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すぐに使えて一生役立つ技術
思考が進まずどうどう巡りに陥りがち、伝えたいことがうまく伝わらない、根拠のある数字を提示するのが苦手、相手が求めていることとズレてしまうという悩みをお持ちの方におすすめです。実践的なドリルとなっているので確実に身につきます。
この作品は、2020年7月に東洋経済新報社より刊行された書籍に基づいて制作しています。電子書籍化に際しては、仕様上の都合により適宜編集を加えています。
また、本書のコピー、スキャン、デジタル化等の無断複製は、著作権法上での例外である私的利用を除き禁じられています。本書を代行業者等の第三者に依頼してコピー、スキャンやデジタル化することは、たとえ個人や家庭内での利用であっても一切認められておりません。
まえがき
「ロジカル・シンキング」ができる人とは?
本書で紹介する思考の技術は、十数年の間、社会人のみなさんとクラスの場で多くの演習、並びにディスカッションをする中でみえてきたものです。「つい陥ってしまう思考の罠」や、逆に、「ちょっと意識しておくだけで成果が大きく違ってくるポイント」です。「ロジカル・シンキング」ができる人は、実はこうしたちょっとした「罠」や「ポイント」をしっかりと理解し、思考できる人たちです。
本書は、「ロジカル・シンキング」に初めて触れる人、これから社会人生活をスタートさせる人へ向けての入門書です。当たり前のことではあるものの、意外に難しく、そして実は重要……そんなポイントを20個、ピックアップしました。
重要性を増す「プログラミング・AI」もカバー
20個のポイントは、担当している複数の科目から選択をしました。その結果、いわゆる「論理思考」と「コミュニケーション」の領域にとどまらず、「数字」についての扱いや、今後、より重要性を増してくる「プログラミング・AI」といった要素をカバーしている点が特徴です。全体は5つの章で構成しています。
・CHAPTER 1は、「まず「根拠」から考える
「ロジカル」の基本にあたる内容です。他の4つの領域すべてに関連するテーマであり、【土台】となる頭の使い方です。
・CHAPTER 2は、「「何が起こっているか」正しく認識する
「ロジカル」であるための出発点となる内容です。何らかの思考をスタートさせる【起点】となる頭の使い方です。
・CHAPTER 3は、「「数字」に仕事をさせる」
「ロジカル」である人は、数字を上手く使うことができます。「数字」を上手く【活用】するための頭 の使い方です。
・CHAPTER 4は、「上手く「伝え」、上手く「聞く」」
「ロジカル」に自分で考えられるだけでは、成果につながりません。【相手】とのコミュニケーションにおいて必要となる頭の使い方です。
・CHAPTER 5は、「コンピュータを味方にする」「ロジカル」は、コンピュータが得意な領域です。これから必要となってくる【今後】へ向けた頭の使い方です。
【土台】→【起点】 →【活用】→【相手】 →【今後】と順に理解を進められる流れになっています。
頭でわかっていても実践できなければ意味がない
1つ1つの思考技術は、いずれも基本的なことです。読んでしまえば、当たり前のことと感じる方も少なくないでしょう。ただ、基本的なことは、得てして、頭ではわかっているけど、いざやってみようとするとできないものです。そこで、本書では、わかることとできることを少しでも近づけていくために、3つのステップで理解を進められるようにしました。
まず、どのように考えればよいのかを例題と共に解説しています。また、どのように頭を使っていけばよいのかを手順化して示しています。基本となる考え方についての理解と方法を押さえてください。次に、「演習問題」を用意しました。例題を通じて、頭で理解できたことを、自分の頭を使って、実際に考えてみることができるようになっています。
読み進めてしまうのではなく、たとえ、1分でも2分でも、ちょっと考えてみることをお勧めします。
最後に、さらに理解を進めるために、関連するポイントや発展させた考え方を紹介しています。また、象徴的な頭の使い方をできる限り図示化したこと、そして、20の思考技術ごとにポイントを5つにまとめましたので、日々活用する際にご利用ください。
自分の思考を客観視することを意識しよう
本章に入っていく前に、そのすべてに共通する大切な頭の使い方を紹介しておきましょう。それは、「自分自身の考え」に対して、客観視して捉えなおすことができるということです。いわば、もう一人の自分を出現させて、自分の思考に対して、きちんと評価をさせるというイメージです。「メタ(高次の) 認知」という言い方などもされます。普通に思考をしているレベルから、次元をあげて、俯瞰的に物事を捉えることと理解してください。
このメタ的な頭の使い方ができると、自分の思考に対して、自身でフィードバックを入れることができます。そうすることによって、自分自身の思考の質を高めることができます。また、相手がいる場においても「その場」で議論している自分と、その場で何が起こっているのかを客観的に理解しようとするもう一人の自分を置くことができます。その結果、議論の背景の理解や、そもそも論じなければならないことなどを考えやすくなります。
得てして、人は、自分自身が何を考えているかが、わかっていないものです。意識的に、もう一人の自分を育て、自分自身の思考をチェックさせられるようになることが、「ロジカル・シンキング」を身につける近道になります。ここからは、もう一人の自分を育てながら、20の技術を読みすすめていきましょう!
目次
まえがき
CHAPTER1 まず「根拠」から考える
LESSON1 根拠を具体化する
LESSON2 立体的な根拠にする
LESSON3 都合の悪い情報を探してみる
LESSON4 根拠の弱さに目をつぶらない
CHAPTER2 「何が起こっているか」正しく認識する
LESSON5 違った角度からみる
LESSON6 幅を変えてみる
LESSON7 経緯をみる
LESSON8 分けて、みる
CHAPTER3 「数字」に仕事をさせる
LESSON9 単位当たりの数字にする
LESSON10 実数と率の両方を使う
LESSON11 平均がわかっている
LESSON12 バラつきがわかっている
CHAPTER4 上手く「伝え」、上手く「聞く」
LESSON13 相手の立場からメッセージを考えよう
LESSON14 自分の言いたいことがわかる
LESSON15 相手のことが聞ける
LESSON16 グラフに仕事をさせよう
CHAPTER5 コンピュータを味方にする
LESSON17 手順化できる
LESSON18 定量化ができる
LESSON19 相関がわかる
LESSON20 AIがわかっている
卒業試験
あとがき
参考図書
LESSON1 根拠を具体化する
根拠には具体性を持たせよう、事例も添えて具体化しようということは言われます。
しかし、どうしたら具体化できるのかについては、あまり考えられていないものです。
根拠を具体化するためには、いったいどうしたらよいのでしょうか。
新設された部署に配属されたあなた。新しい役割に張り切っています。
そんな中、課長から、キックオフのための合宿を企画して欲しいと依頼されました。
どこに行くかを決めなければなりません。
そこで、箱根を候補とし、根拠を2つ、考えてみました。
どちらの説得力が高いでしょう?
A 多くの社員が行きたいに違いないので、部門合宿は、箱根がよい
B 多くの社員が行きたいと言っていたので、部門合宿は、箱根がよい
Aの「行きたいに違いない」は自分の推測であって主観。
一方、Bの「行きたいと言っていた」は、客観的な事実です。
根拠が、主観によって支えられているか、客観的な事実で支えられているかの違いです。多くの人が納得できるのは、主観よりは客観。主張を支える根拠には、客観性のある事実を示すようにしましょう。
では、「多くの社員が行きたいと言っていたので、部門合宿は、箱根がよい」をさらに具体化するため には、どう考えればよいでしょうか。
たとえば、「多くの社員」とは、実際に何人で、社員全体の何割ぐらいなのか、「行きたいと言っていた」のはどのような状況での発言なのかについて説明されているとよいでしょう。客観的な事実をさらに具体化することで、説得力を高めることができます。
具体化のためのポイントは2つです。
POINT
①根拠の内容を分解し、どういう要素から構成されているのかを押さえる
②構成要素ごとにどのように具体化できるかを考える
先ほどの例題を使いながら、それぞれについて詳しく説明していきます。
①根拠の内容を分解し、どういう要素から構成されているのかを押さえる
主張である「部門合宿は、箱根がよい」に対する根拠は、「多くの社員が箱根がよいと言っていた」からでした。根拠の内容を分解すると、「多くの社員」ということと「箱根がよいと言っていた」という2つの要素から成り立っていることがわかります。
②構成要素ごとにどのように具体化できるかを考える
それぞれの要素ごとにどのように具体化が可能かを考えてみましょう。まず「多くの社員」を具体化するためには、「多く」がどの程度多かったのか、具体的に何人だったのかを提示することができます。また、人数だけではなく、社員のどのくらいの割合の人たちが言っていたのかを示すこともできます。
次に「箱根がよいと言っていた」については、どのような状況下で箱根がよいと言っていたのかを具体的にすることができます。「部門合宿はどこがよいのか?」ということを議題にした会議の中での発言なのか、飲み会の席で何となく盛り上がった際の発言なのかによっても説得力が違ってきます。
具体化するためには、何を具体化することができるのか、その要素を明らかにすること。そして、要素ごとにどう具体化ができるのかを考えましょう。
今回は、「多く」について、具体的に「人数や割合を付与すること」、つまり「定量的な情報を付与する」という具体化の方向性があるということです。
また、「言っていた」については、具体的に「どのような状況での発言だったのか」について言及すること、つまり「状況の提示」という具体化の方向性があるということになります。
演習問題
主張「部門合宿は、箱根がよい」ということを根拠づけるために、「多くの社員が行きたいと言っていた」以外の根拠を考えました。
A 費用が安いので、箱根がよい
B 友達と行ったことがあるので、箱根がよい
A、B、それぞれの説得力をあげるためには、どうすればよいでしょうか。
まず、Aについては「費用が安い」ということに、定量情報の付与ができそうです。
具体的にいくらなのか、たとえば、「一人2万円と費用が安いので、箱根がよい」といったように具体的な金額が示せるとよいでしょう。
次にBについては「友達と行ったことがある」ということに、状況提示の方向で具体化できそうです。たとえば、「前職の同僚と行ったことがあるので箱根がよい」の方が、より説得力が高まります。
STEP UP!
ここまで考えてきたことの全体を、最後に整理しておきましょう。最初に確認したことは、「主観より客観がよい」、「客観情報は、具体的な方がよい」ということでした。
ただ、このレベルで思考が止まってしまうと、「具体化」というキーワードだけの認識でそれ以上には思考が進みません。ここからさらに進むためには、どうしたらよいでしょうか。演習問題を例に考えてみましょう。
「一人2万円」と数字が示されることで具体性はあがりますが、その数字がよいのか悪いのかがわからないという点に工夫の余地が残っています。
他の候補地との比較において安いということを示す、予算内に入っているといった基準を示す、などといった工夫がされるとより説得力が増してきます。定量的な情報は、その数字だけでは判断できません。定量的な情報を示す際には、数値そのものとその数字を評価するための情報も揃えましょう。
また、Bの「前職の同僚と行ったことがある」についても、さらに具体化ができそうです。
「前職の同僚」と「行ったことがある」それぞれの要素についてどうあればよいのかを考えてみましょう。
まず、「前職の同僚」についてです。新しい部門での合宿として適切だ、ということが最終的に言いたいことです。したがって、前職は、たとえば、同業種であったなどということが言えると、聞き手は安心できそうです。また、同僚や前の部署についても、今回の部署と似た人員構成であるなどということが言えるとよいでしょう。つまり、対象の類似性が訴求できるとよいということになります。
次に「行ったことがある」についてです。これは、「いつ」行ったかがポイントになります。10年前のことなのか、3年前のことなのか、どちらがよいのかということです。何年前ならよいのかという程度の間題はありますが、最近のことであるということが示せるとよいでしょう。つまり、時間の近接性が訴求できるとよいということになります。
このように「状況の提示」については、対象そのものがどれだけ似ているか(対象の類似性)、時間軸としてどれだけ最近のものなのか(時間の近接性)といった視点で具体化を考えていく必要があるということになります。
思考の粒度を細かくすることは、労力もかかりますし、難しいものです。その結果、どうしても、「何となくこんな感じ」、今回のケースでは、「具体化できるといいよね」というレベルで思考を停止してしまいがちです。
だからこそ、もう一歩、踏み出して、具体的に考えられることが、説得力を高めることにつながります。またそれは、思考力を鍛えることにもつながります。考えがまとまったレベルからもう一歩、二歩深めて考えるという姿勢を常に持っておくようにしましょう。
まとめ
根拠には主観ではなく客観的な事実を用意する
具体化は根拠の構成要素ごとに行う
具体化の方向性は、定量的な情報の付与と状況の提示
定量的な情報の付与には、数値そのものと評価のための情報があるとよい
状況の提示は、対象の類似性や時間の近接性を意識すること