戦略インサイト――新しい市場を切り拓く最強のマーケティング

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これ1冊で「インサイト」がわかる

インサイトとは狭義にマーケティング・リサーチのこと、と理解されがちだが、本書にはリサーチだけではなく、マーケティングそのものの哲学、目的、方法論、ブランドの定義、そしてマーケティング・マインドを持った(つまりインサイトの読める)組織の作り方、が体系的に書かれています。しかし学者本でなく実務書なので読みやすいです。

桶谷 功 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/5/24)、出典:出版社HP

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本作品を電子書籍版に収録するにあたり、一部の漢字が簡略体で表記されている場合があります。

はじめに

「いいモノ」さえつくれば売れる――技術的にすぐれた、性能や品質のいいモノをつくって流通さえさせれば売れる、という日本企業のかつての成功法則は通用しなくなってきている、そう感じている方は多いでしょう。
日本でも海外でも、人々が求めるモノを提供できなければ、いくら高品質でも買ってもらえないことに誰もが気づいていると思います。
日本企業の優れた「モノづくり」の強みを活かしながら、日本の、そして世界の人々に買ってもらえるモノをつくるためには、どうしたら良いでしょうか?
人々の視点で、ニーズをとらえて、モノづくりをすればいい。ほとんどの日本企業にとって、答えはわかっているはずですが、なかなか実現できないのはなぜでしょうか?それは、日本企業にはそれを実現する「仕組み」がなかったからではないでしょうか。
「マーケティング」という言葉は誰もが知っています。そして、マーケティングは「顧客価値を創造すること」であり、マーケティング4P(Product/Price/Promotion/Place)の概念もよく知られています。
しかし、日本企業で「マーケティング」は何を指しているでしょうか?
「販売」「広告」「調査」「顧客サービス」など、限られた企業活動を指していることが多いのではないでしょうか。そして、最も重要な「モノづくり(製品開発)」が含まれてこなかったのではないでしょうか。
製品は、自社の独自技術や研究開発の成果から生み出され、マーケティングは、製品が出来上がってから、それを販売する手段としてスタートする。これでは、ニーズをとらえたモノづくりをしようがありません。しかし、この方法で成功体験を積み重ねてきた日本企業は、そう簡単には変わることができないでいます。

国内市場が人口減で縮小していく中、日本企業が成長していくためには、海外市場の開拓が不可欠です。海外の人々に買ってもらう、あるいは利用してもらうためには、海外の人々が何を求めているかを見極め、製品開発に活かす必要があります。今までのような、高機能・高品質な製品というだけでは、見向きもされないでしょう。モノづくりにもマーケティングの考え方を取り入れる必要があるのです。
国内市場でも、縮小するパイを取り合いしていたのでは成長は見込めません。人々の潜在ニーズを掘り起こし、新たな需要を創造していく必要があります。また、日本国内にとどまっていたとしても、海外からグローバル企業が参入してきます。それらのグローバル企業と戦うためにも、人々のニーズをとらえるマーケティングの考え方は不可欠です。
「日本も、世界の中のひとつの市場」なのです。

本書のタイトルにもなっている「インサイト」とは、人々の潜在的なニーズのこと。まだ顕在化していない、人々自身も気付いていないようなニーズのことです。本書では、インサイトという潜在ニーズを見極め、製品開発を含むマーケティング活動に活かして、事業に成功をもたらす考え方や方法論についてお話ししていきます。
海外でも、日本でも、人々が声にできるような顕在化したニーズは、既に満たされています。まだ、どの企業もとらえていない潜在ニーズをとらえ、新たな市場を創造することが、グローバル企業との体力勝負や現地企業との価格競争に陥らずに成功するカギとなるのです。
けっして、インサイトを見つけることがゴールではありません。インサイトを製品開発などのマーケティング活動に結びつけ、事業に成功をもたらすことがゴールです。
また、その成功を、単発ではなく継続的なものにするため、本書では、個々の製品開発にとどまらず、事業全体の成長を見据えた「戦略的に活用できるインサイト」を取り上げます。インサイトは、広告表現のフックや販促の切り口探しなど細かな戦術の開発にも活かせますが、本書では経営にインパクトを与えるような戦略開発に使えるインサイトを取り上げていきます。
戦略は、けっして大企業だけが必要とするものではありません。中小企業やベンチャー企業こそ、市場を一点突破するための戦略が必要だからです。
筆者は、1990年代からグローバル企業で、インサイトを核にしたブランド戦略開発に携わってきました。そして、そのインサイトの考え方を、2005年に初著「インサイト消費者が思わず動く、心のホットボタン」で、日本ではじめて体系的に紹介しました。
その後、インサイトの考え方を日本企業がもっと取り入れて飛躍してほしいという思いから、2010年にインサイト社を設立。さまざまな日本企業に対して、事業開発や商品開発、ブランド開発などのコンサルティングを行ってきました。
取り組んできた業界は、食品・清涼飲料・ビール・紙おむつ・女性用品・洗剤・化粧品などの消費財をはじめ、家電・クルマ・住宅(マンション開発)などの耐久消費財、フィットネスクラブや百貨店・ファッションECサイトなどのサービス業と多岐に渡ります。BtoB企業でも、インサイトから新規事業開発を行い、インサイトがイノベーション開発に有効であることがわかりました。
また、海外でも、中国・インド・ASEANなどで、インサイト探索から製品戦略などのマーケティング戦略開発を行ってきました。その中核を担うインサイトワークショップは、日本本社・現地法人・現地の生活者が参加する、とてもエキサイティングなものです。
さらに、インサイトを製品開発に活かし事業の成功をもたらすためには、機能別の部門を超えた全社的な取り組みが必要なため、全社的にインサイトの考え方を導入し企業文化として根付くようお手伝いをしています。
欧米のグローバル企業と日本企業、両方での戦略開発経験から、日本企業の強みも弱みも見てきました。日本企業の強みである技術開発力が、インサイトやマーケティングの弱さから十分に活かされず、事業の成功に結びついていないというのは、あまりに「もったいない」こと。

日本企業が、海外で、そして日本で、人々の潜在ニーズをとらえ、製品開発部門を含む全社でマーケティングに取り組む「マーケティング・カンパニー」になることで、もっともっと世界で活躍することができる。本書が、その一助になれればと願っています。

日本企業が、マーケティングを経営の中心においた「マーケティング・カンパニー」になり、海外でも日本でも成功するための5つの秘訣を、お話ししていきたいと思います。
まず、第1章では、「インサイト起点のマーケティング」が、どのような成果を生み出すか。そして、どのようなフレームワークで取り組むかという全体像をお話しします。そして、第2章以降で、どう具体的に取り組み、それを「仕組み化」していくかに話を進めます。

目次

第1章 「インサイト起点のマーケティング」の全体像を把握する
第2章 市場機会を見出し、「成長戦略のシナリオ」を描く
第3章 「インサイトからマーケティング戦略」を開発する
第4章 製品開発部門を含む「全社」で取り組む
第5章 製品を超えた「ブランド」戦略を持つ
おわりに――日本を「世界の中のひとつの市場」として見直す

インサイトをとらえた製品が、世界で愛用される
すばらしい画期的な技術を使った製品でも、人々のニーズと結びついていなければ、人々に買ってもらえません。しかし、同じような技術でも、人々のインサイト(潜在ニーズ)を見つけ出し、それをとらえた製品にすることができれば、世界的な大ヒットを生みます。そんな例を、ひとつご紹介しましょう。
それは、パイロットコーポレーションの「フリクション」。(図1参照)ボディ端のラバーでこすると書いたインクが消える、「消せるペン」として世界的に大ヒットしている製品です。

桶谷 功 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/5/24)、出典:出版社HP