エコハウスのウソ 増補改訂版

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扱うテーマが増えた増補改訂版

扱っているテーマ数が13も増加し、データの充実や視覚的理解を補助するカラー画像の積極的利用など、初版に比べて大きくパワーアップしています。エコハウスについて理解し、「いい家を建てる」ためには読んでおきたい内容となっています。

前 真之 (著)
出版社 : 日経BP; 増補改訂版;第2 (2015/12/8)、出典:出版社HP

 

エコハウスのウソ [増補改訂版] 目次

はじめに

プロローグ 省エネ基準義務化
Q.1 2020年以降、全ての家がエコハウスに?
Q.2 新省エネ基準を守るだけで暖かい家になる?
Q.3 地域の気候は「8区分」でバッチリ?
Q.4 家なんてどこに頼んでも同じ?

第1章 人と気候
Q.5 人間は暑さに弱い?
Q.6 湿度はパーセント(%)が当たり前?
Q.7 エアコンなしでも日本の夏は大丈夫?
Q.8 温暖地は冬の朝も温暖?
Q.9 日ノ本の国はどこでも太陽サンサン?
Q.10 結局、住まいは夏を旨とすべし?

第2章 建物の外皮性能
Q.11 離れた壁や窓、天井の温度は快適性に無関係?
Q.12 ローイーガラスって日射を遮蔽するガラスでしょ?
Q.13 日本の窓はずっと世界サイテー?
Q.14 断熱材と構法にこだわれば断熱はバッチリ?

第3章 冷房
Q.15 家のエアコンは節電の敵?
Q.16 冷房が最大?
Q.17 選ぶならハイパワーのエアコン?
Q.18 除湿は冷房よりもエコ?

第4章 夏への備え
Q.19 通風はクール?
Q.20 卓越風を信じよ?
Q.21 暑さ対策は夏専用のやり方でないとダメ?
Q.22 夜間放射で夏の夜もヒンヤリ?

第5章 吹き抜け・大開口
Q.23 吹き抜けは最高?
Q.24 気密は息が詰まる?
Q.25 もっと光を?
Q.26 大窓でダイレクトゲイン?

第6章 暖房
Q.27 暖房で体を温めよう?
Q.28 エアコンは暖房に向かない?
Q.29 空気は働き者?
Q.30 隠せばハッピー?
Q.31 放射は暖房の救世主?
Q.32 薪ストーブは原始的?

第7章 再生可能エネルギー
Q.33 エネルギーは創り出せる?
Q.34 ソーラー=太陽光発電?
Q.35 太陽光発電が日本を救う?
Q.36 平時でも蓄電は美徳?

第8章 電気
Q.37 HEMSは最強の節電ツール?
Q.38 省エネよりゼロエネ?
Q.39 目指せCO2削減?
Q.40 オール電化はオールエコ?

エピローグ
Q.41 結局、エコハウスは必要なの?

イラスト:ナカニシミエ
図版作成:村上総(カミグラフデザイン)
写真・資料:特記以外は前真之

はじめに

本書は、「エコハウス」をめぐる様々なテーマを検証する試みである。東日本大震災後のエネルギー事情激変のなかで、ちまたには「省エネ」「省CO2」「環境」「節電」「スマート」「安心」をうたった様々な住宅、いわゆるエコハウスがあふれている。
エコハウスはみな、快適で地球環境に優しいことを主張している。しかし、その手法はみな似たり寄ったり。つまり「定石」があるのだ。壁を埋め尽くす「大きな窓」に、開放的な「吹き抜け空間」。通風バッチリで暑い夏も風だけでしのげるから、憎きエアコンはもういらない。そう、かの吉田兼好も言っていたではないか。「住まいは夏を旨とすべし」と……。
こうした「定石」に彩られたエコハウスが、今日も建築雑誌のグラビアを飾っている。確かに美しく涼しげな写真を眺めるのは楽しいことだが、エコハウスと名乗るからにはそのホントのところが気になってくる。エコハウスは本当にエコなのか。その現実は、さるエコハウスに常駐する説明員の漏らしたひと言が象徴している。
「この家はエコということで設計されたと聞かされている。だけど、いつもここにいる自分には不便で全然快適ではないし、省エネになっている気もしない。わざわざ見に来てくれた人に、この家を薦めてよいものかどうか悩んでいる……」
筆者が何者であるかといえば、ひと言でいうと「建築環境」の研究者である。筆者と研究室の学生は、かなりの数のエコハウスを実地に計測してきている。そして、その多くが「残念」であり、定石の大部分が「ウソ」であることに気付いた。
筆者は「建築環境」を生業としているが、建築の各要素を総合的にまとめ上げる「建築家」の努力と苦労に、いつも敬意を持っている。彼らの多くが、住む人の幸せを真剣に願い心を砕いていることも知っている。
しかし建築というものは、人間の都合だけでは完成しない。工事が終わって構造と外皮ができたからといって、建築はまだ完成していないのだ。大地に産み落とされたそれは、土地の気候と共鳴し合いながら、その周辺と内部に環境を形成していく。そして、その過程を支配するのは、自然界を支配する「物理の法則」なのである。
人間はいま一度、自分たちのチカラの限界を思い知る必要がある。我々が図面に風の流れるイメージをいくら描き込んだところで、空気の分子1つさえも動かすことはできないのだ。物理の原則を無視した人間都合のイデオロギーは、人の住めないような内部空間を容易に生み出してしまう。その傲慢の辻つま合わせに、膨大な化石エネルギーが浪費されている。こうした悲劇を生み出す工コハウスの定石とは一体何なのか。本当のところは、エコなどどうでもいい、単に「写真写りが良い空間」が欲しいだけなのでは……。邪推の一つもしたくなる。

しかし、悲観することはない。謙虚な気持ちを持って物理の法則を理解すれば、道はおのずと明らかになる。難解な数式を出すまでもない。「言われてみれば当たり前」の常識をちょっと意識するだけで、多くの問題は解消できるのだ。
本書はエコハウスを主たるターゲットにしているが、エコハウスといえど住宅のひとつのカタチ。エコハウスに関連したテーマのほとんどは、普通の住宅に住んでいる、あるいは普通の住宅を建てようという普通の人にも、ぜひ知っておいていただきたい内容である。「エコハウスのウソ」というタイトルだけで「キワモノ」と思わずに、お付き合いいただければ幸いである。
――と、ここまでが2012年の初版の出だしである。
初版で関心を持っていただいたことで、筆者も様々な場所へ呼んでいただき、各地の実情や実住宅を見せていただく機会が得られたのは、他に代えがたいありがたい経験であった。
こうした経験を通し、各地で熱心に勉強し真摯に良い家をつくられている、素晴らしい設計者や施工者の方々にたくさんお会いすることができた。筆者の現地調査の場数も増え、経験値も大きく増やすことができた。
この3年の間でも、住宅の性能は大きく進歩したのは間違いない。行政の方でも省エネ基準義務化、ゼロエネルギー住宅の推進など、従来よりも普及に力が入りつつある。エコハウスが必ずしも特殊な家ではない、誰でも住めるものになりつつあることを筆者も肌で感じている。
初版においては、エコハウスの28のテーマに触れていた。今回の改訂では全部で41のテーマについて扱っている。初版でも触れていた内容については稚拙な文章を削るとともに、データの充実を図った。初版当時から比べても社会の変化がはっきりと感じられ、本当に世の中は変わっているんだ、と実感することになった。
また、ビジュアル的に容易に理解できるカラー画像を積極的に追加した。新たに追加したテーマは、気候や快適性に関するものが多い。本物のエコハウスが普及しない理由の1つに、気候に関する思い込み・誤解があると感じたためである。快適性も旧版のオルゲーの気候図に代わり、世界的にオーソライズされたPMVモデルを利用した。様々なケースで詳細な検討ができるため、快適性の分析はかなり幅が広がったと思う。
初版は冬の問題を重点的に取り上げていたが、本書では夏の問題も積極的に取り上げている。ただし、いわゆる「夏旨」とは異なった結論になっているので、それはお楽しみに。
本書におけるデータや数理モデルは、できる限り普通の標準的なものにとどめ、オーソライズされていない「独自研究」は控えている。誰もが入手できるごく当たり前のデータから一見意外な結果が出てきて、でも考えてみると確かにそうだ、というのがデータ分析の醍醐味である。ぜひ読者の皆さんにも、ご自分の周りのことについて、思い込みや決めつけを取り除き、真実に近づいてみる楽しさを体験していただければと思う。
前真之

本書の遠赤外線画像(サーモカメラ)の見方

前 真之 (著)
出版社 : 日経BP; 増補改訂版;第2 (2015/12/8)、出典:出版社HP