【レビュー】勝ち続ける意志力

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目次

プロローグ

第一章 そして、世界一になった

消せなかった疎外感/姉の影響/ガキ大将/父の教え/「日本国憲法前文」丸暗記事件/惨めな気持ちを吹っ切る/ゲームセンタ I/受験のときに感じた違和感/世界一への階段を登り始める/ そして世界一に/なぜ世界一になるほど没頭できたか

第二章 9.9%の人は勝ち続けられない

勝ち続ける人、負ける人/勝ち続けるには/迷う力/安易な道、裏技は使わない/ 『人読み』に頼らず、弱点も突かない/楽な道はない/王道も必勝法もない/戦術に特許はない/目前の敵に集中する/間違った努力/変化なくして成長なし/「気になるこ と」をメモする/日々、小さな変化をする/変化のサイクル/苦 手なことに取り組む/セオリーすらも進化させる/考えることをやめない/考える力/まずは変化すること/失敗していることこそが指標になる/人の目を気にするということ/集中力/もっとも競争が熾烈なゲームを選ぶ/未踏の地を目指す/真似できない強さ/幸せを感じられる瞬間

第三章 ゲームと絶望と麻雀と介護

ゲームから身を引く/麻雀の道を選ぶ/雀荘での修行/麻雀を極める/麻雀で認めてもらえた/麻雀に学んだこと/型を超えたときの強さ/人生初の後悔/介護の仕事を始める/勝負がなくても 生きていける/ゲームを再開してみると……/新宿での10人抜き/ウメハラ再始動!

第四章 目的と目標は違う

夢と希望が見つからない/夢がなくても/好きなことがある幸せ/無理し続けて/4連覇を懸けた大会で/自分を痛めつけるだけの努力はしてはいけない量ではなく質/目標と目的の違い/目的は成長し続けること/その努力を10年続けられるか?/バンドマンの未来/機が熟すのを待つ/継続のためのサイクルを作る/ウメハラのサイクル/サイクルの縛りはほどほどに/階段を5段ずつ上がればいい/世界大会優勝以上に嬉しいこと/団子屋のおばあちゃんから学ぶこと/休日のない生活

第五章 ゲームに感謝

プロ契約の道のり(前編)/プロ契約の道のり(中編)/プロ契約の道のり(後編)/誰だって迷い、悩んでる/ゲームに感謝

エピローグ

全盛期はいま、そして未来/若い強さから学ぶこと/勝った翌日ほど対戦する/一番の人間は絶対に逃げてはいけない/生きることは/這ってでも階段を登り続ける/運・不運について/三国志のように

梅原 大吾 (著)
出版社: 小学館 (2012/4/2)、出典:出版社HP

 

プロローグ

「アンビリーバブル……」当時の映像には、そんな言葉が残っている。
2004年の夏、僕はカリフォルニアにいた。一年に一度、世界中の猛者ばかりが一同に会する、世界最大にして最高峰の格闘ゲームの祭典、「Evolution2004」―通称「EVO」に参加するためだ。今や「EVO」は、参加プレイヤー数4000人、観客動員数7000人に達する大会にまで成長した。全世界の格闘ゲームファンが注目する大会は7月8日から8月1日にかけて開催され、9部門でチャンピオンの座が争われた。

そのうちのひとつ、「STREET FIGHTER 3rd STRIKE」部門の準決勝。アメリカ最強と言われるジャスティン・ウォーンを相手に僕が演じた、事実上の決勝戦であるバトルが、後に人々から「背水の逆転劇」とか「分秒の奇跡」と呼ばれることになる一戦だった―。

会場となった大学の体育館はゲームを愛するアメリカ人で溢れ返っていた。
カーテンを閉め切った暗がりのなかで、沸き上がる喚声、絶叫する実況、鳴り止まない拍手……。どの試合も驚くほどの盛り上がりを見せ、会場は異様な熱気に包まれていた。それは、互いに1ラウンドずつ取って迎えた第1試合の第3ラウンドだった。

僕が操るケンは、ジャスティンが操る春麗に追い詰められていた。体力を表すライフゲージは残り1ドット。一発でも攻撃を受ければKOされてしまうのはもちろん、単に相手の必殺技を防ぐだけでも体力を削られて敗戦という状況だった。
春麗はころ合いを見計らったように必殺技の連続キック「鳳翼扇」を繰り出し、いわゆる「削り」(細かい攻撃により着実に相手の体力を奪うこと)によるKOを狙ってきた。地元アメリカの王者がとどめを刺そうかという展開。春麗の勝利を信じて疑わない会場に「レッツゴー、ジャスティーン!」の掛け声が響きわたった。

でも僕は、動じなかった。『削り』によるダメージを無効にする特殊なガード「ブロッキング」で春麗のキックをすべて防ぎ、渾身のキックも空中にジャンプして「ブロッキング」。そこから飛び蹴り、足払い、ケンの必殺技である「昇竜拳」を浴びせ、最後は超必殺技の『疾風迅雷脚」を叩き込んで、大逆転と言える展開で春麗をKOした。ラストタ秒、まさかの逆転劇に会場は総立ちとなり、割れんばかりの拍手が起きた。

あのとき、減り続けるゲージの中「これはさすがにキツいな」「もう終わったかな」というところまで考えた。しかし、追い詰められたことで、覚悟が決まった。後はやるしかないという状況に陥った瞬間、僕の集中力は極限まで高まっていた。周囲の喚声が聞こえない代わりに、ゲームの音だけが明瞭に聞こえる――そんな境地だった。「最後まで防ぎ切れるのか?」「どっちが勝つんだ?」という期待を込めた会場のざわめきは、ほとんど聞こえていなかった。

対戦の中でジャスティンも焦っていることが分かった。ということは、鳳翼扇という大技で、なりふり構わず勝ちにくるだろうと思った。しかしその技は、もしも完璧にブロッキングされた場合、その後に致命的なスキが生まれる技でもあった。だからその瞬間を、虎視眈々と待った。果たしてジャスティンは、その技を繰りだしてきたー。同時に、僕の両手は勝手に動き、気がつくと春麗が動かなくなっていたー。

ゲームが終わり、冷静になったときにようやく、客席のざわめきが耳に届いた。この一戦はネットでも大きな話題を呼び、配信された対戦動画の総視聴回数は全世界で2000万回超にまで達し、梅原大吾の名前は世界中に知れわたった。

僕が歳で世界一になれたのは、ゲームを追求していないと自分に自信が持てず、揺れ動く気持ちを保つことができなかったからだ。おそらく他の競技で世界を極めた人とは違って、僕の場合は世界一を目指すべくして世界一になったわけではない。とはいえ、世界チャンピオンになれたのには、それなりの理由がある。この本では、世界一になる方法、勝負事で勝つ方法、勝つための努力の仕方、さらには僕自身が勝てるようになった過程で学んだことについて考察していきたい。

ゲームという極めて特殊なジャンルで培ったものではあるけれど、そこに人が関わり、なおかつ競い合い、勝敗という形で明確な結果が出る以上、勝つための努力や思考法は、一般の生活や仕事にも応用がきくものであると思う。もちろん、そのすべてが普遍的であると断言はできないが、それでも、ここまでの生涯を通じて追求し続けたことで学び、実践して得た勝ち続ける力は、紛れもなく「本物」であったと自負できる。

とりわけ重要なのは、本書に書かれていることは、ただ勝つのではなく、「勝ち続ける」ことに主眼を置いているという点である。なぜ、「勝つ方法」ではなく「勝ち続ける方法」なのか?両者は似て非なるもので、時としては相反するほどに大きな隔たりを見せる。「勝つ」という言葉は、「結果を出す」と言い換えることでよりイメージしやすくなるかもしれない。「結果を出す」ことと「結果を出し続ける」ことは根本的に性質が異なる。

結論から言えば、勝つことに執着している人間は、勝ち続けることができないということなのだが、この一言で「なるほど、そうか」と膝を打ててしまう人が大勢いるようなら、そもそも僕がこのような本を書く必要はなかっただろう。現実においては、勝ち続ける人間、結果を出し続ける人間は極めて稀なのである。勝てるかと問われて頷くことはできても、勝ち続けられるかと問われると返答に窮するのが普通だろう。

僕の場合、ゲームとはいえ勝負事の世界である以上、世界一になり、そこにい続けるためには無期限で勝ち続けなければならなかった。上り調子の勢いに任せて100回や200回勝つくらいでは、全然足りないのである。僕は決して無敗ではないし、無謬のチャンピオンでもない。負けるときは完膚なきまでに負けるし、連敗で結果が出ない時期が続くときだってある。ゲームを極めたなんてこれっぽっちも思わなければ、自分は天才だと勘違いすることもなかった。

それでも、僕は「勝ち続けられるか?」という先の問いに、迷うことなく「YES」と答えることができる。勝ち続けるために必要なことがなんなのか、そのためにしなければならない努力や姿勢はいかなるものなのか。強い意志を持ってそれを突き詰め、実践してきたことで築き上げてきた僕の自信は、それこそ100や200の敗北で揺らぐことなど決してない。

梅原 大吾 (著)
出版社: 小学館 (2012/4/2)、出典:出版社HP