世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学

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最前線かつ簡潔な説明

最前線の論文からの説明を使いつつ、身近なことや最近でてきている現象などを分かりやすく説明しております。まずは、行動経済学の面白さが知りたい人に最適な1冊となっております。

橋本 之克 (著)
総合法令出版 (2020/1/10)、出典:出版社HP

はじめに

心理学は書籍の中でも人気が高いジャンルの一つです。多くの人にとって、人の心の裏側を知ることは興味深いからでしょう。心理学を知るほどに、自分でも意識していない自分自身を見つけたり、また人が普段見せているものと違う本性を隠し持っていることも見えてきます。

一方、心理学以上に人気のあるジャンルの一つが「お金」だと言われています。お金を含めた「トク」をするための知識は、多くの人々にとって気になるものです。そのための、経済観念や経済知識を身につけることのできる書籍は人気が高いのです。

本書のテーマ「行動経済学」は、簡単に言うと「心理学」とお金や損得を扱う「経済学」を合わせた学問です。この新しい分野では、ダニエル・カーネマンが2002年に、ロバート・シラーが2013年に、リチャード・セイラーが2017年に、それぞれノーベル経済学賞を受賞しました。わずか15年ほどの間に3人ものノーベル賞受賞者を生み出したのです。これほどに注目された大きな理由は、過去に主流だった経済学における「人間」に対する見方を変えたことです。

かつての経済学では、自分の経済的利益を最大化するよう合理的に意思決定する「ホモ・エコノミカス」が標準的な人間像でした。人は常に冷静に、まるで機械のように行動するものと仮定したのです。

ところが実際に経済を動かすのは、感情を持つ生身の人間です。間違いも起こせば、他人のために自分を犠牲にすることもあります。このような人間像を基本にすると、伝統的な経済学では答えられない矛盾や謎がたくさん出てきました。これを「アノマリー(例外事象)」と呼びます(ちなみに、アノマリーは映画『マトリックス』の中で、機械に支配されて仮想空間で生きることの異常さに気づく、一部の人間の呼び名と同じ言葉です)。

行動経済学では、このアノマリーを調べる中で、人間の不合理な行動や判断が決まった法則に従って起きることを発見しました。以下は、その一部です。
・つまらないものでも、一度手に入れたら愛着を感じる
・罰金を払えば悪いことをしても良いと思ってしまう
・ギャンブルで手に入れたお金は簡単に浪費する
・ブラックな企業を辞めることができない

心理学は心と行動を研究する学問ですから、人間の不合理性の分析も進んでいます。この心理学が、生産・消費・売買など、お金の動きにまつわるさまざまな理論を構築してきた経済学と一体となって、行動経済学が生まれました。
私自身はシンクタンクと広告会社で、マーケティングやブランディングの仕事を30年以上行い、今は独立して同じ仕事を続けています。行動経済学に関しては私自身も長く学び続けると同時に、これを現実のビジネスの中で活用してきました。
行動経済学の法則を活用して、消費者心理を把握することで、様々な広告やキャンペーンを成功させています。また自分自身も消費者として、浪費などのピンチを避けることができました。これらの経験から間違いなく言えるのは、「行動経済学は、生活からビジネスまであらゆる面で活用できる実用的な学問だ」ということです。

本書を通じてお伝えしたい、行動経済学の魅力を簡単にまとめると以下の三つです。
・セルフコントロールができる自分になれる
自分自身が起こす誤りやミスを理解しておけば、事前に予測して避けることができます。行動経済学の法則により、例えばダイエットから禁煙まで悪習慣を脱する手段がわかります。また、長期にわたる仕事や学習時のモチベーションを高める方法も知ることができます。上手にお金を扱うための留意点にも気づくでしょう。人生100年時代の働き方や生き方のヒントも得られます。
行動経済学は、無駄に現状を続けてしまう、不要に急いでしまう、大切な決定から逃げてしまうなど、さまざまな過ちの心理的メカニズムを教えてくれます。これを知ることで、あなたは今以上に上手くセルフコントロールができるようになります。

・人間関係がスムーズになる
行動経済学を知るほどに、「人間」への理解は深まります。誰もが自分を一番大切にし、誰もがミスをするものであると、自然に受け入れられます。一方、誰の心の中にも必ず「きちんと、公正に」物事を行う意欲があることもわかります。また、これによって自分の考えが絶対だと思ってしまう過ちが減り、自分や他人を不必要に責めることもなくなるでしょう。少し「人にやさしくなれる」はずです。
社会や経済においても、拡大や合理性を追求する時代は終わりました。今はシェアリング・エコノミー、エシカル消費、ソーシャル・キャピタルなどが注目されています。ガムシャラに成長を目指すのではなく足元を見つめ、周囲との協調関係を大事にしようという発想が広まっています。その根底に必要な、人間らしさを大切にする心が、行動経済学によって培われます。

・社会や企業の改善に役立つ
国や自治体は、社会に属する市民や企業などの行動を、より良い方向に誘導します。そのために法律などのルールがあります。しかし、上から目線で縛る方法が必ずしも有効ではないことが、行動経済学の中で証明されました。個人の心理の中には、他者と同調して他者の利益のために行動するメカニズムがあります。このことを理解し、活用することで、より良い社会作りが可能になります。
また、現代社会において、企業は利益を追求するだけでは社会から認められません。顧客から長く愛されて利益を上げつつ、社会と永続的な関係を結べるような企業ポリシーをもち、組織を作る必要があります。行動経済学はこれらの課題を解決し、人間同士の、また人間と集団の関係をより良くするためのヒントや方法を示してくれるのです。

本書はこの行動経済学について、わかりやすい事例を用いて、またその背景にある研究成果も含め、かみくだいて解説していきます。楽しく得する、そして幸せになる行動経済学を、ぜひあなたのものにして下さい。

橋本 之克 (著)
総合法令出版 (2020/1/10)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第1章 行動経済学は「にんげん」らしくあるために
米国のノーベル経済学賞受賞学者に、「相田みつを」が愛される理由
なぜ人はソーシャルゲームにハマってしまうのか?
サブスクリプションがじわじわ浸透している舞台裏
1000のチョイスを用意したハンバーガーのキャンペーンが残念な理由
コンビニの数は美容院や歯医者の数よりも、なぜか多いと思ってしまう不思議

第2章
無駄な努力はやめましょう―行動経済学と深層心理
スマートドラッグに頼らず、安全に無料で集中力を高める方法とは?
美しい街シンガポールを支えた罰金制度が限界なワケ
バラ色が灰色に変わるマリッジブルーの原因
ユーチューバーになりたがる子供たちの言い分
なぜ企業は「学歴フィルター」で新卒学生を選別したがるのか?

第3章 それでもお金とは仲良くしておきたい―行動経済学とお金
30年分の借金を負わせて新築住宅を買わせるマインドコントロール
保険は本当に役立つものなのか?
簡単にモノを買わされる人間の、脳内にある二つのシステムとは?
老後年金2000万円問題の炎上で、トクする人々

第4章
今より少しだけ良い世界に―行動経済学と社会
宵越しの金をもたなかった人々が、なぜ貯金できるようになったのか
自由から逃走するフリーランサーの心理
勝ち組プラットフォーム企業が追求すべきは、利益か?モラルか?
シェアリングエコノミーの発展を邪魔するズルい人々
おわりに
参考文献・出典

ブックデザイン 別所拓(Q design)
本文デザイン 大口太郎
DTP・図表 横内俊彦
校正 池田研一