60歳を過ぎると、人生はどんどんおもしろくなります。

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目次 – 60歳を過ぎると、人生はどんどんおもしろくなります。

コンピューターが人生を変えた~まえがきにかえて~

第1章 心も体も元気でいるには
いやなことをしている時間はない!
規則正しくしないほうが、うまくいく
ほしいものは時間だけ
私の辞書に「失敗」はない!
マイ通訳で、国際交流!
ボケているぐらいがちょうどいい
オリジナルって素晴らしい!
人生を豊かにしてくれる本

第2章 毎日ワクワク過ごすには
趣味なんて、そんな大層なものじゃない
今からだって、何だってやれる
未知の世界に触れるには
60歳からの学校、メロウ倶楽部
居場所がない人への特効薬
友達は人生を彩る宝物
シニアこそ海外旅行へ!
変化を楽しもう!

第3章 82年間の人生で学んだこと
好奇心は最大のエネルギー
転んだら起き上がればいい
長く続けることで変わる
人生という流れに逆らわない

第4章 やっぱり、人生はおもしろい!
わが人生、悔いなし
老いることは怖くない
一生学び続けないとダメ
「老人小学校」のススメ
他人の人生は、絵巻のよう
ヤクザな女、最高!
歳を取ると分かること
時が経って巡り合う

人生は自分次第~あとがきにかえて~

若宮 正子 (著)
新潮社 (2017/11/24)、出典:出版社HP

コンピューターが人生を変えた~まえがきにかえて~

82歳のアプリプログラマーの誕生

「iPhoneゲームアプリを開発した、82歳のおばあちゃん」
こんなコピーでメディアに取り上げられるようになってから、私の生活は激変しました。メディア取材が1日3回入ることも日常茶飯事。2017年の秋からは、安倍内閣による「人づくり革命」の具体策を議論するための、「人生100年時代構想会議」の最年長有識者メンバーにもお声がけいただきました。会議では、経団連会長の榊原定征さんや、『ライフ・シフト~100年時代の人生戦略』の著者リンダ・グラットンさんなど、錚々たるメンバーに囲まれることに。自分自身、想像もしていなかった展開に驚いています。
なぜ「ただのコンピューター好きのおばあちゃん」だった私がここまで注目していただけることになったのか。ご存知ない方のほうが多いと思いますので、簡単にお話ししたいと思います。
そもそもの発端は、2017年の6月に、MacやiPhoneを擁する世界的IT企業、アップルのCEOティム・クックさんから、同社のイベントに招待されたことでした。
そのイベントとは、年に一度、5000人を超える技術者・開発者がアメリカのアップル本社に集まる、世界開発者会議「WWDC2017」のこと。アップルの動向は、今や世界中のニュースということもあり、その注目度は年々高まっています。そして、私が世間に注目された理由はどうやら、このイベントに”招待”されたから、らしいのです。
通常、その会議に集まる5000人の参加者たちは、自腹で1500ドル(開催当時約7万円)という高額なチケットを購入して来場します。CEOの基調講演でアップルの会社としての今後の方針や、iPhoneなどの新製品の詳しい説明などを聞ける貴重な機会なのです。世界中の技術者たちが情報交換できる場といっても過言ではありません。
ところが私は「特別招待」という立場で、会議のチケットはもちろん、交通費、宿泊費もすべてアップルが負担してくださいました。

シニアだってゲームを楽しめる!

「私が、WWDCに招待されることになったのは、2017年の2月にアップルから配信されたゲームアプリ「hinadan」にクックさんが関心を寄せてくださったためでした。
「hinadan」は、ひな祭りのひな壇に、男雛や女雛を正しく配置するゲームです。今までシニアが簡単に遊べるゲームアプリがなかったため、「なければ、私が作っちゃおう」と思い立ったのが開発のきっかけでした。
スマートフォン(以下、スマホ)用のゲームアプリはたくさんありますが、私には、「シニアが楽しめるゲームにしたい!」という希望がありました。素早さを競ったり、シニアの苦手なスワイプなどの動作があるものはどうしても楽しめません。

ひな祭りのゲームにしたのは、日本の伝統文化をテーマにすれば、シニアの人に親しみやすいのではないかという思いがあったからです。ゲーム内容については、画面がどんどん変わったり、激しい音が出るようなものではなく、シニアがゆったりとした気持ちで取り組めるものにしました。

作った本人が言うのもなんですが、まだまだ未熟で、本当に素人丸出しのアプリ。それがどうしてアップルから呼ばれるほど評判になったのか。考えられるとしたら、理由は2つあります。

ひとつ目は、アップルの信条として、ダイバーシティ(多様性)を大事にしているということから。アップルでは、人種、国籍、性別に関係なく、とてもオープンに門戸を開いています。たとえば性別。アプリの開発者登録の性別欄には、MALE(男性)、FEMALE(女性)の次に、OTHERS(その他)という選択肢が用意されています。LGBTの存在も当然のものとして扱う姿勢に、「さすがアップル!」と感心してしまいました。

そんなアップルだからこそ、年齢の壁も取っ払いたいという気持ちがあったのではないかと思います。これまでも、8~9歳など低年齢の開発者が注目されることはあったそうです。そこまでではないにしろ、生まれたときからパソコンが身近にあるような子どもたちも多いためか、アプリの開発者たちは、みんなとても若いのです。
けれども、これまで高齢の開発者が注目されることはなかったようでした。その理由は、そもそも世界的に見ても高齢の開発者がいなかっただけなのか、アップルが高齢の開発者に着目していなかっただけなのか、真相はわかりません。ただ、いろんな巡り合わせが重なったのでしょう。「82歳のアプリ開発者」の私に、アップルが興味を持ってくれたのは幸運でした。

そして、ふたつ目は、自分ではそんなつもりはまったくなかったのですが、「従来のゲームアプリという概念を変えた」とよく言われることが関係しているのではないかと思います。
今までのゲームアプリは、スマホに親しんでいる人たちだけが楽しんでいたものが多かったようなのです。でも「hinadan」は、スマホを使い慣れていない人でも楽しめるシンプルさがあって、実はそれはゲームアプリにとっても大きな可能性を秘めているのではないか、ということなのです。

あるテレビ局の番組で「hinadan」を取り上げていただいたとき、巣鴨の地蔵通りを歩いているおばあちゃんたちに、このゲームを実際に試してもらうという企画がありました。スマホなど持っていないというおばあちゃんたちが「全部できたわ!」「五人囃子の順番、全部合ってました!」と言いながら、うれしそうな顔でやっている姿が映し出されていたので、やはりシニアでも楽しめるゲームなのでしょう。

単純なゲームアプリではありますが、こうして今までスマホを触ったことも見たこともない人が遊べるアプリになっているならばうれしい限り。なぜなら、自分に「情報」という翼を与えてくれたICT(情報通信技術)の普及に少しでも貢献できている、と思えるからです。

60代を迎えて始めたパソコン

私がパソコンを始めたのは、退職を控えた60代前半のこと。大のおしゃべり好きな私は定年前から、数年後にせまった退職後の生活に少し不安を覚えていました。というのは、当時90代の母を自宅で介護する予定だったので、ずっと家にこもりっぱなしになってしまうのではないかと思っていたのです(全然そんなことにはなりませんでしたが)。

そんなとき、「パソコンがあると、一歩も外に出なくても、いろんな人とおしゃべりができる」という耳寄りな情報を聞きつけました。20年以上も前の話ですから、パソコンも周辺機器などを含めると約40万円と今よりもずっと高価。しかし、多少なりとも退職金も入るし!とあまり深く考えずに即決で購入しました。
ところが自力でセットアップを試みるも、パソコンなんて会社でもほとんど触ったことがないものですから、接続設定ができるまでに3ヶ月も要してしまいました。言い訳をさせてもらえれば、当時のパソコンは、今ほど接続設定が簡単ではなかったのもあると思います。
「介護とおしゃべりを両立させたい」という願望で突き進んだ先に待ち構えていた苦労の3ヶ月間を経て、私を出迎えてくれたのは、パソコンの画面に大きく映し出された「マーチャン、ようこそ」の文字。今でもあのときの感動は忘れられません。ちなみに、マーチャンとは私の愛称で、もう23年近く、親しい友人たちからはこう呼ばれています。

そして、おしゃべりの場として入会したのは「メロウ俱楽部」という、インターネット上のシニアコミュニティ(当時はパソコン通信上の「エフメロウ」といいました)。サイトのウェルカムメッセージに記載されていた「人生、60歳を過ぎるとおもしろくなります」という文章に、ワクワクが止まらなくなりました。60歳からおもしろくなるなら、70歳、8歳の生活はどうなるのか。想像するだけで気分が明るくなりましたから。

若宮 正子 (著)
新潮社 (2017/11/24)、出典:出版社HP

世界への扉が開いた

パソコンは、間違いなく私の退職後の生活を豊かなものにしてくれました。自由に羽ばたける翼を手に入れたような感覚です。
インターネットが普及してからは、オンラインでのおしゃべりだけではなく、ネットで情報収集する楽しさにものめり込んで行きました。「ネットとつながる」ということは、ご近所のお店の経営状態から、アラスカのおすすめのオーロラスポットまで、あらゆる情報を入手できるということ。

そのスケールの大きさは、今までの生活とは比較にならないレベルでした。たとえば海外の情報なら、新聞、テレビ、雑誌、本が情報収集の主な手段だったのに、ネットでは海外のニュースもリアルタイムで読めるのです。日本のメディアだけ見ていると、同じニュースでも、取り上げられる分量や角度が違うため、解釈が偏ってしまいます。
その違いを知ることは、異文化理解そのもの。日本だけで生活していると見えない世界が、インターネットでは簡単に検索できる。大げさですが、これってもはや擬似海外旅行?:と錯覚してしまうほどの衝撃でした。

また、ネットのもっと凄いところは時間を超えられるところです。「メロウ俱楽部」のメンバーと一緒に立ち上げた「メロウ伝承館」というプロジェクトがあります。それは、戦前・戦中・戦後という激動の時代を生き抜いた自分たちの記憶や、親から聞いた話などを後世に伝えるためのものです。「メロウ伝承館」に参画して、改めてネットは平面的に広い世界をカバーするだけでなく、時間軸も合わせ持つ立体的な存在だと実感しました。

現代のような情報化社会は、便利な面もありますが、あんまり情報が与えられすぎると消化不良を起こしてしまうものだと思います。

特に、主たる情報収集源のひとつ、テレビは、必要・大切な情報を送ってくれるばかりでなく、家族の団らんのような親しみを持てる存在だと思います。けれども、こちらが求めている情報以外も際限なく入ってくるのが難点です。性質上、情報へのアクセスが受動的だから仕方ないのですが…。
でも、もっと能動的に自分で必要な情報を取りに行けたら、消化不良は起こらない。むしろ自分の興味関心がどんどん広がっていきます。自分次第で、生活を何倍にも彩ることができるのです。

好奇心は歳を取らない!

「会社人生が終わってやることがない」
「定年後、何をすればいいか分からない」
人生100年時代と言われるようになったからでしょうか。そのような嘆きをよく聞きます。定年を迎えた人たちの、老後不安が高まっているのかもしれません。
会社員だった人は、自由になる24時間の使い方に悩むでしょうし、専業主婦だった人は、夫が24時間自宅にいることに悩む。数十年ぶりに生活が激変するわけですから、悩むのは当然。私自身も退職後の不安はありました。
でも思えば、その不安があったからこそ、パソコンに出会えました。無理やり高尚な活動を見つけようとしなくてもいいのです。きっかけなんて、些細なことでいい。私も「人とおしゃべりできなくなるのは嫌だな」といった子どもじみた理由がきっかけですが、ネットで人とつながれるという楽しさを、今噛みしめていますから。

まずは、定年後の生活における「楽しくなさそうなこと」を書き出してみてください。そして、その「楽しくなさそうなこと」を避けられるアイディアを探してみるのです。朝起きてどこへも行く場所がないのがいやなのであれば、居場所を作りましょう。そうやって、「楽しくなさそうなこと」をひとつひとつ、アイディアに置き換えていくのです。
そのアイディアを探すのに必要なのは好奇心。定年後、どうか好奇心だけは失わないでください。好奇心は人間が生まれながらに持っているものです。

「それは、赤ちゃんや小さな子どもの知りたがる姿を見たら一目瞭然。ただ、社会人になるにつれ、まわりからの期待や役割を優先するばかりに、好奇心に蓋をしてきてしまった人は多いと思います。まずその蓋を外すことから始めてみるといいと思います。
大丈夫。あなたの好奇心は必ず息を吹き返します。なぜって、好奇心は歳を取らないから。
ゆっくりでいいのです。焦らず探してみましょう。そして、きっとその先にはあなたの人生を彩る「何か」が見つかるはずです。

人生、60歳を過ぎてからがおもしろい!

思えば、「メロウ俱楽部」に入会したときに目にしたウェルカムメッセージ、「人生、60歳を過ぎるとおもしろくなります」という言葉は、それ以降、ずっと私の頭の中にありました。自己暗示ではないけれど、あの力強いメッセージのおかげで、「明日はもっとおもしろい1日になる!」と思いながら生きてこられたのだと思います。
「私なんぞの人生を語っても、人様のお役に立つことなんてない。そんなふうに思っていましたが、メディアに多少なりとも出ることで、予想に反してさまざまな感想をいただきました。特にうれしかったのが、「退職後について、不安ばかりだったのが、希望を持てました」という言葉です。
この勝手気ままな82年をお伝えすることで、勇気づけられる方が少しでもいらっしゃるのであれば、こんなにうれしいことはありません。

まずは、好奇心の蓋を外して、ページをめくってみてください。ひとつでもいいので、「やってみよう」と思える何かが見つかりますように。

60歳からの人生はやっぱりおもしろい。
そして、どんどんおもしろくなりますよ!

若宮 正子 (著)
新潮社 (2017/11/24)、出典:出版社HP