やりなおし高校化学 (ちくま新書)

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化学が苦手な人のための「再」入門書

高校化学の内容は全て網羅されていて、説明もわかりやすいものとなっています。特に、ざっくり高校化学を復習したい方におすすめです。また、初めての方でもこれをベースにして分野分野の内容をもう少し深く勉強するという使い方も良いでしょう。

齋藤勝裕 (著)
筑摩書房 (2016/5/10)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第1章 原子と原子核
1 原子構造/2 原子・原子核・電子/3 原子核の構造/4 同位体/5 原子量・アボガドロ定数・モル/6 原子核反応/7 放射性物質・放射線・放射能/8 核分裂反応/9 原子の電子構造/10 電子殻のエネルギー/11 軌道/12 電子配置/13 価電子/14 イオン化

第2章 周期表と元素の性質
1 周期表とカレンダー/2 周期と量子数/3 族と元素の性質/4 ランタノイドとアクチノイド/5 最大の元素/6 元素の周期性/7 電気陰性度/8 典型元素/9 遷移元素/10 金属元素と非金属元素 /11 レアメタル/12 レアアース/13 気体、液体、固体元素/14 超ウラン元素

第3章 化学結合と分子構造
1 分子・単体・同素体・化合物/2 化学結合/3 金属結合/4 電気伝導度/5 イオン結合/6 水 素分子の共有結合/7 δ結合とπ結合/8 sp2混成軌道/9 sp2混成軌道/10 共役二重結合/11 sp混成軌道/12 アンモニアと水の結合/13 アンモニウムイオンとヒドロニウムイオン/14 結合のイオン性と水素結合/15 分子間力

第4章 気体・液体・固体
1 物質の三態/2 三態における分子の状態/3 気体の体積/4 状態図/5 超臨界状態/6 三態以外の状態/7 液晶の性質/8 液晶モニターの原理/9 アモルファスの性質と利用

第5章 溶解度と溶液の性質
1 溶解と溶媒和/2 似たものは似たものを溶かす/3 溶解度/4 蒸気圧/5 沸点上昇と融点降下/6 半透膜と浸透圧/7 コロイド溶液/8 コロイド溶液の性質

第6章 酸・塩基・pH
1 酸・塩基とは①—アレニウスの定義/2 酸・塩基とは②—ブレンステッドの定義/3 酸・塩基の種類/4 酸性・塩基性/5 酸・塩基の強弱/6 中和反応と塩/7 緩衝溶液/8 酸性食品と塩基性食

第7章 酸化・還元と電池
1 酸化・還元と日本語/2 酸化数の計算法/3 酸化と還元/4 酸化剤と還元剤/5 イオン化傾向/6 化学電池/7 水素燃料電池/8 太陽電池

第8章反応とエネルギー
1 エネルギーとは/2 熱力学第一法則/3 分子の持つエネルギー/4 反応と反応エネルギー/5 化学現象とエネルギー/6 原子と光エネルギー/7 分子と光エネルギー/8 ヘスの法則/9 エントロピ 1/10 反応の方向を決めるもの/11 反応速度と半減期/12 可逆反応と平衡状態/13 逐次反応と律速段階/14 遷移状態と活性化エネルギー

第9章 非金属元素の性質
1 水素/2 ヘリウム/3 窒素/4 酸素/5 リン・イオウ/6 ハロゲン元素/7 希ガス元素/8 ホウ素・炭茶・ケイ素/9 ヒ素・セレン・テルル・アスタチン/10 半導体

第10章 金属元素の性質
1 典型金属と遷移金属/2 1族金属の性質/3 2族金属の性質/4 12族金属の性質/5 13族金属の性質/6 14族金属の性質/7 15、16族金属の性質/8 3族金属の性質/9 4、5族金属の性質/10 6、7族金属の性質/11 8族金属の性質/12 9、10族金属の性質/13 11族金属の性質

第11章 有機化合物の種類と性質
1 有機化合物の分類/2 飽和炭化水素の命名/3 飽和炭化水素の構造/4 分子構造の表現法/5 置換基/6 置換基効果/7 異性体/8 立体異性体/9 光学異性体/10 酸・塩基/11石炭・石油・天然ガス

第12章 有機化合物の反応
1 有機化学反応の特徴/2 酸化・還元反応/3 酸・塩基の反応/4 置換反応/5 脱離反応/6 付 加反応/7 金属触媒反応/8 アルコールの性質と反応/9 アルデヒドの性質と反応/10 カルボン酸の性質と反応/11 芳香族の構造と性質/12 芳香族の反応

第13章 環境と化学
1 日本の主な公害/2 PCBとダイオキシン/3 オゾンホール/4 酸性雨/5 地球温暖化/6 放 射性物質/7 エネルギーと人類/8 石油の起源/9 リサイクルとリユース/10 グリーンケミストリー

おわりに

参考文献

イラスト てばさき他

齋藤勝裕 (著)
筑摩書房 (2016/5/10)、出典:出版社HP

はじめに

本書は、高校の化学の授業でやったが忘れてしまったこと、あるいはその授業で分からないままにしていたことを思い出す、あるいはやりなおすための本である。

しかし、本書の目的はそれだけではない。高校の化学は面白くなかった、あんなものをやるのは時間の無駄遣いだと思った、さらには化学など二度とやりたくない。そのように思われる方に、改めて化学の面白さ、あえていえば化学の本質を知っていただきたいと思う願いを込めて書いた本である。

化学を面白くないと思われるのも、化学などに時間を割くのはもったいないと思われるのもよいだろう。あるいは、科学の本質を極めるなら化学よりも他に物理や数学がある。そのように思われるのも結構だし、私自身、そのお気持ちはよくわかる。

でも、そのように決めつけるのは少しの間、待っていただきたい。少々の時間を割いて本書をつまみ読みすれば、高校の化学の教科書とは違うことにお気づきいただけることと思う。本書の最大の特色はそこにある。

化学の骨格を見る

高校化学の教科書を易しく噛み砕いた解説本はたくさんある。高校化学の導入のような本もたくさんある。しかし、そのような本の多くは高校化学教科書の呪縛から逃れられていないように私には思える。私には高校化学の教科書は、易しいことを難しそうに記述しているように思えてならない。

どうでもよいような細かい事実を正確に書き連ねるあまり、大事な本質が隠れてしまうのである。これは、葉っぱに覆われて幹や枝ぶりが分からなくなっているようなものだ。

葉っぱを刈り込んで、化学という樹木の枝幹をお見せしたい、それが本書を貫く方針である。枝と幹、つまり化学の骨格だけを眺めたら、高校化学が扱う範囲というのはこんなに少なく、こんなに簡単だったのか?と驚かれるのではなかろうか。このようにすると、今まで精力を注いでいた葉っぱの理解、暗記の代わりに、他の大切な枝の理解に傾注することができる。すると、それまで見てきた枝の必然性が理解でき、樹木全体の理解が増すというサイクルが出来上がる。

本書はそのようなサイクルの形成を目標としている。そのため、高校化学では扱わない、一見高度なことも紹介している。しかし、読んでいただけば分かる通り、それは高校化学で扱わないだけであって、決して難しいことではない。それどころか、それを理解することによって、従来の高校化学の部分がより理解しやすくなるのである。

宇宙の誕生と原子

文学的な表現で「悠久の宇宙」といったものがある。宇宙の枕言葉として悠久という言葉がついてくるようであるが、宇宙が永く続くという意味だけなら、その通りであろう。しかしもし、宇宙が変化しないという意味が入っているとしたら、間違いである。宇宙は変化しないどころではない。激しく変化しているのだ。

そもそも「永い」とはどのようなスパンのことをいうのだろうか。地球の年齢は億年ほどである。38億年前にはバクテリアが発生している。すなわち、生命の歴史でさえ、弘億年もの「永さ」があるのである。それに対して宇宙の年齢は138億年である。永いといえば永いかもしれないが、このか弱い生命の歴史の4倍ほどの永さでしかない。

138億年前に宇宙が誕生した時には、宇宙には原子番号1の水素原子しかなかった。それが集まって集団になると圧力と熱が発生し、核融合反応が起きて原子番号2のヘリウム原子が誕生した。それと同時に大量のエネルギーが発生した。これが太陽などの恒星の姿である。この変化は、太陽はもちろん、無数の恒星で今も進行しているのである。そして核融合はさらに進行し、次々と大きな原子が誕生している。

しかし、これも原子番号8の鉄あたりまでである。鉄は核融合してもエネルギーを発生しない。エネルギーパランスを失った恒星は大爆発を起こす。その時に発生する大量の中性子を鉄原子が吸収して、さらに大きな原子が誕生する。このようにして、現在宇宙に存在し、我々が化学で扱う原子番号型のウランあたりまでの原子が誕生したのである。

原子は雲のようなもの

わずか138億年の間にこれだけの大変化が起き、この変化が今も続いている。宇宙はまさしく悠久であろうが、実は大変動の場なのである。

このようにして誕生した3種類ほどの原子が、地球と自然と生命体を作っているのである。生命体の変化にもまた驚くべきものがある。必億年前に誕生した単細胞バクテリアが6億年前には大型軟体動物に進化し、4億年前には脊椎動物になり、1億年前には恐竜となった。そして2500万年には類人猿が現れ、現代に至っている。
このすさまじいまでの変化を担ったのは、結局は原子である。原子が結合して簡単な分子となり、簡単な分子が反応して複雑な分子となり、それが集まって機能的な集団となったのが生物だ。生物といえど、結局は分子の集合体であり、最後は分子であり、原子なのである。

原子は丸い雲のようなもので、雲のように見えるのは電子雲である。電子雲の中心には小さくて重い原子核がある。原子核の直径は原子直径の1万分の1に過ぎない。東京ドーム(直径100m)を2個貼りあわせた巨大どら焼きを原子にたとえると、原子核はピッチャーマウンドに転がるビー玉(直径1m)ほどの大きさしかない。ところが、原子のほとんど全ての重量(99.9%)は、原子核にあるのである。

原子はまさしく雲のような頼りないものに過ぎない。しかし、これが集まったものが物質なのである。手を見てみよう。この手を作っているのは分子であり、このような原子なのだ。雲か霧のようなものなのである。頭の中には脳みそが詰まっていると確信しているが、その実態はこのようなものなのだ。雲の集合なのである。ザルの比喩どころではないのかもしれない。

ところが、原子の性質、結合、反応は全て電子雲によるものである。雲か霧のようなものが互いに溶けあったり、反発したりして化学反応、すなわち自然の現象を作りだしているのだ。まさしく色即是空、空即是色の世界である。
このように見てみると、無味乾燥に見える化学もなかなか味があるように見えてくるのではなかろうか。

化学が実らせた果実

化学者の私がいうのもおかしいが、化学はなかなか面白い。化学が他の科学と違うのは、化学は物質を扱うということである。

私たちが実感する宇宙は物質からできている。そして全ての物質は化学の研究対象となる。生物もまた化学の研究対象である。すなわち、金属も鉱物も気体も固体も液体も、もちろん、食物も衣服も建材も、宝石、香水、アルコール、男、女、薬、毒、全ては化学の研究対象となるのである。このような化学が面白くないはずがない。というより、どなたでも何かしら興味を持つ物があるだろうが、それがすなわち、化学の研究対象なのである。お酒が好きなら、それを突き詰めてゆくと化学になる。医薬品に興味があって、それを調べるといつか化学の領域に踏み込んでいることになる。毒も同じである。しかし、化学は物質の状態、性質、変化だけを扱うのではない。最も重要なのはその変化の背後に潜む自然の摂理、法則である。これこそが先にいった樹木の枝幹、化学の骨格である。骨格を調べ、それを明らかにして、自然の摂理を明らかにする。それが全ての科学と同じように、化学の目的とするところである。

だが、化学にはもう一つの目的がある。それは人々の幸福に資するということであり、これこそは、化学が物質を扱う学問であるからこそできることである。つまり、化学は物質、分子を調べるだけでなく、物質、分子を創り出すこと、すなわち、これまでこの宇宙に存在しなかった分子を新たに創り出すことができるのだ。これは創造である。あえて不遜な言い方を許していただけるなら、神の創造にも匹敵する創造なのだ。

化学がこれまでにどれだけの新分子を創り出し、どれだけ人類の幸福に貢献してきたか?地球上には記憶に達しようという人類が生活している。これだけの人類が十分ではないまでも、とにかく生存に足る食料を得ることができるのは化学肥料と殺虫剤などの農薬のおかげである。

衣服も、合成繊維を抜きにしたら貧弱なものになるだろう。プラスチックのない生活が想像できるだろうか?電池がなかったらどうなるだろうか?医薬品がなかったら人間の一生はかなり辛いものになるだろう。麻酔薬がなかったら手術はなりたたない。
これらはまさしく化学という学問が実らせた果実なのである。これだけ豊富に果実が実った学問分野が他にあるだろうか?

本書の扱う範囲

本書はこのような化学を徹底的に分かり易く、楽しく紹介しようという意図のもとに作られたものである。内容は化学理論を扱う物理化学から、鉱物などの無機物を扱う無機化学、生命体を含む有機化学、さらには現代の大きな問題である環境問題を考える環境化学まで、化学の全分野を網羅している。本書一冊を読破したら、化学に関してはほぼ完ぺきに近い、広くて偏りのない知識体系を身につけることができるものと確信する。

化学の良い所は、その表現手段として、文章や数式だけでなく、化学式という独特の方法を持っていることである。例えば野球にはボールを投げ、それを打つというテクニックがあり、バイオリンには弦を押さえ、弓で弾くというテクニックがある。

しかし化学の表現手段のテクニックは、それらとは比較にもならないほどの簡単明瞭なものである。化学式は慣れないと馴染みにくいかもしれないが、慣れてしまえばこれほど便利なものはない。
有機化学の構造式は、三角形や六角形など、まるで図形かと思われるものがメジロ押しとなる。これも、表記の約束事さえ分かれば、この上なく便利なものである。はじめは絵を見るような感覚で見るのもよいかもしれない。慣れるにしたがって、その絵の持つ意味が見えてくることであろう。

本書は本格的な化学専門書の目次と考えることもできよう。本書を読んで面白いと思われたところがあったら、そこをさらに進んだ書物で読みなおしてほしい。すると、本書を読んで身につけた基礎知識の分だけ、専門書が読みやすくなっているはずである。それはまさしく本書の意図するところである。また、何か調べたいと思う問題をお持ちならば、本書を読んで、その問題がどこに該当するかを探していただきたい。その上で、その分野の専門書に当たっていただければと思う。本書を読んで化学の面白さ、楽しさを実感していただくことができたなら、私にとってこれ以上嬉しいことはない。
最後に本書の作製になみなみならぬ努力を払ってくださった筑摩書房の松田健、河内卓の両氏、参考にさせていただいた書物の著者並びに発行出版社各社の皆様に感謝する。

平成9年3月 齋藤勝裕

齋藤勝裕 (著)
筑摩書房 (2016/5/10)、出典:出版社HP