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【最新】発達心理学を学ぶおすすめ本 – 独学もできる入門から
生涯にわたる心の発達がこの1冊でわかる
問いからはじめる、とタイトルに有るように各章に問が設定されていて、この構成によってストーリーを持たせるようになっているので理解がしやすくなっています。これまで専門の勉強をしていない、子どもの発達に興味のある保護者などが読んでも理解できるでしょう。一冊で簡単に概要がつかめる良書です。
はしがき
生涯発達心理学の授業を受け持つようになってから、約15年が経ちました。その間、学生とやりとりをする中で、いくつかの変化を感じ取ってきました。1つ目は、幼い子どもに興味や関心をもつ学生がかつてよりも減り、将来の子育てへの不安を表す学生が増えたこと、2つ目は,高齢者や介護の問題に関心をもつ学生が増えたこと、3つ目は、前向きではありながら、将来への漠然とした不安を訴える学生が増えたことです(あくまで私の個人的な印象です)。
幼い子どもに興味や関心をもつ学生が減り,高齢者に関心をもつ学生が増えた背景には、実生活の中で子どもに接することが少なくなったと同時に,街中で高齢の方を見かけたり、自分の親が祖父母の介護をする姿を見たりすることが増えたことなどがあるのでしょう。また,多様な生き方が認められるようになった現代では、自己責任のもとに1つの選択肢を選ぶということが、かつてよりも大変な作業になっているのかもしれません。いまはさまざまな情報が簡単に手に入り,自分であちこちに足を運ばなくても、部屋にいながらにしてある程度の情報は得ることができます。しかし、そこに実体験が伴っていなければ,また,実体験を通して得られた手応えや自信がなければ、どんなに多くの情報があったとしても、漠然とした不安が残るのは当然のことだといえるでしょう。「知らない」「わからない」ということはしばしば、人に不安を引き起こします。
幼い子の世話をしたことがない学生が,将来の子育てに不安を感じるのは 無理もありません。しかし、身近にいる幼い子どもに意識をして注意を向け、子どもがなぜそのような行動をとるのかを考えたり,自分が実際に見た子どもの行動と研究知見とを照らしてみたりすると、「子どもっておもしろいかも。将来,自分でも子どもを育ててみたい」と思う学生は少なくないようです。また、子どもから大人になっていくときに、人はこんなことを考えたり、こんなことに悩んだりする、という知見にふれたり、学生同士で将来について話し合ってみたりすると、少なからぬ学生が「こんなことを思っていたのは、自分だけではなかったんだ」と安堵の気持ちをもつようです。
私たちの多くは、似たような変化を経験し,発達していきます。私たちの発達には共通性があるからこそ、同世代の仲間と興味や関心,悩みを共有することができるのだといえます。また、少し先を行く世代の人は、多くの人がそうした悩みを乗り越えていくことを体験的に知っているからこそ、自分よりも若い世代の人に寄り添い、支えていくことができるのです。また、若い世代の人は、先を行く世代の人が過去にそうした悩みを乗り越え、いまはその年代ならではの悩みや問題に向き合っていることを知ることで、自分を支えてくれた人への感謝や尊敬の念をもつようになるのでしょう。一方で、私たちの発達には共通性だけではなく、個別性もあります。一人ひとりが生まれもった資質は異なることに加え、発達上のある状態に至るまで、どのような人に出会い、どのような経験をしてきたのかは、人によって実にさまざまです。その人が出会う一人ひとりの人や、1つひとつの出来事が,その人の発達を形づくっていくのだといえます。
この本では、発達とはどのような現象であるのか,また,人は一生涯を通して、どのようなメカニズムのもとに,どのような発達を遂げていくのかを扱っています。本の中では,「この時期にはこのような変化が起こる」という発達の共通性の記述に紙面の多くを費やしていますが,発達の共通性を実体験をもとに確かめることに加え,発達の個別性について知るためにも、自分自身の育 ちを振りかえってみたり、身近な人たちと話をしたり、周りの人たちを観察してみて下さい。そのためのツールとして、各章にはQUESTION(クエスチョン)を設けてあります。ぜひ、いろいろな人たちとQUESTIONの答えを分かち合って、発達についての見方を広げ、考えを深めていってほしいと思います。
最後に、筆者ら4人は、心理学を学びたい学生や教職を目指したり教職についていたりする学生、福祉の仕事を志している学生など、異なる志望をもつ学生を対象に、異なる地域の大学で教鞭をとっています。また、異なる年代。人たちを対象に、研究や支援の仕事をしています。この本を作成するにあたって、これまで教育や研究,支援の場で関わってきたたくさんの人たちを思い浮かべながら、人の育ちや発達についてどんなことを伝えたいか、どんなことを知っておいてほしいかを4人で考え、何度もミーティングを重ねてきました。
そのような意味ではこの本の章すべてに,筆者ら全員の思いがこめられています。本書が,学問としての知識を得るためだけでなく、あなた自身やあなたの周りの人を理解し,あなたのこれからの歩みを考える手がかりの1つとなってくれれば,筆者としてはこれほど嬉しいことはありません。
筆者らもまた、人として、職業人として発達途上にあり,本書の作成を通して得られた理解や発見がたくさんありました。今回,このような機会を設けてくださり、出版に至るまで細やかなサポートをしてくださった有斐閣の中村さやかさんに,深く感謝いたします。
2014年11月
著者を代表して 坂上 裕子
インフォメーション
●各章のツール
各章には、KEYWORDS, QUESTION, POINT が収録されており,適宜Column.comment が挿入されています。
・本文中の重要な語句および基本的な用語を、本文中では太字(ゴシック
体)にし、章の冒頭には KEYWORDS 一覧にして示しています。
・本文中に、学びのスイッチを入れるツールとして、「考えてみよう」「やってみよう」と読者へ問いかけるQUESTIONを設けています。自分のことを想像したり、振りかえったり、身近な人たちと話をしたり、周りの人たちを観察したりしてみてください。
・章末には、各章の要点をわかりやすく簡潔にまとめたPOINT が用意されています。
・また、本文の内容に関連したテーマを、読み切り形式でColumn として適宜解説しています。
・本文中で右上に★印をつけている文や用語については、より理解を深めるための補足情報を,comment として該当頁の下部で解説しています。
●索引
巻末に、索引を精選して用意しました。より効果的な学習に役立ててください。
●ウェブサポートページ
本書を利用した学習をサポートする資料を提供していきます。 http://www.yunikaku.co.jp/static/studia ws/index.html
著者紹介
坂上 裕子(さかがみ ひろこ) 担当序, 第1,2,4,5,6章,13章(共同執筆)
青山学院大学教育人間科学部准教授
主著
『大学1・2年生のためのすぐわかる心理学』(共著)東京図書,2012年。
『はじめての質的研究法——生涯発達編』(共編)東京図書,2007年。
『子どもの反抗期における母親の発達――歩行開始期の母子の共変化過程』風間書房,2005年。
読者へのメッセージ
私たちは皆、それぞれが、それぞれの年代の発達上の課題に向き合いながら、生活を共にし、日々を積み重ねています。このテキストが、あなた自身のことを、そして、あなたにとって大切な人たち、あなたの身近にいる人たちを理解するうえで,役に立つことを願っています。
山口智子(やまぐち さとこ) 担当第11,12章,13章(共同執筆)
日本福祉大学子ども発達学部教授
主著
『老いのこころと寄り添うこころ介護職・対人援助職のための心理学』改訂版(編著)遠見書房,2017年。
『働く人びとのこころとケア介護職・対人援助職のための心理学』(編著)遠見書房,2014年。
『人生の語りの発達臨床心理』ナカニシヤ出版,2004年。
読者へのメッセージ
発達心理学は、自己理解を深めるだけでなく、臨床実践にも役立ちます。特に,発達の時期や道筋の理解、今ここでの交流を楽しむ姿勢,発達を期待するまなざし、発達を促す環境づくりが重要です。また,私の研究テーマ「青年や高齢者は、自己や人生をとのように語るのか」は、大学生のときに感じた「なぜカウンセリングで話すとよくなるのか」という問いとつながっています。20歳前後に見つけた問いは貴重な問いです。この本を、あなたの問いの発見にも役立ててほしいと思います。
林 創(はやし はじむ) 担当第3,7,8章
神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授
主著
『子どもの社会的な心の発達コミュニケーションのめばえと深まり』金子書房, 2016年。
『他者とかかわる心の発達心理学―子どもの社会性はどのように育つか』(共編著)金子書房,2012年。
『大学生のためのリサーチリテラシー入門―研究のための8つの力』(共著)ミネルヴァ書房,2011年。
読者へのメッセージ
人の心の働きは,その発達の様子を知ることで、ますますおもしろくなります。各章に設けられた問いを考え、このテキストを読み終えた頃には、「子どもはこんなふうに考えるんだ」「青年や高齢者にはこんな特徴があるんだ」といったように,「世の中の見え方」や「ヒトに対する感じ方」が変化していることにきっと驚かれることでしょう。このテキストによって,さらに発達心理学に関心を深めていただけると嬉しいです。
中間 玲子(なかま れいこ) 担当 第9,10章 兵庫教育大学大学院学校教育研究科教授
主著
『自己の心理学を学ぶ人のために』(分担執筆)世界思想社,2012年。
『自己形成の心理学』風間書房,2007年。
『あなたとわたしはどう違う?パーソナリティ心理学 入門講義』(共著)ナカニシヤ出版,2007年。
読者へのメッセージ
自分がどんな人間なのか、どのように生きていけばいいのか。そんなことを考えるとき、ちょっと広い視点に立ってみると、違った世界が見えてきます。ヒトであることの不思議,この時代・社会に生まれた不思議。その不思議の中で、いろんな人と出会い、経験し、そしてこういう自分になってきたという事実。自分が生きているということの醍醐味を味わうヒントになれば幸いです。
目次
はしがき
CHAPTER 0 ヒトとして生まれ、人として生きる
人の生涯をめぐる普遍的な営みと今日的課題
本書の概 要と構成
発達段階と発達課題
本書を手にしたあなたへ
CHAPTER 1 発達するとはどういうことか
1 発達観の変化
発達のゴールとしての大人
寿命の伸長とライフサイクルの変化
発達するのは子どもだけか?
求められる新たな発達観
2 生涯発達心理学の理論的枠組み
獲得と喪失としての発達
発達の多次元性・多方向性
多様な要因の相互作用の結果としての発達
発達の可塑性
歴史に埋め込まれた個人の発達
3 進化の産物としてのヒトの発達
大きな脳
他者の心を理解すること、自己を反省的に見ること
長い子ども期と高齢期の存在
4 社会や文化の産物としての発達
遺伝と環境生まれは育ちを通して
遺伝情報が発現するメカニズム
形質の個人差は何によって説明されるのか
CHAPTER 2 生命の芽生えから誕生まで
1 生命の芽生え一受胎から胎芽まで
胎児にとっての環境としての母体
2 胎児はお腹の中で何をしているのか
活発に動く胎児
五感の発達
胎児は感情を経験している?
胎児期からはじまる親子のコミュニケーション
母親は胎児の存在をどう感じているのか
母子の共同作業としての出産
4 出生をめぐる現代的な問題――出生前診断をめぐって
出生前診断とは
晩産化と新型出生前診断
CHAPTER 3 見て・さわって・感じる 赤ちゃんがとらえる世界
1 ピアジェの発達段階
ピアジェの発達理論
4つの発達段階
2 赤ちゃんは世界を知っている?
感覚運動期の発達
表象の発達と物理的世界の把握
数の理解
3 社会性の萌芽
顔の認知
社会性の発達
Column 赤ちゃんの心を調べる方法
CHAPTER 4 他者との関係性を築く コミュニケーションと人間関係の発達
1 他者からの関わりを引き出す生物学的基盤
2 乳児一養育者間の初期コミュニケーション
泣きと微笑み
コミュニケーションの担い手になる
心の理解を支える養育者の関わり
3 コミュニケーションの中で育まれるもの−アタッチメントの発達
アタッチメントとは
アタッチメントの発達
安全基地としての養育者
アタッチメントの個人差
アタッチメントの個人差の起源
発達早期におけるアタッチメントの連続性と影響
4 多様な関係が支える発達
さまざまな人間関係の中で育つ子ども
発達の可塑性
CHAPTER 5 「いま」「ここ」をこえて 言語と遊びの発達
1 内的世界を支える表象と象徴機能
表象と象徴機能の出現
シンボルの使用と世界の広がり
シンボルとしての言語の特徴
2 言葉が芽生えるまで
音声知覚と構音の発達
注意や意図の理解の発達
共同注視から共同注意へ
共同注意から話し言葉へ
3 幼児期の言語発達
初語の出現
語彙の発達
統語の発達
談話(ディスコース)の発達
読み書きへの関心
行動調整,思考の道具としての言葉へ−外言と内言
4 遊びが広げる子どもの世界
遊びとは
遊びの発達
遊びにおける仲間との関わり
言葉と遊びを育てるために
CHAPTER 6 自分を知り、自分らしさを築く 関わりの中で育まれる自己
1 自己のさまざまな側面
2 主体としての自己を知る
自己感覚の芽生え
自他の意図への気づきと,意図の共有と対立
3 客体として自己をとらえる
客体的自己の認識
第1次反抗期のはじまり
自己意識的感情の出現
4 幼児は自己をどうとらえているのか
自己の経験を語ること
概念的自己(自己概念)の発達
拡張自己の発達
5 自己制御の発達
自己制御とは
自己制御の発達とその文化差
自己制御の個人差
CHAPTER 7 関わりあって育つ 仲間の中での育ち
1 心の状態の理解
感情の理解
欲求や信念の理解
誤信念課題
2 心の理論にもとづく社会性の発達
うそと欺き
洗練されたうそ
道徳的判断
共感性と向社会的行動
実行機能の発達
3 仲間の中での育ち
仲間関係
妬みと関係性攻撃
CHAPTER 8 思考の深まり 学校での学び
1 子どもと学校
前操作期の思考の特徴
具体的操作期の思考の特徴
形式的操作期の思考の特徴
移行期のつまずきやすさと質的飛躍
学習行動と学習支援
2 記憶の発達
記憶のしくみ
ワーキングメモリ
長期記憶
3 動機づけ
内発的動機づけと外発的動機づけ
動機づけを高めるには
4 思考の深まり
メタ認知を育む
Column 領域固有性
CHAPTER 9 子どもからの卒業
1 青年期の発達的変化
2 自己に関わる認知の変化
自己理解の発達
時間的展望の発達
自己への否定的感情の高まり
青年期の自己中心性
3 青年期の友人関係
友人関係の発達
友人関係と自己形成
友人関係に伴う不安
友人関係のチャンネルの変化
4 青年期の恋愛関係
友人関係から恋愛関係へ
青年期の恋愛の特質
恋愛関係が親子関係に与える影響
5 青年期の親子関係
親子関係の時代的変化
コミュニケーションによる親子関係の発達
Column 青年期の自我体験
CHAPTER 10 大人になるために
1 成人期のはじまり
2 アイデンティティの発達
アイデンティティの感覚
アイデンティティ地位
生涯にわたるアイデンティティ発達
アイデ ンティティ発達の二重構造モデル
3 職業選択とキャリア発達
現代社会における職業生活の様相
「やりたいこと」へ のこだわり
主体性を強制される時代
職業キャリアにおける性差の問題
4 家庭生活における発達
結婚という選択
結婚後のライフコース
ライフコース選択に関する意識の実態
男性の家事参加と夫婦関係
性役割観の形成
5 成人期を生きるということ
Column 職業選択の重視点
CHAPTER 11 関わりの中で成熟する
1 世代性と人生の折り返しの危機
2 職業生活における発達
キャリア発達
メンタリング−先輩に育てられ後進を育てる関わり
女性の職業生活
3 親としての発達
親になること――「授かる」から「つくる」へ
親になる準備と子育て初期
子育てによる親の成長
子どもの自立を援助する難しさ
子育ての卒業と夫婦関係の見直し
子育て不安と専業主婦による子育ての見直し
4 老親の介護や看取りにおける発達
「老親扶養」の意識変化
介護ストレス
介護・看取りによる成長
5 ジェネレイショナル・ケアの担い手としての成熟
Column アロマザリング−比較行動学における子育て
CHAPTER 12 人生を振りかえる
1 老いるとはどういうことか
加齢についての理解とエイジズム
生物学的加齢と心理的加齢の関連―心理的加齢モデル
2 認知機能の加齢変化
記憶
知能
認知機能の低下を補償する方略と熟達化
認知機能の低下に対する予防的介入
知恵
3 パーソナリティの発達
人生の振りかえり
超高齢期の課題と老年的超越
人生の意味づけの変容過程
4 発達を支える家族や社会のネットワーク
サクセスフル・エイジングと生きがい
家族関係
ソーシャル・ネットワークとコンボイ・モデル
5 高齢者の死生観と死をめぐる問題
終末期の死のプロセス−キューブラー・ロスの理論
日本の高齢者の死生観と「お迎え」体験
延命治療と尊厳死−超高齢社会を生きる
Column バトラーの提言−プロダクティヴ・エイジングと長寿革命
CHAPTER 13 発達は十人十色 発達におけるつまずきをどう理解し支えるか
1 発達におけるつまずき−発達を理解することの重要性
2 発達障害
発達障害(神経発達症)とは
発達障害への支援
3 児童虐待とアタッチメントの障害
虐待を引き起こす背景―リスク要因とプロテクト要因
虐待による子どもへの影響
4 長い時間軸から見たつまずきと可塑性
乳幼児期
児童期・青年期
成人期
5 つまずきの背景にある時代や文化
生活環境が激変する時代を生きる
文化の影響−性同一性障害から性別違和へ
6 つまずきの理解と支援に求められる発達的観点
生物・心理・社会的側面から総合的につまずきをとらえる
時間的・発生的な過程に位置づけて、つまずきをとらえる
障害や問題を内包する存在として、社会の中で生きる
事項索引
人命索引
本書のコピー,スキャン、デジタル化等の無断複製は著作権法上での例外を除き禁じられています。本書を代行業者等の第三者に依頼してスキャンやデジタル化することは、たとえ個人や家庭内での利用でも著作権法違反です。
CHAPTER 序章 ヒトとして生まれ,人として生きる
KEYWORDS
時代、社会、生涯発達生物学的要因(遺伝)、環境的要因、個人差、遺伝と環境の相互作用、発達段階、エリクソン、危機、発達課題
QUESTION 0-1
あなたはこれまでどのようなことを経験し、どのようなことに悩み、それを乗り越え、育ってきたのだろうか。また、これからの人生において、どのようなことがあなたを待ち受けているだろうか。
QUESTION 0-2
あなたの父母や祖父母などまわりの年配の人に、どのような子ども時代、青年時代を送っていたのか、また、いまの自分と同じ歳の頃にどのような毎日を送り、どのようなことを考えて生活していたのか、話を聞いてみよう。
人の生涯をめぐる普遍的な営みと今日的課題
少子高齢化が進行する昨今、日本では、出産・子育てや子どもの育ち,男女の働き方、老いや看取りなど、人の生涯を取り巻く社会的状況は大きく変化している。これと並行して、人生の節目となるさまざまな出来事(結婚,就職,出産,子育てなど)をいつ、どのように経験するのか(あるいはしないのか)も変化し、多様になってきたといえる。
現代の青年の親世代が育った1970年代,日本では第2次ベビーブームを加え、小学校が次々と増設されていった。子どもたちは道路や空き地で群れ,小学校の中学年にもなると「ギャング」と呼ばれる同性・同年代の仲間で構成される集団を形成し、大人の監視から外れたところで子ども独自の文化を築いていた。また、中学校や高校での校内暴力、暴走族などが社会問題となり,若者の憧れであったミュージシャンが書く詞には、大人や社会への反発の言葉が綴られていた。高校や大学卒業後,企業などに就職した女性は、数年間の勤務を経た後、寿退社(結婚を機に会社を辞め家庭に入ること)し、専業主婦になるのが一般的であった。当時のトレンディドラマでは、郊外のマイホームへの憧れや、大家族の中での葛藤,嫁姑の確執がしばしば描かれていた。しかし、21世紀においては、出生率の低迷と子ども数の減少、三間(子ども が遊ぶ時間、空間,仲間の3つの「間」)の欠如,青年における反抗の希薄化,非婚というライフコースを選択する(あるいはそうした選択を余儀なくされる)男女の増加,晩婚化と晩産化,単身高齢者世帯の増加などが報告され、かつては想像できなかった事態が日本社会では進行している。2010年の国勢調査では,世帯構成のうち、これまでもっとも多い割合を占めてきた夫婦と子どもからなる世帯の数を,単身世帯数がはじめて上回った。これらの現象は、個としての意思や生き方が尊重される方向へと、人びとの価値観や社会が変化してきたことの現れともいえよう。同時にこれは、同世代,異世代の人たちが同じ時間,空間で体験を直接的に共有し、密に関わりながら生活することへの忌避が高まっていることを示唆しているともいえる。
このように人の生涯のありようは、時代や社会の影響を多分に受けている一方では、時代や社会の変化にかかわらず、普遍的なことも存在する。それ人はたった1人では生まれることも、生きていくこともできない、という。である。私たちの大多数が、家族という集団のもとに生まれ、長じるとさまざまな社会集団に所属し、さまざまな人たちと出会い、支え合いながら育ち、育てられていく。そしてやがては次の世代を生み、育て、人生の最期を迎える。