初めて学ぶ 都市計画(第二版)

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都市計画の必須知識が身に付く

これからの50年は、人口減少や地球温暖化、災害に加えてさらなる経済のグローバル化や人口移動など私たちの暮らしがどんどん変化していくでしょう。そのような時代でも快適な都市を作り続けるために都市計画が必要になります。本書は、日本の都市計画を行うための基礎を学ぶ人のために著されたものです。

饗庭 伸 (著), 鈴木 伸治 (著)
市ケ谷出版社; 第二版 (2018/3/20)、出典:出版社HP

「初めて学ぶ 都市計画(第二版)」発行にあたって

本書が出版される2018年は、1868年の明治維新から150年目の年にあたる。
江戸時代の長い鎖国が終わり,近代化の大きな転機となったのが明治維新であった。

江戸時代後半の150年間の我が国の人口は3000万人で安定していたが、そこから150年間で1億人の人口が増加し、2018年1月の人口は,総務省の発表では1億2659万人を数えた。つまり、私たちはこの150年間で1億人が暮らす新しい都市をつくってきたことになる。

都市をつくってきたのは,私たち自身である。快適な生活をしたいよい仕事をしたい、こうした単純な必要性に基づいて,私たちはこの150年間,都市をつくり続けてきた。しかし,私たちの全てが独自の考えで都市をつくってしまうと都市空間は混乱してしまう。そこに都市計画が登場する。
明治維新以降に導入された都市計画は、江戸時代までの都市計画と区別して「近代都市計画」と呼ばれる。近代都市計画は150年間を3つの時期に区切るようにして発展してきた。

最初の時期は,1919年の都市計画法制定までの50年間であり、江戸期の都市計画から近代都市計画への転換期へと位置付けられる。
次の時期は、第二次世界大戦を挟んで新しい都市計画法が制定される1968年までの50年間である。戦前の経済成長,戦災からの復興,戦後の経済成長の中で勢いよく形成される都市を最低限の基準でもって、つくりきった時期と位置付けられる。

そこから今日にいたるまでの50年間は,都市空間が量から質へと転換していった時期であり、政府主導から民間主導。市民主導の都市計画への転換期でもあった。
さて、次の50年はどういう時代であろうか。人口減少、地球環境の変化、災害の発生という大きな前提ははっきりしているものの、経済のさらなるグローバル化とそれに伴なう人口移動、都市に関わる様々な技術やサービスの高度化など、予測できない未来が私たちの前に広がっている。これからの都市計画に携わる専門家には、様々に起きる可能性と課題に対して、創造的に答えをつくり続けることが求められる。

我が国の都市計画は、150年かけてつくり出されてきた体系を持っている。もちろんその制度には様々な課題があるが、これから求められる創造的な取り組みの基礎であることには変わりはない。本書はこのような、我が国の都市計画の基礎を学ぶ人たちに向けて執筆されたものである。

2018年2月
編修・執筆代表
餐庭 伸

本書の構成と使いかた

本書は2008年に出版された「初めて学ぶ都市計画」を大幅に改訂したものである。
初版から10年が経ち、都市問題の深化や法制度の改正に対応する必要があったことが改訂の動機であるが、あわせて旧版の構成を大きく変更した。
旧版では「現況と展望編」と「制度と技術編」の2編構成をとっていたが、2つの編に内容が分かれて使いにくかったこと,「制度と技術編」に初学者には高度な内容が含まれていたことから、本書では「現況と展望編」の内容に「制度と技術編」の一部を書き加える形で一つの章にまとめ、「制度と技術編」の多くを「用語集」としてまとめなおした。また,実際の都市を歩いて都市計画を学習することを重視し、全国24の「事例ガイド編」を新たに書き起こした。

内容は11の章と24の事例で構成されている。

大学の標準的な授業は、12~15回程度であるが,1つの章を1回の授業にあて、さらに事例ガイド編を使って実際の都市に出ることを想定している。
事例ガイド編には、町歩きのルートを示しているが,それぞれ2~3時間程度で歩き終わるように設定した。

また、各章の終わりには「こんな問題を考えてみよう」として,各事例の終わりには「歩き終わったらこういうことを議論してみよう」として、学生たちの議論を通じて学習した内容を反復できるような問いを示した。

用語集は、専門的な用語の意味を深く知りたいとき、あるいは都市計画の実務の現場で分からない用語に出会った時に参照していただきたい。また、用語集には本文の流れで説明しきれない内容も一部含まれている。

本書を有効に活用していただくことを執筆者一同祈念しています。

次世代に継承する都市をつくるために(初版発行時)
社会にたいする愛情…これを都市計畫といふ
(『私達の都市計画の話』石川栄耀著1948年より)

都市計画を,このように格調高く説いた人がいました。太平洋戦争の大空襲で日本各地の都市が破壊されてまだ3年,戦後日本の復興に向かう時代のことです。
説くだけではなく、焼け野原となってしまった東京の街を再建し復興する実際の指揮をした都市計画家です。新生日本を背負う中学生のために,教科書副読本として書いたのでした。
それから60年後の今,日本の都市は理想と現実の狭間でどのようなものとなったでしょうか。私たちの生活している現代の都市は,戦後の人口増加と経済成長を続けてきた20世紀日本の都市計画の成果であるといえます。
21世紀日本は,経済は安定期へ,人口は減少期へ,地球レベルの環境問題の顕在化など,20世紀とは大きく異なる社会になろうとしています。20世紀の延長上ではなく,違う局面に立つ21世紀型の社会システムとしての都市計画が求められているのです。次の世代に安心して継承してもらう都市をどうつくるか,わたくしたちは重大な転換点に立っているのです。

◆初めて都市計画を学ぶ学生たちのために
この本を使っていただきたいのは,大学の建築系あるいは工業高等専門学校の建築系の学生を主な対象としていますが,造園系,住居系,土木系,環境系等の関連分野の学生,そしてまた一般教養としての都市問題に興味のある学生たちにも読んでいただきたいのです。
次世代を支える人たちが、これからどう都市社会をつくっていくのか,都市計画を専門とするのでなくても,都市計画を通じて社会のあり方を学んでいただくことを期待しています。
都市は、市街地あるいは単に街といいかえてもよいのですが、誰もが生まれたときから都市で暮らしているのです。その都市をどのように造りどのように使うか、つまりそれが都市計画なのですから、都市計画は日常生活に密接する身近なことなのです。
その都市計画を体系的かつ入門的に学んでいただくことで、人々の生活空間を豊かにする都市づくり、つまり社会に対する愛情ある都市計画を次世代の人々に期待して、本書をつくりました。

◆まちづくりに関心ある社会人のために
本書は,地域で活動する社会人たちも対象としてつくりました。全国各地で起きている「まちづくり活動」は、大きく変ろうとする時代に対応する地域社会をつくろうとするもので、都市計画の動きなのです。自分のまちは自分たちでつくり,直し,守っていこう,それが現代の都市計画でありまちづくりと言い換えることもできます。まちづくりに参加している,あるいは参加しようと考えている一般市民の人たちにも、「まちづくり基礎知識集」として,ぜひとも読んでいただきたいものです。
21世紀はこれまでよりも違う局面で都市化が進み、新たな都市問題に立ち向かうことになるでしょう。地域社会を支える市民・住民たちが、そして次代を背負う若者たちが,自分たちのための都市計画として自ら何をするべきか、それに本書が役立つことを期待しつつ,都市計画の各分野の第一線にいる専門家たちの衆知を集めて本書を編修・執筆したのです。

2008年3月
編修·執筆代表 伊達美德

饗庭 伸 (著), 鈴木 伸治 (著)
市ケ谷出版社; 第二版 (2018/3/20)、出典:出版社HP

目次

第1章 都市計画を学ぶ
1.1 都市計画を学ぶ
1.2 都市の要素と設計
1.3 あなたの街の都市計画を知る
1.4 都市計画で何ができるか?
1.5 専門家の役割とこれからの都市

第2章 都市と都市計画
2.1 都市について理解する
(1) 都市とは
(2) 都市の起源と都市化
(3)都市の地域構造と都市圏
(4) 都市の範囲
2.2 都市計画の意義について考える
(1) 都市計画とは
(2) 都市計画の歴史
2.3 都市計画の理論・思想
(1) 田園都市(Garden City)
(2) 機能主義の都市計画
(3) 生態的・科学的都市計画
(4) 近隣住区論
(5) 反機能主義の都市論
(6) 伝統回帰と持続可能な都市
2.4 都市計画制度の沿革
(1) 近代都市計画の成立と制度化
(2) 日本の近代都市計画制度の沿革
2.5 都市計画法の体系
(1) 都市計画法と関連法
(2) 都市計画の目的と基本理念
(3) 都市計画の適用範囲
(4) マスタープラン
(5) 都市計画の内容
(6) 都市計画の決定者と手続き
(7) 都市計画制限と都市計画事業
2.6 こんな問題を考えてみよう
用語集

第3章 都市の構成と土地利用計画
3.1 はじめに
3.2 都市はどのように形成されたか
(1) 戦災復興と土地区画整理事業
(2) スプロール市街地
(3) 大規模ニュータウン
(4) 民間電鉄会社による沿線開発
(5) 土地区画整理事業と公団・公社の団地開発
(6) 民間デベロッパーによる開発
(7) 人口減少と市街地の再編成
3.3 都市の把握の方法
(1) 都市の密度を把握する
(2) 都市と後背地の関係を把握する
(3) 都市の構造を把握する
(4) 都市核・都市軸で市街地の構造を分析し,方針を考える
3.4 土地利用計画の方法と制度
(1) 区域区分と開発許可
(2) 用途地域に代表される地域地区
(3) 立地適正化計画
3.5 こんな問題を考えてみよう
用語集

第4章 建築物のコントロール
4.1 市街地の構成
4.2 建築物が形づくる市街地の姿
(1) 建築物の用途
(2) 建築物がつくる密度
(3) 建築物の高さ・配置
4.3 建築物の用途・密度・形態を規制する
(1) 規制手法の構成
(2) 敷地と道路
(3) 「用途」の規制
(4) 「密度」の規制
(5) 「配置」の規制
(6) 「高さ」の規制
(7) 規制緩和による市街地環境の誘導
4.4 こんな問題を考えてみよう
用語集

第5章 地区スケールの計画・ルール
5.1 地区スケールの計画・ルールの必要性と背景
5.2 地区スケールの計画・ルールの種類と特徴
(1) 建築協定
(2) 地区計画
(3) その他の地区スケールの諸制度
5.3 地区スケールの計画・ルールづくりのプロセス
5.4 地区スケールのルールのメリットと限界
5.5 こんな問題を考えてみよう
用語集

第6章 都市の再生と交通システム
6.1 街路からの都市づくりと再生
(1) 街路の歩行安全性確保の考え方
(2) 都市における自転車利用の新たな展開
(3) 自動車優先の見直しによる商業地区活性化
(4) 憩いの空間としての街路
(5) 駐車・荷捌き需要のマネジメント
6.2 交通拠点を核とした都市づくりと再生
(1) 鉄道駅の再生とまちづくり
(2) 港湾空間を活用したまちづくり
6.3 持続可能な都市構造と交通システム
(1) 都市内における交通機関の機能分担
(2) 公共交通指向型都市開発とコンパクトシティ
(3) 地域公共交通の活性化
(4) 都市における道路ネットワーク形成
6.4 都市交通システムの計画技術
(1) 市民参加型の交通計画手法
(2) 交通需要予測手法
(3) 都市交通プロジェクトの環境影響評価手法
6.5 こんな問題を考えてみよう
用語集

第7章 都市と自然
7.1 都市計画における公園整備・緑地保全の意義
(1) 都市における「自然」の多様性と本質
(2) 「都市緑地」の効果
7.2 イギリスにおける狩猟苑の開放によきる公園の誕生
7.3 アメリカのパークシステムの展開と大規模公園
7.4 日本における公園整備,緑地保全の歴史
(1) 「都市緑地」の歴史的積層性とまちづくり
(2) 「神宮の森」づくりと参道整備
(3) 風致地区制度による「面」としての緑地保全
(4) 関東大震災後の震災復興公園と防災機能
(5) 幻の環状緑地計画・東京緑地計画
(6) 高度経済成長期の都市化における都市緑地制度
7.5 「都市公園」の制度と背景
(1) 都市施設としての「公園」
(2) 営造物としての「都市公園」の種別と配置標準
7.6 都市緑地法を根拠法とした「緑の基本計画」
(1) 「都市緑地」の多様性と「緑の基本計画」
(2) 計画策定にむけた与条件の整理
7.7 公園・緑地の整備・保全・創出のこれから
7.8 こんな問題を考えてみよう
用語集

第8章 市街地開発事業と都市再生
8.1 市街地開発事業とは何か
(1) 市街地開発事業とは何か
(2) 市街地開発事業と都市再生
8.2 日本の市街地開発事業の歴史
(1) 土地区画整理事業
(2) 市街地再開発事業
(3) その他の計画的な市街地を効率的に整備する事業
(4) 防災街区整備事業
(5) 都市再生の時代へ
8.3 日本の市街地開発事業の特徴
8.4 市街地開発事業が直面している課題
8.5 都市再生の実際
(1) 都市中心核の再生
(2) 木造住宅密集市街地の再生
(3) 中心市街地の再生
(4) 団地再生
(5) 集合住宅の再生
(6) 戸建て住宅地の再生
8.6 こんな問題を考えてみよう
用語集

第9章 都市と防災
9.1 災害にどう対処するのか
(1) 都市と防災
(2) 被害を想定する
(3) 災害発生後の対応
9.2 都市を災害から守る
(1) 防災の制度の変遷
(2) 火災から都市を守る
(3) 地震動から都市を守る
(4) 水害から都市を守る
(5) 津波から都市を守る
(6) 土砂災害から都市を守る
(7) 火山から都市を守る
(8) 犯罪から都市を守る
9.3 被災したまちを再建する
(1) 災害の種類と地域特性
(2) 地震からまちを再建する
(3) 津波からまちを再建する
(4) 事前復興の試み
9.4 こんな問題を考えてみよう
用語集

第10章 都市の景観まちづくり
10.1 景観とは何か
10.2 都市景観の構成要素・種類
10.3 さまざまな景観まちづくり
(1) 景観を「まもる」
(2) 景観を「つくり,そだてる」
10.4 景観まちづくりと法制度
10.5 景観法とそのしくみ
10.6 景観まちづくりに関連するその他の制度
10.7 公共空間の整備・活用と景観
10.8 こんな問題を考えてみよう
用語集

第11章 参加・協働のまちづくり
11.1 参加・協働のまちづくり
11.2 様々な参加・協働のまちづくり
11.3 参加・協働のまちづくりの定義
(1) 登場人物
(2) 参加・協働のまちづくりのテーマ
(3) 活動の期間
(4) 参加・協働のまちづくりの定義
11.4 参加・協働のまちづくりの意義
(1)質の高い都市計画・デザインを行う
(2)紛争の回避
(3) 都市計画に正当性を与える
(4) コミュニティをつくる
11.5 参加・協働のまちづくりの方法と制度
11.6 計画プロセスをデザインする方法と制度
11.7 主体をデザインする方法・制度
(1)どのような主体があるか
(2)主体の育成制度
11.8 コミュニケーションをデザインする方法・制度
(1) 議論を豊富化する手法
(2) 議論を支える手法
(3) 計画を絞り込む手法
(4) 情報を外部に伝える手法
11.9 こんな問題を考えてみよう
用語集

事例編 まちを歩くときの注意事項

事例マップ

事例
事例1 札幌都心部:魅力的な公共空間による都心構造強化
事例2.1 函館:北の開港都市のシェアリングヘリテージ
事例2.2 小樽:シェアリングヘリテージによる都市再生の模索
事例3.1 弘前:あずましの城下町・弘前の都市計画を学ぶ
事例3.2 黒石:「こみせ」が生み出すあずましの公共空間
事例4 仙台:新旧の都市計画を巡る
事例5 東京都心部:神田・丸の内
事例6 多摩ニュータウン
事例7 世田谷:下北沢,梅ヶ丘,三軒茶屋
事例8 横浜都心部:都市デザインの現場を歩く
事例9 高崎中心部:城下町の景観・都市計画
事例10 長岡:城下町・戦災復興都市のまちなか再生を巡る
事例11 金沢:保全型都市計画の現場を歩く
事例12 富山中心部:最先端のコンパクトシティを歩く
事例13 松江:歴史的町並みの残る水の都を歩く
事例14 名古屋都心部:都市基盤の歴史 を歩く
事例15 京都:歴史都市の保全刷新の歩みをたどる
事例16 大阪都心部:都市再生の現場を歩く
事例17 神戸:都心ウォーターフロントと阪神・淡路大震災後の復興のまちを歩く
事例18 高松:まちなか再生と地方都市
事例19 広島:国際平和文化都市「ひろしま」を歩く
事例20 福山市鞆の浦: 瀬戸内の歴史的港湾都市
事例21 福岡都心部:福岡と博多をつなぐ
事例22 北九州市門司港:港湾都市の新旧を巡る
事例23 熊本市中心部:城下町熊本を歩く
事例24 鹿児島:戦災復興の都市空間を活かす

参考文献
索引

[執筆担当] 本文
第1章 變庭 伸
第2章 根上生
第3章 變庭伸 (旧著作者 柳況厚)
第4章 大澤昭彦
第5章 野澤康
第6章 清水 哲夫
第7章 阿部 伸太
第8章 變庭 伸
(旧著作者、伊達美德)
第9章 牧 紀男
第10章 鈴木 伸治
第11章 變庭 伸
(第3章,第8章については大幅に加筆した)

事例
事例1 星卓志
事例2 池ノ上真一
事例3 村上早紀子
事例4 小地将之
事例5 中島伸
事例6 田中暁子
事例7 泉山 墨威
事例8 鈴木 伸治
事例 9 大澤昭彦
事例10 種口秀
事例11 佐野 浩祥
事例12 阿久井康平
事例13 中野 茂夫
事例14 高取千佳
事例15 阿部 大輔
事例 16 嘉名光市
事例17 栗山尚子
事例 18 西成典久
事例 19 今川朱美
事例 20 後藤智香子
事例 21 黒瀬 武史
事例 22 志賀勉
事例23 田中尚人
事例 24 小山 雄資

饗庭 伸 (著), 鈴木 伸治 (著)
市ケ谷出版社; 第二版 (2018/3/20)、出典:出版社HP