場での取引には費用がかかる
市場取引の費用が高いと組織化する
市場か企業かという選択
取引費用が高くなる条件
企業はなぜ多角化するのか
なぜ会議ではだれも発言しないのか
なぜ旧日本陸軍は白兵突撃戦術を続けたのか
個別効率性と全体効率性は一致しない
3 所有権理論
所有権がないと市場取引は成立しない
タバコの煙はだれのもの?
実はあいまいなほうがよい?
企業の所有権をどう考えるべきか?
株主が所有しているもの
株主が所有できないもの
4 新たなアプローチ

第10章 なぜMM理論はすごいのか〜資本構成の理論
1 MMからのメッセージ
最近のよくある勘違い
MM理論第一命題の例証
MM理論の第二命題が示唆するもの
MM理論がスゴイ理由
2 MM理論が実現しない現実
税金が存在する現実
なかなか実証されないトレードオフ理論
エージェンシー問題が存在する現実
取引費用が存在する現実
3 理論は理論で批判する

第11章 なぜ株主は配当が好きなのか~ペイアウトの理論
1 配当と自己株式取得
配当とはなにか
配当政策の悩み方
自己株式取得とはなにか
2 MMからのメッセージ再び
配当はいつだれに支払われるのか
配当無関連命題の例証
1株当たり利益が上がったから株価が上がるという勘違い
希薄化して株価が下がるという勘違い
3 配当が無関連ではない現実
税金が存在するなら無配が最適配当政策?
リントナーモデル:経営者は安定配当がお好き
シグナリングモデル:配当に込められたメッセージ
成熟性仮説:成熟はリスクの低下
フリーキャッシュフロー仮説:エージェンシー問題の解決策
株主と債権者のトレードオフ:株主は債権者の価値を奪う?

第12章 なぜ企業には人が必要なのか~人的資産の理論
1 マイヤーズの外部株主モデル
エージェンシー理論に対する問題意識
株主と経営者が企業に投下する2つの個人資産
配当は固定的であってしかるべき?
経営者の交渉力は人的資産
権利行使の配分メカニズム
2 会社の二階建て構造論
ヒトとしての組織とモノとしての組織
エージェンシー理論の誤謬
人的資産は個性的な企業にしからない?

第13章 なぜ企業に戦略が必要なのか~企業戦略の理論
1 完全競争と独占企業
完全競争市場で企業は価値を拡大できない
競争企業に対して独占企業とはなにか
2 独占企業と競争企業の間に企業戦略のヒントあり
現実には存在しない独占企業と競争企業
ポジショニングかリソースか?
3 ポーターVSバーニー
人がいない場所を取る:ポジショニング・ピュー
差別化かコストリーダーシップか
人が持たないものを持つ:RBV(リソース・ベースト・ビュー)
経営資源と呼ばれるためには
差異からしか価値は生まれない
実務でどこまで応用できるのか?
補論/独占企業はいかにして儲けるか

おわりに
企業価値は最大化されない
アカデミアの世界と実務者の世界の違い
今後も神秘の解明を目指して

索引

宮川壽夫 (著)
出版社 : 中央経済社 (2016/10/25) 、出典:出版社HP