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【最新】発達心理学を学ぶおすすめ本 – 独学もできる入門から
保育・教育において必要な知識が身に付く
愛着、感覚運動といった基礎的な概念を、ものすごくわかりやすく短い文章で紹介してくれる、入門に最適な1冊です。子供のいない人でも自分自身の過去を振り返り、未来を見据えるヒントが何かしら得られるはずです。各章ごとに、さらに発展的に学びたい人向けの参考書と、引用文献の記載がある点も素晴らしく、信頼できる手引書です。
編集委員 齋藤慈子 浅田晃佑 野嵜茉莉
Introduction to Developmental Psychology Kazuo HIRAKI and Atsuko SAITO, Editors
University of Tokyo Press, 2018
ISBN 978-4-13-012113-2
はじめに
発達心理学には二つの側面がある.一つは、人間の発達的変化において基盤となるメカニズムを明らかにする基礎科学としての側面である.人間の発達を,認知・行動レベルで精緻に記述し,基礎的理論を構築することは、ダイナミックに変化する脳機能をとらえるために必要不可欠である.発展著しい神経科学・脳科学の研究とも密接に関連し,世界中の研究者が人間の発達過程に関心を寄せている。
発達心理学のもう一つの側面は、胎児から高齢者に至るまでの生活の質(QOL:Quality of Life)を高めるための実践的側面である。われわれは,家族形態の変化や、スマートフォン・IT機器・コンピュータネットワークといった技術の急速な発展に見られるように、激動の時代に生きている。旧来から信じられてきた保育・教育理論はこうした現状に対応できるのだろうか、新たな保育・教育法を考える時期にあるのではないか、
われわれの生活をより豊かにし、安心で安全に暮らせる世界を維持していくためには、上述した発達心理学の科学的側面と実践的側面の両方について理解する研究者や保育者・教師を育成することが必須である、実践的側面を知らない基礎研究は浮き世離れした無意味な活動となり,しっかりとした科学的知見を基盤としない実践は無謀な活動となる危険がある。
編者の1人である齋藤は,保育士・幼稚園教諭(保育者),小学校教諭をめざす大学1年生を対象に,発達心理学の授業を行ってきた。学生からは教科書があるとうれしいという声をもらっていたが,配布資料を作成して対応してきた。その理由は、以下に述べるように,適当と思えるテキストに出会えなかったからである。
まず,発達心理学(発達科学)に関するテキストは、名著と呼ばれるものが多数出版されている。しかし,こういったテキストは、心理学の基礎を学んできた学生が,さらに発達心理学という分野を深めるために作られ、多く,心理学を専門としない保育者あるいは教師志望の学生にとっては難しすぎると思われた。また、心理学専攻の学生向けに作られているテキストには保護者や教師が必要とする情報(具体的な子どもの支援に関する内容など)が含まれていないことが多かった。
一方、保育者向けのテキストは,子どもの支援を重視した内容になっている。が、実践的に確立された内容が中心で,発達心理学の最新の知見を含んだものが少ない、保育者や教師志望の学生にとって発達心理学は必修科目であるため、外発的動機づけ(第12章参照)によって学習しているような傾向がある。このような学生に発達心理学のおもしろさを伝えるには,しっかりと方法論を理解してもらった上で、最新の知見を盛り込む必要があると感じた。そういった点では既刊の保育者向けテキストでは物足りなかった。
そこで、発達心理学の基礎や保育者・教師が押さえるべき内容から、心理学の方法論の基礎,最新の知見までを網羅したわかりやすいテキストが作れないかと思い、東京大学出版会の小室まどかさんに相談したのが本書出版のきっかけである.その後,研究仲間でもあり,同じく保育士や教師の養成系の学部で教えている浅田晃佑さん・野嵜茉莉さんを編集委員に迎えて、どのような構成や内容にしたら学生に伝わりやすいか,ふさわしい執筆者はどなたかなどについて、いろいろと知恵を絞ってできたのが本書である.
本書は心理学を専門としない保育士・幼稚園教諭,小学校教諭をめざす学生をメインの対象とした教科書である。保育士養成課程,教職課程の要件を満たしつつ、発達心理学の基礎が学べるものとした、平成31年度からの教育職員免許法・同施行規則の改正により,教職課程のカリキュラムが変更された。それに合わせる形で、保育士養成課程の見直しも行われ、教科目の教授内容も変更される。教職課程カリキュラムでは、特別支援の重要性が増す中で、これまでは、各科目に含まれることが必要な事項として、「幼児,児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程(障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程を含む.)」というくくりであったものが,「幼児,児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」と「特別の支援を必要とする幼児,児童及び生徒に 対する理解」という二つの項目に分離して設定されるようになった.本書の第 13章・第14章は「特別の支援を必要とする幼児,児童及び生徒に対する理解」 に対応した内容に,他の章は「幼児,児童及び生徒の心身の発達及び学習の過 程」に該当する内容となっている。発達障害(第 13章)や心と行動の問題(第 14章)は、発達心理学の内容と密接にかかわっているため,合わせて1冊とすることで、「幼児,児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」の理解の助けになると期待している。
保育士養成課程では,これまで「保育の心理学I」「保育の心理学 II」であった心理関連科目の内容が「子どもの保健の一部や「家庭支援論」の一 部の内容と合わさって,新たに「保育の心理学」「子ども家庭支援の心理学」 「子どもの理解と援助」という3科目に再編された。本書の主な内容は「保育の心理学」に該当するが、乳幼児期から老年期までの生涯発達や初期経験の重要性(第3~16章), 発達課題(第3章),心と行動の問題(第14章)は「子ども家庭支援の心理学」に,発達障害(第13章)は「子どもの理解と援助」に関連する.本書の内容は、隣接科目と結びつけて,学習促進に役立つことが 期待される。ちなみに、本文中のキーワード(ゴシック体で表示)は保育士試験の頻出語句が中心であるため、試験対策にも活用していただけるようになっている。
本書の執筆者の方々は、発達心理学の第一線で研究を行っている気鋭の若手研究者たちである。各章に併設した「コラム」では、執筆者自身の研究あるいは関連する最新の研究(方法)が紹介されている。「コラム」は、心理学への理解や関心をより深める助けとなるであろう
執筆者には、なるべく平易な表現で,かつ最新の知見を,という難題を依頼したが,本書のコンセプトを十分ご理解いただき、これまでにないテキストに仕上がったと喜んでいる。保育者や教師志望者だけでなく、教養として発達心理学を学ぶ学生や心理学を専攻する学生にとっても,読みごたえのある内容になった。子どもにかかわるすべての人に知っておいてもらいたい基礎知識から、最新の発達心理学の成果までを1冊にまとめた本書はまた子育て中の親御さんたちや,保育者や教師としてすでに現場で活躍している方々にも楽しんで読め,参考にしてもらえるものとなっている。
第1章では、発達心理学への導入として、発達のとらえ方,発達に影響を える環境のとらえ方発達心理学の研究法について説明した。第2章,第3音 では、発達にかかわる要因(遺伝と環境),生涯発達の視点についてより詳しく解説する。第4章では胎児期・周産期の発達について概観する。第5章から第11章までは主に乳幼児期の発達について,各心理学的領域における発達を 見ていく。第12章では,学習の理論を,第13章,第14章では,前述のように支援が必要な、いわゆる「気になる子ども、行動」について発達障害と心の 問題を扱う。第15章,第16章では、学童期以降の発達を概観する。 発達心理 学の基本的な内容を押さえている上,おおよそ1章を1回の授業で行えば,15 回程度の授業で消化できる構成となっているため、講義のテキストとしても使 いやすい、構成からわかるように、本書は乳幼児期を中心とした内容となっているが,生涯にわたる発達を見通す一助になると思われる。
最後に,東京大学出版会の小室さんに感謝の意を表したい。相談から刊行まで1年という短期間で本書を出版できたのは、小室さんの力量の賜物である.ここに改めて敬意を表したい。
2017年12月
編者 開一夫・齋藤慈子
目次
はじめに
第1部
発達のとらえ方
第1章 発達心理学とは
1 発達とは
2 発達に影響を与える要因としての環境のとらえ方
3 発達心理学の研究法
第2章 遺伝と環境
1 生まれも育ちも(Nature & Nurture)
2 環境優位説
3 成熟優位説
4 遺伝と環境の相互作用
第3章 生涯発達の視点
1 初期経験の重要性
2 生涯発達のとらえ方
3 生涯にわたる発達段階理論
4 発達課題
5 発達段階や発達課題の時代による変化
第2部
乳幼児期の発達をくわしく知る
第4章 胎児期・周産期
1 出生前の発達
2 出生後の発達
3 意識のめばえ
4 胎児期の母体からの影響
5 産後の母親の心理的問題
第5章 感覚・運動の発達
1 新生児や乳児の感覚を調べる方法
2感覚の発達
3 身体感覚を伴う多様な経験と環境の相互作用
4 運動機能の発達
第6章 愛着の発達
1 愛着の重要性
2 愛着の発達段階
3 愛着の個人差
4 愛着の発達不全
5 愛着対象は母親のみか
第7章 自己と感情の発達
1 感情の分化と発達
2 自己意識の発達
3自己抑制
4 自律性・自主性・主体性
5 自尊心
第8章 認知の発達
1 認知とは
2 ピアジェの認知発達理論
3 乳児期の認知
4 幼児期の認知
5 発達の領域固有性
第9章 言語の発達
1 音声の発達
2 語彙の発達
3 文法の発達
4 言語と思考
第10章 社会性・道徳性の発達
1 発達早期の社会性
2 社会性の発達
3心の理論の発達
4 道徳性の発達
第11章 遊び・仲間関係
1 遊びとは何か
2 乳幼児期の仲間関係
3 学童期以降の仲間関係
第3部
発達を支える
第12章 学習の理論
1 学習とは
2 古典的条件づけ
3 オペラント条件づけ
4 認知的学習
5 動機づけ
第13章 障害と支援
1 発達障害とは
2 アセスメント
3支援
第14章 心と行動の問題および児童虐待
1 子どもの「気になる」行動
2 心と行動の問題——乳幼児期から学童期に見られる症状
3 心身症と登校に関連する問題
4 心と行動の問題――思春期・青年期以降に見られる症状
5 児童虐待の予防と対策
6 子どもの心と行動の問題への対応
第4部
学童期以降の発達を概観する
第15章 学童期~青年期
1 学童期の認知発達
2 学童期の社会的かかわり
3 発達の連続性と就学の支援
4 青年期の身体的・認知的発達
5 親・友人との関係
6 アイデンティティ
第16章 成人期~老年期
1 前成人期とは
2 中年期とは
3 老年期とは
●コラム
コラム1女に育てたから女になるのか?
コラム2虐待の要因を探るサルの里子実験
コラム 3 早産児の認知発達
コラム 4 妊娠中の母親の食事と胎児の味覚的嗜好
コラム 5 風船を持たせることによる乳幼児の歩行支援
コラム 6 各愛着タイプのその後
コラム7 空想の友達
コラム 8 赤ちゃんも計算ができる?
コラム9 統語的手がかりを用いた動詞学習
コラム10 ヒトの視線のパワー
コラム11 乳児期の道徳性の発達
コラム12 きょうだい関係の役割
コラム13 生活習慣の獲得
コラム14 神経多様性
コラム15 遊びに現れる子どもの心
コラム16 子どもの嘘への対応
コラム17日本人の宗教性とアイデンティティ
コラム18 サルのサクセスフルエイジング?おばあちゃんザルの知恵
人名索引
事項索引
本文イラスト: SUNNY.FORMMART/向井勝明