天文の世界史 (インターナショナル新書)

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天文学の歴史がわかる

天文学に関する書籍のほとんどは現代の西洋天文学を扱っていますが、本書はややマニアックで、天文学の発展や歴史について紹介しています。手軽に全体像を掴むことができ、何度読んでも楽しめるので手元に置いておきたくなる1冊です。天文学だけでなく歴史や文学好きの方にもおすすめです。

廣瀬 匠 (著)
出版社 : 集英社インターナショナル (2017/12/7)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第一章 太陽、月、地球―神話と現実が交差する世界
もっとも強く意識されてきた天体/太陽を読む装置/クリスマスの起源は太陽の誕生日?/畏れられ恐れられる太陽/燃えさかる太陽の「黒幕」/太陽の中の人などいない/太陽のエネルギー源/今、太陽の外側が熱い/日食で大騒ぎ/惑星になった生首/命取りの予報漏れ、ゴマすりで何とかなる誤報/太陽と月、どっちが近い?/紀元前の地動説/スーパームーンはあんまりスーパーじゃない/月は五円玉の穴より小さい/あり得ないことの代名詞/月の満ち欠けが一ヶ月/天文システムエンジニアの悲哀/精密なら良い、とは限らない/暦改革宗教改革/明治改暦の裏事情/争いを避けるための太陰暦/新月――観測か、計算か/月と罰/直進と回転の境界/望遠鏡が世界を変えた/月の中の人など、やっぱりいない/月を楽しみ、月で悲しみ/時差一時間の距離/アップデートを放置して八二三年間/西洋にヒントを得た国産カレンダー/月はときに「地球」をも映す/地球の大きさを棒で測る/数にとらわれず、グローバルな視点で/それでも地球は回っていない/「地球を測る」から「地球で測る」へ/地球の回転よりも精度が高い時計/月下界を越えて神話の世界へ

第二章 惑星――転回する太陽系の姿
惑星は全部で何個?/見慣れない順番の背景にあるもの/水星――二つの顔を持つ星/金星―太陽と月に次ぐ明星/マヤの「金星暦」/「ニ〇一二年世界滅亡」の嘘/火星―人々を惑わす炎/木星―夜空の王様/十二支の巡りと木星の巡り/土星――ゆっくりと歴史を刻む星/ホロスコープ占いの誕生/惑星の動きを丸く収めるには/いつもより余計に回っております/もっとも偉大な「数学」の本/七つの曜日も天文学の産物/曜日の順番はこうして決まった/チューズデーとマーズの関係/ホロスコープ占いを説くお経/陰陽師>仏教系占星術師/地動説が必要だった理由/地球――太陽系の第三惑星/衛星――「中心」は複数あった!/天王星――ついに広がった太陽系/ケレス――天才数学者が拾い直した小惑星第一号/海王星――計算で予測された星/冥王星――老人の夢と若者の根性/機械仕掛けの開拓者と航海者/1992 QB1―デジタル時代の新地平/エリス――不和と争いをもたらした「第一○惑星」/ニ一世紀の太陽系再編

第三章 星座と恒星――星を見上げて想うこと
昔の人は星を避けた?/恒星の運動は二種類/動かない星/ナイルの恵みを知らせる星/三六時間から二四時間へ/イラクで生まれた星座たち/「星座」と切り離された星占い/交代する北極星/「十三星座占い」は必要?/星座と言えばギリシア神話なのはなぜ?/太陽がいっぱい/イスラム風のオリオン座/星の名前はアラビア語から/東洋で大変身した一二宮/愛妻を訪ねる月の旅/祇園祭に潜む星座/中国星座は天上の国家星に導かれて旅する人々/近代の新星座ブーム/兄より明るい弟/恒星も動いていた/赤い星と青い星、熱いのはどっち?/星座にあるのは境界だけ/星座の飛び地問題/星の名前は買えません/「惑星」のおかげで「恒星」に名がついた?/第二の地球を探して

第四章 流星、彗星、そして超新星――イレギュラーな天体たち
「通常」と「異常」の天文学/天からのメッセージを読み解く/彗星はほどほどに珍しい/支配者が恐れる天体/星に願いをかけるのも楽じゃない、怖い流星、ゆるーい流星/昼間も輝く客星/天球を壊した天体/肉眼観測の限界/ケプラーからハレーへ、彗星は巡る/彗星観測の邪魔者たちが人気の天体に/彗星衝突の脅威と対策/彗星パニックは繰り返す/「世界が火事だ」/彗星は流星の母/彗星は生命の母でもある?/超新星は恒星の引退/私たちは星の爆発で生まれた存在?/歴史と今とをつなぐ超新星残骸/宇宙を測るものさし

第五章 天の川、星雲星団、銀河宇宙の地図を描く
星以外の天体を見つめる/織女と牽牛を隔てる天の川/なぜ梅雨時に星祭り?/天文学的超遠距離恋愛/白い乳の流れる道/南半球の天の川/天の川の正体は雲?それとも星?/雲状の星はカニの泡?死体のガス?/星はすばる/「本当の星雲」を見つけるのは難しい/天の川も星の集まりだった!/ニュートンの無限宇宙説/どうして夜空は暗いのか/太陽系から銀河系へ/星雲星団の名前にMやNGCが多いワケ/星雲と恒星の循環/疑惑が渦巻く星雲の光/銀河のほとりを走る鉄道の旅/天の川を測るものさし宇宙の大きさと銀河を巡る「大論争」/天の川を越えて銀河の世界へ/「己を知る」のが一番難しい/見えざる九割の暗黒物質/銀河のもう一段階上にある存在/宇宙を知るには銀河をたどれ!

第六章 時空を超える宇宙観
空間と時間/人間が宇宙となる/神話から哲学へ――しかし神は残った/天体の計算と宇宙の構造は別問題/ヒンドゥー教と天文学の奇妙な関係/ニュートンも神に任せた問題/イギリスとヨーロッパ大陸の近代的宇宙観/地面の下から出てきた証拠/エーテルの終焉/二つの相対性理論/宇宙は広がっていた!/宇宙は「大爆発」で始まった/宇宙の年齢、そしてその運命に迫る/加速する宇宙の歴史

終章 「天文学」と「歴史」
歴史を振り返ることで天文学が始まる/歴史のとらえ方で変わる宇宙観/インドを侵略した王とインドを愛した宮廷占星術師/残された歴史と破壊された歴史/植民地と天文学/厄介な「起源」の問題/実在しなかった「インドの宇宙観」/「天文学の歴史」を疑うことこそ理解への第一歩/火星人のように異質な日本人?/一つの世界と多様な歴史

謝辞
参考文献

廣瀬 匠 (著)
出版社 : 集英社インターナショナル (2017/12/7)、出典:出版社HP

はじめに

現代における天文学の進歩は目覚ましいものがあります。今や地上に建設した巨大望遠鏡や宇宙望遠鏡を使って一○○億光年以上離れた銀河も観測でき、比較的身近な宇宙である太陽系の天体には直接探査機を送り込めるようになりました。人類の宇宙に関する知識は昔に比べて格段に深まったように思えます。
しかし、私たち一人一人は本当に宇宙のことを分かっていると言えるのでしょうか?天文学という学問の対象は多岐にわたっていて、その全容を把握することは当の天文学者にとっても困難です。また専門用語や数字がやたらと出てくるため敬遠してしまうという人も多いかもしれません。おまけに、せっかく覚えた知識もあっという間に塗り替えられていきます。
宇宙の年齢、つまり宇宙がビッグバンとともに誕生してから現在までの時間という数字一つをとっても、二〇世紀末の時点では専門家たちの間でも「一○○億年」から「二〇〇億年以上」までと意見が分かれていたのですが、二〇〇三年に「一三七億年前後」という画期的な観測結果が登場しました。さらに二〇一三年にはもっと正確な値として「約一三八億年」という8数字が発表されています。
そんなふうに今日ですら天文学の教科書がどんどん書き替えられている中で、この本で何百年も前の天文について知ることに、一体どんな意味があるのでしょうか。
私は、天文の「問い」を知ることに大きな意義があると考えます。どんな学問であれ、私たちはその「答え」を知りたがる傾向がありますが、本当にその分野を理解しようとするなら、まずは研究者たちが何に答えようとしているのか、その「問い」を理解しなければなりません。天文学には昔から変わらない疑問もあれば、大きく変化した疑問、もはや問われなくなった疑問もあります。その変遷をたどっていくことで、現代の天文学がどんな方向に向かおうとしているのかが見えてくることでしょう。ですから、「星や宇宙に興味はあるけど、天文学は何だか難しそう」という人にこそ本書を手に取っていただきたいと思います。
歴史が好きな人も本書をお楽しみいただけるはずです。世界中で、天文は常に政治・文化・宗教と深く関わってきました。天文という視点を通じて、様々な時代や地域の人々について理解を深める上で本書が一助になればと考えています。結果として天文学そのものにも興味を持っていただければ幸いです。
今も昔「天文」にはあまりにも多くのことが含まれているので、教科書のように全ての事柄を時系列に並べると、たどっていくのが難しくなってしまうおそれがあります。そこで本書では天体の種類によって章を区切ることにしました。天体ごとに「天文」の異なる様相がて、天文における「問い」の変遷もはっきりしてくることでしょう。順番どおりに読まなくてもいいような構成になっているので、ぜひ気になるところから読み進めてください。
最初に第一章で取り上げるのは太陽と月、そして地球です。空の中で圧倒的に目立つ天体である太陽と月は、暦の基準となるなど人間の生活に深く関わってきました。一方、空に対する「地」の存在は昔から意識されていましたが、やがてこれが宇宙に浮かぶ「地球」であること、さらには太陽の周りを回る惑星であることが判明します。
第二章では惑星を中心とした太陽系の天体を取り上げます。肉眼で見える火星・水星・木星・金星・土星の五惑星は昔から存在を知られていて、主に占いのために使われていました。実はこれに日・月を加えると七つの曜日になるのですが、その成立と普及には様々な文化圏の交流が関わっています。近現代では技術の発展と歩調を揃えるように次々と新しい惑星や衛星などが見つかりました。
夜空の中での惑星の位置を知るためには目印が必要です。そのために使われたのが第三章のテーマである星座、およびそれを形作る恒星です。現在使われている星座は、メソポタミアで生まれギリシアに伝わったものがもとになっていますが、この他にも世界各地には様々な星座が存在しました。
惑星や恒星は基本的にいつ、どこに見えるかを計算できますが、第四章では打って変わって不意打ちのように出現する天体を取り上げます。ここでの主役は流星、彗星、新星などです。これらの天体は出現が予測できないこともあって忌み嫌われがちでしたが、やがて天文学を発展させるきっかけにもなりました。現代でも、彗星は太陽系の起源を、超新星は宇宙のスケールをそれぞれ知るための鍵を握る重要な存在です。
第五章は視点をさらに広げ、夜空に見えている恒星を全て含む世界、「銀河」の話題です。古代から知られていた天の川ですが、近代の天文学者がそこへ望遠鏡を向けると無数の星々の集まりが見えました。やがて私たちは「銀河系」という円盤状に恒星が集まった世界にいることが定説となり、二〇世紀になってからは銀河系以外にもたくさんの銀河が宇宙に散りばめられていることが分かってきています。
そしていよいよ宇宙全体をテーマとするのが第六章です。宇宙はどんな形をしていて、いつ誕生したのでしょうか。これは人類始まって以来ずっと続いている「問い」とも言えるかもしれませんが、これに真っ向から取り組むことができるようになったのは、案外最近のことなの「天文学」に歴史があるように、「天文学の歴史」そのものにも歴史があります。終章では、昔の人々も過去の天文学について研究していた事実を明らかにしながら、「天文の世界史」を学ぶことにどんな意味があるのかを改めて問い直します。
天体の種類で章を区切った背景には、どの章からでも読める手軽さと分かりやすさを重視したからという理由だけではなく、本書を読んでから空を見上げたときに、その内容を思い出していただきやすいだろうという思惑もあります。何となく眺める星空も美しいですが、天文の知識があればさらに楽しめますし、そこに歴史が加わればいっそう味わい深くなるに違いありません。
それでは、宇宙と人間が織りなした物語へとご案内いたしましょう。

廣瀬 匠 (著)
出版社 : 集英社インターナショナル (2017/12/7)、出典:出版社HP