なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか? – 金融機関の内部はどうなっている?

ロンドンのシティー街を訪れた方なら分かるかもしれませんが、週末にはガラッとして輝く幽霊の街にもなるこの場所は平日には着飾り、人々の賑やかな様々な金融の組織がうごめく大都市になります。

本書では、2008年のリーマンショック後、オランダ人のジャーナリストであるヨリス・ライエンダイクがロンドン・シティー街で金融機関に勤めるバンカーにインタビューするのに3年間を費やし、一体全体、金融危機が何故置きたいのか、そもそもそれは何だったのかを聞くストーリーになっているのが本書の特徴となっています。

 

ライエンダイクは自身が金融については何も知識を持ち合わせてなく、自身で何か専門的な分析をするのでなく、問題を知っているバンカーに直接、知っている世界を知らない自分たちに「自分たちの声」で説明させるという目的によるものであったようです。

2008年の金融危機を他の作品では、実際のインサイダーにいた男たちを描いた映画化もされた「マネー・ショート」などが有名ですが、本書はインタビューが淡々とある中でその核心に迫っていきます。

筆者ライエンダイクはこれまでの作品でも様々な人々にインタビューしながら知識をゼロから始めて理解を深め、そして話の中心に近づいている状況について読者と共有するスタイルでインタビューして書く執筆者なのです。実際、ライエンダイクは来訪時にイギリスをあまり知らなかったそうで、目をそらしたくなるほど高い賃貸を借りながら実際にロンドン人と似た生活もしていたそうです。

ライエンダイクはその中で200人ものインタビューをすることができこの書の構成として成り立っています。筆者がやっているのはある意味フィールドワークをする人類学者の一つのやり方のようなものであるかのようです。

インタビューした人々の属する金融部門にはヘッジファンドまたはその他の資産運用会社、格付機関もローファーム同様に含んでいるが、ほとんどが全て銀行に関するものである。過去20年間で、株式ブローカーや商業銀行などの小規模な分野は買収されたりもして金融機関の数自体は劇的に減少しているが今日、シティー街ではわずかな金融機関が個人口座から高水準の投資までの全てをカバーしています。

2008年後のインタビューということもありその破綻についてのインタビューは衝撃的です。結局、公的資金で救済されることで金融危機は終わったところがありますが、インタビューに応じた金融機関の人間たちは自分たちでさえ被害者だという意識が多いとのことです。

金融セクターはピラミッドのように組織され、フロントオフィスが頂点になり、口座の処理、投資の実行、悪名高いCDOなどの金融パッケージの取引が行われるが、それは2008年の破綻の中心にありました。フロントオフィスは、下部組織(ソフトウェア、人事、PR)を管理するバックオフィスと、方向を設定し、違法すれそれを結託して行います。

問題はこれまで以上に複雑な金融製品を考案する者も、より高速な取引を行うためのソフトウェアを開発する数理分析専門家も電話をかけて商業界に圧力をかけるような営業も、どこにリスクが潜んでいるのかを説明できずにいたことです。当時で言えば、彼ら全員が制御不能であったと筆者は結論づけています。

最後の章で「空っぽのコックピット」 “empty cockpit”という表現を使っております。そこでは壮大な解決策が明かされるということでもなく、筆者は金融システムの根本的な作り直しが必要だということを指摘します。

現在の環境では、個々の金融部門に勤める個人、チーム・部門、そして金融機関は全体として、間違った方向に導くインセンティブを与えられています。例え、すべてのシティー街の労働者が一緒に小さな島に送られ、新しい5万人がシティー街に連れて行かれて総入れ替えがおこったとしても、同様の問題はすぐ起こることだろうと指摘しています。

今の環境ではバンカー個人にも、チームや部門にも、金融機関全体にも、間違った方向に導くようなインセン ティブが与えられている。シティーで働くすべての人をひとまとめにして離れ小島に送り、新しい5万人に取り換えたとしても、すぐに同じような濫用と機能不全が起きるはずだと指摘します。問題はシステムなのだと。

提言としては4つにあり、
まず第一に、破綻するには大きすぎず、破綻するには複雑すぎないように、銀行はより小さな組織に分けられるべきです。つまりtoo big to failや too complicated to fallが起こらないようにすべきと。

第二に、利益相反を引き起こす複数の事業をひとつの傘の下に置くべきではないということ。会社でトレーディング、アセットマネジメント、またはインベストメントバンキングと同時にリテールバンキングを事業とすることは誰のための会社か分からなくなります。

第三に、銀行が複雑すぎる金融商品を開発することを禁止と言っていますが、もちろん優れた金融商品もあるので、その匙加減は難しいところもあるでしょう。大切なのは、顧客が自分が何を買っているのかを理解し、投資家が金融機関のバランスシートを理解できるようにしなければなりません。

最後に、ボーナスを受け取る人は、利益が出なかったとき、被害が出たときはそれを支払うべきだということです。言い換えれば、それは自分自身でリスクを負う人がリスクを取る分をそのマイナスの面もかぶる報酬システムであるべきだと言います。(このあたりの仕組みはタレブの言うところのskin in the gameのロジックに近いです。)

本書は金融について学ぶファイナンス本ではなく、そこにはイメージ先行でいた実際のバンカーたちのエコシステム内部を見て、彼らがどのような行動をしてきた・しているのかを、全体を通して、筆者の視点と同じ高さ(知識の量)で読むことができます。

ヨリス・ライエンダイク (著), 関美和 (翻訳)
出版社: 英治出版 (2017/3/14)、出典:amazon.co.jp