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PPP/PFIの成功の秘訣がわかる

本書は、インフラビジネスのPPP/PFIに関する基本的な内容を解説している本です。政府の方針やコンセッションの現在の状況、先行している自治体の市長へのインタビュー、PPP/PFIの成功事例なども掲載されています。

東洋大学PPP研究センター (監修)
出版社: 日本経済新聞出版 (2019/3/26)、出典:出版社HP

CONTENTS

PART1 老朽インフラ崩壊の危機
東洋大学PPP研究センター長 根本祐二氏

PART2 政府の方針 政策はこう進む
統一的な基準による地方公会計の活用
総務省 大宅千明氏

日本の下水道PPP/PFIの現状・課題と政府の取組
国土交通省 今泉誠也氏
PPP/PFI推進アクションプラン(平成30年改定版)のポイント
内閣府 营建太朗氏
公共施設等の適正管理のさらなる推進について
総務省 小谷知也氏
国土交通省におけるインフラ老朽化対策における取組
国土交通省
強くしなやかな国づくりを目指す国土強靱化の取組について
内閣官房国土強靱化推進室

PART3 コンセッションの最新事情
さらなる活用が求められるコンセッション
一般財団法人日本経済研究所 エグゼクティブ・フェロー金谷隆正氏
CASE STUDY 高松空港

PART4 先進自治体の市長に聞く
富山市長 森雅志氏
和光市長 松本武洋氏
須崎市長 楠瀬耕作氏

PART5 国内外インフラ投資の現状
世界のインフラ需要動向
東洋大学大学院経済学研究科 准教授 難波悠氏
NEXCO西日本
三菱重工業 三菱商事
明電舎

PART6 PPP/PFIの成功事例
CASE 1 鹿屋市「ハグ・テラス」
CASE 2 四日市市小中学校施設整備事業
CASE 3 神奈川県寒川浄水場排水処理施設
CASE 4 大分市鶴崎市民行政センター整備業
CASE 5 豊橋市バイオマス資源利活用施設整備・運営事業
CASE 6 桑名市書館等複合公共施設
CASE 7 安城市中心市街地拠点整備事業
CASE 8 豊川市斎場会館「永遠の森」
CASE 9 徳島県県営住宅集約化事業

東洋大学PPP研究センター (監修)
出版社: 日本経済新聞出版 (2019/3/26)、出典:出版社HP

PART1 老朽インフラ崩壊の危機

公共施設や道路などのインフラの老朽化が深刻化している。 老朽化の問題はインフラ機能に支障をきたすだけでなく、 人々の命を脅かす恐れがあることだ。 老朽インフラの更新に必要な 年額9.1兆円もの費用を捻出することが厳しい中、 有力な選択肢としてPPP/PFIが注目されている。

老朽インフラ崩壊の危機

2011年の東日本大震災を機に、 老朽化したインフラの危険性が広く認知されるようになった。 しかし、老朽インフラの更新には「年額9.1兆円の費用がかかる」と 東洋大学PPP研究センター長の根本祐二氏は指摘する。
待ったなしの老朽インフラ問題の解は何か。
東洋大学PPP研究センター長根本祐二氏

震災による事故
天井や橋崩落、庁舎損壊、ダム決壊―
全国で相次ぐインフラ事故
インフラは、経年劣化していく素材 であるコンクリート、金属、木などで 構成されている「物」である。老朽化 につれて徐々に劣化していき、最終的 には損壊、倒壊する。インフ ラが本来果たすべき機能が果 たせなくなるだけでなく、国 民の生命にも重大な危険を及 ぼす。
インフラ損壊による事故は 昔から起きていたが、特に注 目されるようになったのは、 2011年の東日本大震災 以降であろう。東京九段の九 段会館(築77年) の天井崩落、 茨城県北浦の鹿行大橋(築43 年)の崩落、福島県須賀川市 の藤沼ダム(築63年)決壊に よる死亡事故が発生してい る。これらは、いずれも津波 被害を受けておらず、また震 度7の地域でもなかった。つまり、震災はきっかけであり、真の原 因は老朽化にあったと見るべきだ。

庁舎の損壊も相次いだ。岩手県遠野 市本庁舎(築55年)、茨城県高萩市本庁舎(築53年)など約30棟の使用停止 が報告されている。本来は被災時の司 令塔になるべき庁舎の被害は、早期の 復旧の足かせにもなる。
だが、東日本大震災では津波や原発 事故の記憶のほうが大きく、老朽化し たインフラを警戒すべきという機運が 高まったとはいえない。むしろ見過ご してしまったといったほうが正しいだろう。


熊本地震によって大きな損害を受けた5階建ての宇土市役所。4階が大きく崩れ、 倒壊寸前の状態になってしまった。

その後も震災のたびに老朽化による と思われる事故が起きている。16年の 熊本地震では、宇土市役所(築55年) が全壊している。建築物の耐震基準は かなり強化されてきており、これほど の全壊事故は近年まれである。体育館 の天井損壊事故にも驚かされた。すで に避難所として使用していた学校体育 館の天井が損壊し、金属部材が外れて しまい再度の避難を余儀なくされた。 体育館は耐震補強済みであり、改めて対策の困難さが浮き彫りになった。

また、18年の大阪北部地震ではコン クリートブロック塀の倒壊による死亡 事故が起きた。建築基準法の基準は 1980年に制定されていたにもかか わらず、対応できていなかった。
このように、基準強化の対策は取ら れてきたが、それでも事故を防げてい ない。法令上の強化に加えて、実際に 老朽化対策を進めることが急務なのである。

老朽化による事故 高速道路の大規模更新・改築には 5~10兆円の投資が必要
もちろん、老朽化したインフラが事 故を引き起こすのは地震発生時だけで はない。平常時も事故が発生する可能 性はある。
すべての国民がインフラ老朽化の恐 ろしさを知ったのは、2012年12月 の中央自動車道笹子トンネル天井板崩 落事故であろう。トンネル自体は築35 年でありさほど老朽化していない。だ が、換気用空間を確保するためのコン クリート板を天井から吊り下げる金属ボルトや接着剤は経年劣化してい た。ついに支えられなくなった結果、 130mにわたって天井板が崩落し、 9人死亡、2人重軽傷という悲惨な事 故になった。

翌13年2月には浜松市のつり橋であ る第一弁天橋のワイヤーが破断した。 通行していた数人の高校生がすんでの ところで助かったが、本来は死傷事故 になっていてもおかしくない事故で あった。
高速道路の老朽化も進んでいる。首 都高速道路は1962年の京橋~芝浦 間の開通から50年以上を経過した。首 都高速は全線の76%を高架橋が占め、 道路というよりも橋梁であり、劣化に よる崩壊は人命に直結する。首都高速 道路会社では、劣化の進んでいる1号 羽田線、3号渋谷線等の約8kmで橋梁 の架け替えや床板の取り換え等の大 規模更新することを含めて、総額約 6300億円の急的な対応を始めて いる。

全国の高速道路も同様である。8年 の技術検討委員会中間とりまとめで は、劣化した施設は通常修繕だけで は機能を維持し続けることができな いとした上で、大規模更新・改築に、5~100兆円の投資が必要と発表している。

一般道路の場合は、道路陥没事故に要注意だ。陥没事故の多くは、地中に埋設された下水道管が老朽化して損壊した穴の影響で周囲の土砂に生じた空間に起因する。国土交通省のデータによると、下水道損壊に起因する道路陥 没事故は年間3000件以上発生しているとされる。水道管の事故も少なくない。水道技術研究センターのデータによると、管路事故件数は年間2万件を超えている。

18年7月には東京都北区の商店街近くの50年前に設置された鉄製の配管に亀裂が発生し周辺が断水する事故が起きた。この付近では半月前にも同様の事故が起きている。上下水道とも安心していられる状況にはないのである。

インフラ老朽化問題の本質

日本のインフラ投資はピラミッド型
更新費用は毎年9.1兆円
このように、インフラの老朽化は事 故につながる。特に、地震の場合には大事故になる可能性があることが明らかになった。であれば、古くなったら作り替えればよいではないか、多くの人はそう思うであろう。
残念ながら、今の日本ではそれは実 現不可能である。なぜならば、日本のインフラ投資(つまり公共事業)がピラミッド型で行われてきたからである。

図表1は我が国の公共投資をイメージした図である。多くのインフラは70年代の高度成長期を頂点とするピラミッド型で整備され、その後急激に減少している(第1のピラミッド)。インフラが未来永劫使えるなら何の問題もないが、コンクリートや金属である以上限界がある。仮に50~60年と考えると、2020~30年代には老朽化し更新の必要が生じる(第2のピラミッド)。例えば、橋梁の場合、70年代に年間1万本建設された後年々減少し、近年では年平均1000本となっている。2020~30年代には年間1万本の橋を架け替えなければならなくなるが、そのための予算は年間1000本分程度しかない。更新投資予算は大幅に不足する。

橋の予算がないからといって他の分野から予算を回すこともできない。学校、公営住宅、水道など他のインフラも同様にピラミッド型の投資をしているからだ。
インフラ同士で予算を融通できないなら、他の方法はないか。一度ピラミッド型投資ができたのであればもう一度予算配分を見直して、公共事業に振り向けることができるのではないかと思う人もいるかもしれないが、これも無理である。第1のピラミッドのときにはウェイトの低かった社会保障費用が急激に増大しているからである。社会保障を大幅に減らせばインフラの更新投資分(第2のピラミッド)を確保することは可能かもしれないが、自然増を圧縮することすら困難な社会保障費 から予算を割くことを期待するほうが無理である。

ちなみに、筆者は「現在あるインフラを同じ量で更新投資するためにいくら必要か」という試算を行っている※1。公共施設(建築物)、道路、橋梁、 水道(管楽)、下水道(管楽)を対象にして、それぞれの物理量(公共施設、 道路、橋梁は演積水道、下水道は管径別距離)を統計データから算出し、これに個々の標準単価をかけ、個々の標準的な耐用年数で割り算し、これを合算することで総額を求めている。

その結果、年額9.1兆円という数字が算出されている。1回9.1兆円を支出すればすむのではなく、毎年支出し続けなければならないのである。我が国の公的固定資本形成(名目GD Pベース)が年間20兆円台であることを考えると、9.1兆円の規模が、予算のやりくりや好景気時の税収の自然 増で生み出されるものではないこと明らかである。
残りの方法は増税と国債となる。家計消費200兆円全部を消費税の対象にして、なおかつ、引き上げによる消費の落ち込みがないという強い仮定を置いても、単純計算で4~5%の引き上げが必要である。8%から10%への引き上げのコンセンサスも得られない現状では厳しいと思われるが、重要な選択肢であることは間違いない。
確かに、現在の日本同様にインフラ 老朽化問題に見舞われた80年代の米国は、ガソリン税率を引き上げた。だが、人口急増時代の米国人口減少期 に入った日本とでは背景が違う。市場が縮小する中での増税は方向違いであろう。

一方、国債はどうか。すでに老朽化 対策は始まっており、結果的に不足する予算は国債で賄われている。その意味では、すでに手段として講じられているといえる。しかし、OECD(経 済協力開発機構)先進国中、最悪の負 債依存度にある日本が、今後も継続的 に国債に依存し続けられるわけではない。本質的な対策は別次元で必要となる。

※1 根本祐二「インフラ老朽化に伴う更新投資の規模試算(2016年度版)」東洋大学PPP研究センター紀要

東洋大学PPP研究センター (監修)
出版社: 日本経済新聞出版 (2019/3/26)、出典:出版社HP