コロナ後の世界を語る 現代の知性たちの視線

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コロナ禍の今後を考える

新型コロナウイルスは瞬く間に地球上に広まり、いまだに収束が見えません。先行きが不透明なこの時代とどのように向き合えば良いのか不安に感じている人も多いでしょう。本書は、世界の第一線に立つ知識人が示す多様な視点を集め、今後の世界について考える一助となることを期待して書かれた一冊です。

養老孟司 (著), ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 福岡伸一 (著), ブレイディ みかこ (著), 朝日新聞社 (編集)
出版社 : 朝日新聞出版 (2020/8/11)、出典:出版社HP

まえがき

朝日新聞の東京本社は、豊洲へと移転した築地市場の跡地のすぐ隣にある。本来ならば、今頃、跡地は東京五輪・パラリンピックの車両基地として、多数のバスや車が連なり、世界各国から詰めかけた関係者でさぞかし華やいでいたことだろう。選手村の予定はすぐ近くだ。
だが、今、がらんと、のっぺらぼうになった跡地に人影はない。つい先日まで、夜になると、窓からは東京アラートで赤く照らされたレインボーブリッジが見えていた。インバウンドで賑わっていた築地場外は、シャッターを下ろしている店も少なくない。今年の初め、この閑散とした夏を誰が想像しただろう。
世界は一体どこへ向かっているのか。
朝日新聞のニュースサイト「朝日新聞デジタル」のデスクとして、アクセス数やツイート数などを分析しながら、毎日のニュースを配信するのが、現在の私の仕事である。築地の本社で、在宅ワークの日は自宅で、日々、様々な指標を眺めていると、世代、性別、国籍を問わず、多くの人が同じ心持ちなのだ、と改めて実感する。緊急事態宣言の間はアクセス数が終日はねあがり、特に感染者数が発表される夜に向けて急増した。何が起きていて、どうすれば命は守れるのか。みんな、息を潜めて見つめていた。
そして、もうひとつ、数値に表れた顕著な特徴は、世界各地の識者がこの状況を読み解いたインタビューへの高い関心である。
ウイルスと生命の深遠なる関係を格調高く綴った福岡伸一氏の寄稿は、朝日新聞紙上に4月に掲載され、デジタルでも配信されると、爆発的に読まれた。『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ氏への高野遼・エルサレム支局長によるインタビューも同様だった。
混迷する時代を生き抜く指針が求められている。
その後も、各地の特派員のほか、政治部、文化くらし報道部など、各部から続々とインタビューが出稿され、大きな反響があった。
それなら、朝日新聞デジタルでは、1カ所にまとめた特集ページをつくったら読みやすいだろうと、4月末、デザイン部の加藤啓太郎さんがつくった洗練されたメーンビジュアルのもとに、「コロナ後の世界を語る~現代の知性たちの視線」を開設した。ネットでつながりながら、森本浩一郎さん、伊藤あずささん、日高奈緒さんほか、デジタル編集部のみなさんと在宅ワークで、ページづくりに取り組んだ。
『銃・病原菌・鉄』のジャレド・ダイアモンド氏、「不要不急」を問うた養老孟司氏らによる論考が続々と追加され、現在も更新を続けている。その一部を、新書の形でまとめたのが本書である。
思えば新聞の役割は、早く正確なニュースの提供とともに、時代を切り取るすぐれた論考を載せることにもある。齢80を迎えた私の父は新聞をスクラップするのが趣味のひとつだが、楽しみに切って眺め返しているものといえば外部の筆者によるコラムや寄稿ばかりだ。
今回収録されたものは、世界の第一線に立つ知識人が、同じ困難に向き合いながら、語り綴った論考である。新聞社だからこそ成しえた即時性にも意味があると思う。
いまだコロナ禍の収束が見えない中、本書が示す多様な視点が、混迷する世界について考える一助になれば、幸いである。

2020年夏
朝日新聞東京本社デジタル編集部次長 三橋麻子

養老孟司 (著), ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 福岡伸一 (著), ブレイディ みかこ (著), 朝日新聞社 (編集)
出版社 : 朝日新聞出版 (2020/8/11)、出典:出版社HP

目次

まえがき

第1章 人間とは 生命とは
養老孟司
私の人生は「不要不急」なのか?根源的な問いを考える
「不要不急」は若い時から悩みの種/学問研究の意味とは?/すべては自分で考えるしかない/俺の仕事って要らないんじゃないのか/ヒトとウイルスは不要不急の関係
福岡伸一
ウイルスは撲滅できない共に動的平衡を生きよ
ウイルスは利他的な存在/ウイルスは受け入れるしかない/ウイルスも生命/無駄な抵抗はやめよ
角幡唯介
人間界を遠く離れた4日間世界は一変していた
感染させる相手のいない地へ/世界でただ一人浮いていた/人々の心を結節させる言葉とは/「あなたは今、世界で一番安全な場所にいる」/自分だけが取りのこされて……
五味太郎
心は乱れて当たり前不安や不安定こそ生きるってこと
学校や社会は、子どもに失礼/いまは本当に考える時期

第2章 歴史と国家
ユヴァル・ノア・ハラリ
脅威に勝つのは独裁か民主主義か 分岐点に立つ世界
政治の重大局面/市民による政府監視を/グローバル化、弊害より恩恵/世界が、我々が立つ分岐点
ジャレド・ダイアモンド
コロナを克服する国家の条件とは?日本の対応とは?
危機に対応する5つの条件/世界レベルのアイデンティティーを
イアン・ブレマー
国家と経済の役割と関係が変化 第4次産業革命が加速
リーダーは「トレードオフ(妥協点)」の見極めを/米中関係悪化の経済的な余波に備えよ
大澤真幸
苦境の今こそ国家超えた「連帯」を実現させる好機
グローバル経済が危機を招いた/「封じ込め」では解決しない/国家を上回る国際機関の設立を
藤原辰史
パンデミックの激流を生き抜くためには人文学の「知」が必要
「ルイ16世の思考」は危機の時代に使いものにならない/「長期戦に備えよ」――歴史が伝えること/人文学の「知」を軽視する政権
中島岳志
「声」なき政治に国民の怒りが表出政治は大きな変化を
長年聞いていない首相の「声」/世界観や文明観の大きな変化が必要
藻谷浩介
「応仁の乱」と共通する転換点 地方からの逆襲を
国と地方、どちらにも任せられない/創意工夫を打ち出す地方のリーダー/「全国一律」に限界/全国紙の自治体チェックは努力不足
山本太郎
病原体の撲滅は「行き過ぎた適応」集団免疫の獲得を
病原体も共生を目指す/流行が終わるためには
伊藤隆敏
「リーマン以上」の打撃 実体経済は通説を覆し急速に縮小している
リーマン・ショック以上の経済危機に/ニューノーマルへの転換を

第3章 社会を問う
ブレイディみかこ
真の危機はウイルスではなく「無知」と「恐れ」
「コロナを広めるな」と言われた息子/「未知」=「無知」に「恐れ」の火をつけたら/オンライン授業で見えたこと/「キー・ワーカー」を巡る分断/価値観変化の「種」
斎藤環
非常事態で誰もが気づいた「会うことは暴力」
指が逃れぬ仮想幸福/「会うこと」は暴力/「ひきこもり」の価値
東畑開人
猛スピードの強風で「心は個別」が吹き飛ばされた
どうしてもケース・バイ・ケースになってしまう/「個別性=心」は社会のサポートを失った/その人固有の「速度」を探して
磯野真穂
「正しさ」は強い排除の力を生み出してしまう
「秩序を乱す者を排除したい」/感染拡大を抑制さえすれば社会は平和なのか
荻上チキ
「ステイホーム」が世論に火をつけた一方ポピュリズムに懸念も
問題の広がりは「意外」/成功体験、政治に反応しやすくなった面も
鎌田實
分断回避のために感染した若者に「ご苦労様」と言おう
バッシングは「ストレス解消」/感染者に厳しい=感染症に弱い社会/まずは検査方針の転換必要/終息後、より良き社会に

第4章 暮らしと文化という希望
横尾忠則
作品は時代の証言者この苦境を芸術的歓喜に
共生共存を図る精神の力を絵画に投影/何を人類に学ばせようとしているのか
坂本龍一
パンデミックでも音楽は存在してきた
新しい方法で適応を&昨日と同じことをしていたら……/いまは歴史の分岐点/「時間」を疑う音楽
柚木麻子
暮らしを救うのは個人の工夫ではなく、政治であるべき
コロナを生きる女性たちの「精一杯」/戦時下よりも異常な事態

あとがき

養老孟司 (著), ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 福岡伸一 (著), ブレイディ みかこ (著), 朝日新聞社 (編集)
出版社 : 朝日新聞出版 (2020/8/11)、出典:出版社HP