After GAFA 分散化する世界の未来地図

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「After GAFA」の世界がよくわかる

本書では、現在のTOP企業であるGAFAが岐路に立たされている状況を踏まえて、今後どのように展開していくのかを解説しています。GAFAの今後の展望というよりも、テクノロジーの分散化に焦点を当てて書かれた一冊です。

小林 弘人 (著)
出版社: KADOKAWA (2020/2/29)、出典:出版社HP

まえがき

「ツァイトガイスト」という言葉をご存じだろうか。「時代精神」という意味のドイツ 語で、特定の時代を特徴づける思想や理念のことを指す。本書は、とくに二〇一七年以 降から現在までのテクノロジー界や社会で起きている事象から、その「ツァイトガイス ト」を自分なりに読み解いてみたものだ。
まだインターネットとそれが実現する世界観が広く知られる前の一九九四年、私は 『WIRED(ワイアード)』という世界で最初にデジタルによる社会変革を報じる月刊 誌の日本版を創刊した。それ以来、それまで半導体産業が中心であったシリコンバレー の変貌ぶりはもちろん、世界がインターネットというテクノロジーによってどう進化し、 社会にどのような変化がもたらされたのか、という歴史を今日に至るまで、目撃してきた。

そしていま、この世界には密かな変革の波が訪れている。アメリカが主導してきたイ ンターネットテクノロジーと、その象徴であるGAFA(グーグル、アマゾン、フェイス ブック、アップル)という強者を擁する「ツァイトガイスト」が、岐路に差し掛かってい るのだ。テクノロジー楽観主義が覆っていたテキサス州オースティンで開催される世界的イベントSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)で、二〇一九年三月、GAFAへの 反発が顕在化したことは本書に記載している。フェイクニュースから情報漏洩、はては 「監視資本主義」といわれる統治と経済活動を含む資本主義のシステムのあり方にまで、 さまざまな議論や反対運動が世界各地で繰り広げられているのだ。
インターネットはその出自から「分散」に向かって進んできた。私がインターネット 勃興時に知った「サイファーパンク(暗号パンク)」という思想のコアは、国家権力や企 業から「暗号」によっていかに自由を守るか、というところにあった。しかしそこから 時代を経て、GAFAに代表される中央集権的なプラットフォーマーが登場し、彼らの おかげで私たちは多大な利便性を享受した一方、自由なはずのインターネットから「信 頼(トラスト)」が失われ、もてる者ともたざる者との経済および技術的な格差や、情報 の不均衡、思想の対立構造が広がりつつある。

GAFA的なビジネスモデルに抗う手段であり、インターネットに「信頼」を取り戻 せる可能性のある技術として、ブロックチェーンが存在する。日本ではいまだに仮想通 貨の基盤技術として認知され、「投機対象」と見なす向きもあるが、その本質は、中央 集権的な存在に頼ることなくシステムとしての「信頼」を担保できることにある。これ は、かつて「サイファーパンク」たちが夢見た世界そのものだ。
ブロックチェーンは期待に比して、誰もが体験できる社会実感が少ないので「幻滅 期」だといわれるが、その裏では巨大な胎動が起きている。足しげく欧米、アジアに足 を運んでいる私は、とくにヨーロッパとアジアのブロックチェーンコミュニティと交流 をもつなかで、日本も含め、かつてならGAFAで働いていてもおかしくない天才たち が、社会変革を進めていることを知った。

あるいは日本でも自治体と企業によるブロックチェーンの社会実装プログラムの開催 やプログラマ向けの勉強会を実施しているが、国内外では多くの実証実験が行なわれて いる。これらが花開くとき、私たちが生きるこの世界はどんなかたちになっているの か?
インターネットの歴史に学び、多くの新規事業を立ち上げ、スタートアップの育成支 援や大企業・自治体のインキュベーションを行なってきた身として、本書ではその未来 地図を描いてみたいと思う。
これから私たちが迎えるのは、「ビッグ・アンバンドル(大いなる解体)」という新しい 転換期だ。それは長く続き、いまよりもさらに混沌を肥やしとするだろう。いま語られ る「アンバンドル」はビジネスに関する話題が多いが、今後、それはライフスタイルや 働き方、社会のあり方にまで及ぶ。本書でその世界観と、裏側で駆動するテクノロジーのダイナミズムを知ってほしい。そして、読者の方のビジネスやライフスタイルに重ね てほしい。さらに、そうした世界観のなかで、日本はどうすべきか、ということにも目 を向けてみたいと思う。
誰もまだ見ぬ世界、しかしそれほど遠くはない世界の「ツァイトガイスト」として、 新しい議論を生み出す土壌に本書がなれるなら、筆者として望外の喜びだ。

小林 弘人 (著)
出版社: KADOKAWA (2020/2/29)、出典:出版社HP

目次

まえがき

第1章 「信頼」が失われたインターネット
ドイツでのキャンパス建設を諦めたグーグル
なぜSXSWは急に内省的になったのか
頓挫したアマゾンのNY第二本社建設計画
「GAF」に比べればアップルは無辜?
インターネット黎明期に存在した理想主義
シェアリングエコノミーの「シェア」を問う
一三億ドルを集めた「詐欺スタートアップ」
「エコーチェンバー」で思想の偏りが増幅される
ドットコムバブルと時価総額至上主義の誕生
消費者自らがコンテンツを生み出す時代へ
iPhoneが加速させた「リアルタイム化」
アメリカの国策がGAFAの巨大化を促した
プラットフォーム企業の「錬金術」とは?
世界を牛耳るテクノクラティック・エリート
私たちの時間を侵襲する「マイクロ遮断」

第2章 ブロックチェーンの本質を見誤るな
中央集権化と分散化を繰り返したIT技術
重要なのはブロックチェーン技術そのもの
「サイファーパンク」特集なる予言の書
「公開鍵暗号」こそ世紀のイノベーション
新たに開発された暗号ソフトウェア「PGP」
「反逆者」たちが不可欠な技術を生み出した
わずか九ページだけのサトシ・ナカモト論文
人間抜きで「信頼」が成立する仕組み
量子コンピュータの量子超越性について
イーサリアムとスマートコントラクトの衝撃
「サイファーパンク」の精神はまだ健在だ

第3章 After GAFAのビジネスモデル
大成功したチャレンジャーバンク「N26」
銀行がGAFAに勝っている部分とは?
デジタルIDは「次世代の身分証明書」
群雄割拠するヨーロッパのインシュアテック
保険に組み込まれるスマートコントラクト
分散型予測市場が新しいマーケットを拓く
dAppsで役所のサービスも一気に効率化?
あらゆるモノやコトが「証券化」される時代
ICOで大きく変わった資金調達の流れ
ブロックチェーンで未公開株の入手も
不動産業はもっとスマートなビジネスへ
高額商品のトレーサビリティにも力を発揮
音楽、アート業界もブロックチェーンで変わる
映画製作でのブロックチェーン活用例
なぜベルリン、香港、ツークが「熱い」のか

第4章 デジタルはすでにピークアウトした
幻滅期を迎えたブロックチェーン
「ゼロ知識証明」による情報の秘匿
標準化問題とインターオペラビリティ
エンドユーザー向けキラーアプリの不在
「デジタルのピークは二〇一七年だった」
「ポスト・デジタル」時代の価値を考える
「リバースエクスペリエンス」の重要性
「インターネット以前」に目を向けよう
リアル社会の構造がウェブに投影される?
人類は「分散化」に向かって進んできた
これからの最重要課題は「合意形成」
国家とコミュニティはどう変わっていくのか
「ワカンダ」事件はすでに起きた未来?

第5章 「オルタナティブな価値」のつくり方
現代社会は「なぜ?」こうなっているのか
中世まで存在しなかった「子ども」の概念
社会のフォーマットを「リフレーム」せよ
企業の存在意義が曖昧になっている理由
N26の理念は「世界で一番最初に愛される銀行」
明確なビジョンをもつヨーロッパの先端企業
ESG投資は新しいビジネスのガイドライン
哲学からテクノロジーを見直す機運の高まり
マルクスがブロックチェーンに出合っていたら
新しい『資本論』と称される「監視資本主義」
トークンエコノミーで互酬経済を「見える化」
ウェブを通じて個人に投資が行なわれる時代
プラットフォーマーにいま要求すべきこと

第6章 「重ねる革命」と日本の選択
日本企業のSXSWへの参加と課題
トレードショーから「イノベンション」へ
盲目的にシリコンバレー詣でを続ける日本
新規事業開発で刷新すべきはバックヤード
オムロン創業者の「SINIC理論」の凄さ
ドットコムバブル時代と異なるミレニアル世代
新家電「デリソフター」が誕生するまで
コミュニティを修復しようとする人たち
テンプレコピーキャットにもはや価値はない
「課題先進国」だから拓ける活路がある
「日本で最も美しい村」新庄村の挑戦
無数にあるオルタナティブな生き方のヒント
テクノロジーで「食品ロス」は撲滅できるか
価値のインターネットと「重ねる革命」

あとがき

小林 弘人 (著)
出版社: KADOKAWA (2020/2/29)、出典:出版社HP