デジタルヘルスケア (やさしく知りたい先端科学シリーズ5)

デジタル技術革新で医療が劇的に変わる

超高齢化社会において期待されている技術の一つが「デジタルヘルスケア」です。手術・介護を支援するロボット、アプリによるヘルスケアデータの管理、ICT技術による遠隔治療など、医療分野の最先端技術について実例を通して理解できる1冊です。

遊間 和子 (著), 武藤 正樹 (監修)
出版社: 創元社 (2020/2/19)、出典:出版社HP

はじめに

2040年、日本は高齢者人口のピークを迎える。2040年は団塊ジュニアが 65 歳以上の高齢者に仲間入りする年だ。この高齢化の頂上 へ向けて、日本は今、世界最速のスピードで坂道を駆け上っている。

2040年はどんな年になるだろう?そのとき日本の高齢化率は35%で世界トップ、そして医療、介護、子育てに費やす社会保障給付費は 190 兆円、GDP対比 24% に達する。ただこのGDP 対 比 24% は、ヨーロッパ諸国と比べれば真ん中ぐらいで、世界で飛び抜けて大きいとは言えない。

そして 2040 年の最大の問題は労働人口の減少だ。2040 年には、15歳から64歳の就労人口は、現在よりおよそ1500万人以上も減少する。つまりカネは何とかなっても絶対的ヒト不足の社会となる。

そこで 2040 年問題へ向けて、さまざまな施策が実施されている。いわゆる「人生 100年」「1億総活躍」の時代の訪れである。具体的には元気老人の活用、女性の活躍、ICTやAI、ロボット、外国人労働者の活用など。本書はこの中で、ICT や AI、ロボットなどのデジタルヘルスケアを中心に、2040 年の労働人口減少化時代のソリューションを展望している。

さて「デジタルヘルスケア」とは、ICT や AI、ビッグデータ、ロボットなど、デジタル技術によるヘルスケア関連の成果の向上を目指す技術のことだ。すでにウエアラブルなスマートウオッチや介護ロボット、リハビリ支援ロボット、手術支援ロボット、AIによる画像診断支援、ゲノム解析技術などが実用化されている。この他にもデジタルヘルスケアの舞台のそでには、次世代技術が所狭しと、出番を待っている。錠剤にセンサーを埋め込んだデジタルメディスン、生活支援ロボット、認知症の人のためのスマートハウス、AI によるケアプラン支援、デジタル ACP(アドバンス・ケア・プラ ンニング)など。

ただ一方、規制に阻まれた課題もある。遅々として進まぬオンライン診療、デジタル化を進める上で欠かせない個人識別子の課題、生 活支援ロボットの国際標準化、現行の医薬品医療機器等法での AI 技術やデジタルメディスンの取り扱いなど。

本書ではこうした課題についても、オランダやフィンランド、デンマークなどの海外事情を教えてくれている。2040 年まであと 20 年、本書を片手にさまざまな規制を乗り越え、デジタルヘルスケアの果実を手にしていただければ幸いである。

2020年元旦 国際医療福祉大学大学院 武藤正樹

遊間 和子 (著), 武藤 正樹 (監修)
出版社: 創元社 (2020/2/19)、出典:出版社HP

Contents

はじめに

Chapter1 少子高齢化で 求められるヘルスケア改革
101 高齢化が進む日本・
1-02 要介護者の急増と不足する介護人材
1-03 医師の高齢化と地域における不足・偏在
1-04 社会保障費の急騰
1-05 日本の医療の特徴と健康保険のしくみ
1-06 日本の介護の特徴と介護保険のしくみ
1-07 急性疾患から慢性疾患へ
1-08 平均寿命と健康寿命のギャップ
1-09 ヘルスケア改革① 治療から予防へ
1-10 ヘルスケア改革②施設から在宅へ
1-11 患者・市民中心のヘルスケア「地域包括ケア」
用語解説

Chapter2 ヘルスケアで進むデジタル化のインパクト
2-01 デジタルヘルスとは
2-02 デジタルヘルスがもたらすメリット
2-03 日本で進むデータヘルス改革
2-04 要となるヘルスケア分野のID
2-05 ヘルスケアデータを電子化して活用するEHR
2-06 組織をまたがる情報共有を可能にするHIE
2-07 個人が主体となって自らのデータを管理するPHR
2-08 デジタルヘルスを促進する「次世代医療基盤法」
2-09 バイオバンクの可能性と課題
2-10 生活支援ロボットと国際標準化
用語解説

Chapter3 デジタルヘルスケアが 浸透する社会
3-01 AIやIoTがもたらすヘルスケアイノベーション
3-02 健康を促進するスマートウォッチ
3-03 健康増進型保険でインセンティブを高める
3-04 AIが支援する個人別サプリメント選択
3-05 医師法が壁となっていたオンライン診察
3-06 個別化医療を加速するゲノム解析
3-07 本格化するAIによる画像診断支援
3-08 医師をサポートする手術支援ロボット
3-09 健康を管理するスマートベッド
8-10 ICTによる服薬アドヒアランス向上
3-11 機能回復を促す装着型サイボーグ
3-12 慢性疾患管理も簡単に
3-13 認知症介護の負担軽減
3-14 センサーによる排泄予知
3-15 AIによるケアプラン作成支援
3-16 終末期における希望を叶えたい
用語解説

Chapter4 欧米がリードするヘルスケアイノベーション
4-01 オランダのデジタルヘルス事情
4-02 フィンランドのデジタルヘルス事情
4-03 デンマークのデジタルヘルス事情
4-04 英国のデジタルヘルス事情
4-05 EUにおけるヘルスケアデータの流通
4-06 ヘルスケアに関わる国際標準化の動き
4-07 GAFAのヘルスケア分野への参入
用語解説

Chapter5 デジタルヘルスで変わる未来の社会
5-01 患者・市民と医療・介護従事者の意識改革
5-02 AI活用と倫理
5-03 個人情報保護と利活用のバランス
5-04 医療機器プログラムとデジタル療法
5-05 官民連携によるエコシステムの構築
5-06 QOL・QOD向上につながる新しい社会

さくいん
参考書籍・ 写真提供

遊間 和子 (著), 武藤 正樹 (監修)
出版社: 創元社 (2020/2/19)、出典:出版社HP