理論と実践 スポーツ栄養学

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スポーツ栄養学について、豊富な事例を図表とイラストを用いて紹介されているので非常にわかりやすいです。栄養学に関する疑問や悩みを徹底的に解説し、内容としては栄養学の基礎からマネジメントまで完全網羅しています。スポーツ栄養を愛する著者が全てのアスリート、指導者、スタッフそして家族に贈る渾身の1冊です。

鈴木 志保子 (著)
出版社 : 日本文芸社 (2018/7/14)、出典:出版社HP

理論と実践 スポーツ栄養学

はじめに

本書は、大学を卒業し管理栄養士になってから30年、スポーツ栄養を仕事にするようになってから20年が経ったことをきっかけに、執筆することを決めた。この30年間を振り返ってみた。管理栄養士になって最初の10年は、生涯「スポーツ栄養」で生きていくことを決めた10年だった。高校生のときにアスリートの栄養のことをやりたいと思い、管理栄養士養成校の大学に行き管理栄養士になったものの、アトピー性皮膚炎のため厨房業務に不向きということで、管理栄養士として勤めることができず、一般就職した。けれども当初の思いを捨てきれずに8カ月で退職し、管理栄養士として健診業務に就いた。そこでは、健康増進や生活習慣病の予防に興味を持ち、精力的に仕事をするものの、ここでも当初の思いを捨てきれず、またまた退職し、大学院に進学することにした。このころから「スポーツ栄養」という言葉が一般的に使われるようになってきた。
大学院生をしながら、京都産業大学の陸上競技部で栄養サポートに挑戦したが、何の役にも立たないどころか、悪影響を生んでいることに気づき、アスリートと一緒に暮らし、同じ生活をすることしかできなかった。一緒に生活することでいろいろ感じた。感じたことを一つ一つ解決するために「勉強して、その内容を解決策として具体化してアスリートに試してみる」をくり返した。解決できない問題や課題もたくさんあり、それが私のスポーツ栄養への原動力となった。京都産業大学陸上競技部監督の伊東輝雄先生は、未熟な私にチャンスと勇気をくださり、勝利の喜びを教えてくれた。また、一緒にいてくれたアスリートたちは私の先生であり、とても感謝している。サポートをしながら大学院の修士課程、博士課程を修了し、博士(医学)を取得した。
次の10年は、鹿屋体育大学の教員になることから始まった。ここで初めて、スポーツ栄養で給料をもらえることになった。鹿屋体育大学にいた3年間で、全部活のアスリートに栄養調査をして、練習を見て、個別指導を行った。競技種目別の身体やトレーニングの特徴、競技に関するアスリートや指導者の考え方がわかった。多くのアスリートの栄養サポートをすることができてとても幸せだったが、私と同じマインドを持った管理栄養士を育てなくてはならないという思いも強くなっていき、管理栄養士養成校である神奈川県立保健福祉大学に着任することにした。
それまでは、自分がサポートしているアスリートにしか興味がなかったが、スポーツ栄養の仲間が増え、スポーツ栄養学の普及啓発、アスリートへの栄養管理システムの構築、人材育成としてスポーツ栄養士の資格制度の確立にも力を入れるようになった。この10年間で、日本スポーツ栄養研究会(現、日本スポーツ栄養学会)を設立し、公認スポーツ栄養士資格制度を施行したほか、スポーツ栄養の一般の方への普及啓発のために『基礎から学ぶ!スポーツ栄養学』(ベースボール・マガジン社)を出版した。栄養管理システムについては「スポーツ栄養マネジメント」を構築するとともに、このシステムを使って栄養管理をしたソフトボールの日本代表チームが北京オリンピックで金メダルをとることにより、有効性を示すことがで
きた。
ここ最近の10年間は「質の高い栄養サポート」を実施することを目的に過ごした。私のサポートをする姿勢というか、考え方というか、アスリートの身体から感じるものの受け止め方というか、課題や問題に対する解決法の根本的な概念というか、そういうものが「そもそもなぜ、身体はそのような状態にならなくてはいけなかったのか」を追究することだった。追究するためにエビデンスを確認し、エビデンスを参考に問題・課題の原因と対策を明確にしたうえで栄養サポートを進めた。アスリートの身体は、一人一人全く違う。身体だけではなく、すべてが一人一人違うのだ。そのため、栄養サポートは、理論を一人一人に合ったものにアレンジして実践する必要がある。この10年間で試みたアレンジが、系統立てて確立されてきたので、この本にまとめることにした。手がけること1年以上、私のサポートもこの期間に更新をし、何度となく書き換えをすることになったが、現時点におけるスポーツ現場で活用できるスポーツ栄養学としてまとめることができた。
この本の特徴は、タイトルに「理論と実践」とあるように、理論として「なぜ」を解決するための根拠をできるだけ明確にした。わかりづらいところはイラストや事例を活用して理解を促したうえで、実践できるように解説した。また、用語などについて理解を深め、実践的に活用するために本書の中で関連することが記載されているページを(→P000)としてつなげるようにした。
各章について説明しよう。第1章は、アスリートの栄養摂取の考え方と栄養サポートの必要性、糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルの摂取について解説した。この章を理解するには、栄養学の基礎知識が必要となるため、必要に応じて第2章と第8章も読みながら理解を深め「そういうことか!」とうなずいてほしい。
第2章は、エネルギーの補給と消費、エネルギー代謝について解説した。スポーツ栄養学は、アスリートのように一般の人に比べてエネルギーをたくさん使う人のための栄養学ともいえることから、エネルギーについて理解しなければスポーツ栄養学を理解したことにならない。そのため、難しく無視されがちなエネルギー代謝をできるだけやさしい表現やイラストで解説した。しかし、この章を受けつけない人がいるかもしれない。そのような方は、ここは飛ばして、第3章を読んでほしい。最後に戻ってきて読んでほしいが……「我慢して読んだらわかってきた!」と納得してほしい。
第3章は、アスリートの食事やサプリメントについて解説した。レシピは1つもないが、どうして食べなくてはいけないのか、どのように食べればよいのか、栄養素と食事の関係、サプリメントの活用をまさに理論を実践できるように書いた。「よし、やってみるぞ!」とこの章を読んだあとの食事が楽しみになってほしい。
第4章は、試合期・遠征中の栄養管理と食生活について解説した。この章は、私が今までサポートしたチームやアスリートにしか見せたことがない試合期の栄養サポートの詳細を書いた。「公認スポーツ栄養士はこういうことをやってくれるのか!自分もサポートを受けたくなる!」と思ってほしい。
第5章は、目的別の栄養管理として、増量、エネルギー不足、貧血、皮力賞折、減量をあげて解説した。この章は、理論と私の経験をエビデンスとして、目的を達成するため、改善するために必要な栄養管理について実践できるように書いた。「そうだったのか!」と読みながらつぶやいてほしい。
第6章は、コンディションを良好に保つために、日々のセルフマネジメントの方法から栄養サポートの活用、休養のとり方を解説した。また、対象者別に栄養管理に必要な考え方や知識、実際に栄養管理をするうえでの問題や課題、その解決法などについても解説した。「今日から始めてみよう!」とすぐにとり組んでほしい。
第7章は、体温を調節するためになぜ汗をかくのか、脱水するとどうなるのか、なぜ水分補給しなくてはいけないのか、どのように飲めばよいのかを解説した。「一生、熱中症にはならないぞ!」と確実に実践してほしい。
第8章は、この本を理解するために必要な栄養学の基礎をまとめた。第1章から第7章を読んでいるときに何度かこの章を読まなくてはいけないこともあると思う。しっかりと理解するために必須の章だ。「なんだかんだ、8章全部読んでいた」と最後に感想を漏らしてほしい。
私は、スポーツ栄養のプロフェッショナルだ。スポーツ栄養を愛している。私の愛するスポーツ栄養を私と出会ったアスリートだけではなく、この本と出合ったアスリートにも体感してほしい。アスリートだけではない、アスリートを支える指導者やスタッフ、家族にもスポーツ栄養のすばらしさを実感してほしい。この本から私の愛するスポーツ栄養の世界を楽しんでください。
鈴木志保子

鈴木 志保子 (著)
出版社 : 日本文芸社 (2018/7/14)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 アスリートの栄養摂取
栄養管理や栄養サポートが必要な理由は?
1 アスリートにおける栄養摂取の基本的考え方
エネルギーや栄養素の必要量が多いとバランスのよい食事だけでは不足する

最も重要なエネルギー源
2糖質の摂取
基本的考え方/アスリートにとっての糖質摂取/糖質を含む食品の種類/糖質摂取のタイミング/ リカバリーのための糖質補給

アスリートにとって油をとる意義とは?
3脂質の摂取
基本的考え方/アスリートにとっての脂質摂取/脂質の種類とその活用

摂取に関する新常識とは?
4タンパク質の摂取
基本的考え方/アスリートにとってのタンパク質摂取/タンパク質の過剰摂取

多岐にわたるビタミン・ミネラルの役割
5ビタミン・ミネラルの摂取
アスリートにとってのビタミン摂取/アスリートにとってのミネラル摂取

第2章 エネルギーの補給と消費
必要量を正確に知ることは可能か?
1エネルギー補給
エネルギー消費量は結果としてしか評価できない

エネルギーを消費するのは運動だけではない
2エネルギー消費とは?
エネルギー消費の種類/エネルギー消費量の測定/エネルギー消費量の算出方法

糖質やビタミンの重要性がわかる
3エネルギー代謝
安静時と身体活動時のエネルギー代謝/エネルギー源としてのタンパク質の代謝/エネルギー代謝に必要なビタミン

第3章 アスリートの食事・サプリメント
欠食や偏食が与える影響がわかる
1バランスよく食べなくてはいけない理由
細胞を作りかえるにはエネルギーや栄養素が必要/欠食を続けると直接筋肉に影響する/バランスか 偏った食事が身体作りに及ぼす影響とは?/筋肉・骨への刺激によって身体作りも変化する/肋肉・用の刺激と栄養状態の関係/

食事内容と自分にとっての適正量が決め手
2バランスのよい食事とは?
食事構成と補食・間食/食材の選び方/適正量を食べる

アスリートが誤解しやすいタンパク質と糖質のとり方
3注意が必要な栄養素と食事の関係
タンパク質と主菜の関係/糖質と主食の関係/糖質とタンパク質の食べ方の関係/エネルギーや栄養摂 取量を調整できる「調理」について

食事量が多いアスリートだからこそ気をつけたい
4食塩の摂取
食べる量が増えれば食塩量も増える

目的や注意点を知ってから使おう
5サプリメントの活用
栄養素以外のサプリメントは安易に使用しないこと/タンパク質のサプリメント利用は過剰摂取に注意/ビタミン・ミネラルのサプリメントで注意したい点とは?

COLUMN
なぜ朝から食べないといけないのか
生活リズムと朝食の関係

第4章 試合期・遠征中の栄養管理・食生活
確実に勝つための条件とは?
1試合期の栄養管理
緊張や興奮からくる栄養状態への影響と対策/試合に備えて糖質を体内に貯蔵する「グリコーゲンロー ディング法」/試合中は脱水のリスクが高くなる/試合期における栄養管理の留意点とは?

試合前、試合当日、試合後の食事の内容・量・タイミング
2試合期の食生活
試合期に守りたい食事の基本ルール/試合前日までの食生活/試合当日の食生活/試合後の食生活/ 軽食・補食・サプリメントの活用/試合期の下痢と便秘対策

事前の計画・準備がカギ
3試合期・遠征中の環境整備
試合会場に合わせた管理のポイント/海外での試合の食環境整備/衛生管理

陥りやすいポイントとは?
4合宿中の栄養管理・食生活
練習量の増加に合わせた栄養管理が必要/指導者に見直してほしい昼食と午後練の開始時刻

COLUMN
無自覚のまま禁止薬物を摂取していることも
ドーピングに対する対策・注意

第5章 目的別の栄養管理
ただ食べるだけでは達成できない
1増量
体重の増加による増量/体重を増加させるための考え方/筋肉量の増加による増量

身体の組織や機能に支障をきたす
2 エネルギー不足
エネルギー不足の状態とは?/エネルギー不足になったときに出てくる症状/エネルギー不足を評価する/ エネルギー不足の治し方/エネルギー不足の予防

持久力の低下や疲労を引き起こす
3貧血
パフォーマンスを左右するヘモグロビン値/アスリートの貧血の原因と対策/貧血を回復する方法/ 貧血の予防/陸上長距離選手の貧血改善プロセス

栄養面に問題があることもある
4疲労骨折
エネルギー不足が原因の疲労骨折とは?

体調を維持しつつ確実に結果を出すには?
5減量
急速減量によって身体に起きることとは?/階級別競技種目における試合前の減量方法/パフォーマンス 向上のための減量方法/減量がうまくいかないときに考えられること

第6章 コンディショニング
段階を経て導入していくことがポイント
1セルフマネジメント
セルフマネジメントの3段階導入方法とは?

目的達成のために導入したい
2栄養サポートの活用
目的をもって期間を決めたら計画を立てて実施する

栄養とともに意識したい
3休養
25歳以降の体力を左右する完全休養の必要性/パフォーマンスに直結する!質のよい睡眠のススメ

今後の人生のために不可欠な月経管理
4女性アスリート
月経に伴う「食」管理/選手生命に影響を及ぼすこともある“女性アスリートの三主徴”とは?

成長に影響を及ぼすエネルギー不足に注意
5ジュニアアスリート
しっかり食べているつもりでも栄養状態が悪くなることがある/ジュニアアスリートのエネルギー・栄 養素摂取の問題と課題/ジュニアアスリートの利用可能エネルギー不足とは/利用可能エネルギー不足 の原因と改善方法/ジュニアアスリートの食事・食生活の留意点/ジュニア期の食教育

生涯現役を目指すには?
6シニアアスリート
加齢に伴う身体の変化を受け入れ、対応する/個人の状態に合わせて疾病を予防・改善しよう

栄養管理は障がいの部位や状態によって異なる
7障がい者アスリート
現場での経験から見えてきた留意点や注意点

第7章 熱中症の予防と水分補給
体重の約2/3を占める水分の働きとは?
1 体内の水分の役割と体温調節
体液には身体にとって大事な3つの作用がある/皮膚からの体温調節の方法とは?/機能が未熟だからこそ要注意!子どもの脱水/発汗の種類には精神性発汗もある/汗だけで水分が失われるのではない! 1日の水分出納/シニア期の水分補給の留意点

水分補給以外の対策とは?
2 熱中症とその予防
熱中症は4つの病型に分類される/覚えておきたい熱中症予防8ヶ条/体温を下げて発汗を少なくする努力も必要/暑いところだけではない寒冷環境での脱水に注意

アスリートが必ず身につけておきたい知識
3水分補給法
汗をかくと水とともに電解質が失われる/糖質の適した濃度は4~8%程度/運動時の具体的な水分袖 給法/スポーツドリンクと経口補水液の違いは? /水分のとり過ぎによる水中毒とは?

第8章 栄養素・エネルギー・消化吸収の基礎
知っておきたい栄養素の基礎知識
1栄養素の種類
身体にとって必要な五大栄養素/糖質脂質/タンパク質/ビタミン/ミネラル/食物繊維

各食品のエネルギー量を算出する方法
2食品のエネルギーとは?
三大栄養素のエネルギー/エネルギー換算係数

1つの食品にはさまざまな栄養素が含まれている
3食品の特徴と分類
18のグループに分けられる食品群

口腔から肛門までの食物の通り道
4消化管の働き
消化管と消化腺からなる消化器系/口腔の働き/胃の働き/小腸の働き/大腸の働き/膵臓の働き/腎臓の働き/肝臓と胆のうの働き

COLUMN
メリットとデメリットを知って上手に付き合おう!
アルコールとパフォーマンスの関係

さくいん
参考文献
おわりに

注意
この本の内容を実行する際には、自己責任で行ってください。 この本に記載されている内容の精度には、細心の注意を払っていますが、著者、編集者、出版社は、本書の内容を活用することで生じた結果や事故等に対する責任はなく、活用後の結果や成果を保証するものでもありません。

装丁・本文デザイン
引間俊之
中島香菜
高階寬司
(株式会社アイム)

企画
戶島正浩
(株式会社 加入,以卜口一夕)

編集
坂 裕治
(株式会社 日本文芸社)
石坂卓也
(株式会社 ブレインズ・ネットワーク)

編集協力
中寺晓子
光成耕司

イラスト
山田奈穗

鈴木 志保子 (著)
出版社 : 日本文芸社 (2018/7/14)、出典:出版社HP

第1章 アスリートの栄養摂取

アスリートに栄養管理が必要なことは、広く知られるようになった。 その一方で誤解されていることも多い。
特有の栄養管理が必要な理由や五大栄養素を摂取する際のアスリートならではの目的について理解を深めよう。

鈴木 志保子 (著)
出版社 : 日本文芸社 (2018/7/14)、出典:出版社HP