フィンテックの経済学:先端金融技術の理論と実践

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FinTechを経済学的視点から解説

本書は、慶應義塾大学で実際に行われている「フィンテックの理論と実践」という講義の内容をまとめ、出版されたものです。そのため、より教科書的な内容・構成となっているため、自己学習にピッタリな一冊です。

嘉治 佐保子 (編集), 中妻 照雄 (編集), 福原 正大 (編集)
出版社 : 慶應義塾大学出版会 (2019/8/23)、出典:出版社HP

はしがき

ビッグデータの拡大とディープラーニングをはじめとする機械学習など、 人工知能の急速な発展は、経済と社会のみでなくわれわれの生活そのものを、 根本から、急速に変えようとしている。Society5.0 時代の到来だ。金融分野も例外ではなく、本書のテーマであるフィンテック革命が足元で進んでいる。 そして残念なことに、日本のフィンテックの現状は、欧米はもとより、中国、 そしてアジアの多くの国よりも劣後している。
学生たちにこのことを知らせることを急務と考え、本書とその背後にある慶應義塾大学フィンテックセンター(FinTEK, Centre for Finance, Technology and Economics at Keio) は 2017年6月に、経済学部付属の経済研究所内に設置されるかたちで誕生した。フィンテックの利用はリーマン危機後に年々急拡大してきたにもかかわらず、そして卒業生の3割から4割 が金融業界に就職するにもかかわらず、慶應義塾大学経済学部では2017年 まで、フィンテックそのものを扱う授業は存在しなかったのである。フィンテックについての知識を身につけないまま学生を世に送り出しては、大学教員としての職責を果たしていない、一刻も早くフィンテックに関する研究と 教育を充実させなくてはならない、とわれわれは考えた。

こうして2017年秋より、本格的に「フィンテックの理論と実践」という講座を開設した。この危機感をご理解くださった企業(後述)のご協力なし には、FinTEK 設立と「フィンテックの理論と実践」開講は実現しなかった。 この場を借りて厚く御礼申し上げたい。幸い、2016年秋から約100名で先 行開講したこの授業の履修者は、2018年春には300名を数え、2019年春に至っ ては500名を超えるところまできた。そこで2018年春に開講した「フィンテッ クの理論と実践a」の講義内容を一冊にまとめて残せるかたちで世に出したいというわれわれの希望に応え、編集の労をとってくださった慶應義塾大学出版会の増山修さんにも感謝を表したい。

このようにして誕生した本が一時のブームにあやかる話ではないことは明らかであろう。本書のもう一つの特徴は、なぜ金融の先端技術が今日かくる急速に変容を遂げてきているのかを、その背後に存在する経済学の原理を ベースに解説する点である。それと同時に実社会でフィンテックに関わる方々に筆を執っていただき、その政策的、法的側面についても第一人者の見解を含めることができた。
なお、本書にたびたび登場する「仮想通貨」は、公式には「暗号資産」と呼ぶことになったが、本書では各章著者に任せていることをお断りしたい。 また、各章を読む順番は、読者の関心と知識にてらして読者自身が決めてい ただきたい。

好むと好まざるとにかかわらず、フィンテックと何らかのかたちで接することなく今後の世界を生きることはできない。フィンテックを活用できるかどうかは、個人が仕事の面で成功し毎日の生活を便利で楽しいと感じることができるかどうかのみでなく、一国の経済的繁栄と安全保障も決めてしまう。 それほどに大きな変化なのである。読者には、本書を読むことでフィンテックの基礎を理解し、その影響がいかに幅広く深いものであり得るかに思いを馳せ、慣習にとらわれない自由な発想を持ってフィンテックを味方につけていただきたい。

2019年6月
編者

2018年度 FinTEK 協力企業(敬称略)
フィンテックの理論と実践 a
みずほ証券株式会社寄付講座) みずほ証券株式会社 日本アイ・ビー・エム株式会社
フィンテックの理論と実践 b
KPMG ジャパン 株式会社新生銀行 みずほ証券株式会社 三井住友信託銀行株式会社 株式会社三井住友フィナンシャルグループ 三菱 UFJ信託銀行株式会社
フィンテックとソーシャルインフラストラクチャa (KPMG ジャパン寄付講座) KPMG ジャパン
フィンテックとソーシャルインフラストラクチャb (KPMG ジャパン寄付講座) KPMG ジャパン

嘉治 佐保子 (編集), 中妻 照雄 (編集), 福原 正大 (編集)
出版社 : 慶應義塾大学出版会 (2019/8/23)、出典:出版社HP

目次

第1章 フィンテックの全体像
嘉治佐保子
1 フィンテック発展の経緯
2 本書の構成
3 フィンテックのミクロ的影響
4 フィンテックのマクロ的影響
5 エピローグ信なくば立たず
第2章 フィンテックのマクロ経済学的理解
吉野直行
1 フィンテックの発展とデータ分析の必要性
2 日本の財政赤字の拡大とその解決のための理論・実証分析
3 高齢化のもとでは金融政策・財政政策の有効性が低下する
4 諸外国と比べた日本の資産運用
第3章 暗号資産(仮想通貨)と中央銀行デジタル通貨
岩下直行
1 暗号資産の高騰と暴落
2 ビットコインの誕生とその前史
3 キプロス危機による覚醒
4 2017年の高騰と2018年の暴落
5 ICO という打出の小槌
6 交換業者へのサイバー攻撃
7 キャッシュレス化と中央銀行デジタル通貨
(1) 高まる中央銀行デジタル通貨の議論:ビットコインが与えた
ショック
(2) さまざまな中央銀行デジタル通貨構想:三つの系譜
(3) 先進主要国中央銀行によるデジタル通貨:実装にはまだ遠い「研究」
(4) 新興国、途上国における金融包摂と中央銀行デジタル通貨
(5) 南米における中央銀行デジタル通貨の実装
8 キャッシュレス化と通貨の未来
世界におけるキャッシュレス化の動き
日本におけるキャッシュレス化の動き
第4章 消費者行動と金融マーケティング
千田知洋・竹村未和
1 金融の役割と銀行
2 フィンテックと銀行
3 マーケティングとイノベーション
(1)マーケティングとは
(2)イノベーションとは
(3)マーケティング×イノベーションとその事例
4消費者行動とマーケティング
消費者行動の変化とターゲティング手法
5 データベース・マーケティング
(1) 顧客分析の手法の変化
(2) データベース・マーケティングメイノベーションとそのリノベーションとその事例
6 企業活動の起点
第5章 フィンテックの既存金融機関への影響
多治見和彦
1 フィンテックの概観
2 金融業界とテクノロジ
3 増大するデータ、進化するシステムとアルゴリズム
4 テクノロジーの見通し
5既存金融機関の状況
6 スタートアップ・フィンテック企業の金融サービスへの参入
7 既存金融機関は何をすべきか
8 異業種との連携手段としてのAPI
9 新規ビジネス創出のためのアプローチ
10 新規ビジネス創出のための組織
第6章 フィンテックにおける起業
福原正大
1 起業の経済的意義
資本主義の機能不全
イノベーションのジレンマ
(3) 起業のすヽめ
2 世界と日本におけるフィンテック分野の起業
(1) 起業後進国・日本
(2) 起業を阻害するマインド
3 フィンテック起業入門
(1) 起業に関する正しい知識を得る
(2) 起業におけるデザインシンキングの重要性 102 (3) 起業のステップ103
(4) 事業プランの書き方とエレベーター・ピッチ 109 4 起業に向けての心構え 110
第7章 フィンテックの国際資本市場への影響
スピリドン・メンザス
1 なぜフィンテック企業は急成長しているのか
フィンテック企業が獲得している旺盛な出資
フィンテック分野が台頭した背景
注目企業の地域別、セクター別分布
(4) 日本でのフィンテック業態を考える
2 毎年増加している米国に比べてなぜ日本ではユニコーン企業が育たないのか
国別、ステージ別ベンチャー投資の内訳
米国におけるベンチャー企業 IPO時のリターン
米国で成熟しているレイトステージ市場
日本でユニコーン企業が生まれにくい環境
第8章 暗号資産がもたらすアーキテクチャと法制
増島雅和
1 サイバー空間における規律
2 暗号資産とは何か
(1) 国際金融の文脈における理解
(2) 日本における理解
3 金融サービスにおける分散台帳技術のインパクト 一
分散台帳技術の意義
分散台帳技術のインパクト
4 伝統的なアセットの「トークン化」
5 暗号資産の外延
6 暗号資産に対する規律
問題の所在
業法による規律
(3) 私法による規律
7 統合的な制度設計の構築へ
第9章 フィンテック:金融の新時代
三輪純平・松井勇作
1 金融庁はフィンテックをどう捉えているのか「金融デジタライゼーション戦略」の策定
2 革新的な金融サービスが生まれる環境を機動的に整備していく動き
(1) フィンテックの台頭を新たな「機会」として捉える動き
(2) フィンテックの進展による「機会」がもたらす環境変化への機動的対応
(3) 決済インフラを活かし、さらなる決済高度化に向けた機動的対応
(4) 金融庁のサポートツールによる機動的な支援 FinTech サポートデスク・実証実験ハブ・海外協力・FinTech Innovation Hub
3 フィンテックの動きにも適合した規制体系構築に向けた機
動的な検討(機能別・横断的法制)
4 分散化された金融システムにおける課題―新たな国際連携の確立に向けて
第10章 ブロックチェーンの基礎
福原正大・嘉治佐保子
1 ブロックチェーンとは何か
ブロックチェーンの誕生
ブロックチェーンの実態
ブロックチェーンの問題点
(4) ブロックチェーンの利点
2ブロックチェーンを利用した送金の例
3 ブロックチェーンの可能性
ビジネスにおける可能性
金融サービス
ブロックチェーン上の仮想通貨の通貨としての役割
その他の応用例
第11章 機械学習の原理と応用
中妻照雄
1「考える機械」による問題解決
2 データに基づく学習
3 機械学習の原理
4 今後の学習に向けて
第12章 HFTの仕組みとその功罪
・情報効率性への挑戦
中妻照雄
1「投機」は悪か?
2 株式市場で取引が成立する仕組み
3 HFTの功罪
4 情報効率性の壁 –224
第13章 資産運用とロボアドバイザー
中妻照雄
1 人生100年時代の資産運用
2 分散投資と長期投資
3 ポートフォリオ選択問題の定式化
4 資産運用の UI/UX ツールとしてのロボアドバイザー
第14章 フィンテックがもたらす新たなリスク (1) サイバーセキュリティ
宮内雄太
1 フィンテック時代の資産保護体制
2 フィンテックにかかわるサイバーセキュリティリスク
不正アクセス
サービス提供の中断または停止
(3) 賠償の発生やレピュテーションの低下
3 サイバーセキュリティリスクへの対応
(1) リスクアセスメント(リスク特定・リスク分析・リスク評価)
(2) リスク対応
4 今後避けては通れないセキュリティの強化
第15章 フィンテックがもたらす新たなリスク (2)一金融システムの不安定化
池尾和人
1 次の金融危機?
2 金融危機のメカニズム
(1)トリガーと増幅メカニズム
(2)システミック・リスク
(3)増幅メカニズムの取付け
(4)増幅メカニズムの投売り
(5)危機対策
3 次の金融危機の可能性
4 将来の展開
執筆者略歴
編者略歴
装丁 渡辺 弘之

嘉治 佐保子 (編集), 中妻 照雄 (編集), 福原 正大 (編集)
出版社 : 慶應義塾大学出版会 (2019/8/23)、出典:出版社HP