投資家と企業のためのESG読本

【最新 ESGについて理解するためのおすすめ本 – ESG経営から投資まで】も確認する

ESGについて理解するための入門書

本書は、ESGと最前線で向き合ってきたアナリストが、ESG投資の過去、現在、そしてこれからを分析するとともに、企業のIR部門はESG投資家に対してどのような情報開示を実施するのが有効なのかを提示しています。初学者におすすめの一冊です。

足達 英一郎 (著),村上 芽 (著), 橋爪 麻紀子 (著)
出版社 : 日経BP (2016/11/11)、出典:出版社HP

 

はじめに

今から17年前、1999年は日本でエコ・ファンド元年と呼ばれた。環境問題に対する企業の対応を評価して、銘柄選定を行う「エコ・ファンド」が相次いで、日本で発売された年だった。そのうちの一つ「UBS日本株式エコ・フアンド“エコ博士”」の企業調査を担うこととなり、筆者はチームの一員となった。
当時、国内の運用機関の皆さんからは、「環境対策はコストだ。環境問題に熱心だからといって、仮に中長期的にだとしても、優れた投資成果を上げられるとは思わない」という声を多数、頂戴した。一方、公開された情報がないので、上場企業に調査票をお送りしたり、インタビュー調査を申し込んで回答をお願いするのだか、「そんな細かいことを聞いてどうするのですか?」と企業の皆さんにも訝しがられた。「総会屋みたいな仕事はお止めなさい」と真顔の忠告を頂戴することもあった。
それでも、先進的な投資家・運用機関の皆さんの存在と、理解ある企業の皆さんの存在で、曲がりなりにも今日まで仕事を続けることができた。調査領域は、環境側面に留まらず、社会側面やコーポレートガバナンス側面に拡大した。投資家の顔ぶれも、企業年金基金や公的年金にも広がっていった。調査チームも、2006年6月にはESGリサーチセンターに改称した。ESGを冠する部署名としては、日本国内で初だったのではないかと自負している。
しかし一方で、日本のESG投資拡大が遅々として進まなかったのも事実である。特に機関投資家の世界において、この傾向はハッキリしていた。海外の関係者と意見を交わすたびに、「なぜ、日本で拡大しないのか」という理由を考えあぐねてきた。
それが、2014年後半くらいから雰囲気が急変する。アベノミクスの材料としてESG投資が取り上げられるようになってからのことである。株の格言に「政策に売りなし」があるが、業種や銘柄ばかりでなく、運用スタイルにもこれは当てはまるようだ。あちこちでセミナーが開催され、投資方針にもESGが盛り込まれるようになった。ただ、多くの皆さんの関心が高まり、その裾野も拡大することによって、ESG投資とは何か、ESG経営とは何かが分かりにくくなった側面も否めない。
世界や日本の統計でよく用いられる、「インテグレーション云々」といった類型も、どうも理解しにくい。筆者自身は、常日頃、世界や日本のESG投資は4つの類型に大別できると感じてきた。そこで、我田引水の誇りを恐れず、この類型を読者の皆さんにご披露して、ご意見を仰ぎたいと考えた。
さらに、一種のブームの様相を呈している日本のESG投資だが、それが着実に定着するかについては、筆者は決して楽観視はしていない。突き詰めていくと、それは内発性の多寡の問題にたどり着くが、本書で示したいくつかの私見は、決して「冷や水を浴びせよう」というのではなく、「克服すべき課題を明らかにしたい」という意図であることを汲み取って頂ければ有難い。本書が、投資家、運用機関そして企業の皆さんの、ESG投資とは何か、ESG経営とは何かという疑問に、何らかの回答の手がかりを示すことができれば幸いである。

足達 英一郎 (著),村上 芽 (著), 橋爪 麻紀子 (著)
出版社 : 日経BP (2016/11/11)、出典:出版社HP

 

contents

はじめに
第1部 ESGをどう見るか
1 ESGって何だ
にわかに出現したESGブーム/SRI、CSR、サステナビリティとは何が違う/「企業の健全性」と「地球や社会の健全性」との関係
2 ESGと投資家
もう株価指数やレーティング、ランキングだけではない/社債、国債、不動産への広がり/ESG投資家4つの類型
3 コーポレートガバナンスを重視する投資家
日本企業とコーポレートガバナンス/外国人投資家がもたらしたもの/アベノミクスによる後押し
4 社会課題起点のキャッシュフローを重視する投資家
社会課題こそ宝の山/ポーター教授のCSVが人気になるわけ/インパクト投資という発想と対象の広がり
5 ダウンサイドリスク回避を重視する投資家
企業暴走の怖さとGとE+Sの結婚/企業不祥事情報から見えてくる危うい企業/「事業等のリスク」を長期視点で占う/テールリスクを回避する投資行動
6 ユニバーサルオーナーシップを重視する投資家
ユニバーサルオーナーという考え方/脱炭素社会とダイベストメント/自らの資産を守るための行動
7 エンゲージメントの機能とその期待
ESG投資における「株主との対話」/米国のProxy Voteと共同エンゲージメント/日本国内のE+Sを巡るエンゲージメント
8 年金運用とESG投資
日本がESG投資に出遅れたわけ/年金運用が直面する課題/GPIFはどう動いたのか
9 企業は情報開示の要請にどう対応すべきか
網羅的・総花的開示だけが最善ではない/マテリアリティ選定の落とし穴/SASBを参考にする/ESG投資家に向けたIRのポイント/非財務情報開示の将来をどう理解するか

第2部 ESGを理解するためのトピックス40
1 トリプル・ボトム・ライン
2 スチュワードシップ・コード
3 コーポレートガバナンス・コード
4 責任投資原則
5 炭素予算と座礁資産
6 ダイベストメント
7 脱炭素経済
8 炭素価格
9 CDP
10 再生可能エネルギー
11 グリーンボンド
12 水危機
13 気候変動への適応
14 CATカンド
15 環境不動産とREIT
16 国債の環境格付
17 ダイバーシティ(ジェンダーとLGBT)
18 責任あるサプライチェーン
19 子どもとマーケティング
20 海外腐敗行為防止
21 租税回避
22 ベーシック・ヒューマン・ニーズ《医薬品へのアクセスの問題)
23 食糧問題(食品と聞)
24 紛争鉱物開示規制
25 土地収用と先住民の権利
26 企業の人権ベンチマーク(Corporate Human Rights Benchmark)
27 国際統合報告評議会(IRC)
28 持続可能な証券取引所イニシアティブ
29 米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)
30 XBRL
31 自然資本と自然資本プロトコル
32 OECD多国籍企業ガイドライン
33 世界持続可能投資連合
34 金融安定理事会
35 ARISTA(責任投資のリサーチのための品質規格)
36 マイクロファイナンス
37 インパクト投資とインパクト評価
38 PPPとインフラ投資
39 ベンチャー・フィランソロピー
40 持続可能な開発目標(SDGs)

参考資料
おわりに

足達 英一郎 (著),村上 芽 (著), 橋爪 麻紀子 (著)
出版社 : 日経BP (2016/11/11)、出典:出版社HP