モビリティ2.0 「スマホ化する自動車」の未来を読み解く

MaaS、CASE、現代のモビリティーのイノベーションを知る5冊を確認する

まえがき

スマホ普及期によく似た状況 自動車業界で100年に一度の大変革が起きていると言われている。その本質は「自動車のスマホ化」である。自動車 メーカーにとって、車両の大量生産を競う時代が終わりに近づき、都市のデータを資源とする「エコシステム(生態 系)」でどう生き残るかを模索する、まったく新しい「土俵」に立たされたことを意味する。

デジタル化の波が押し寄せる業界で、このエコシステムでの生存競争は起こるものだ。スマートフォン(スマホ)の登場で何が起こったかを思い起こしてほしい。ガラケーと呼ばれた従来の携帯電話(フィーチャーフォン)に取って代わ り、大量のデータのやり取りを可能とするスマホが急速に普及した。これは、過去わずか10数年の間に起きたことである。

スマホ時代の勝者は誰か。それは、デバイス(端末)のメーカーではなく、エコシステムを発展させたフェイスブック やツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のアプリケーション開発者、そしてそのアプリケーションを自由に取引させるためのOS(オペレーティングシステム)を提供した米アップルやグーグルといった 、いわゆるプラットフォーマーであった。

自動車の動力源をエンジンからモーターに置き換える、「電動化」を推進する産業政策が世界的な潮流になり、世界で 電気自動車(EV)の販売が加速し始めている現状は、携帯電話の通信方式が2Gから3G(モバイルブロードバン ド)、そして4Gへと移行し、アップルのiPhoneや韓国サムスン電子のギャラクシー(Galaxy)を中心としたス マホが急速に普及した時の状況によく似ている。

意味のイノベーション

「モビリティ2.0」――今、自動車関連の話題で「モビリティ」という言葉が使われていることにお気づきだろうか。 モビリティは従来、人・モノを運ぶものとして捉えられていたが、デジタル化の波が自動車産業にも流れ込んだことで、 データを運ぶものとしての新しい意味が生まれている。

この意味のイノベーション(革新)が、モビリティの進化の背景にある。そして、世界的に都市化(都市への人口集 中)が進む中、その都市のエコシステムの活性化を担うものとして、モビリティの重要性は一層高まっている。

内燃機関(エンジン)によって走る自動車が人やモノを運んでいたこれまでは「モビリティ1.0」の時代だ。そして今、モビリティは都市のデータを資源とするエコシステムの重要な媒体としての、「モビリティ2.0」へと進化した。

冒頭に述べた通り、自動車業界では「100年に一度の大変革」が起きている、と言われている。ここ数年のできごと は確かにそうだった。しかし、これから起こる変化のマグニチュードはさらに大きく壮大なものとなる。それは、人と 人、人とモノとの間で行われた情報と価値の取引が、モノ(完全自動運転車)とモノとの間で自律的に行われるという、 情報革命が起こるからだ。

CASE時代こそチャンス

さて、このモビリティにおけるエコシステムとは何か。図表1がその概要図である。自動車業界におけるディスラプシ ョン(破壊的変化)の背景を描いたものであり、本書のエッセンスでもある。

このエコシステムは、社会、時代、世代の3つのメガトレンドの変化が生み出したものである。それは、自動車産業の根底に流れるデジタル「社会」への変化、の脱炭素の追求と都市化への対応という地球環境問題を解決する「時代」の到来、そして。いまや世界で最大の人口構成比を占めるミレニアル「世代」*1の台頭とポストミレニアル世代の登場―という、大きな潮流の変化であり、それらが同時に起こっている。これらが自動車を「モビリティ2.0」へと誘っ ている要因だ。

世界的な脱炭素への動きが自動車の電動化(脱エンジン)を加速させ、デジタル技術の進展が、自動運転技術の向上とライドシェアリングを中心とした共有型経済の構築を促す。結果、共有型の自動運転EVがロボットタクシーや自律走行 バス・シャトルを実現させ、これらが都市における人・モノ・データの移動を活発化させることで、「サービスとしての モビリティ(Mobility as a Service : MaaS)」という新しいビジネスとともに都市経済が発展していくのである。今 後も世界的に都市化が進むため、このようなエコシステムは自然と拡がっていく。

車両の生産台数でみる「自動車産業」の成長余地は限られるが、データを資源とする「モビリティ産業」としてみれば、それは超成長産業となるのである。

冒頭、「自動車はスマホ化する」と聞いて、どういう印象を持たれたであろうか。車両・デバイスというモノの話とし て捉えると、モノの汎用化により生産数量の拡大余地が限られ、コスト削減の追求が拠り所となるような、苦しい未来を 想像してしまう。しかし、エコシステムの話として捉えると、限界費用がゼロに近い、データを資源とする売上創造の機 会に満ちた、明るい都市の未来についての議論となる。

日本の自動車産業では、いわゆる「CASE(ケース)」*2という言葉が2016年に誕生して以来、「100年に 一度の大変革」というフレーズを用いながら、危機感を訴える経営者が増えている。はたしてそれは危機なのだろうか。 いや、今、目の前で起きていることは、むしろ「100年に一度」の大チャンスである。

モビリティ社会の明るい未来を創るため、日本には何が必要か。その議論の叩き台を提供し、またミレニアル世代の自 動車アナリストとして、その解を示してみたい。そう思い、本書を執筆することにした。

本書で提言したかったこと

先に、その解である、本書の結論をお伝えしたい。

次世代モビリティの将来を創る上で重要なこと。それは、デジタル化の意味とデジタル技術がもたらす価値を理解し、 世界の生産・消費主体となったミレニアル世代の存在を意識した上で、モビリティの将来を都市・エコシステムをどう発 展させるかという観点で議論することである。

この認識が不足していることが、次世代モビリティの主要な構成要素である、EV、ライドシェアリング、自動運転技 術、いずれにおいても日本の自動車産業が世界から出遅れてしまった背景にある。

では、いかにキャッチアップするか。それは、「オールジャパン」をやめることである。これは、ポリシーメーカー (政策決定者)、企業経営者、そして、モビリティ社会に携わるすべての人々に提言したいことだ。

次に、大まかな本書の流れを説明したい。

まず、自動車業界の大変革が騒がれるようになったきっかけと、業界の潮目が変わった2016年からの動き、そし て、日本の自動車産業が世界のトレンドに乗り切れずに出遅れている現状に触れる(第1章)。あわせて、世界の自動車 産業をとりまく3つのメガトレンドの変化を解説する。前出のエコシステムの概要図で示した、世代(第2章)、時代 (第3章)、社会(第4章)という潮流の変化をくわしく見ていきたい。

これらのメガトレンドを捉えながら、次世代モビリティ社会の構築を急ぐ中国やインドの自動車産業政策の変化と業界 のキープレーヤーを取り上げ、さらに、日本にも参考になり得るスイスでのスマートモビリティ構築の取り組みを紹介する(第5章・第6章)。

そして、高成長が期待されるモビリティ産業でイノベーションを創出するにあたって、「デザイン(企画・設計)」の 重要性が高まっていることを第7章で述べた上で、第8章で次世代モビリティの構築に向けた提言を示したい。

本書を執筆するにあたり、自動車業界の大変革の背景を解明し、次世代モビリティが走るエコシステムとは一体どうい うものかを理解するため、この変革を促している人々を追いかけ、彼らとのディスカッションを重ねてきた。シリコンバ レー、サンフランシスコ、フェニックス、パリ、ローザンヌ、ベルン、ベルリン、シュツットガルト、ロンドン、ニュー カッスル、ミラノ、ムンバイ、バンガロール、香港、寧徳。これらの都市で会ったフロントランナーたちは、新しいモビ リティ社会の未来像を自分なりに描き、その実現に向けて、都市を理解し、データを集積・活用しながら、都市を相手に した新しいソリューションを模索し続けていた。

本書では、こうした海外のフロントランナーたちの生の声を散りばめていく。ディスラプションが起きている自動車産 業における最前線の臨場感を、少しでも多くの読者に感じ取ってもらえれば幸いである。

深尾 三四郎 (著)
日本経済新聞出版社 (2018/9/22)、出典:出版社HP

モビリティ2.0 目次

まえがき
プロローグ 202X年、モビリティ大国・日本
第1章 2016年、潮目が変わった
100年ぶりに起きたこと
電動化の衝撃――それはいつもパリで起こる
リセットボタンを押したドイツ
エンジンの死―サービスとしてのモビリティへ
スイス大手資源商社CEOが鳴らした警鐘
「ノキア化」が進むトヨタ
パナソニックは「シャープ化」のリスク高まる

第2章 モビリティ社会の主役、ミレニアル世代
ミレニアル世代の経営者が相次ぎ誕生
世界経済の生産・消費主体がミレニアル世代
ミレニアル世代がモータリゼーションの定義を変える
クルマに乗らないポストミレニアル世代に何を売るか
求めるスピードは「0倍速」
スマホの進化スピードがクルマの10倍
見据える世界は「エクスポネンシャル(指数関数的)」
既存メーカーを大きく凌駕するグーグル・ウェイモ
Column―クルマの人生、95%がムダ
ミレニアル世代狙い撃ちで復活したセアート
中国・吉利の世界戦略ブランド「リンク&コー」

第3章温暖化と都市化が求めるエコシステムの構築
脱炭素と都市化の時代
モビリティの「主要顧客」は都市
ポリシーメーカーに都合の良い電動化推進政策
「規模の不経済性」に陥る自動車メーカー
クルマではなく都市のエコシステム
都市を相手にデータでどう儲けるか

第4章 デジタル化の波―都市データの集積者が勝者に
すべての始まりはデータから
企業価値のドライバーはネットワーク効果
3Dプリンター――生産の高速化と製品の個別対応化を実現
英ゲーム開発者がゲームチェンジャーに
自動車の資源は石油からデータへ
自動車部品メーカーもデータ集積を急ぐ
根底にある世代・時代・社会の大変革
モビリティ企業に求められる「都市能力」

第5章 中国自動車「大」国から「強」国へ
外資出資規制撤廃へ――「ABCD」包囲網の完成
電動化からデジタル化へ、モビリティの深化を追求
CATL入ってる?
百度、中国の自動運転プラットフォームを掌握
滴滴出行―自動車産業の下克上
アリパパのブロックチェーン、次なる起爆剤に
1000年に一度の国家プロジェクト

第6章大国インドと小国スイス
「鈴木修より孫正義」
インド自動車産業の「蛙飛び」戦略
モディ政権のお膝元で大実験|インド版次世代モビリティ
アルプス城下町で成功した産官学連携プロジェクト
オリンピックの街に世界的プラットフォーマーが誕生

第7章 デザイン主導の新しいイノベーション
ユーザー経験を最大化するビジネスのデザイン
イノベーションの方向性は「売上げの創造」
モノから経験ヘ――自動車産業にもUXデザインの波
「ダイソンEV」のキラーコンテンツはUXデザイン
全固体電池太陽電池と有機ELの失敗に学ぶ
デザイン主導の「意味のイノベーション」
ノキア化・コダック化を回避するカギ
ベルリン――都市の革新者達によるエコシステム

第8章 「オールジャパン」をやめる
自動車の「死」を受容する
日本のシアトル、深圳、ローザンヌを
交通弱者へのラストマイルソリューションは輸出商材に
純粋持株会社制――ベンチャー時代にふさわしい組織形態
Column―VCの先駆け、「鮎川義介と日本産業」
150年前、スコットランド人から学んだこと
あとがき 注釈
参考文献

深尾 三四郎 (著)
日本経済新聞出版社 (2018/9/22)、出典:出版社HP

プロローグ 202X年、モビリティ大国・日本

次世代モビリティが走り回るエコシステムが構築されたとき、日本のモビリティ産業の収益構造はどうなっているのだ ろうか。そして、都市におけるモビリティ社会のランドスケープはどのように変化し、経済への影響はいかなるものがあ るだろうか。

「まえがき」でモビリティ産業は超成長産業になると述べた。本書で取り上げるモビリティのエッセンスをまとめるため に、まず日本のモビリティ社会の未来予想図を描いてみることにしよう。

業界の「稼ぐ構造」が変わる

202X年、日本は世界一のモビリティ大国となる。人口は増加し、少子高齢化は解消する。

モビリティビジネスの収益構造とキープレーヤーはガラッと変わる。ポリシーメーカーの目線から見たモビリティ産業の市場規模は、大きく3つの領域で構成される。の新車・部品の生産から得られる収入、2中古車流通・アフターマーケ ットでの収入、そして、3モビリティサービスでの収入だ。

デジタル化の進展に伴い、自動車の需要が所有から共有へとシフトすると、付加価値(収益機会)はフロービジネスか らストックビジネスへとシフトしていく。すなわち、生産の難易度がエンジン搭載車より低いEVが普及することにより (=EVメーカーの増加)、自動車の汎用化(=価格低下)が進む。さらに部品点数が少なくなることに伴い、新車と部 品の生産から得られる収入は減少していく。

新車生産台数は減る方向に進むが、シェアリングの普及による車両の稼働率向上で、自動車の「新陳代謝」は早まり買 い替え時要も一定量発生することから、減産!は幾分抑えられる。

一方、ストックビジネスに目を向けると、新車生産台数が減ることで、中古車の発生量も減るため、中古車流通ビジネ スでの収入は新車販売同様に下方圧力が強まる。しかし、自動車の走行距離が伸びることで、アフターマーケットビジネ スの収益機会は拡大する。

カーディーラーにおいては、新車販売台数は減るものの、自動車の稼働率アップに伴う整備や部品交換の頻度上昇によ り、サービス収入は増える。加えて、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)といった個別対応化を高めるデジタル技術を 活用すれば、顧客ニーズを的確に捉えられるため、客単価を上げて収益を改善させることも可能である。

カーディーラー以外では、eコマースにおけるアフターパーツ部品の出品者や、アマゾン(Amazon.com)のようなプ ラットフォーマーの収入も拡大するだろう。

サービスとしてのモビリティが市場拡大

そして、最も市場拡大のチャンスが大きいのがモビリティサービスである。いわゆる「サービスとしてのモビリティ (Mobility as a Service:MaaS)」での収入になるが、これは、共有型の自動運転EVが走行している間に、その車 内外で発生する課金ビジネスでの収入となる。

モビリティサービス収入 (Mobility Service Revenues : MSR)は、大きくは3つのKPI(重要業績評価指標)で 構成され、それら3つの掛け算で求められる。それらは、走行距離(Miles Driven : MD)、単位走行距離当たりデータ 取引量(Data Per Mile : DPM)、課金ユーザー当たり平均客単価 (Average Revenues Per Paid User : ARPPU)となる。

MSRを引き上げるためには、これら3つのKPIを増加させるためのアクションが必要となるが、それは、ライドシェアネットワークの拡大、完全自動運転車の普及(=乗員の課金アプリケーション利用時間の増加)、MaaSアプリケ ーションの増加・品質向上、である。

モビリティビジネスの付加価値向上を促すキープレーヤーは、ライドシェアリングと決済のプラットフォーマー、完全 自動運転車のメーカー(完成車メーカーと開発企業)、そしてMaaSアプリケーションの開発者となる。彼らは、AR PPU(アープ)の向上を常に考えてきたITやSNS業界からの新規参入者である。

データアナリティクス(データ分析)を得意とする彼らは、機械・電子・金属工学に長けた自動車会社のエンジニアに とっては、未知の領域からきた人々に見えるだろう。次世代モビリティ社会のユーザーに便利で魅力的なアプリケーショ ンを提供しようと、MaaSアプリケーションの開発競争は活発化し、モビリティサービス市場は大いに盛り上がるはずだ。

スマートフォンでのSNSのアプリ開発でもそうであった。サービスアプリケーションの開発は日本人が得意な領域で ある。MaaSでは、自動車以外の産業から数多くのアプリケーションが流入してくる。それは、シームレスな(継ぎ目 のない)モビリティ体験を構築したい鉄道や航空業界、スマートグリッドでEVと再生可能エネルギーを連携させたい電 力・エネルギー業界、ドライバー不足に悩む介護・医療業界、ブロックチェーンを活用する金融・保険業界などである。

 

空飛ぶタクシー、隊列走行する自動運転車

さて、都市におけるモビリティ社会の風景はどうなっているだろうか。

都市には数多くのロボットタクシーと自律走行バス・シャトルが「放牧」されている。空には滑走路が不要な垂直離着 陸方式(Vertical Take-Off and Landing : VTOL)の「空飛ぶタクシー」が飛びまわる。これらを利用したいとき は、スマートフォンのアプリ上ですぐに呼び寄せることができる。

鉄道の運行形態は今と比べてさして変わらないが、運行状況は駅に接続する自律走行シャトルと連動し、家から目的地 までシームレスなモビリティ体験ができる。これらのモビリティの利用者は、車内で様々なアプリケーションを利用する ことができ、移動以外の行動ができる。もちろん、ドライバーが運転する自動車も街中を走っているが、多くがライドシ ェアリングやカーシェアリングといった共有型モビリティとなっている。

商業ユースのモビリティはどうか。高速道路では、一部の車線が終日もしくは深夜に完全自動運転トラックの専用レーンとなり、そこには自律走行するトラックが数台連なって隊列走行し、あたかも鉄道のように淀みなく走っている。市街地を走るトラックやパンも自動運転車であり、宅配バンは屋根に載せたドローンも活用しながら、輸送効率が今よりも飛 躍的に向上する。

大都市をつなぐ交通手段としては、飛行機と超電導リニアを凌駕し、時速1200キロで走行する次世代交通システム「ハイパーループ」*3が導入され始め、東京・大阪間を30分で移動できるようになる。

ブロックチェーン*4の導入により、都市型モビリティのエコシステムはより一層活性化する。完全自動運転EVと都 市インフラには、それぞれに電子財布(eウォレット)が搭載されており、車とインフラ、車と車同士が価値・金銭の取 引を自律的に行うことができる。

たとえば、ワイヤレス充電器が埋設された道路の上では、車両が充電と同時に支払いを道路・インフラとの間でリアルタイムで行う。走行中に整備が必要になったら、自律的にディーラーやサービスステーションに入庫し、支払いもその場 で済ませる。高速道路では、複数のトラックがそれぞれ違う運送業者であっても、隊列走行による燃費改善や省人化に伴 う収益改善効果を、隊列解除の際に自律的に計算し、分配する。ブロックチェーンは自動運転車がもたらす効果を効率的 に可視化・マネタイズ(金銭化)することから、経済活動の活発化につながる。

 

世界に先駆け「交通弱者」向けアプリケーションが登場

次世代モビリティが走るエコシステムの経済効果は、そのエコシステムを包み込む都市全体にもプラスの効果をもたらす。

シームレスで、環境面(大気汚染)や財政面(高い交通費)でのストレスがないスマートモビリティ社会ができると、 それだけで世界中から若者がその都市に移り住んでくる。加えて、都市型モビリティのさらなるイノベーション創出を促 すため、自治体や企業は、若く才能のあるデザイナーやエンジニアを惹きつけることを目的として、コワーキング・スペ

ースを備えたイノベーションハブを立ち上げていく。

そこでは、起業家精神が旺盛な若き経営者が生まれ、彼らに投資しようと海外マネーが流入する。イノベーションハブ で育ったスタートアップ企業や中小企業からは、ユーザーエクスペリエンス(ユーザー経験、UX)の最大化に繋がる新しいビジネスが創られる。日本では「交通弱者」向けのビジネスアプリケーションが数多く生まれ、高齢者や訪日観光客がその新しいアプリケーションを利用することで新しい経済が生まれる。交通弱者向けのモビリティ・ソリューション は、日本の後追いで高齢化社会を迎える海外各国に「輸出」されるだろう。

以上のような事象により、次世代モビリティを中心とした都市のエコシステムの構築は、経済を活発化させる。そし て、海外からの若者の流入により人口は増え、少子高齢化が解消する。

夢物語のように聞こえるだろうが、実はそこまで非現実的なものではない。なぜなら、ここまで述べた多くのことはす でに海外の都市でその試みが始まっている、もしくは検討・議論されていることだからだ。

それでは、まずはこうした動きの背景にある環境変化について、くわしく説明することにしよう。

深尾 三四郎 (著)
日本経済新聞出版社 (2018/9/22)、出典:出版社HP