「思わず買ってしまう」心のスイッチを見つけるための インサイト実践トレーニング

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今日から使えるツール満載

様々なインサイトを引き出す為の仕掛けを、実例を基に書いてくれてます。消費者インサイトの見つけ方、そのインサイトの中からキーインサイトを導く方法、そしてプロポジションへの落とし込みといった流れが丁寧に網羅されています。

この本は縦書きでレイアウトされています。
また、ご覧になる機種により、表示の差が認められることがあります。

本作品を電子書籍版に収録するにあたり、一部の漢字が簡略体で表記されている場合があります。

はじめに

人々は、なぜその商品を買うのか?人々は、どういう商品を求めているのか?

それがわかれば、売れる商品を作れるし、売り方もわかります。でも、消費者に直接聞いてもなかなか答えは出てきません。それは、消費者自身もよくわかっていないからです。
人が何か行動するとき、意識しているのはほんの一〇%程度で、九〇%は無意識で行動しているといわれています。また、行動の理由は、大半が後付けであることが最近の脳科学の研究でわかってきました。まず意思決定がなされ、自分の行動に一貫性を持たせたり、自分自身に納得させたりするために、あとからそれらしい理由が加えられるというわけです。
ある人に二種類のコーヒー飲料の銘柄A、Bから、好きなほうを選んでもらったとしましょう。その人はBを選び、「AよりBのほうがおいしい」と言い、さらに「Bのほうが甘くなくてすっきりしていて、後味がいいから」とまで、はっきり答えたとします。
しかし、それは本当に、味だけの違いなのでしょうか?
実験をしてみましょう。それぞれの飲料をボトルからコップに移し、見ただけではAかBかわからない状態にして、どちらの味が好きか聞いてみます(いわゆるブラインド・テストです)。
すると、再びBが選ばれるとは限らないのです。
容器に入った状態で飲んでいるときは、知らず知らずのうちに味だけでなく、メーカー名やボトルのデザインなど、さまざまな情報の影響を受けています。商品名やラベルのキャッチフレーズから「甘くなさそう」という連想が働いたのかもしれませんし、パッケージの色からすっきりした印象を受けたのかもしれません。
逆にいえば、どこから「すっきりしたおいしい味」が連想されたのか、その無意識の部分を解明できれば、売れる商品を設計することができます。
人が思わずモノを買ったり、行動を起こしたりする心のホットボタンを、「インサイト」と呼びます。もともとは効果のある広告をつくるために生まれた考え方です。私が二〇〇五年に前著『インサイト』を出版した頃、このキーワードをご存知だったのは一部のグローバル企業の戦略部門の方々に限られていました。しかしインサイトはここ数年で、製品開発、サービス開発、店舗開発、プロモーションなど、あらゆるマーケティング活動で広く使われるようになりました。
ただ、インサイトの考え方は理解できても、実際に使いこなすのは、なかなか難しいものです。ビジネススクールのマーケティング講座で教えたり、また実務でワークショップを開催したりする中で、多くの人が陥りやすい失敗がどこにあるかわかってきました。
どうやって、インサイトを見つけ出すのか?仮説の立て方は?検証の仕方は?組織の中で、その提案をどうやって説得していったらいいのか?

インサイトを見つけてから、消費者の目に触れるカタチにするまでには、さまざまなハードルがあります。本書では、これらをクリアする実践的な方法、実際のプランニングに役立つツールを、テンプレートとともに紹介します。
第1部は、ひとりで使える、さまざまなツールを紹介していきます。インサイトを見つけ活用する「スキルを養う」うえでも有効です。

・1章:インサイトをいかに見つけ出すかという「発見ツール」
・2章:キーインサイトの仮説をつくる「仮説ツール」
・3章:キーインサイトをもとに解決案であるプロポジション(戦略的な提案)をいかに発想するかという「発想ツール」
・4章:そのインサイトとプロポジションが正しいかどうかをチェックする「検証ツール」
第2部では、組織でインサイトを発見し共有する、「インサイト・ワークショップ」という方法をご紹介します(基本的な流れは5章を参照)。すべての関係者を巻き込み、インサイトを旗印として同じ方向に力を結集させるためのもので、ビジネスの現場でよく登場する二つのテーマを取り上げます。
・6章:新しい市場をつくったり拡大したりするときに使われる「ヒューマン・インサイト」
・7章:成熟市場での差別化などでよく使われる「カテゴリー・インサイト」

ここでは、実際に行われたワークショップの様子をご紹介しながら、いわば実況中継のようなスタイルで解説します。疑似体験を通して、実践的なスキルを身につけていきましょう。

インサイトが生み出す画期的な解決策

インサイトを活用することで、今までにない、どのような解決策を生み出すことができるのか、具体的な例をお話ししましょう。
松下電器産業(現パナソニック)の「新・子育て家電」は、インサイトを取り入れて、頭打ちだった「食器洗い乾燥機」市場を成長させることに成功しました。それまで、テクノロジーが市場を開拓すると思われてきた製品カテゴリーですが、まったく新しい切り口から市場を創り出したのです。
「食器洗い乾燥機」は、二〇〇五年当時、普及率二〇%程度から伸び悩んでいました。欲しい家電の優先順位で、薄型テレビなどと比べて低い順位にありました。
一般に、成長している製品カテゴリーでは、消費者がすでにそれを「欲しい」と思っているので、新しい機能や競合製品との違いを打ち出すだけでよいのですが、伸び悩んでいる製品カテゴリーの場合は、そもそも「欲しい」という気持ちにさせるところから始めなければなりません。つまり、動機付けが必要なのです。言い換えれば、インサイトを見つけ出し、いかに消費者の心のホットボタンを押すかが課題となります(図A)。

図A
伸び悩んでいる製品カテゴリー

まず、食器洗い乾燥機の買われ方を見ると、結婚、出産、子供の入園や入学、子供の独立といった人生の節目に当たるときということがわかりました。この事実を掘り下げていくと、「新婚期」「出産・子育て期」「シニア期」のどのグループでも受容性が高かったものの、特に「小さな子供のいる子育て期の家庭」で圧倒的な支持を得ていることがわかりました。
そこで、この子育て期の母親のインサイトを探り見つけたのが「育児を楽しみたいけど、家事に追われてイライラしてしまう」というもの。これを受けて、開発したプロポジション(戦略的な提案)が、「新・子育て家電―子供との時間を少しでも長く楽しく。子育てを応援します」というものでした(図B)。

図B

すばらしいのは、「忙しい子育て期に、食洗機があったら楽ができますよ」というプロポジションを打ち出さなかったことです。こういう提案では、ターゲットの母親たちは、「手抜きをしたがっているみたい」と後ろめたさを感じてしまうからです。「食器洗いは家電に任せて、できるだけ子供との時間を長く。忙しい毎日にゆとりの時間をプレゼントします」という提案だからこそ、お母さんたちは、食器洗い乾燥機が欲しいと声を大にして言うことができたのです。
このプロポジションに沿って製品特徴をうまく表現し、広告プロモーションを打った結果、二〇五年六~八月期の新発売期の販売実績は、対前年比一四〇%を超えました。

製品特徴

・子供用食器をしっかり除菌……低温ソフトコースで熱に弱いプラスチック食器も除菌
・(子供を抱きながらでも片手でセットできる)オープンドーム
・子育て家庭にうれしい、エコな設計(水道も電気も節約)

広告プロモーション

・店頭は、従来のブルーから、「ピンク」の展示台に変更・赤ちゃん用品の専門流通「アカチャンホンポ」(赤ちゃん本舗)と共同で「子育てもっとハッピー計画」というプロモーションを実施
・ウェブサイトは製品説明に終始せず、「子育て応援サイト」を立ち上げる
・育児誌ともタイアップ企画を行う
さらに同社は、ここで得たインサイトとプロポジションを、他の製品カテゴリーにも拡大。「食育の応援」(フードプロセッサーなど)、「赤ちゃんのためのハウスダスト対策」(掃除機や空気清浄機など)といった切り口で、さらに大きな需要を創出することに成功しました。
このように、育児に関する悩みにいろいろな角度から応えることで、消費者に対して「子育てを応援するメーカー」という印象を与え、ブランド構築にもつなげていったのです。

インサイトを突くことで、市場を拡大し、ブランドのロイヤリティを高めていく――それでは、第1部より具体的な方法について見ていきましょう。

目次

インサイト実践トレーニング
はじめに
目次

第1部インサイト実践ツール
ひとりでできる、さまざまな技法
chapter1
インサイトを発見しよう
発見ツール1 ユーザーお絵描きと吹き出し
発見ツール2 パーティはお好き?
発見ツール3 ベンチの隣に座った人は、どんな人?
発見ツール4 「○○の惑星」に行ってみよう
発見ツール5 写真選び/写真集め
chapter2
キーインサイトの仮説をつくろう
仮説ツール1 シミュレーションゲーム
仮説ツール2 中心を探す。中心をつくる。タイトルをつける
仮説ツール3 心の葛藤にチャンスあり
仮説ツール4 ひとりワークショップ
仮説ツール5 日常の出来事から仮説力を鍛える
chapter3
インサイトからプロポジションを発想しよう
発想ツール1 ヒューマン・インサイトからの発想
発想ツール2 カテゴリー・インサイトからの発想
発想ツール3 インサイトと製品やブランドを結びつける
発想ツール4 インサイトとプロポジションを行き来する。セットで考える
発想ツール5 プロポジションから実施プランへ
chapter4
インサイトとプロポジションを検証しよう
検証ツール1 絞り込み/チョイス
検証ツール2 もう一度ターゲットになりきって見直す
検証ツール3 検証調査は、消費者に見えるカタチで

第2部インサイト・ワークショップ
すべての関係者を巻き込んで成果につなげる方法
chapter5
インサイト・ワークショップの進め方
インサイト・ワークショップをどのように開催するか
開催からまとめまでの、基本的な流れ
chapter6
実況中継ヒューマン・インサイトを探す
シニア男性のインサイトを探る
独身男性のインサイトを探る
chapter7
実況中継カテゴリー・インサイトを探す
発見ツール4で比較:「男はみんな料理をする星」「男は誰も料理をしない星」
発見ツール1で比較:「料理ができる男」「料理教室に通っている男」
グループワーク:インサイト・ストーム
結論

おわりに