習近平が隠す本当は世界3位の中国経済 (講談社+α新書)

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3つのケースでシミュレーション

「中国GDP47兆円水増し」という記事が産経新聞の見出しに上がり、遼寧省が3年間で毎年財政収入を20%以上水増ししたことが判明しました。そんな中国GDP1100兆円の嘘を徹底的に暴き、中国経済の現状や日本経済への影響について分かる1冊です。

上念 司 (著)
出版社 : 講談社 (2017/6/21)、出典:出版社HP

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まえがき―中華思想とGDPの関係

二〇一七年二月九日の「産経新聞」の一面を読んで、私は「やはり今年もそうだったか」と思いました。その記事は「中国、GDP四七兆円水増し昨年地方合算が全国上回る」というものです
中国経済をウォッチしている人間にとって、この手の話は常識です。もう何年も前から、中国の地方政府が集計したGDP統計の合計が、国家統計局のまとめたGDPの集計値を上回るという現象は起こっていました。それをこのときも、またやらかしてしまったわけです。
この点について中国政府は、何度も海外のマスコミからツッコミを入れられてきましたが、これまではのらりくらりと答えをはぐらかして、統計の虚偽を認めることはありませんでした。
ところが二〇一七年一月、中国の統計を巡って歴史的な事件が起こりました。中国で最も景気が悪いといわれている遼寧省で、二〇一一~一四年に経済統計を水増ししていたことが判明したのです。しかも、一月一七日に開かれた同省の人民代表大会(省人代、地方議会に相当)において、陳求発省長がこれを公式に認めました。「日本経済新聞」(電子版)は、「地域経済の成長が鈍化するなか、複数の地域で税収を実際よりも多く見せかけていた」と報じています(「中国・遼寧省、統計数字水増し認める一一~一四年の税収」二〇一七年一月一七日)。
また「産経新聞」は、その期間の遼寧省の水増し分は、なんと財政収入の二〇~二三%近くだったと報じています(二〇一七年一月一八日)。やった、これで中国経済の本当の姿が明るみに出る!多くの中国経済ウォッチャーが希望を持ち始めた矢先、それに冷や水を浴びせるようなニュースが飛び込んできました。
【北京時事】中国国家統計局の寧吉詰局長は二〇日、記者会見で「全国レベルの統計は正確で信用できる」と述べ、このところ国内で急速に高まっている統計捏造疑惑に反論した。
遼寧省の陳求発省長が一七日、財政統計の数字は虚偽だったと表明したのが騒ぎの発端。中国メディアが相次いで報じ、国内総生産(GDP)統計もうそではないかとの疑念が一気に強まった。
遼寧省のケースでは、省内の県などの自治体が二〇一一~一四年に財政収入を二割ほど水増しして報告していた。出世を目指す幹部が、地元経済の好調ぶりをアピールする狙いがあったようだ〉
(『中国の統計は正確』=捏造疑惑に高官反論」/「時事ドットコム」二〇一七年一月二〇日)
ああ、やっぱりそうか、この国は何も変わっちゃいない……かつて魯迅は中国人の迷信深さ、近視眼的で強欲で醜い様を嘆き、人民の心を治療しようとして医学から文学に転じました。私はそのときの魯迅の気持ちが何となく分かったような気がしました。
そもそも、これには根深い問題があります。中華人民共和国という国家の存在そのものに大きな虚偽が含まれているからです。そもそも彼らが大陸を統治する正当な理由は、一体どこにあるのでしょう?
共産党は、「抗日戦争」を戦って日本の軍国主義者から人民を解放したと言い張ります。しかし、日本軍と中国大陸で戦っていたのは中華民国(国民党政府)であり、国民党に追い詰められた弱小軍閥である共産党ではありません。もちろん、第二次国共合作で建て前上は共同して日本と戦っていたことにはなっていますが、実際には中国共産党軍(中共軍)は日本軍から逃げ回り、徹底的に戦闘を避けていました。実際に毛沢東は、日本軍と戦闘に及んだ現場指揮官を粛清したりしています。
そうやって日本軍との戦闘を徹底的に避けて、ひたすら戦力を温存した毛沢東ら中共軍は、日本がポツダム宣言を受諾すると、満州でソ連軍に武装解除された日本軍の武器を強奪しました。さらに、日本の軍人、軍医、技術者などを拉致して中共軍のために働かせました。日本人を使い中共軍の軍事力を強化したのです。結果、国民党軍を台湾に追い出すことができました。
中国共産党が覇権を握れたのは、国民党軍が日本軍と戦って消耗したからであり、中共軍が日本の遺産を乗っ取って利用したからです。少なくとも毛沢東は、そのことを分かっていましたし、そう発言しています。しかし、革命第三世代にもなると、そういう恩義は忘れてしまったようです。
二〇一五年九月三日に「中国人民抗日戦争ならびに世界反ファシズム戦争勝利七○周年記念行事」なるイベントが開催されました。彼らの面の皮は、私たちの想像を絶する厚さでした。一体どこの中国共産党が日本と戦ったのでしょうか?日本の逃げ遅れた軍人たちは、お前らの革命に協力してやったのに!信じられないような嘘つきであり、恩知らず。これが中国共産党の正体です。考えてもみてください。そんな嘘まみれの中国共産党にかかれば、経済統計の偽装など当然、朝飯前ですよね?
まして、現在の中華人民共和国は共産党による一党独裁国家であり、経済統計が担当者自身の評価や出世に直結しています。たとえ、それが嘘やごまかしであったとしても、それが通ってしまえば勝ちなのです。
そういう人たちは、意図的な偽装にも良心が痛むことはありません。中国のような独裁国家においては、経済統計が持つ意味が日本とはまったく違う、そのことを忘れてはいけません。もちろん中国の官僚のなかには、もっと正確な統計が必要だと考え、それに向けて努力している人がいることは否定しません。また国家として正確な統計を算出するため、いろいろな試みがなされていることも事実です。水増しは事実としても、それをもって、すべての統計が間違っているともいいません。
しかし、それらをいくら割り引いてみたところで、それでもなお毎年、統計の水増しは事実として行われてきました。少なくとも遼寧省では、六年前から三年前までやっていたことを公式に認めました。果たして本当にその期間だけだったのか?真相は未だ藪のなかにあります。
とはいえ「高度な政治的要因」が存在することを示唆する統計上の矛盾は、いくらでも挙げられます。中国の公式発表する経済統計は、経済学の常識に反しているからです。
その端的な例は、輸入統計と経済成長率の不整合。詳細は本章に譲りますが、たとえば二〇一五年の中国の輸入額は一三・二%も減っているにもかかわらず、実質経済成長率は六・九%という極めて高い数字になっています。
通常、輸入が減るときは国内の需要が縮小して、自国の供給力が余っています。その反対に、輸入が増えるときは国内の需要が旺盛で、そのため自国の供給力では足りません。輸入が一三・二%も大幅に減少した年に六・九%もの高い経済成長を達成することは、常識的には考えられません。
中国の公式発表によれば、二〇一四年の実質経済成長率は七・三%だったので、二〇一五年の経済成長率は確かに○・四%減っています。輸入が一○%以上減っているのに、経済成長率がたったの○・四%の減少……こんなことはあり得るでしょうか?
私はOECD加盟国三○ヵ国の過去一五年のデータを検証しました。が、そのような事例は一つもありませんでした。どう考えても、輸入の伸び率のマイナス幅に比べ、経済成長率の鈍化が控えめ過ぎるように思えます。やはり、中国共産党が経済の掟をねじ曲げているとしか考えられません。建国の歴史ですら嘘で塗り固める中国共産党にとって、経済統計の捏造など朝飯前なのですね。
そこで大きな疑問が湧き上がってきます。世界第二位といわれる中国のGDPは、本当は一体、どれぐらいの規模なのか?本書は、その真実に近い姿をお見せするために書きました。
真実を知るためのヒントは、中国の兄貴分だった旧ソ連の統計偽装のテクニックにあります。さらに私は、中国経済に関するニュースや論文を、日本語、英語、中国語のメディアに当たって片っ端から調べました。その結果、ある結論に達しました。
以下に述べることは、中国が一九八五年から実質経済成長率の水増しを始めたと仮定し、水増し率を三%、六%、九%の三通りでシミュレーションした結果です。もちろん、中国が建国当初から経済統計の水増しをしていたかもしれないのですが、敢えて改革開放路線が始まった一九八五年から、と仮定しました。これは「産経新聞」が報じた記事に依拠したものです。
すると、三つのケースいずれの場合でも、GDPで中国は、日本を抜いていませんでした。いちばん甘い三%水増しのケースであっても、二〇一六年の中国の実質GDPは最大で四三七兆円……日本の実質GDP五二二兆円には及びません。一体、私たちは、何を信じ込まされていたのでしょうか?日本と中国のあいだでは、軍事力による衝突は未だに起きていませんが、「戦争」はすでに始まっています。
現代の戦争は見えない戦争。宇宙空間やサイバー空間における中国軍の侵略は、いま世界中で問題になっています。そして、もう一つのフィールド、私たちの心のなかにも、彼らは侵略戦争を仕掛けてきている。それこそが、まさに「中国は世界第二位の経済大国」という心理攻撃なのです。中国は経済統計を武器に使って、日本に対して心理戦を挑んでいます。私たちは中国共産党の発表を鵜呑みにしたマスコミによって、日本経済は中国経済に追い抜かれたと信じ込まされていました――一体、何のために?
尖閣諸島に押し寄せる武装漁民、海上警察、そして海軍……何度スクランブルをかけてもしつこくやってくる戦闘機。日本の左巻きのマスコミは中国経済を礼賛し、日本はもう負けたと言い続けました。二〇一七年三月四日の「朝日新聞」では、中国全国人民代表大会の報道官、傅瑩氏の発言をもとに、まったく自社の分析も加えず、「中国の国防費が初めて一兆元(約一六兆五○○○億円)の大台を超える」と報じています。これらがすべてつながって
いるとしたら――。
二〇一六年にアメリカで誕生したドナルド・トランプ政権によって、世界秩序が大きく変わろうとしています。そして幸運なことに、日本では、安倍晋三総理が長期政権を築いています。一方、中国経済は、いま音を立てて崩れ去ろうとしています。もう、ごまかしも利かなくなりました。
いまこそ、日本人が中国による「経済洗脳」を解く絶好のチャンスです。本書が読者の皆様の脱洗脳の一助になれば、作者として幸甚です。

【註記】「中華人民共和国」という名称は、華夷秩序のなかで、シナ大陸の国家を「中華」、日本を「夷狄」と位置づけることを意味しています。こういった周辺諸国に対するヘイトスピーチは受け入れがたいものであり、本来、同国は「シナ(支那)」と呼称されるべきです。
しかし本書においては、読者の理解を助ける意図のもと、敢えてその俗称である「中国」という表記で統一させていただきました。これは便宜上の措置であり、支那共産党のいう華夷秩序を受け入れるということではありません。あらかじめご理解いただければ幸いです。

上念 司 (著)
出版社 : 講談社 (2017/6/21)、出典:出版社HP

目次

まえがき―中華思想とGDPの関係
第一章
こんなにおかしい中国GDP
日本人の「上海メガネ」とは何か
独裁国家の統計の意味
「一日で済む仕事を三〇日で」
統計数字も中華思想に基づいて
国民所得九〇倍は六・五倍だった
三%の嘘でも一五年で一・五倍に
全国より四七兆円増の地方GDP
権力闘争の結果として認めた粉飾
役人がGDPを水増しする理由
実際の中国の経済成長率は何%?
中国の成長率・輸出相関の不思議
中国の統計をソ連に当てはめると
控えめに見てもGDPは日本以下
ソ連と同じ運命をたどる中国
第二章
トランプ後の中国経済
「韜光養晦」とは何か
アメリカをすっかり騙した鄧小平
中国人が見てもウソと分かる記事
リーマンショックで大きな勘違い
「兵は詭道なり」で国際法も無視
クルーグマンとナヴァロの批判
貿易自由化をしたため日本は
悪夢となったアメリカ大統領選
トランプへのアリバイ作り
米中軍事衝突なら中国経済は崩壊
中国の海が浅いがために石油は
日米首脳会談が打ち砕いた野望
第三章
驚くべき虚偽統計の数々
統計がおかしいと分かると役人は
中国経済の実態を表す三つの数字
ゾンビ企業は最低でも七・五%
デフォルトどころか社債の偽造も
素人でも分かる失業率の不思議
従業員資格を持つ失業者とは
税収とGDPが相関しない不思議
第四章
中国から続々と逃げ出す日本企業
日本の工場が中国に進出した背景
日本を奈落に突き落とした犯人
金融緩和で激減した対中投資
都市への人口流入が止まると
一〇年で九○万も減った村落
特派員の給料は北京の口座に滞留
二〇一五年から始まった中国撤退
中国商務省の滑稽な反論
大幅に減少した中国の在留邦人
中国の遅延行為で企業の夜逃げも
第五章
断末魔の習近平、そして中国経済
極秘レポート「穏増長会議紀要」
なぜ中国人の貯蓄性向は高いのか
物理的にも人民を殺す過剰設備
PM2.5で肺がんが死因一位に
中国は外国から四○○兆円も借金
固定相場が招くハルマゲドン
ビットコインで分かる人民元の価値
変動相場制への移行で人民元暴落
AIIBと一帯一路で好転するか
最も危うい国に危ない銀行が融資
第六章
米中衝突で浮上する日本経済
日米首脳会談後の中国の反応で
親イスラエル路線で日本が重要に
中国の尖閣での漁民救助の狙い
ソ連崩壊と同じ轍を踏む中国
日本の軍備増強で一石三鳥の効果
あとがき―中国経済崩壊の先にあるもの
軍事衝突も日本にはチャンス
意外と軽微な中国経済崩壊の影響
第一章
こんなにおかしい中国GDP

上念 司 (著)
出版社 : 講談社 (2017/6/21)、出典:出版社HP