シェアリングエコノミー (幻冬舎ルネッサンス新書) 

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これからの時代における啓蒙の1冊

本書は、石油資源の枯渇から、これ以上の資本主義的経済成長の限界を説いた一冊です。そして、再生可能エネルギーを基にしたインターネットによる交流で即時的な物品の融通と、公正な分配を行うシェリングエコノミーを提案しています。

田村 八洲夫 (著)
出版社 : 幻冬舎 (2018/3/15) 、出典:出版社HP

はじめに

1990年に資産バブルが弾けて、デフレ経済のまま1世紀を迎えた。当時、日本経済にとって「失われた10年」といわれたが、いつの間にか「失われた四半世紀」を超えている。デフレ脱却が目的の「異次元アベノミクス」も色褪せ、中間層の格差貧困、人口減少、地方の過疎・荒廃も止まらない。世界の経済は、豊かさを失い、資宮の拡大、広範な地球環境破壊を伴って、似たようなものである。なぜなら、資本主義衰退にはグローバルな理由がいくつもあるからである。日本の資本主義衰退には、それに特別な原因が加わっている。
筆者は高度経済成長が終焉した第二次石油危機後の時代の流れについて、以下の三つのフェーズでレビューするとともに、第1章1.4節で衰退原因を五つに分けて整理した。第一は、世界の石油消費量が石油発見量を上回る「石油在庫の食い潰し」のフェーズ。第二は、世界の石油(良質で安い石油)生産量のピーク、すなわち生産量(消費量)のアタマ打ちが継続しているフェーズ。第三は、世界の石油生産量が年々減少するフェーズ。2020年代に突入しよう。
まず、石油ピークの今日、資本主義経済が、未だどれだけ石油の厄介になっているのか、およそのことを頭に入れておきたい(1)。
世界のエネルギー消費量(2011年)は、122.7億t/年(tはメートルトンの略号)で、一人当たりの消費量は1・居t/年。内訳は、石油%・1%、天然ガス3・7%、石炭列・3%である。原子力は5%以下で、水力より小さいシェアで、今では再生可能エネルギーの追い上げを受けている。日本のエネルギー消費量(2012年)は、4億7820万tで、世界の一人当たりの平均2.3倍を消費している。内訳は、石油布死、天然ガスの%、石炭9%である。世界も日本も、石油中毒であることに変わりない。次に日本での石油の用途は、輸送や・2%、熱源器・3%、原料9.5%、そして、輸送機関の石油製品消費量(2003年)は、自家用車5%、貨物自動車7・8%を含めてお%、電力はわずか2%である。日本は自動車天国である。
次に、日本の輸送機関のエネルギー消費効率はどうか。t・km(トン・キロメートル)当たり、すなわち1tの物を1km輸送するのに消費するエネルギー(石油のカロリー換算:略号cal)は、鉄道が0.0061(1はリットルの略号)である。それを基準にすると、海運は4倍、自動車は約1倍、航空機はW倍もエネルギーを大量消費している。自動車天国はエネルギー浪費社会である。このまま石油に浸り続けてよいと思う人はいまい。
石油在庫食い潰しは1980年はじめに始まり、石油ピークは2005年に始まった。資本主義経済にとって資本の拡大再生産による複利増殖が生命力だから、「石油制約」、すなわち価格高騰と供給危機は資本主義の将来不安に繋がる。石油に替わるエネルギーについて長らく試行錯誤してきたが、結局、再生可能エネルギーしかない。このエネルギー転換に乗り遅れはできない。
石油価格(現在価値)のトレンドは、高度成長時代は1~8ドル、石油在庫の食い潰しのフェーズは3~0ドルである。石油ピークのフェーズでは毎年上がって100ドルを超えたが、2015年に失速して~8ドル台に逆戻って、現在に至っている。
第一フェーズの間、国際石油資本は石油開発の技術革新に努め、地球上を隈なく探査したが「石油の有限」を思い知った。日本も産業構造と生産工程の改革によって安定成長を図った。バブル崩壊後、幾多の金融政策、財政出動も効果がない。国民にとって巨大な財政赤字と中間層の貧困没落化が続いたままである。覇権国の米国は、経済のグローバル化と金融化で打開を図ったが、却って国力と国際的支配力を失い、世界は貧困と混乱に陥っている。
第二フェーズで石油価格が高騰し、石油代替エネルギーの開発が進んだが、油価は安くないと経済が好況しないことを学んだ。「資本主義の邪道」は2008年に国際金融危機を起こし、2011年にフクシマ3・1という原発過酷事故を起こした。そして、何よりも、「1%の富豪と3%の貧者」という大格差社会が、先進国と世界各国に蔓延した。「石油制約」の上に、中間層没落の大格差社会では、資本主義経済は衰退する。なぜなら、中間層の生産能力と消費能力が資本主義経済を好循環させる駆動力だからである。%%もの貧者は、すでに資本主義にドリームを失っている。どの国も長期国債金利が低下し続け、2016年には米国でも2%以下になった。日本、ドイツはマイナス金利に陥り、資本家の投資意欲の減退を示している。衰退中の資本主義経済は、その生産三要素である「資源」「労働」「資本増殖」のどれもが閉塞状態にあって、資本主義経済が自壊していくように映る。
日本の中産階級没落の実情に話を移す。金融資産のない日本の世帯数は、1987年に3・3%であったが、その後、継続的に増加して2016年現在、実に2倍近い0・9%だという(2)。%年ころは総中流の「豊かな社会」であったが、4世紀になって、日本の若者に自動車の所有離れが進み、非正規社員は、マイカー、マイホームを持てず、安心して結婚し、子育てできる社会でなくなっている。お金は貯まらないし、いつ解雇されるかわからない。
文明社会は余剰生産物が豊かにあって成り立つ。個人主義と私有財産制が発達している現代では、国民の圧倒的多数が、一億総中流時代のように資産を蓄えることが文明人の前提のはずである。しかし、日本は余剰資産のない国民が増え続けて「貧しい文明社会」になった。すでに3%以上の私有地が所有者不明になり、地方の過疎化が進んでいる。それらが原因で、2008年に人口減少国になった。このままでは国民の格差分断と国土の荒廃がいっそう進み、政治・経済・モラルが野蛮的になり、やがて社会崩壊を招くのではないか。それは第三フェーズに、このままではドラスティックに起ころう。
情報通信技術(ICT)が「情報社会論」の後押しで、資本主義経済成長に注目されたのが第一フェーズの初期であった。爾来、ICTは目覚ましく進歩し、インターネットとロボット、人工知能とが一体的になって第二フェーズの現在に登場し経済革命を起こしている。それが、資本主義に替わる「インターネット経済革命」であり、人々の意識、社会のかたちを根本的に変えるだろう。19世紀初頭の資本主義の勃興期に、人々の意識、所有観、さらに社会のかたちが根本的に変わったように。_7世紀の少し前にインターネットの特質を駆使したシェアリングエコノミー(共有主義経済)というビジネスが米国で生まれ、2010年代になって急速に広がっている。「自分の使うモノや能力を、他人と分かち合って使う」という価値観が広がり、日本でも2014年ごろから受け入れられてきている。カーシェアリング、ルームシェアリングに始まり、融通し合って使う様々なビジネスがグローバルに広がっている。仮想通貨による金融もそうである。そして、今では、再生可能エネルギー、製造方法、移動手段のインフラがインターネット・ネットワークを構築し、資本主義と根本的に異なる原理原則の新しい経済システムが生み出されつつある。いわゆるIoT、すなわち「インターネット経済革命」が到来している。これは四半世紀を超える資本主義の行き詰まり、内部矛盾が創出した解決策である。エネルギー文明の研究を続けている筆者は、これを人類史上「三番目の経済革命」と位置付けたい。「第四次産業革命」(経済産業省)、インダストリー4.0(ドイツ)との表現もあるが、人類の社会と意識を大きく変革する論点が乏しいと思われるので、筆者は組みしない。
資本主義経済が衰退から終焉に向かっている今日、ICTと再生可能エネルギーがベースの共有主義経済(「協働型」コモンズ経済ともいう)の台頭が、資本主義に替わるものとしてクローズアップされてきている。これは人類社会にとって幸運なことだと思う。人類社会が彷徨うことなく「道しるべ」をすでに受けたことに等しい。「選手交代」を執拗に嫌う人々は多いと思う。「協働型」コモンズの考え方を資本主義の収益事業に取り込もうとする人々も多いと思う。しかし、インターネット経済の本質からして時間が解決してくれるだろうが、選手交代は早いほど良いに決まっている。第三フェーズに至る前に資本主義が世界的に野蛮的になってきている。石油文明終焉で「社会崩壊」がドラスティックに襲い掛かってくる前に、日本の、世界の若者がインターネットで、P2P(ピア・ツー・ピアの略、第1章1.5節で説明)で繋がって、経済革命を推進してもらいた
日本は、どういう社会であってほしいか。キミはどういう社会にしたいと考えているか。予備校に通う高校生男女を対象にしたアンケート調査の結果がある(3)。脚%に及ぶ高校生が将来の日本として、財政破綻、景気低迷、国際的存在感の低下、少子化の進行を危惧している。そして9割に近い高校生は、自分がリーダーとなり、そんな日本を立て直したいとの大志を持ち、日本の将来像として「技術大国」「幸福度の高い国」「経済大国」を考えている。何も高校生だけではない。今の日本と世界を憂い、「未来社会はこうあるべきとの欲求」を抱いている人々は、年齢に関係なく大勢いる。本書は、このような大志を抱く多数の学生だけでなく、現代社会を憂い、未来社会を探求する、すべての年齢一層の方々に対する提案のつもりである。
その骨子は、以下の四点である。・古代文明がそうであったように、資本主義は人間社会と地球環境をともに荒廃させて、遠くない時期に終焉する。台頭しているシェアリングエコノミーが、交代すべき経済のかたちである。この「選手交代」は早いほど良い。
・その駆動力は進歩の著しいICTベースのインターネット経済革命であり、P2Pに基づく「協働型」コモ
ンズが隈なく展開される。
・ICTベースの「協働型」コモンズは、人々の共感と信頼の上に成り立つ社会である。そして、資本主義で歪んだ社会構造と地球環境破壊を修正し、生態循環の生み出す「果実の範囲」でインテリジェントに持続可能な社会を再構築する。
・ロボットとAIの進歩で高い生産力が維持され、人々は「食うための長時間労働」から解放されて、人生を自分らしくクリエイティブに生きていく社会である。
本書の構成は、第1章で、第三の経済革命として、インターネット経済革命の背景、資本主義衰退の原因、共有主義経済の駆動する力など、全体像を概観し、第8章で、共有主義経済を日本で創り出していく「未来社会の姿」を提起した。それに先立って第2章で人類の本来の姿を欲望と脳の働きから整理して人類の知性について考察し、第3章・第4章で石油依存の資本主義の盛衰と延命のあがきについて記し、次いで人類存亡の危機(第5章)、日本存亡の危機(第6章)について警鐘を鳴らす。第7章で日本で共有社会への「社会変革」を担う力について力説した。大事なことは、適宜繰り返して記述した。
筆者の略歴を、ここで紹介する。石油鉱業界で定年まで油田の発見の仕事に従事してきた。その前に大学では地球物理学を勉強し、探検部に属して梅棹忠夫氏の文明論を語る「学風」の影響を受けた。それ故か、晩年になって「エネルギー文明論」をライフワークとしている。退職後に、石井吉徳氏の「地球は有限、資源は質が全て」という明快なフレーズに同感した。
資本主義に替わる「共有主義経済」への転換のプロセスは多様であり、様々な障害や困難があるものと思う。それを解決して人類社会の新たなかたちを進めていくのは、実際に運動している方々と、「目先の利欲にとらわれない知識人、研究者、学生、実務者」と思う。人類文明を転換する方法や、共感と信頼で幸せな経済社会を創るための「虎の巻」などはない。国民の知恵で試行錯誤して進めていくモノである。その意味で、本書が少しでも役立つのであれば、筆者として本望である。

2018年3月筆者

田村 八洲夫 (著)
出版社 : 幻冬舎 (2018/3/15) 、出典:出版社HP

目次

はじめに
第1章 インターネット経済革命の到来……豊かな人間解放の社会を拓く
1.1 経済革命で社会インフラが変わる
1.2 人類文明を拓いた農業革命
1.3 資本主義経済の勃興と成長
1.4 資本主義経済の衰退と五つの要因
1.5 インターネットが拓く三度目の経済革命
1.6 資本主義とグローバル共有主義は何が違うか
1.7 所有観の移り変わり……私有制と共有制

第2章 人類の欲望……功罪と進化・脳の働き
2.1 人類の欲望と文明の盛衰
2.2 マズローの人間欲望の進化
2.3 脳科学が語る人間欲望の真の姿
2.4 豊かな社会の要件と知性の力

第3章 石油と資本主義の発展と衰退
3.1 石油による資本主義の発展・成熟から低迷へ
3.2 石油は有限だった
3.3 石油ピークで資本主義の挑戦と衰退

第4章 資本主義延命の愚策と社会の分解
4.1 石油代替エネルギーは社会インフラにならない
4.2 原子力は資本主義経済の罪悪
4.3 資本主義の迷走と社会の分解

第5章 人類存亡の危機……地球環境の崩壊が進行中
5. 1 人類の危機レポート『成長の限界」の予測
5.2 資本主義と地球環境破壊・生物絶滅の危機
5.3 生物種の絶滅スピードが猛烈に

第6章 日本存亡の危機……日本の崩壊危機が進行中
6.1 文明崩壊・民族存亡・被曝大汚染の三大危機
6.2 異常な日本の人口減少…….10年後は半減
6.3 日本民族の存亡危機
6.4 日本の生物多様性喪失
6.5 日本大被曝の原発恐怖と存亡の危機

第7章 グローバル共有社会を作る力は何か
7.1 人類と日本の滅亡危機を救う力
7.2 技術的失業者が日本再生の力
7.3 共有主義社会に必要な価値観

第8章 日本の「共有主義社会」のかたち
8.1 バイオリージョン再生で豊穣な国土に戻す
8.2 再生可能エネルギーを自給自足する
8.3 食種を自給自足する
8.4 生産力革命とプロシューマーの活躍で日本は生き返る
8.5 共有主義で豊潤な日本の国土と生活を取り戻す

おわりに
注と出典

田村 八洲夫 (著)
出版社 : 幻冬舎 (2018/3/15) 、出典:出版社HP