観光学ガイドブック―新しい知的領野への旅立ち

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観光学について学びを深める

他の学問とも関わりが深く、範囲が広い観光学ですが、本書では各項目ごとに執筆者が異なるため、それぞれの領域の専門家の解説を読むことができます。また、各項目の終わりには「読書案内」として関連する本が記載されているので、一層学びを深めることができます。初学者から学習中の方まで様々な方におすすめです。

大橋 昭一 (編集), 遠藤 英樹 (編集), 神田 孝治 (編集), 橋本 和也 (編集)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2014/4/1)、出典:出版社HP

はしがき

現代社会において、観光(ツーリズム)が注目されている。観光とは、日常とは違う何かを求め、日常生活圏の外へ移動して消費を行う現象である。そのため、グローバル化が進展する資本主義社会のなかで、特定の場所を差異化し、消費の場所として発展させるために、観光は重要な現象と考えられているのである。日本においても、2003年に観光立国を宣言して外国人の訪日観光客増加を目指すようになり、2007年には観光立国推進基本法を制定し、2008年には観光庁も設立されている。また、多くの地方自治体も、観光まちづくりなどをキーワードに観光による地域活性化を志向している。こうしたことが、世界規模で、国、地方自治体といったさまざまなスケールにおいて、さらに都市部であろうと農村部であろうとあらゆる場所において起きているのである。まさに現代は観光の時代なのである。

こうした社会的状況に対応して、日本の大学における観光関連学部学科の新設も続いており、国立大学でも観光学部が設置され、大学院の博士課程も設立されている。ただし、大学における観光への注目は、社会的要請によるものだけでなく、学術的な関心にも基づくものである。とくに、英語圏を中心とする人文・社会科学では、おおよそ 1990年代に入ってから、資本主義社会を象徴する現象として観光が注目を集め、文化や空間に焦点をあてた視座からその考察が行われてきた。まさに、観光研究は人文・社会科学における新しい最先端の知的領野となっているのであり、日本においても学術的な観光学を確立しその研究内容を深めるべく、2012年2月には観光学術学会が設立され、厳格な査読制度に基づく学術誌『観光学評論』が発行されている。

以上のような、大学における観光系の学部学科設置や学問としての議論の深化から、近年では観光に関する多くの教科書が出版され、また重要な学術的視座を提起するものも増えてきた。しかしながら、日本の大学における現在の観光教育がいまだに直接的な仕事との結びつきを重視する実学志向が強い傾向にあることや、学術的な検討も既存の特定の 問領域に限定された視座によるものがほとんどであるために、学問としての「観光学」を、包括的かつ体系的に理解できる教科書はなかなか見出すことができない。このような状況では、観光について学ぼうとする学生は、自身の関心にもとづく学習の道筋を見出すことが困難であろう。

そこで編者は、主として大学の学部学生を想定し、彼/彼女たちの学びの羅針盤となる、観光学のガイドブックを編むことにした。本書は五つの部で構成されており、まず第Ⅰ部の「観光学への招待」では、観光学の概要と観光の歴史を学び、基本的な知識を得ることができるようになっている。第Ⅱ部の「観光学の諸領域」では、観光を研究するための学問領域を把握し、観光という複雑な現象について、いかなる視点から考察しうるのかが理解できるようになっている。そして、第Ⅲ部では観光を研究する際にとくに重要となるポイントについて、第Ⅳ部では観光現象の諸相について、第Ⅴ部では観光に関わるアイテムや資源について説明している。こうした構成により、観光現象を考えるうえでの多様な視点を理解できると同時に、観光学の基礎的知識を包括的に獲得することができるようになっている。また、「読書案内」コーナーを設け、読者がそこからさらなる学びにつなげることもできるようにしているので、是非活用されたい。なお、本書は最初から順番に読むことを想定はしているが、個別に興味があるテーマがあれば目次を参考にそこから読んでもかまわない。適宜関連する他の章への案内も入れてあるので、そうした情報を参考にしながら本書の内容を自分なりに消化していただきたい。

このような本書は、観光学に関心を有する初学者に最適なものとなるばかりでなく、学部学生であれば卒業論文執筆時まで役に立つ、まさに観光について学ぶ学生の必携書になると考える。またそれは、観光に興味をもつ一般の方にとっても、有益な内容になっていると思われる。本書をガイドブックとして、観光学という新しい知的領野に旅立ち、そこで新たな発見をし、皆さんの人生がより豊かなものになることを切に希望している。

2014年4月
編者を代表して
神田孝治

目次

はしがき

第Ⅰ部 観光学への招待
1. 観光とは何か (大橋昭一)
2. 観光学はどのようなものか (大橋昭一)
3. 近代的観光の発展 (大橋昭一)
4. ポストモダン社会と観光 (大橋昭一)

第Ⅱ部 観光学の諸領域
1. 人類学の視点 (橋本和也)
2. 社会学の視点 (遠藤英樹)
3. 地理学の視点 (神田孝治)
4. 民俗学の視点 (川森博司)
5. 歴史学の視点 (千住一)
6. 心理学の視点 (藤原武弘)
7. 情報学の視点 (井出明)
8. 教育学の視点 (寺本潔)
9. 経営学の視点 (竹林浩志)
10. 経済学の視点 (麻生憲一)
11. 政治学の視点 (高媛)
12. 政策学の視点 (砂本文彦)

第Ⅲ部 観光学のポイント
1. 観光客のまなざし (神田孝治)
2. 真正性 (高岡文章)
3. 伝統の創造 (須藤廣)
4. ディズニーランド化 (山口誠)
5. メディア (遠藤英樹)
6. 観光経験 (橋本和也)
7. パフォーマンス (森正人)
8. ホスピタリティ (堀野正人)
9. 遊び (遠藤英樹)
10. ジェンダー (吉田道代)
11. ポストコロニアリズム (藤巻正己)
12. 観光まちづくり (堀野正人)

第Ⅳ部 観光の諸相
1. エコツーリズム (須永和博)
2. グリーンツーリズム (寺岡伸悟)
3. フィルムツーリズム (中谷哲弥)
4. アニメツーリズム (岡本 健)
5. アートツーリズム (濱田琢司)
6. アーバンツーリズム (堀野正人)
7. 宗教ツーリズム (山中弘)
8. ヘリテージツーリズム (森 正人)
9. エスニックツーリズム (鈴木涼太郎)
10. スポーツツーリズム (山口泰雄)
11. ダークツーリズム (井出明)
12. ボランティアツーリズム (大橋昭一)

第V部 観光のアイテム・資源
1. 鉄道 (寺岡伸悟)
2. 自動車 (近森高明)
3. みやげもの (橋本和也)
4. 写真 (近森高明)
5. ガイドブック (山口誠)
6. 紀行文 (橘セツ)
7. インターネット (岡本健)
8. 風景 (大城直樹)
9. 聖地 (山中弘)
10. リゾート (砂本文彦)
11. 国立公園 (西田正憲)
12. 世界遺産 (才津祐美子)

参考文献
あとがき
人名索引
事項索引

*本文中の(→●・▲)は、「第●部第▲章参照」を意味する。

大橋 昭一 (編集), 遠藤 英樹 (編集), 神田 孝治 (編集), 橋本 和也 (編集)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2014/4/1)、出典:出版社HP