キリスト教入門 (岩波ジュニア新書)

【最新 – キリスト教を知るおすすめ本 -入門やランキングも】も確認する

教養としてのキリスト教の入門書

本書は、「非キリスト教徒のための、教養としてのキリスト教入門」とはじめにの項で書かれているように、キリスト教の歴史をノン・クリスチャン向けに学問的に記した一冊です。キリスト教について学び始める方の入門書としておすすめです。

山我 哲雄 (著)
出版社 : 岩波書店 (2014/12/20)、出典:出版社HP

はじめに

現在、世界のキリスト教徒の数は約二二億人と言われています。世界の総人口は七二億人ぐらいとされていますから、三・五人に一人以上がクリスチャンということになります。グローバリゼーションの急速に進む現代世界ですから、若い皆さんにとって、これから内外のキリスト教徒と出会い、友人になったり、一緒に仕事をしたり、あるいはキリスト教文化圏に住んだりする機会もますます増えていくことでしょう。そうした場合、キリスト教特有の文化や習慣、価値観や思考様式を適切に理解しておくことは有益でしょう。
キリスト教は西アジア起源の宗教ですが、その二千年に及ぶ歴史を通じて、主として欧米の文化の精神的支柱としての役割を果たしてきました。欧米の思想、歴史、文化、道徳や社会制度、文学や芸術等を理解するうえで、キリスト教についての基礎知識が不可欠であることは言うまでもありません。
他方で、わが国は非キリスト教国で、キリスト教伝来以来四五〇年以上が経過しましたが、クリスチャンの数は人口の一パーセントを超えたことがないと言われます。多くの日本の人々がミッションスクールで学び、(ホテルのチャペルを含む)教会でキリスト教式の結婚式を挙げ、クリスマスやバレンタインデーを祝いますが、キリスト教についての知識や理解は決して十分とは言えず、根本的な誤解や曲解も少なくないように思われます。

本書は、キリスト教の布教伝道のためのものでも、キリスト教の信仰を深めるためのものでもなく、むしろノン・クリスチャン(非キリスト教徒)を読者に想定し、世界の思想や歴史や社会に大きな影響を与えてきた――そして今でも与えつづけている――キリスト教という宗教について、正しく適切な知識と理解を養っていただくために書かれたものです。いわば、非キリスト教徒のための、「教養としてのキリスト教入門」といった性格のものです。ここでは、キリスト教がある種の異文化として扱われます。一部で「文明の衝突」が云々される現代世界において、最も重要なことの一つは、自分たちのものとは異なる文化や文明を適切に理解し合い、異なる文明や宗教に属する人々が平和的に共存し協力し合うために、相互に対話し、お互いに尊重し合うということでしょう。本書が、異文化としてのキリスト教の信仰と文化についての適切な知識と理解を養ううえで、よい助けになることを願って止みません。

キリスト教は、約二千年前にユダヤ教を母体として生まれました。本書の前半では、キリスト教がユダヤ教の分派として出発しながら、独立した世界宗教へと発展していく次第を歴史的に明らかにしようと試みました。その後、キリスト教は大きく見てローマ・カトリック教会、(ギリシア正教などの)東方正教会、プロテスタント教会の三つに分かれて展開してきました。このうちプロテスタント教会は、ルター派や長老派や聖公会、メソジスト、バプテストなど、さらにたくさんの教派に分かれています。本書の後半では、それらの諸教派がなぜ分かれたのかや、諸教派の何が共通で、何が違うのかをできるだけ明確にしようと努めています。

筆者はこれまで、本や雑誌を通じて、聖書やキリスト教についての入門的な文章を何度か発表してきましたが、本書をまとめるに当たり、以前書いたものの一部を修正しながら本書にも取り入れたことをお断りしておきます。
なお、キリスト教は聖書に基づく宗教で、それを正しく理解するためには聖書を参照することが不可欠です。本書では、新書版という小さい本であるため、必要最小限しか聖書からの引用ができませんでした。特に最初の三つの章では聖書との関係が重要で、関連する代表的な聖書の箇所を括弧内に指示しましたので、できればご自分で聖書に当たって確認してください。聖書引用は原則として『聖書 新共同訳』(日本聖書協会)によりました。聖書文書の略号も『新共同訳』の方式に従いました(別表参照)。聖書の章節については、筆者も所属する日本聖書学研究所の方式に従い、章を漢数字で、節を算用数字で表しました。例えば、「ロマー17」とあれば、『ローマの信徒への手紙』一章17節のことです。
本書を、キリスト教についての基礎的で適切な情報を得るための教養書として、また世界史や倫理などを学ぶうえでの副読本として、広く用いていただければ幸いです。

二○一四年一〇月
山我哲雄

山我 哲雄 (著)
出版社 : 岩波書店 (2014/12/20)、出典:出版社HP

本書は、二〇一四年の刊行以来、幸いにもご高評をいただき、版を重ねることができましたが、二〇一九年の第八刷刊行に際して誤植や不正確な表現の訂正、最近の出来事に基づく記述の改変を一部で行ないました。
山 我記

目次

はじめに
別表 聖書に収録された諸文書と、その略号の一覧
第1章 ユダヤ教とキリスト教
第2章 ナザレのイエス
第3章 キリスト教の成立
第4章 キリスト教の発展―キリスト教の西と東―
第5章 ローマ・カトリック教会
第6章 東方正教会
第7章 宗教改革とプロテスタント教会
おわりに キリスト教と現代
キリスト教 略年表
索引

山我 哲雄 (著)
出版社 : 岩波書店 (2014/12/20)、出典:出版社HP