事例で学ぶサブスクリプション

最新注目のサブスクリプションを知る4冊

はじめに – 国内外43社の豊富なサブスクリプション事例を紹介

サブスクという言葉が世間を賑わせています。「サブスクで高級ブランドバッグが定額・使い放題」などという情報が、テレビや新聞で頻繁に報道されているのはご存知の通りです。サブスクとは、正式には「サブスクリプション」といい、本来は雑誌などの定期購読を表す言葉でした。従来からある定額支払いの定期購入や頒布会もこれに相当します。

ではなぜ今、サブスクリプションが改めて注目されているのでしょうか?それはITや物流の進歩により、新しいタイプのサブスクリプション・サービスが生まれているからです。前述した「高級バッグが使い放題」というサービスは、明らかに従来からある定期購読や定期購入とは別のビジネスモデルです。このような新しいタイプのサービスが今、注目され、支持されているのです。

その背景には、「所有から利用へ」という消費者意向の変化もあります。サブスクリプションへの注目度が高まるにつれ、この分野に数多くの事業者が参入しています。ベンチャー系企業だけでなく、トヨタ自動車やパナソニックなど大企業も参入を始めています。このように注目を集め企業参入が相次ぐサブスクリプションですが、実は先行する米国や日本でも、すでに撤退する企業が現れ始めています。撤退の理由はさまざまですが、明らかにサブスクリプションの本質を理解しないまま参入し、失敗した事例も見受けられます。このビジネスで成功するには、現代のサブスクリプションの本質を理解する必要があるのです。

本書は、サブスクリプション・ビジネスの事例を国内外から多数集め、現代サブスクリプションの本質を抽出し、明らかにするものです。国内事例は24社、世「外事例は19社、計43社のサブスクリプション・ビジネスの事例を集めています。特に国内事例は取材により、そのビジネスの仕組みや業界固有の課題をとように乗り越えているかなどを明らかにしています。また現代のサブスクリプションは、ITと物流システムの構築が大変に重要であり、ビジネスの成否を握る鍵になっています。そこで本書では、物流やITシステムを担う事業者の紹介も行っています。

本書は、サブスクリプションについて理解したいビジネスパーソンや学生、これからサブスクリプション・ビジネスに参入を考える企業、すでに参入済みで課題を抱えている事業者の方などを対象としています。

本書の構成

本書は全6章で紹介されています。序章では「今、なぜサブスクリプションに注目が集まっているのか」というテーマで、サブスクリプションを進化させた要因について紹介します。第1章は「サブスクリプション・ビジネスのコンセプトと形態」というテーマで、新しいサブスクリプションのビジネス形態について解説。

第2章「事例で学ぶサブスクリプション(国内編)」、第3章「事例で学ぶサブスクリプション(海外編)」では、国内外のさまざまな事例について紹介します。第4章は「サブスクリプションを支える物流システム、ITシステム」というテーマで、システム構築のコンセプトを紹介します。第5章では「サブスクリプション・ビジネスで成功するための方法」という内容で、本書のまとめとしてサブスクリプションのビジネスプラン立案と注意点について解説します。

本書内の表現については、できるだけ専門用語を使わずに、分かりやすく伝えるようにしています。また、技術的な説明もあまり細部にこだわり過ぎず、概要を伝えるように配慮しています。本書を読むことで、読者の皆さんがサブスクリプション・ビジネスに対する理解をより一層深め、実際のビジネスに活用していただければ幸いです。

目次 – 事例で学ぶサブスクリプション

CONTENTS
はじめに・・
序章
今、なぜサブスクリプションに注目が集まっているのか
■Part1サブスクリプションとは何か
■Part2サブスクリプションを進化させた3つの要因…
■Part3企業側のメリット・デメリット…

1.
サブスクリプション・ビジネスのコンセプトと形態
■Part1サブスクリプションを支える4つのコンセプト
■Part2新しいサブスクリプション・ビジネスの形態

2.
事例で学ぶサブスクリプション(国内編)
Part1 IT、ビジネス
■SmartHR(クラウド人事労務ソフト)
■オフィスおかん(法人向け置き型社食サービス)・
■Adobe Creative Cloud
(パッケージ販売からクラウド・サブスク化に全面転換)
■弁護士ドットコム(月額費用の弁護士マーケティング支援サービス)
■A-SaaS(税理士を支える税務・会計・給与のクラウドシステム)
■マネーフォワードクラウド(バックオフィス業務用の定額クラウドサービス)

Part2ファッション
■air Closet(女性向け月額ファッションレンタル)・
Sparkle box(定額制ジュエリー借り放題サービス)
Laxus(月額定額制の高級バッグ無制限・使い放題サービス)
■メチャカリ(月額定額制の洋服借り放題サービス)
■着ルダケ(月額制スーツレンタルサービス)

Part3エンターテイメント・メディア
■U-NEXT(定額のオールインワン・エンターテインメントサービス)
sonar-u(定額制ライブ行き放題サービス)
■NewsPicks(経済情報に特化したソーシャル経済メディア)

Part4ライフスタイル
■Rentio(カメラ、家電のレンタル&サブスクリプション・サービス)
■subsclife(家具のサブスクリプション・サービス)
■Smart Drive Cars(走行内容を見守るコネクテッドカー・サービス)
■霽れと褻(花と新聞の定期便サービス)

Part5美容・コスメー
■MEZON(シャンプー・ブロー、ヘアケア通い放題の美容定額サービス)
■BLOOMBOX(定額のビューティープロダクト配送サービス)
■MEDULLA(定期配送型カスタマイズシャンプー)

3
事例で学ぶサブスクリプション(海外編)

化粧品
■LoveLula Beauty Box / BIRCHBOX/GLOSSYBOX

アンダーウェア、洋服
■Me-Undies/Panty by Post/Trunk Club

カルチャー系
■Just the Right Book Papirmass/Stack Magazines

スイーツ、嗜好品、食材
■VINEBOX/Craft Coffee/Abel&Cole/Farm Fresh to You/Graze
Hotel Chocolat/MilkMade Ice Cream/Pressed Juicery

日用品、子供用品
Little Passports/Doller Shave Club

4.
サブスクリプションを支える 物流システム、ITシステム
■ minikura +(サブスクリプションの物流をトータルサポート)
■ サブスクストア(定額で使えるサブスクシステムのフルパッケージ)
■ AXLGEAR(契約・課金などの販売管理システム).

5.
サブスクリプション・ビジネスです。 成功するための方法
おわりに 索引

序章  – 今、なぜサブスクリプションに注目が集まっているのか

現在、サブスクリプション・ビジネスが注目を集めています。ビジネス的に大きな可能性を秘め、さまざまな業界や企業を変革するものとして期待され、数多くの企業が続々と参入しています。序章ではサブスクリプション・ビジネスとは何か、なぜ注目を集めているのか、などについて解説していきます。

今、なぜサブスクリプションに注目が集まっているのか
本章では、サブスクリプション・ビジネスとは何かを説明すると共に、その変遷や現在の消費者志向とのマッチング、メリット・デメリットなどについて解説していきます。

Part1サブスクリプションとは何か
■サブスクリプションの基本要素とは
サブスクリプション(subscription)、あるいは省略して「サブスク」という言葉が、2018年前後より日本で脚光を浴びるようになりました。サブスク型ビジネスという言葉も生まれ、ビジネス的に大きな可能性を秘め、さまざまな業界や企業を変革するものとして期待されています。Amazon Prime(アマゾンプライム)、Netflix(ネットフリックス)、Microsoft(マイクロソフト)のOfficeなどがサブスク型ビジネスの成功事例として紹介され、日本でも自動車、ファッション、エンターテインメント、メディア、ソフトウェア、美容・ヘルスケアなど、数多くの分野から企業が続々と参入しています。

サブスクリプションという言葉は、「予約購読」「会費」などを意味するもので、これまでは定期購読や年間購読という意味で翻訳されていました。新聞や雑誌定期購読を考えると分かりやすいのですが、月額や年額などの定額制で、利用白に継続的に料金を支払ってもらい商品(雑誌や新聞)を提供していきます。商品は利用者のもとに配送されます。これがサブスクリプションの基本要素となります。

サブスクリプションの基本要素
商品の製造・調達⇒
1定額制(月額、年額など)×2継続的な課金×3利用者への配送
⇒商品の提供

利用者のメリットとして、お店に行かなくても商品が手元に届くという利便性が第一に挙げられます。ある程度の期間分を前払いしておくことで、支払いも都度行わなくて済みます。

出版社・新聞社のメリットは、一定期間の定期的な売り上げが見込めることです。書店販売の場合、今月雑誌を買ってくれた人が翌月も店頭で買ってくれるという保証はありません。これに比べ定期購読は長期的な収益の見通しが立ちますから、企業サイドにとってメリットの大きい契約なのです。新聞や雑誌を長期契約すると景品や特典を貰えることがありますが、これは定期購読がそれだけ企業にとって恩恵の大きい仕組みだからなのです。上記のサブスクリプションの3つの要素は重要ですから、ぜひ覚えておいてください。

雑誌や新聞の定期購読は昔からある仕組みです。では、なぜ今サブスクリプションがクローズアップされているのでしょうか。

PART2サブスクリプションを進化させた3つの要因
サブスクリプションが脚光を浴びるようになった理由として、大きく3つの要因があります。これはDIT・インターネットの進歩、2消費者意識の変化、3物流の高度化です。それぞれについて解説していきましょう。

■IT・インターネットの進歩:高速・大容量化による変化
インターネットの普及と進歩は、ソフトウェアの販売に大きな変化を与えます。た。インターネットの普及以前は、パソコン用のソフトはパッケージに入っかCDを専門店や電気店などで購入し、それを自分のパソコンにインストールして利用していました。マイクロソフトのWordやアドビシステムズのPhotoshopsどのソフトを購入し、インストールした経験のある方もいるかと思います。

その後、インターネットを通じて買物をするEコマースが普及しました。さらに通信の高速・大容量化により、インターネットを通じて大きなデータのやり取りが可能になりました。これによりソフトを開発・販売する会社から、利用者がソフトをダウンロードして直接購入し、利用できるようになりました。従来の販売方法に比べてパッケージ化の費用だけでなく、流通コストが大幅に削減されました。サブスクリプションの基本要素の1つである「利用者への配送」がスピーディーかつ低価格で実現できるようになったのです。

パッケージでソフトを販売していた時期には、ソフトウェア事業者は1年半から2年、あるいはそれ以上の長いスパンで開発を行い、魅力的な新機能を搭載したり、機能を改善するなどしてバージョンアップ版を発売していました。しかし、ITやネット環境の変化するスピードは年々速くなり、長期スパンの開発では対応できなくなります。そこで利用者のパソコンにインストールされたソフトの改良・修正などを、インターネットを通じて行うことが徐々に増えていきました。

このような頻繁な改良・修正を有償化して提供していく手段として、定額制の継続課金が注目され、導入され始めたのです。さらにソフトを自分のパソコンにインストールせずに、必要なときにインターネット経由でアクセスして使ったり、必要なサービスだけを利用するというような活用方法も普及していきました。このようにネットを通じてソフトウェアやサービスを提供することをクラウド、あるいはSaaS(サース・サーズ)などと言います(詳細は第1章)。

ソフトウェアの提供方法の変化
1定額制(月額、年額など)×2継続的な課金×3利用者への配送(ダウンロード)⇒ネットを利用したソフトウェアの継続的な改良・修正が可能に

インターネットの高速・大容量化は、ネットを利用した動画や音楽の視聴も普及させました。ネットに接続して動画や音楽を楽しむことは今や一般的であり、現在ではスマートフォンなどのモバイル機器でもストレスなく楽しめるようになりました。ネット環境を通じたソフトウェアの利用は、企業・利用者双方にとって、現在、最も利便性が高い手段となっています。

動画配信サービスは「広告収入型モデル(無料)」と「課金型モデル(有料)」に分けられます。課金型モデルは、見たい作品を有料でダウンロードする「から、ロード課金」よりも、月額料金を支払うことで数多くの動画が視聴し放題になる「定額制サービス」のシェアが拡大しています。このサービスの代表的な企業が、米国のNetflix、Hulu(フールー)などです。

インターネットの普及が、動画・音楽を含めたソフトウェアの流通に大きな変化をもたらしていったことが分かると思います。サブスクリプションの新たな成功事例として取り上げられることの多いNetflix、マイクロソフト、アドヒントムス、有料音楽配信のSpotifyなどは、インターネットを利用したソフトウェア:供の成功事例なのです。

■IT・インターネットの進歩:パーソナライズの進展
IT・インターネットの進歩によるサブスクリプションへの影響として、パーソナライズも挙げておきたいと思います。顧客の属性や購買履歴などの情報をデータベース化して管理し、顧客別に最適なアプローチや情報発信を行い、緊密な関係性を構築していく手法はCRM(Customer Relationship Management)とも呼ばれ、すでに実践している企業は数多くあります。

このような従来からの顧客管理手法に加え、インターネットを活用した手法がパーソナライズです。パーソナライズはネットのサービスやEコマースにおいて、閲覧履歴や登録情報などから個人ごとに異なる情報を提示することです。例えばAmazonを利用して、商品を検索すると商品情報以外に「おすすめ商品」が表示されます。これは個人の閲覧履歴や購買履歴に基づくお勧め商品であり、レコメンド機能と呼ばれるものです。

動画配信サービスのNetflixやAmazonのPrimeVideo、音楽配信サービスのSpotifyなどは膨大な利用者データをもとに、このレコメンド機能を駆使して、個人レベルの興味・関心に合致するようなお勧めの動画や音楽を提示しています。

サブスクリプションのサービスの中には、大量のコンテンツ(動画)商品を取り揃え、視聴し放題・使いたい放題など「お得感」を前面に出る。コンテンツ(動画や音楽)も>」を前面に出して訴求しているものもあります。しかし過度に大量なコンテンツや商品は無
乱させる要因にもなります。「たくさんあり過ぎて、何を選べばよいか分い」という状態になってしまうのです。先進的な企業は、すでにAIを活用しれコメンド機能を実装し始めており、より的確なレコメンドを提供する仕組みを進築しています。的確なレコメンドは、サブスクリプションにおいて非常に重要な要素なのです。

またIT・ネットを活用した顧客別の情報発信もサブスクリプションの大切なポイントです。雑誌や新聞などアナログメディアでは実施が難しい個別顧客の管理やサービスの最適化、パーソナライズされた情報発信などが、IT・ネットの進歩により可能になっているのです。
ネット広告においてもパーソナライズは利用されています。

自社のサービスや商品の対象となる顧客層を指定して広告を出稿するターゲティング広告だけでなく、利用者がネット上でどのような情報を閲覧したかなどの行動履歴を活用した行動ターゲティング広告も広く利用されています。行動履歴は、直近の閲覧履歴や検索履歴、広告への反応履歴などがサイト横断的に収集され、マーケティングに活用されています。こうした手法により、自社にとってより確度の高い見込み客へのアプローチや獲得が可能になっているのです。

IT・インターネットの進歩による「パーソナライズの進展」は、サブスクリプションにおいて、既存顧客との関係性構築、自社サービスや商品との関連性の局い新規顧客の獲得などでフル活用されています。

■消費者意識の変化
サブスクリプションが改めて注日を浴びるようになってきた要因として、消費者意識の変化も見逃せません。少子高齢化の進展と共に若者の人口が減少しているだけでなく、若者を中心とした「消費離れ」「所有欲の減退」が言われています。現在25歳前後の若者は誕生したときから、低成長、雇用不安、デフレといった社会・経済環境下で暮らしています。かつてのように勤続年数が長くなれば賃金が上昇するといった期待を持てなくなったことで、将来の生活に不安を抱く若者が増え、これが消費の力弱さにつながっているとみられています。

消費者庁の2017年の報告によれば、平均消費性向(所得に占める消費の割合)は長期的に低下傾向ですが、特に20歳代、30歳代前半は全体より低下幅が大きくなっています。
また例えば、30歳未満・男性の支出額で「自動車」は、2014年には1999年の半分以下になっています。普及率においても2004年の62%から2014年は46%へと減少しており、若者の単身男性が自動車を所有しなくなっていることが分かります。

このように若者を中心に消費離れ、所有欲の減退が明白になっている現在、新たな傾向として見えてきたのが、「モノ消費からコト消費への移行、2所有から利用への志向の変化なのです。所有に価値を置いて物を購入する消費行動(モノ消費)から、所有では得られ
ない体験や人間関係に価値を見いだして、旅行や芸術鑑賞、スポーツ観戦、習い
事などのレジャーやサービスにお金を使うこと(コト消費)を重視する傾向が顕著になってきています。

前出のレポートでは、若者の「洋服」への支出は長期的にみて減少傾向にありますが、「ファッション」や「理美容・身だしなみ」などの自分の外見にかける買用にはお金をかける傾向が見られます。将来への不安などから支出は抑える傾向にありますが、決してファッションなどへの興味・関心が薄れているわけではないのです。

このような消費志向の変化に合致するサービスとサブスクリプションは、このような消費志向の変化に合られています。ファッション分野であれば、洋服やバッグ、アクセサリーなどのサブスクリプション・サービスが存在します。例えば、高級ブランドバッグの定額制サービスLaxusを利用すれば、購入すれば何十万円もするようなバッグであっても月額6800円で借りることが可能です。購入して所有しなくても、高価なバッグを使うという「体験」を楽しむことができるようになるのです。

ファッション系のサブスクリプション・サービスには、借り放題というものも数多くあります。「借り放題」というのは、現在使っているバッグやアクセサリーを返品すれば、別の商品を何回でも借りられるというシステムです。これにより、さまざまな商品を楽しむという体験も可能になります。

■レンタルやシェアリングとの違い
物を所有せずに利用する方法としてはレンタルが存在します。また近年、注目を浴びているシェアリングエコノミーもあります。これらとサブスクリプションはどう違うのでしょうか?

レンタルは特定の商品やサービスを利用者が選び、「借りる」ことに対して料金を支払います。基本的に借りた商品の変更はできず、利用期間も定められています(利用期間内に返却しない場合は、延滞料がかかります)。

シェアリングエコノミーは個人や企業が所有する遊休資産などを貸し出し、顧客と「共有する」サービスであり、利用量・利用時間に対して料金を支払います。現在使っていない部屋や自動車、バッグなどをネット上のプラットフォームを活用して貸借します。

現在、米国では、Uber(ウーバー)などのライドシェアリングが普及しています。自動車をシェアするサービスはカーシェアリングと呼ばれますが、ライドシェアリングはドライバーがいる車に会員が同乗するサービスで「移動のシェア」とも言われます。シェアリングエコノミーでは物だけでなく、人の持っているスキルやお金などもシェアされるようになってきています。

これに対してサブスクリプションは利用量に対して支払う従量制ではなく「定額制」であり、商品の変更が可能なサービスも数多くあります。高級ブランドバッグのLaxusはサブスクリプション・サービスですが、商品の調達に自社購入とシェアリングの両方の手段を用いています。

■物流の高度化
サブスクリプションの可能性を拡大している要因として、物流の高度化も見逃せません。インターネットの発達によりEコマースが普及し、いまや日常生活の必需品となっています。このEコマースを裏で支えているのが高度な物流です。宅配便では地域差はありますが、「今日注文すれば、翌日には自宅に届く」というスピーディーな配送が実現されているのはご存知の通りです。多品種、多頻度、小ロットでの物流の実現は、Eコマースの利便性を高めている大きな要因です。

受け取り先まで物資を運ぶ「物流」には、大きく6つの機能があります。輸送・配送、保管、荷役、包装、情報処理、流通加工です。
輸送・配送はトラックや船、鉄道、飛行機などを使い荷物を移動させることです。保管は倉庫などで荷物を預かっておき、必要なときに出荷します。荷役とは、倉庫への出し入れなどを指します。荷物の破損を防止するために行われるのが包装です。

流通加工は、入荷時の荷姿を要望に合わせて加工することを指します。例えば、大きな箱で送られてきた商品を店頭で扱いやすい小さな箱に詰め替えるなどの作業です。ITを活用して物流システムや顧客情報を管理するのが情報処理です。

私達が普段、便利に使っている宅配は高度な物流機能によって、手元にいるのです。物の配送を伴うサブスクリプションは、さまざまな物流機能にて支えられているといっても過言ではありません。BtoC(Business to Consumer:ビー・トゥ・シー、企業と個人の取引)分野で物を扱うサブスクリプションにおいては、Eコマース以上に物流は煩雑になります。

第2章の事例で紹介しますが、例えば洋服のサブスクリプションairClosetは、スタイリストが選んだ3着の服を会員に届け、返却すれば何回でも借りることが可能という「定額・借り放題サービス」を展開しています。会員にとっては利便性が高く、うれしいサービスですが、企業サイドの物流システムは非常に複雑になります。

保管している倉庫から会員それぞれにピックアップした洋服を送り、返送があれば修繕やクリーニングを行い、再び保管。必要に応じてまた配送するというピックアップ→配送→返送→修繕→保管という作業を繰り返していかなければなりません。Eコマースであれば一度の配送で終了するところを、サブスクリプション・サービスでは、複雑な物流の仕組みを構築しなければならないのです。
さまざまなサブスクリプション・ビジネスが生まれている背景には、高度に発展した物流の存在があることも大きな要因なのです。

3企業側のメリット・デメリット
消費者の「消費離れ」や「所有から体験へ」という消費行動の変化に対して、サブスクリプションは購入ではなく体験・利用を可能にする手段としてメリットが大きいことを説明しました。また昔から存在するサブスクリプションが、クラウドサービスや物流の高度化により、さまざまな形態のサービスの登場を可能にしています。

企業サイドにおいてもサブスクリプションのビジネスモデルはメリットがあります。販売・受注型のビジネスでは、新製品を開発するたびに多大な販促費用をかけて新規顧客を獲得する必要があります。ビジネスの構造上、新製品を出し続けなければなりませんが、製品ごとの売り上げには当然、ばらつきが生じます。

これに対してサブスクリプションのビジネスモデルは、一定期間の継続的な収入が見込めるため、事業が軌道に乗れば安定的な収入が見込めます。また顧客との関係を継続的に構築できるため、長期に渡るコミュニケーションが可能になり、要望などをフィードバックして機能やサービスの改善につなげることができます。

デメリットやハードルもあります。サブスクリプションの定額料金プランは通常、費用の積み上げで設定されず、顧客にとってお得感のある料金で設定されます。このプランで長期間利用してもらうことがビジネスの前提となっています。商品やサービスの開発や調達にかかる費用、新規顧客獲得の費用などを、少額×長期間で回収するというビジネスモデルです。特に洋服やバッグなどリアルな物を仲介するサービスの場合、サービス開始の時点で一定量を調達する必要があり、かつ継続的に商品を大量に追加していかなければなりません。このため相応のキャッシュが必要ですが、回収は少額×長期間という設定のため、有料会員が見込み数に達しなかったり、短期で離脱する会員が多いと、すぐにキャッシュアウトしてしまいます。

サブスクリプション・ビジネスは現在、ブームとなっている感があり、多くの参入がありますが、撤退も多いのはこのようなハードルがあるからです。
サブスクリプション・ビジネスの成功の方法については、第5章で詳しく解説していきます。

序章のまとめ

●サブスクリプションの基本要素とは、1定額制、2継続的な課金。
利用者への配送。
●サブスクリプションを進化させた要素はOIT・インターネットの歩、2消費者意識の変化、3物流の高度化。
●インターネットの進歩により、ソフトウェアをネット上から購入できるようなった。このため流通コストが大きく削減。機能の改良やアップデートもネット上から行えるようになる。IT・インターネットの進歩により、ネットを通じた動画・音楽の視聴が一般化。動画、音楽においては定額制サービス(サブスクリプション)が普及。
●IT・インターネットの進歩により、パーソナライズもより高度化。
●若者を中心とした「消費離れ」「所有欲の減退」が顕著に。所有から利用の志向の変化にサブスクリプションは合致する。
●物を介在させるサブスクリプションは、高度な物流に支えられている。
●継続的な収益が見込めるサブスクリプションだが、半面、「少額×長期間」という投資回収方法がリスク要因になることもある。