新 コーチングが人を活かす

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日本のコーチングの入門書

悩みを抱えている人へ、自身の持っている答えを伝えるのではなく、問いを立て一緒に探し、その中で相手の発見を促す=コーチングと説かれ、62の具体的な手法が紹介されています。チカラになりたい職場の後輩や、自身の子どもがいる方におすすめの1冊です。

鈴木 義幸 (著)
出版社 : ディスカヴァー・トゥエンティワン (2020/6/26)、出典:出版社HP

はじめに――刊行8年の大幅改訂にあたって

初めてコーチングに出会ったのは1996年秋でした。
弊社コーチ・エィ創業者の伊藤が、アメリカ人のコーチを日本に招聘して催したコーチングのトレーニングに私も加わりました。
これこそ、自分の人生を賭けるに値するもの―そう感じ、とても興奮しました。
それから、4年が経った2000年。4年間で自分の中に溜めた知識、スキル、経験、情熱を多くの人にシェアしたい。
そして、人の主体性に働きかける『コーチング』というものがあることを、世の中に伝えたい。
そんな思いで『コーチングが人を活かす」の執筆にとりかかりました。
初めての本の執筆でしたが、パソコンのキーボードに置かれた指先は、やむことなく動き続けました。とにかく書きたいことがたくさんありました。
そして、2000年5月『コーチングが人を活かす」を無事上梓することができました。
とてもうれしいことに、多くの方が、3年間にわたってこの本を手にとってくださいました。そして、たくさんの感想を寄せてくださいました。
いくつかをご紹介させてください。

「性格や才能は人それぞれ。指導方法もひとつではないと感じていました。そんな悩みを、ほぐしてくれたのがこの1冊」
「コンパクトで、さらっと読めるけれど、そのときそのときで抱えている課題のヒントが見つかる。定期的に読み返しています」
「人の自発性を引き出す対人関係のスキルとして、友人関係、夫婦関係など幅広い人間関係をよりよくするために効果がある」
「日本の企業で働く人材が、その可能性を最大限発揮するために、できる限り多くの人に読んでもらいたい」
「世の中が多様化する現在、新たな付加価値を次々と生み出さなければ組織は存続できない。人それぞれの個性を認め、それを伸ばす、そんな対話のあり方をコーチングは教えてくれる」

21世紀にコーチングが必要とされる3つの理由

2000年当時、これから企業でコーチングが必要とされるであろうと思っていました。その理由は3つありました。
1つ目は、”何が正解かが簡単には見つけられなくなってきている”こと。経験豊富な上司や先輩が、部下や後輩に「こうするんだ」と指示をするだけでは、もはやさまざまな事態に対
処できない。
前例のない課題に対して解を見出すためには、部下や後輩に問いかけ、彼らと一緒にそれを探り出していくようなアプローチが必要であり、コーチングはそれに応えるものである。

2つ目は、”組織における多様性の拡大”です。
どの世代も同じ価値観を抱く時代ではなく、それは世代によって大きく変わろうとしている。
外国人の部下も増えている。女性活用も声高に叫ばれている(繰り返しますが、これは昨今の話ではありません。2000年当時の話です)。
そのような労働環境の変化の中で、コーチングは、価値観を異にする人と方向性を合わせ、共に未来を描いていくことに寄与しうる。

3つ目は、”イノベーションを求める声の高まり”です。
当時は”失われた0年”とよく言われました。
日本企業が反転攻勢に出るためには、イノベーションが必要である。
イノベーションを起こすには失敗を恐れず挑戦する気構えが求められる。
それには、上司が部下の挑戦をうながさなければいけない。
挑戦をうながすためには「挑戦しろ!」と鼓舞するだけでは不十分で、部下に問いかけ、彼ら彼女らの視座を上げ、視野を広げ、視点を変えるコーチングが機能する。

本書を読んでくださった方のコメントや感想は、コーチングがこの3つのことに貢献しうるということを示してくれるものでした。
・簡単に正解を見つけることのできない課題の増加
・多様性の拡大
・イノベーションの必要性

この3つは、3年経った現在の日本でも、変わらず企業の中にテーマとして横たわっています。そして、その強度は明らかに3年前より増しています。

コーチングの貢献領域は大きく広がった

この20年間でコーチングが求められる領域も、当時の想像以上に大きく広がりました。
たとえば、スポーツの世界”。
競争はより一層熾烈になり、トレーニングの仕方を含め、コーチや監督といえども、簡単に解を見出し選手にアドバイスすることは難しい。
選手との世代格差が存在し、チームスポーツであれば多様な国の人をマネジメントしなければいけない。
新しい発想と戦略がなければ、もはや勝利を手にすることはできない。ここでも3つのテーマは同じようにあり、多くのスポーツコーチによってコーチングの考え方やスキルがとり入れられてきています。
また、医療の世界。
医療の世界では、昨今。チーム医療の必要性が叫ばれています。
医師、看護師、薬剤師らがチームとなって、どんな治療が患者さんにとって最適かを見出していく。「この処置で大丈夫」と単純に医師が決められることばかりではない。職種によって各人各様の立場、考え方がある。時に大胆な病院運営に関する発想の転換も求められる。やはり3つのテーマは存在しています。
医療業界では、日本医療マネジメント学会が開催されるたびに、病院へのコーチング導入の事例報告がなされるほどです。
そして学校や家庭。
先生だからといって、親だからといって、学校生活について子どもにアドバイスすることは簡単ではありません。
それこそデジタルネイティブの子ども世代との間には大きな価値観のギャップがある。
もちろん、子どもが大きく未来に向けて羽ばたけるように、視野を広げ、視座を上げてやりたい。
ここにも3つのチャレンジが横たわっています。
コーチングを学校や家庭で試し「子どもとの関係性が大きく変わった」とおっしゃってくださる先生、親御さんは本当に多い。
企業、スポーツ、医療、学校、そして家庭―さまざまなエリアでコーチングが活用されていることは、米国から初めて日本にコーチングを持ち込んだ会社の代表として、本当にうれしいことです。

改訂版執筆を決めた3つの理由

さて、本書の旧版を上梓して20年が経ちます。今回、ディスカヴァー・トゥエンティワンからのお声がけもあって、旧版に大きく改訂を施すことにしました。
声をかけていただいたのがきっかけではありますが「今すぐ筆をとらねば!」と思った理由は大きく3つあります。
まず1つ目は、一部でコーチングが誤解して使われていることに対する懸念”です。コーチングでは、相手に質問をしていくわけですが、学校の問題を解かせるように、質問してしまう方が一定数いると感じています。「君、これはどう思う?」角度としては多少”上”から。すでに問いかけている自分の中に答えがあり、それを相手に考えさせようとする。

これは、コーチングではありません。コーチングはあくまでも、問いを2人の間に置き、一緒に探索しながら、相手の発見をうながしていくというアプローチをとります。
本書を2000年に執筆したときは、この相手の発見をうながす。というところにとても強いフォーカスを当てました。
そのために、本文中では、引き出す。という言葉を多用しました。当時は『引き出す」という言葉で、こちらから言うのではなく相手の中にある可能性を顕在化させるのだ。ということを強調したかったのです。
ですが、聞きようによっては引き出す。という言葉は、別の意味を持ちかねません。こちらは経験がある人、わかっている人、スキルを持っている人。さあ、あなたはまな板の上に乗ってください。私が引き出して見せますから……。そうもとられかねません。このことはずっと気になっていました。今回、思い切って引き出す。という表現を削除し、別の表現に変えています。単に言葉を変えただけでなく、コーチングとは、問いを2人の間に置き、一緒に探索し、その中で相手の発見をうながすものだということを、本書を貫く哲学としてど真ん中に置いています。
2つ目の理由はコーチングというスキルをベースに、いかにチームや組織の中での対話を起こすのかを書きたかった。ということがあります。コーチングは、基本的に1対1で行うものです。ですが「会議やミーティング、そもそもチーム、組織を活性化させるために、どうコーチングを活かせますか?」という質問を、日常的に受けます。
チームや組織での対話を活性化させたい。というニーズに応えるもの、それを本書の中に盛り込んでみたいと思いました。
3つ目の理由は、この20年間で、弊社コーチ・エィの仲間と共に、お客様との体験を通して培った、新たなコーチングのスキルや知識をお伝えしたい。ということです。

コーチングは、最初から完全に完成したものではなく、日々世界中のさまざまなところで研鑽され、新しいものへと進化を続けています。この間、新しく手にしたもの、見つけたものを、みなさんと共有したいと思いました。
このように、本書では、いくつかの新しい切り口でコーチングについて語っていますが、コーチングの本質が変わるわけではありません。コーチングの本質は未来を創り出す主体的な人材を創る』ことにあります。
今、目の前にいる人の主体性に働きかけ、その人が、未来に向けて飛躍するように、いかに自分のコミュニケーションを使うことができるのか――それがコーチングが目指すところであることは、おそらく普遍的であると思います。
本書を手にされたあなたが、今まで以上に、仕事で、プライベートで、そして家庭で、周りの人にコーチングをベースとしたコミュニケーションをもって働きかけ、未来を創り出す主体的な人の創造に関わっていただけたら、著者としてこれほどうれしいことはありません。本書を手にとってくださり、本当にありがとうございます。

鈴木義幸

鈴木 義幸 (著)
出版社 : ディスカヴァー・トゥエンティワン (2020/6/26)、出典:出版社HP

CONTENTS

はじめに――刊行3年の大幅改訂にあたって

LESSON 01 相手と自分の発見をうながす
心のシャッターを上げる
答えを一緒に探す
チャンク・ダウンかたまりをほぐす
すぐに答えられる小さな質問をする
なぜのかわりになにを使う
沈黙を効果的に活用する
きっと見つける。と相手を信頼する
答えを見つける旅に出す
不満を提案に変える
相手についての質問を自分に問いかける
究極の質問”をつくってみる
チャンク・アップかたまりにする

LESSON 02 相手と信頼関係を築く
出会いの一言に新しさをこめる
オウム返し同じ言葉を繰り返す
あいづちを意識して磨く
正直に自分の気持ちを話す
相手のタイプを見極める
4つのタイプ”を知る
相手の強みを活かす
アクレッジメント”の立場でほめる
リクエスト相手の望みをきく

LESSON 03 目標達成に目を向ける
目標についてとことん話す
いやなことを30分話す
視点を変える質問で夢に気づかせる
価値に合う行動を見つける
魅力的な未来に目を向ける
過去を振り返り未来への素材を集める
行動の結果をイメージする
苦手な対象について30分話す
10点満点で今の状態を採点する
チェックリストを独自につくってみる

LESSON 04 視点・切り口を変える
ストーリーで語る
まくらことば
枕詞で緊張を緩和する
妥協・未完了・境界線新しい切り口を与える
広く多くのことをきく
“なぜ”を説明する
完全に判断をゆだねる提案の力を磨く
とんでもないリクエストをする
クライアントにコーチになってもらう

LESSON 05 主体的な行動をうながす
相手をフォローしサポートし続ける
失敗する権利を与える
クローズド・クエスチョン閉じた質問を使う
ファイアー心に火をつける
承認し続ける
心の中の絵を差し替える
相手のエネルギーに意識を向ける

LESSON 06 コーチングの達人に向けて
自分自身が日々小さな目標を達成する
理想のコーチになりきる
心の中に埋もれる宝物を掘り起こす
コミュニケーションを上から観察する
“落としどころ”を用意しない
エネルギーを高く保つ
相手の上や下に立とうとしない
相手を別のフレームに入れてみる
個別対応で才能を開花させる

LESSON 07 チーム・組織に対話を引き起こす
異論反論を大切にあつかう
チームの状態を観察し話題にする
チームで問い”を共有する
キーパーソンと徹底的に対話する
横の対話に一歩踏み出す
対話を起こす環境をデザインする
おたがいの違いを愛する

こんな場合はこのスキル 本書活用のガイド

鈴木 義幸 (著)
出版社 : ディスカヴァー・トゥエンティワン (2020/6/26)、出典:出版社HP