ロジカル・シンキング (Best solution)

【最新 – ロジカルシンキングを学ぶおすすめ本 -入門からランキング】も確認する

コミュニケーション能力の向上

本書は、ロジカルシンキングのためのツールを説明してくれる本です。この本を読むことで物を考える際に,洩れなく被ることもなく最大限に考える方法が身に付きます。しっかりと仕事や学業で活用していきたい、そのために学びたいという人におすすめです。

照屋 華子 (著), 岡田 恵子 (著)
出版社: 東洋経済新報社 (2001/4/1)、出典:出版社HP

はじめに

変化するビジネス環境が求めるロジカル・コミュニケーション

企業を取り巻く環境は、ここ10年で大きく変化した。バブル経済がはじけ、これまで経験したこともない長い経済停滞が続いている。経済の低成長下で収益を上げるためにはどうしたらよいのか。かつてはおとなしかった株主のリターン追求に対するプレッシャーも増大している。大企業といえども安穏とはできず、血の滲むような経営努力が必要だ。

これまで以上にシビアに事業を見直すことが必要になり、日本企業同士の合併、買収なども日常茶飯事になってきた。
こうした変化に伴いビジネスにおけるコミュニケーションの領域でも、大きな変化が起きており、さまざまな業種のビジネスの前線にいる方々から、次のような問題意識を伺う機会がとても増えた。

「ソリューション提案型営業には、私たちが顧客の課題をどう捉えているのか、それをシステムでどう解決できるかを、十分に説得できる力が不可欠」(コンピュータネットワーク関連業界)

「顧客自身も、何が問題なのかはっきりとはわからないが、何かをしなければ、という危機意識が強い。顧客との議論の中から相手の問題意識を正確に読みとり、正しい答えを返す力が重要になっている」(サービス業)

「サプライヤーとも新しい関係を築かなければならない。今の状況はどうなっており、なぜ新しい考え方が必要なのか、その中で当社は何をしたいのか、そのためにサプライヤーにはどうしてほしいのか。これをきちんと理解してもらうことが非常に大事だ」(製造業)

「現場では人手不足のために仕事に追われ、コミュニケーションの機会が減ったせいか、通達等の情報が周知徹底されなくなってしまった。情報の発信源となる部門が今まで以上にポイントを明快にして伝える必要を感じている」(サービス業)

「業界再編の嵐の中で、他社と手を組むということが人ごとではなくなっている。
これからは、いままでのようになあなあなコミュニケーションで何とか仕事が進んでいく、などとは思えない。異なる背景や文化をもった人ともきちんと論理的に議論をして、自分の考えを正しく伝え、相手を説得できる力が必要」(金融業)
どのようなビジネスもコミュニケーションなくしては成り立たない。

ビジネスが変化すればコミュニケーションにも変化が求められるのは必然だろう。
ビジネス上のコミュニケーションの相手は、顧客、取引先、提携相手、あるいは株主や消費者、そして上司、部下、同僚、関連部門等、さまざまだ。

そうした多様な利害関係者に対して自分や組織の考えをわかりやすく伝えて納得してもらい、自分の思い通りに動い てもらう。これによって物事を先に進め、より早く確実に成果に結びつけることが、今まで以上に求められるようになっている。
このようなニーズに応える有効な手立てが「ロジカル・コミュニケーション」だと、筆者は考えている。ロジカル・コミュニケーションとは言葉は少々厳めしいが、要は「論理的なメッセージを伝えることによって、相手を説得して、自分の思うような反応を相手から引き出すことだ。

誰でも必ず「論理的な伝え手」になれる

ロジカル・コミュニケーションの重要性には多くのビジネスパーソンの方が気づいているのだが、残念なことにその大半の方が体系立った方法論を持たないために、具体的にどうしたら相手にわかりやすく伝えられるか、と暗中模索状態にあることだ。

確かに自己流で何とかなる、という考え方もあろう。しかし、自己流では自分が習熟したテーマならうまくいくが、全く新しいテーマや課題に突き当たったとたんにお手上げになり、再現性がない。また、自分ではできても、部下を指導することは難しい。さらに、組織全体でコミュニケーションの共通言語があれば、さまざまな活動の生産性をぐんと引き上げることができるが、この点でも自己流アプローチの寄せ集めには限界がある。
本書の狙いは、体系立った、しかもシンプルで実践的なロジカル・コミュニケーションの技術をご紹介することにある。
筆者2名は、ロジカル・コミュニケーションのスペシャリストとして仕事をしている。

その仕事の中心に経営コンサルティングの領域があるが、コンサルティングとは、クライアントの抱えるさまざまな課題に解決策を提言し、その実行を支援するものだ。したがって、クライアントにその直面する現状や、課題解決のための提言を論理的にきちんと説明して納得してもらい、実行を意思決定してもらう、というコミュニケーションは不可欠であり、極めて重要だ。
こうしたコミュニケーションの過程で、筆者は、コンサルティング・チームのメッセージが、クライアントの視点に立ったときに本当にわかりやすく、論理的に筋の通った説得力のある構成になっているのかを検証する。つまり、伝え手のメッセージを、受け手にとってわかりやすく納得感のあるものにするために、「盛り込むべき要素に過不足はないか」「提示された情報で本当にこの結論が導かれるか」「結論とその他の要素をどう構成すればよいのか」といった観点からアドバイスや具体的な改善案を作っていく。

本書では、このような仕事を実践する中で培ってきた「ロジカル・コミュニケーションの技術」を紹介する。
もちろん、この技術はコンサルティングや戦略立案などの特定領域だけで有効なものではない。例えば、顧客との商談や商品説明、あるいは朝礼での指示・報告・連絡など、日常業務のちょっとしたコミュニケーションにもすぐに活用でき、威力を発揮する。また、あえてこれを「技術」と呼ぶのは、これまでの経験から訓練を積めば誰でも身に付けられると確信するからだ。
コミュニケーションというととかく「あの人の書くものには天性の冴えがある」「彼の話術は生まれ持った才能だ……..」というように、センスや感性に巧拙の要因を求めがちだ。確かにそれも重要だが、ことビジネスにおけるコミュニケーションでは土台を築いた上で備わっていればなおよい、という類のものだ。その土台こそがロジカル・コミュニケーションなのだ。

本書の構成と特徴

本書は、次のような3部構成になっている。第1部では、論理的な伝え手になるための第一歩として、例えば、報告書を下書きするなど、コミュニケーションの具体的な準備に取り掛かる前に必ず確認したいポイントを解説する(第1章、2章)。
第2部では、伝え手の頭の中や手元にあるさまざまな情報やデータを、「論理」を作る「部品」として整理するための「論理的に思考を整理する技術」を紹介する。MECE(第3章)とSo What? /Why So? (第4章)の2つの技術だ。そして第3部では、個々の「部品」を「論理」に組み立てるための「論理的に構成する技術」を扱う。「論理」の構造を定義し(第5章)、ビジネスの実践に役立つ2つの論理パターン、並列型と解説型(第6章)、そしてその活用のポイントを解説する(第7章)。

MECE、So What? /Why So? という2つの「論理的に思考を整理する技術」と、並列型と解説型という2つの「論理的に構成する技術」。この4つの技術を駆使して論理構成までできるようになれば、ロジカル・コミュニケーションの土台を築くことができる。あとは論理構成した中身を論理的に書く・話すことになる。この書く技術や話す技術ももちろん重要であり、これも機会があればぜひ紹介したいが、本書では土台の論理構成までに焦点を絞る。

読者がこの4つの技術をマスターし、使いこなせるよう、企業研修等での経験を踏まえ、本書では以下の工夫を心がけている。

第1に、読者が自分の仕事に重ね合わせて理解できるように、「確かにこのようなことがある」というような、日本のビジネスの場面に即した事例をできる限り多く盛り込んだ。 第2に、4つの技術を実際に使ってみる手がかりとして、第3章、第4章、第6章、第7章の最後に「集中トレーニング」を設けている。この中には、解き方の解説と解答例を示した例題と、解き方のヒントをつけた豊富な練習問題が載録してあるので、挑戦してもらいたい。

最後に、最も望ましいのは第1章から読み進めることだが、関心や必要性が高い部分を選んで読み始めても理解できるよう、重要な点は各章で繰り返し解説をしてある。

ビジネスの環境が大きく変化する中で、たくさんのビジネスパーソンの方々が自己の能力開発に高い関心を持っている。あらゆるビジネスに必須の、ロジカル・コミュニケーションの技術を習得してもらいたい。その際のよき案内役として本書がお役に立てば、筆者としてこれ以上の喜びはない。

照屋 華子 (著), 岡田 恵子 (著)
出版社: 東洋経済新報社 (2001/4/1)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1部 書いたり話したりする前に

第1章 相手に「伝える」ということ
1 「自分しか見えない病」「にわか読心術師症候群」にかかっていないか?
2 相手に伝えるべきメッセージとは
◆確認1:課題(テーマ)を確認する
◆確認2:相手に期待する反応を確認する
3 何を言えば「答え」になるのか
4 なぜ、相手に自分の「答え」が通じないのか
◆結論が伝わらないときの2つの落とし穴
COLUMN 当初に設定した課題の「答え」ではないことを伝えたいとき
◆根拠が伝わらないときの3つの落とし穴
◆方法が伝わらないときの2つの落とし穴
COLUMN 感度のよい受け手になるために
感度チェック
COLUMN eメールを確実に読んでもらうために

第2章 説得力のない「答え」に共通する欠陥
1 話の明らかな重複・漏れ・ずれ
◆話の重複は「私の頭の中は混乱中」のサイン
◆話の漏れは、「一点突破、全面崩壊」につながる
◆話のずれが、そもそもの目的やテーマからの脱線を招く
2 話の飛び

第2部 論理的に思考を整理する技術

第3章 重複・漏れ・ずれを防ぐ
1 MECE ———話の重複・漏れ・ずれをなくす技術
◆MECE とは?
◆たくさんのMECE のポケットを作ろう
◆知っておくと便利なMECE のフレームワーク
2 グルーピング———MECEを活かした情報の整理
◆グルーピングとは漏れ・重複・ずれのない部分集合を作ること
COLUMN グルーピングの留意点

集中トレーニング1
(1) MECEに強くなろう
(2) グルーピングに強くなろう

第4章 話の飛びをなくす
1 So What? /Why So? ———話の飛びをなくす技術
◆So What? /Why So? する習慣をつける
2 2種類のSo What? /Why So?
COLUMN So What?/Why So? にあうんの呼吸は禁物だ
◆「観察」のSo What? /Why So?
◆「洞察」のSo What? /Why So?
◆洞察のSo What? は観察のSo What? なくしてならず

集中トレーニング2
(1) 「観察」のSo What? /Why So? に強くなろう
(2) 間違った「観察」のSo What? /Why So? に気づけるようになろう
(3) 「洞察」のSo What? /Why So? に強くなろう

第3部 論理的に構成する技術

第5章 So What?/Why So? とMECE で「論理」を作る
1 論理とは?
◆縦の法則So What? /Why So?
◆横の法則MECE
◆論理の基本構造
2 論理はコンパクトなほどよい
◆縦方向にどこまで階層化するのか?
◆横方向には、いくつに、どのように分解するのか?

第6章 論理パターンをマスターする
1 並列型
◆並列型の構造
◆使用上の留意点
◆適用ケース
2 解説型
◆解説型の構造
◆使用上の留意点
◆適用ケース
COLUMN 自分の専門分野ほど要注意

集中トレーニング3
(1) 論理パターンの基本をマスターしよう
(2) 非論理的なものを見抜く力をつけよう
COLUMN 宝くじがあたったら

第7章 論理パターンを使いこなす
1 論理パターンはこう使う
◆1つの課題に答えるとき
COLUMN 判断基準の納得感こそ大事
◆2つの課題に同時に答えるとき
COLUMN 課題はいくつ?
2 論理FAQ

集中トレーニング4
(1) 情報を論理パターンでわかりやすく構成しよう
(2)図表を使って論理的に説明しよう
(3)相手を納得させる論理構成の力をつけよう

おわりに

第1部

書いたり話したりする前に

コミュニケーションとは、相手と「メッセージ」のキャッチボールをすることだ。では、その「メッセージ」とは何だろうか。そして、「メッセージ」に必ず求められる構成要素とは何だろうか。
この2つの問いに、あなたは自信を持って答えることができるだろうか。
もし、「メッセージ」とは自分の言いたいことの要約、あるいは自分が伝えたいことのエッセンスだ、と考えたり、「メッセージ」の内容はその時々で千差万別になるのだから、構成要素を特定することなどできない、と思った人は、ぜひこの第1部を読んでもらいたい。自分では論理的に話すこと、書くことを心がけているのに、自分の考えが思うように相手に伝わらない、と悩んでいるビジネスパーソンは少なくない。こうした方々に筆者はいつも、同じアドバイスを繰り返している。
「人に何かを伝えるときには、自分の言いたいことをどうまとめようか、どう話そうか、どう書こうか、などと考える前に、必ず課題(テーマ)と相手に期待する反応を確認しよう」と。

自分の考えを整理したり論理構成する前に、この2つの確認をすることが、論理的な伝え手になるための第一歩だ。第1部では、このポイントを「相手に伝える」とはどういうことかをひもときながら解説しよう。

第1章 相手に「伝える」ということ

1 「自分しか見えない病」「にわか読心術師症候群」にかかっていないか?

相手に自分の考えを伝え、相手に「うん」と言ってもらう、あるいは相手から何らかのアドバイスをもらい、自分の考えをさらに練りあげていく業種や職種を問わず、仕事は人とのコミュニケーションすなわち情報や考え、提案をやりとりすることの連続だ。
電子メールなどの情報通信技術の革新によって、情報が相手の手元に届くまでのスピードは圧倒的に速まっている。

しかし、問題は、あなたの考えや提案が相手の手元に届いた後なのだ。相手がそれらを読んだり聞いたりした後に、あなたの考えや提案が相手の頭の中に正しくインプットされ、思考回路の中で正しく理解されるまでの時間、そしてあなたが望む反応が出てくるまでの時間――これをいかに短縮できるかがビジネスの世界では勝負になる。この部分は、さしもの情報通信技術でもいかんともしがたい。伝える人のスキルにかかっているからだ。
すると、自分の言いたいこと、自分が重要だと考えていることを相手に理解してもらうためにはどうすればいいのだろうかと悩んでしまう。そして自分の言いたいことをうまくまとめるために、提案書や報告書を何度も書き直す、あるいは、言い回しやフォーマット、はたまたデザインや色使いなどに凝る、ということに走りがちだ。

実は、ここに相手に伝わらない最大の要因が潜んでいる。大事なことは「あなた」が言いたいことではない。「あなた」が大切だと思っていることでもない。それが、相手にとって、伝えられることが期待されている「メッセージ」になっているかどうかなのだ。
コンサルタントと話をしていると、よく「プロジェクトチームとして次回のミーティングでクライアントに言うべき内容がまとまらない」という話が出る。もし5人のチームであれば、言いたいと思うこと、
すなわち伝える側の「思いの丈」は、五人五様であろう。しかし、極論すれば、ビジネスにおいて、伝え手の「思いの丈」など、受け手にとってはどうでもいいことなのだ。

ここで、「そうか、自分ではなく相手のことを考えなければならないのか。そういえば、相手のことを考えなさい、と物心ついた頃から言われ続けたな」と気づけば立派なもの。しかし、相手について考えるとき、往々にして次のような落とし穴に陥りがちだ。

「午後は山田部長と打ち合わせだ。部長は英語がきらいだ。カタカナ表記を極力なくさなければ。お天気屋の部長には機嫌の悪いときに難しい案件の話は御法度だ。今日の様子を午前中に会議のあった総務部に聞いておこう」

確かに相手のことを考えてはいる。しかし、問題は、伝え手が相手である山田部長のことを考えるうちに、部長との打ち合わせのゴールを、無意識に「とりあえず部長のご機嫌を損ねることなく打ち合わせを終わらせること」にしてしまっていることだ。おそらくこの打ち合わせで、この施策をやろうとか、止めよう、といった事業上の大きな意思決定がなされることはないだろう。継続検討や様子見、といった無難 な線で収まるはずだ。しかし、そんな打ち合わせを繰り返したところで、物事は何も進まない。そもそもそのような打ち合わせをする必要があったのか、ということになってしまう。

悲しいかな私たちは心理学者でも読心術師でもない。
自分以外の人間の気分や好みを100%把握することは、しょせん無理だ。それどころか、「にわか読心術師」になりすまして相手によって表現やニュアンスを変えているうちに、いつの間にか中身までもが少しずつ変わってしまい、蓋を開けると「あっちとこっちで言っていることが違う」という事態になりかねない。これではビジネスの“いろは”ができていないことになってしまう。コミュニケーション・スペシャリストという仕事でさまざまな業界のいろいろな企業におじゃましてみると、伝える中身以前に、この「自分しか見えない病」や「にわか読心術師症候群」に陥っているビジネスパーソンの何と多いことか。
自分の考えを論理的に伝える第一歩。それは逆説的だが、「いきなり伝える中身について考えない」ことだ。

2 相手に伝えるべきメッセージとは

「私が申し上げたいことは」という口上から話し始める人がよくいる。しかし、大事なことは「私が申し上げたいこと」ではなく「私がいま答えるべき課題(テーマ)について相手に伝えるべきメッセージ」であることは前述の通りだ。
では、メッセージとは何か。メッセージとは、次の3つの要件を満たしているものだ。
まず、そのコミュニケーションにおいて答えるべき課題(テーマ)が明快であること。

第2に、その課題やテーマに対して必要な要素を満たした答えがあること。
そして第3に、そのコミュニケーションの後に、相手にどのように反応してもらいたいのか、つまり相手に期待する反応が明らかであることだ。
「課題」「答え」「相手に期待する反応」の3点セットが、本書で定義するメッセージである。「私が申し上げたいこと」は、3点セットの「答え」の部分にすぎない。これは裏返せば、自分がある文書を手にしたとき、あるいは人の話を聞いたとき、課題はこれで、それに対する相手の答えはこれで、自分にこれをして欲しいと言っているのだな、ということが自分の頭に明快に残るかどうか。これらをクリアしてはじめてメッセージと言える。

「自分しか見えない病」や「にわか読心術師症候群」に陥らないためには、常にこのメッセージの定義に戻り、1課題(テーマ)を確認する、2相手に期待する反応を確認する、という2つの確認作業をする
ことだ(図1-1)。

まず、そのコミュニケーションにおいて自分が相手に答えるべき課題は何なのか、を確認することだ。それは10分間の説明でも、1時間の商談でも、報告書や提案書、企画書を作るのでも同じこと。「自分がいま、相手に答えるべき『課題(テーマ)」は何だろう」と自問自答してみよう。あなたの考えがどんなに素晴らしいものであっても、「課題(テーマ)」がずれていては、相手の検討の俎上にのることすらできない。それが上司や本社から与えられた課題であっても、自ら設定した課題であっても同様だ。

ビジネスの現場で、そもそも課題をまったく誤って認識していた、ということはまれだろう。誰しも最初は正しい課題認識のもとに検討を進める。しかし、検討を進めるうちに、気になる発見やそれまで見えていなかった課題などが出てくると、そちらに注意が奪われ、いつの間にか自分の頭の中で課題のすり替えが起こってしまう。検討に熱が入れば入るほど、これは自然な成り行きだ。

例えば「案件Aの事業化に取り組むべきか」という課題について検討していたとしよう。すると、案件Aは事業化どころか、すでに事業化の前提となる既存の販売網に重大な問題があることが明らかになった。しかも事態は急を要する。すると、事の重要性ゆえに、いつの間にかあなたにとっての課題は「既存の販売網が抱える重大課題をいかに解決すべきか」にすり替わってしまう。たとえこの問題意識自体は正しく、案件Aよりも既存の販売網について優先的に議論すべきであったとしても、案件Aの事業化について議論すべく集まったメンバーに、いきなり「今日は事の重要性に鑑み、既存の販売網の現状と課題について議論します」とぶちあげたらどうだろう。課題が変わったこと、なぜそうする必要があったのかを明示しなければ、あなたの望む議論は始まらないだろう。課題が“あさって”では、せっかくの提言も“あさって”なものになってしまう。

文書を書く前、人に説明を始める前に、「今日の課題(テーマ)は何だったっけ?」「これから説明するのは○○という課題(テーマ)についてだな」と課題を確認することを習慣づけてもらいたい。いくら 自分が「これは重要です!」と力んでみても、相手がその課題を「いま検討するべき課題」と認識していなければ、議論の土俵にすら登れない。

昨今はやりの提案営業の難しさは、まさにここにある。引き合い営業の場合、顧客自身が何か不便を感じていたり、何かを改善するために商品やサービスを注文するので、誰よりも顧客自身が課題を明快に認識している。ところが、提案営業は、言ってみれば提案をする側が勝手に「これがお宅の課題です」と考え、その課題への解決策として自社の商品なりサービスなりを提案するわけだ。顧客の側が、たとえ潜在的であっても提案者と同じように問題を認識してくれれば御の字だ。しかし、まったく問題意識のない順客の場合、商品やサービスを提案する以前に、なぜそれが必要なのか、どういう問題があるのかを認識してもらうこと、言い換えれば、商品やサービスの必然性を示すために顧客がいまどのような課題に直面しているか、について共通認識を作ることが大前提となる。ここに思いを至らせることなくサービスや商品をいくら勧めても、色好い答えが返ってくることは期待薄だ。

「自分しか見えない病」にかかっている人は「私がいま言いたいこと、言うべきことは何だろう」と考える。まずはこれを改めよう。正しいアプローチは「自分がいま、相手に答えるべき「課題(テーマ)』は何だろう」と自問自答することだ。すると自然に、「その『課題(テーマ)」に対する自分の答えは何だろう」という問いに行き着くのだが、その前にもう1つ、確認すべきことがある。

◆確認2:相手に期待する反応を確認する
会議を持つとき、文書を作るとき、それによって相手にどのようにしてもらいたいのか、どんな反応を引き出したいのか、という期待成果のないコミュニケーションは「独白」でしかない。そして昨今、「独白」につきあう暇のある企業も人も少ないのではあるまいか。
ビジネスにおいて、相手に何かを伝えるという行為自体が目的となるケースはわずかだろう。伝えることによって相手に理解してもらったり、相手のニーズや意見を引き出したり、あるいは相手に何かのアクションをとってもらうなど、相手に何らかの「反応」をとってもらうことが最終目的であるはずだ。伝えることは手段であり目的ではない。
例えば、上司と30分のミーティングをするとしよう。自分が説明する事柄で頭が一杯でミーティングに臨む人と、30分後に上司が席を立つときに、「あなたの言ったA、B、Cという選択肢の中では、私はBがよいと思う。次にはコスト分析と関係部門へのヒアリングをやってみたらどうか」という上司自身の考えや指示を引き出そう、と考えてミーティングに臨む人とでは、ミーティングの成果は大きく異なるはずだ。また、顧客に15分間でサービスの説明をするとしよう。これまた、とにかく15分で説明しよう、と考える人と、15分後に顧客から「では、うちの会社だったら具体的にどんなサービスをどのように提供してくれるのか?」という質問を引き出せれば成功だ、と考えながら説明に臨む人とでは、説明の中身自体も変わってこよう。

コミュニケーションの後に、相手からどのような反応を引き出せれば、そのコミュニケーションは成功と言えるのか。この質問にあらかじめ答えを用意しておくことは、「自分しか見えない病」予防の処方箋でもある。
こう言うと、営業に携わっている方の中には、「営業活動の目的は常に、売上を上げることであり、顧客に期待する反応などいちいち考えるまでもない」と思われるかもしれない。しかし、1回目の営業活動で受注に至ることはまれだろう。そこで、あらかじめプランを練る。
例えば、まず1回目の訪問では、自分と自分の会社、商品を知ってもらうことを目標とする。「へえ、xx株式会社がこんな商品を出したのか。なかなか面白い商品だ」と商品に関心を持ってもらう。
そして、2回目の訪問時には、当社の新商品は従来からある他社の商品と何が違うのか、その顧客にとってこの新商品を使うことでどのような便益があるのかを理解してもらう。新商品の競合優位性を知ってもらい、自分にとってのベネフィットを理解してもらうことが目的だ。顧客はその商品を使うイメージをぐっと具体的に持つことができるだろう。
そして、3回目で強力に動機づける。期間限定のお得なプランを用意したり、実際にその商品を使っている顧客の声を聞かせたりして、「それなら使ってみようか」の一言を引き出す。
営業マンであれば、誰しもこの手の営業の計画を練るはずだ。3回の営業活動の最終目的自体は「買ってもらう」ということであっても、それぞれのコミュニケーションで顧客から引き出したい反応を事前に考えておけば、情報を詰め込みすぎて顧客を消化不良にしたり、顧客から押し売りと思われたり、という事態を避けることもできる。また、うまくいかなかったときの軌道修正も容易だ。逆に言えば、どのような相手にもどのような状況にも同じセールストークを呪文のように唱える人には 、「このコミュニケーションで顧客からどういう反応を引き出したいのか」という発想がないことが多い。ビジネスにおいて相手に期待する反応は、次の3つで捉えればよいだろう(図1-2)。

伝える内容を相手に正しく理解してもらった上で、知っておいてもらいたい場合。
業務連絡、事務連絡などは、ほぼこのケースにあてはまる。
(2)相手に「意見や助言、判断などをフィードバック」してもらう伝える内容を相手に正しく理解してもらった上で、相手がその内容についてどのように考えるのか、賛成なのか反対なのか、何か抜けている点はないのかなど、相手から判断や助言、感想などを投げ返してもらいたい場合。ヒアリングやテスト・マーケティングで顧客のニーズを引き出す場合などがこれにあたる。社内での会議や報告などでも該当するものは多いだろう。

照屋 華子 (著), 岡田 恵子 (著)
出版社: 東洋経済新報社 (2001/4/1)、出典:出版社HP