観光政策への学際的アプローチ

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最新の観光政策がよくわかる

本書は、地域資源を維持・管理し、活用する観光政策を多角的に検証しています。最新の政策・研究手法・事例を盛り込んでいるので、新たに観光政策を学ぶ人におすすめです。「地域社会のキーパーソン」養成に役立つテキストとなっています。

高崎経済大学地域科学研究所 (編集)
出版社 : 勁草書房 (2016/3/29) 、出典:出版社HP

刊行に寄せて

本書は,高崎経済大学地域政策研究センターの主要事業の一つである「プロジェクト研究」の成果である。
地域政策研究センターは、平成10(1998)年の開設以来,政治学・行政学・法律学・経済学・経営学・社会学・地理学・歴史学など学際的視点から地域政策に関する研究を通じて、プロジェクト研究,地域政策セミナー,公開講演会,自治体等からの受託研究,ラジオゼミナールなどに精力的に取り組んできた。
とりわけプロジェクト研究はセンターの看板事業ともいうべきものであり,その研究成果を世に問うため、これまでにも『環境政策の新展開』『景観法と地域政策を考える」「地域政策学事典』『社会的排除と格差問題——地域社会による解決への取り組み』『地域政策を考える2030年へのシナリオ』(いずれも勁草書房)など多数の書籍を出版してきた。
さて、本書のそもそものねらいは,平成19(2007)年度に地域政策研究センターから刊行された『観光政策へのアプローチ」(津久井良充・原田寛明編,鷹書房弓プレス)のヴァージョンアップを図ることであった。そのため、平成25(2013)年度から27(2015)年度の3カ年の時限付きプロジェクトが設置された。そして、旧版とは大幅に執筆陣を刷新し、学外の実務家メンバー2名にも参画していただいた。その結果として、本書は単なる改訂版ではなく、まったくの新版ともいうべき内容に仕上がっている。
本プロジェクト研究の遂行過程において、観光政策を取り巻く社会経済環境に新たな潮流が創出された。我が国において平成26(2014)年6月に「富岡製糸場と絹産業遺産群」が,さらに平成27(2015)年7月に「明治日本の産業省命遺産」がそれぞれ世界遺産に登録された。また,平成27(2015)年の訪日外国人数は推計値で前年比47.1%増の1973万7400人となり,3年連続で過去最多を更新した。そして訪日外国人が家電製品などを大量に購入する「爆買い」が平成27(2015)年の流行語大賞(「現代用語の基礎知識」選)に選ばれることとなった。
その他特筆すべき出来事としては,平成32(2020)年の東京オリンピックの開催を控え,既存のホテル等の収容力不足を補う手段として,観光庁が「民泊サービス」のあり方に関する検討会を設置し,議論を進めている。さらに,政府が掲げる地方創生の推進に呼応して、地方版総合戦略において観光によるまちづくりを重要施策に掲げる地方自治体も少なくない。
このように観光政策は政府および地方自治体にとって最も重要な戦略の一つとしての地位を確立しつつある。本書が観光政策への関心と理解を一層深め,皆様のお役に立てるとしたら幸甚である。
なお、平成27(2015)年度から地域政策研究センターは本学の産業研究所と統合再編され、新たに「地域科学研究所」としてスタートを切っている。その意味では、本書が地域政策研究センター最後のプロジェクト研究の成果物となった。関係各位の多大なる御理解と御支援に深く感謝申し上げたい。
2016年3月
前・高崎経済大学地域政策研究センター長佐藤徹

地域科学研究所の開設について

本書は,旧地域政策研究センターの研究プロジェクトの研究成果です。本研究プロジェクト開設の経緯については、当時のセンター長が述べていますので,地域科学研究所の発足の経緯と今後の取り組みについて説明させていただきます。
2015(平成27)年4月1日,高崎経済大学に地域科学研究所が開設されました。本学には,これまで2つの研究機関が設置されていました。一つは、1957(昭和32)年の大学開設と同時に開設された産業研究所,もう一つは,1998(平成10)年に開設された地域政策研究センターでした。
高度経済成長の助走が始まった1957(昭和32)年に市立高崎経済大学が経済学部の単科大学として設置されました。戦後,商都に加え,工業都市としての二つの顔を持つことになった高崎市が大学を設置した背景には,地方都市を支える人材の養成が大きな目的にあったことはいうまでもなく,同時に地方都市からみた地域,地方都市から見た経済・経営を科学的に研究する拠点を形成することも高崎経済大学に求められたのでした。それに応えて開学と同時に附置研究機関として産業研究所が設置されました。産業研究所の最初の研究が沖電気の誘致と経済波及効果であったことからも,大学に課せられた使命の一端が理解できます。
産業研究所では、1979(昭和54)年の『高崎の産業と経済の歴史」を皮切りに,研究成果を公刊するようになりました。当初は自費出版の形式をとっていましたが,1987(昭和62)年以降は、研究プロジェクトによる成果が日本経済評論社の協力を得て公刊されるようになりました。2014年度まで計34冊の研究成果本が刊行されました。また産業研究所では,1974(昭和49)年より市民公開講演会を開始し,シンポジウムも熱心に行われました。
1990年代の初め頃,大学と地域社会との関係が重視されるようになり、多くの大学において大学の地域貢献のあり方を模索する動きが活発化しました。その頃,産業研究所をモデルにしようと多くの大学が本学に視察に来られました。訪問者からは,開口一番,毎年,研究成果を出し続けられているのはなぜかと尋ねられました。産業研究所は独自の研究費を持たず,そのため所員と学外の研究者の「手弁当主義」によって続けられていると説明すると一同に驚かれていたことを思い出します。研究プロジェクトはプロジェクトリーダーが研究テーマの設定を行い、それに賛同する所員と学外の研究者によって約4年間にわたって研究が進められ成果がまとめられています。研究環境が整わない条件下において、毎年研究成果が積み重ねられてきたことは参加された所員,学外の研究者の方々の情熱があったからでした。
こうした産業研究所の取り組みは、1996(平成8)年に設置された全国初の地域政策学部の設置認可に大きく貢献しました。地域政策学部は、地方分権社会を担う「地域の目で地域を考える」ことのできる官民諸分野の人材養成を大きな目標としました。当時の学部認可は容易なものではありませんでしたが,不十分な研究条件下にも関わらず,多くの先生達が積極的に地域研究に取り組んでこられた実績が地域政策学部の基礎として評価されたのでした。
1998(平成10)年,地域政策学に関連した研究所として、主に自治体職員の研修機関機能を中心とした地域政策研究センターが開設されました。開設当初は、政策評価を中心とした研修が行われました。その背景には、バブル崩壊後,自治体は税収減に見舞われ、効率の良い行政運営が求められたことがありました。地域政策研究センターでは,2000年「自治体職員のための政策形成ゼミナール」,2001年『自治体政策評価演習』,2005年『市民会議と地域創造』なと,地域政策学に関連した専門書を刊行し、2015年までに16の図書,報告書
を公刊する一方で、まちづくりのためのセミナーも積極的に展開されました。
高崎経済大学は、2011(平成23)年4月から、公立大学法人として高崎市から独立した組織となりました。この法人化に際して、研究機関の統合が話題に上りました。その要因は,産業研究所と地域政策研究センターの事業内容が似てきたことにより,2つの研究機関の必要性に疑問符が打たれたからでした。2014年度に研究機関の統合について具体的に検討され,その結果,2014年度末に産業研究所と地域政策研究センターを廃止し,2015年度より地域科学研究所として新たに出発することに決まりました。長期経済不況,デフレ経済が続く中,少子高齢化問題も相まって,地方経済の低迷が顕在化するようになりました。このことは,国公立私立を問わず,大学に地域貢献が求められるようになりました。高崎市は,3次にわたる合併の結果,群馬県を代表する地方中核都市となりました。高崎市の森林率は合併前の7.8%から一気に48.3%まで増加し,市域は高速交通網の整備された旧高崎市を中心として,近郊農村地域,過疎山村地域を含む広大な地域となりました。
高崎経済大学では,こうした地域の動向を直視する中で、これまでの2つの研究機関における研究成果やノウハウをより効果的に社会に還元し,大学の地域貢献を強化するために、2つの研究機関の統合を検討し,新たに地域科学研究所を設立することとなりました。産業研究所は57年,地域政策研究センターは16年の歴史をそれぞれ閉じることになりました。
新たに設立された地域科学研究所は,地域で発生している人口問題をはじめとして、産業,福祉,教育,交通,環境など,地域が直面している諸問題の科学的分析を行い、都市,農山村の地域づくりの指針となるよう,様々な研究テーマを設定して研究プロジェクトを編成し,基礎的な研究を行います。長年,産業研究所,地域政策研究センターの研究プロジェクトには、研究費がありませんでしたが,今後は研究に取り組む環境整備を進めたいと考えております。そして,研究によって得られた成果を市民,県民の皆様に披露し,地域の様々な諸問題を考えていく基礎を提供してまいります。
また地域科学研究所では,大学の地域貢献拠点としての重要な役割を担い,所員による市民の皆様を対象とした公開講座(春講座と秋講座を計画中)や,高崎市の歴史や現状を市民の皆様と本学の教員,学生がいっしょに勉強し考えていく地元学講座の開設、また所員の案内によって高崎市や群馬県をめぐり,地域への理解を深めるエクスカーションなどの企画を計画中です。詳細が決定いたしましたら大学ホームページ、ニューズレターにてお知らせいたします。
このようにして,地域科学研究所は,大学の地域貢献拠点としての役割を担ってまいります。現在,本学の専任教員の内,こうした地域貢献事業に積極的に参加しようと人文科学,社会科学分野で活躍されている46名の専任教員が所員を兼務しています。所員の先生方は,日頃の講義,学生指導に加え,地域科学研究所の諸計画の遂行に携わっていただくことになりますが,こうした積極的に参加下さる先生方によって研究所の運営が支えられています。
新しく発足した地域科学研究所は、どのようにして地域貢献を果たしていけば良いのか,まだまだ暗中模索の状況にあります。市民,県民の皆様のご要望に応えられるよう,日々研鑽を重ね、研究成果をまとめて参ります。市民,県民の皆様から要望がございましたら,地域科学研究所までお知らせいただければ幸いです。産業研究所,地域政策研究センター同様,地域科学研究所へのご支援,ご鞭撻をお願い申し上げ,所長のあいさつとさせていただきます。

地域科学研究所長西野寿章

高崎経済大学地域科学研究所 (編集)
出版社 : 勁草書房 (2016/3/29) 、出典:出版社HP

目次

刊行に寄せて 佐藤 徹
地域科学研究所の開設について 西野寿章

第1章 国際親善文化観光都市としての軽井沢町 大河原眞美
1. 軽井沢の別荘文化
2.「別荘」と「別荘」を所有する人
3. 軽井沢の別荘地
4.別荘地の特色
5. 別荘地の組織と環境への取り組み
6. 今後の軽井沢の景観形成

第2章 世界遺産を奇貨としたまちづくり,観光振興 高橋 修
1. はじめに
2. 富岡市の生い立ちと富岡製糸場
3. 世界遺産登録を見据えたまちづくり
4. 富岡製糸場を核としたまちづくり
5. 養蚕の存続,絹文化の継承
6. 外国人観光客の誘致
7.おわりに――地域資源を活用したまちづくり,観光振興 松田和也
第3章 高崎の食発信と観光
『開運たかさき食堂』のブランド化戦略
1. はじめに
2. 高崎の食発信に向けた取り組み(初年度)
3. 高崎の食発信に向けた取り組み(2年目)
4. 高崎の食発信に向けた取り組み(3年目) 5.おわりに 54

第4章 地域資源を活用した体験・交流型観光政策の展開と課題 一千葉県芝山町と山形県飯豊町を事例に 高津英俊
1. はじめに
2. 各事例からの検討
3. おわりに
第5章 グリーン・ツーリズムの現状と新たな展開可能性 若林憲子
1. 日本のグリーン・ツーリズムの導入と展開
2. グリーン・ツーリズムの条件不利地での取り組みとその特徴
3. グリーン・ツーリズムを通じた地域活性化のステージのイメージ
4. グリーン・ツーリズム推進体制と農山村社会の活性化
5. 長野県浅間山麓国際自然学校
6. 考察と今後の課題 佐藤徹

第6章 観光行政と政策評価
1. 政策評価の基本的視座
2. 行政評価制度
3. 観光政策の評価
4. おわりに 米本清

第7章 観光資源・イベントの経済評価
1. なぜ,経済的な評価が必要なのか
2.どんな評価手法があるか
3. 旅行費用法(トラベルコスト法)
4. 仮想評価法(CVM)
5. ヘドニック分析
6. コンジョイント分析など
7.おわりに 伊佐良次

第8章 観光政策と産業連関分析
1. 沖縄における観光政策の展開
2. 観光客数の決定要因
3. 観光客数増加による経済波及効果の推計
4. おわりに 165

第9章 群馬県における観光資源としての産業遺産活性化に向けた動向と課題 大島登志彦
1. はじめに
2.「富岡製糸場と絹産業遺産群」と「ぐんま絹遺産」
3. 鉄道遺産の宝庫である群馬
4. 鉱業県としての群馬
5.おわりに

第10章 観光における地域ブランドの役割 河藤佳彦
——茨城県ひたちなか市における取組みを実践事例として
1. はじめに
2.観光と地域ブランドの意義
3. 茨城県ひたちなか市における観光振興への取組み
4. おわりに 千葉 貢

第11章 “旬”を旅する
一愛唱歌をくちずさみながら
1. はじめに――暦とカレンダー
2.“弥生の空”に花明かり
3. 青葉隠しか“八十八夜”
4. “二百十日”の風やまず
5. “師走”は年を惜しみつ一再会を願いながら
索引
執筆者一覧

第1章 国際親善文化観光都市としての軽井沢町
大河原眞美
1. 軽井沢の別荘文化

高崎経済大学地域科学研究所 (編集)
出版社 : 勁草書房 (2016/3/29) 、出典:出版社HP