新・観光学入門

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初めて観光学を学ぶ

本書は、観光学に初めて接する人を対象に書かれている上に、日本に来て観光学を学習する留学生のことも意識されているので、観光学の入門書として最適です。また、本書は全12章からなっていますが、各章に「はじめに」の項があり、その章での学習内容の概要が記されているので、より学習が進めやすい構成になっています。

中村 忠司 (著, 編集), 王 静 (著, 編集), 稲本 恵子 (著), 渡部 美智子 (著), 山口 隆子 (著), 白神 昌也 (著), 中村 真典 (著), 橘 弘文 (著)
出版社 : 晃洋書房 (2019/3/10)、出典:出版社HP

プロローグ

――学習を始めるにあたって――

21世紀が「観光の時代」と言われてすでに久しい.国連世界観光機関(World Tourism Organization: UNWTO)によると世界全体の国際観光客到着数は2018年に14億人を超え,2030年には18億人に達すると予測されている.今後もさらなる成長が見込まれている.中でもアジアの成長率は高く,世界全体を牽引している.日本においても2019年には訪日外国人旅行者数が3188万人(JNTO推計値)となり,その勢いは止まっていない,一方で今世紀初頭にはアメリカ同時多発テロや新型肺炎SARSの流行,リーマンショックがあり,日本人の海外出国数は大きく落ち込んだ.観光は戦争や災害・厄災に極めて脆弱であり,平和や安心・安全の上に成り立っていることがわかる.

観光産業を経済的な側面で見ると,間接的な経済波及効果が高い産業であることがわかる.例えば旅行でホテルに宿泊すると宿泊料やレストランでの食事代だけでなく,シーツなどのリネンサプライや食器の購入など幅広い産業に影響を与える.また,雇用という観点から考えると世界では10人に1人が観光に関係する雇用(WTTC世界旅行ツーリズム協議会「世界における経済的影響と課題2018」より)となっている.特に先進的な産業が少ない国・地域では観光による雇用はとても重要となる.日本でも有名な観光地の多い地域では観光産業への就職人気は高い.

皆さんがこれから学ぶ観光学は学際的な学問とも言われ,社会学や経済学など他の学問領域と組み合わさって観光社会学や観光経済学という新しい学問分野を創り出している.「観光」を研究手段の1つとして様々な学問で取り入れる動きもある.また,産業においても観光は幅広く関わることから,現在では,従来の観光関連の企業だけでなく,今まで観光にあまり関心のなかった産業が観光業に進出している.地域においても人口減少を観光を核にした交流人口の増加でカバーしようという動きが見られ,まさに国・地域を挙げて観光の発展に取り組んでいる.

本書の構成は,大きく「観光の基礎」,「観光と経営」,「観光と社会」の3部にわかれている.第I部の「観光の基礎」では,観光の意義と定義,観光を構成する要素観光学とは何かを概観する.また観光の歴史や観光がホスピタリティ産業と言われる意味を学ぶ第Ⅱ部の「観光と経営」では,旅行,宿泊,交通,観光施設など幅広い観光産業について解説する.各産業の関連性についても考えてみてほしい.第II部の「観光と社会」では,観光と社会や文化,観光と民間信仰の関係,地域との係わりの深いニューツーリズム,観光政策について触れている.本書は,観光学に初めて接する学生や社会人を対象に書かれている.特に日本に来て観光を学ぶ留学生にも分かりやすいよう,なるべく平易な言葉で日本の観光の全体像がつかめるようにしている.日本で学んだことをそれぞれの国・地域に持ち帰り,社会のために役立ててほしい,観光を学ぶことは,他の国・地域を理解することでもあり,今日の世界においてとても大切なことだ.

学習するにあたって大切なことがある.それはただ漠然と読むだけではなく,一歩進んだ視点を持つということだ.自分たちの国や地域でこの場で学んだことをどう活用できるか,就職した観光産業・団体でどう活かすことができるか,自分が旅行した先で何を見るべきかという視点を持って学んで欲しい.そうすれば,皆さんにとって「新しい観光」が見えてくるだろう.そのために各章の最後に「考えてみよう」という項目を置いた.いずれにしても観光は楽しい.率先して旅行に出かけ,まず楽しもうという気持ちを持って積極的に取り組んでもらいたい.

2020年1月
中村忠司

中村 忠司 (著, 編集), 王 静 (著, 編集), 稲本 恵子 (著), 渡部 美智子 (著), 山口 隆子 (著), 白神 昌也 (著), 中村 真典 (著), 橘 弘文 (著)
出版社 : 晃洋書房 (2019/3/10)、出典:出版社HP

目次

プロローグ ――学習を始めるにあたって――

Ⅰ 観光の基礎
第1章 観光とは何か
はじめに
1. 観光の意義と定義
2. 観光を構成する要素
3. 観光学
おわりに

第2章 観光の歴史
はじめに
1. 日本の観光の歴史
2. 世界の観光の歴史
おわりに

第3章 観光とサービス
はじめに
1. サービスとは
2. 観光におけるサービス
3. CS(顧客満足)
おわりに

Ⅱ 観光と経営
第4章 旅行事業
はじめに
1. 旅行業とは
2. 旅行業の登録
3. 旅行業務とは
4. 旅行業の仕事内容
5. 旅行会社の存在意義と課題
おわりに

第5章 宿泊事業
はじめに
1. 宿泊事業の分類
2. ホテル
3. 旅館
4. 様々な宿泊施設
おわりに

第6章 觀光交通事業
はじめに
1. 観光交通サービスとその分類
2. 観光交通事業
3. 観光交通事業者としての施策例
おわりに

第7章 航空事業
はじめに
1. 航空の歴史
2. エアライン・ビジネス
3. 現代の航空業界
おわりに

第8章 観光施設事業
はじめに
1. 観光施設とは
2. 様々な観光施設
3. 観光対象の多様化
おわりに

Ⅲ 観光と社会
第9章 観光と文化
はじめに
1. 観光と文化
2. 文化を観光する
3. 観光文化への視点
おわりに

第10章 観光と民間信仰
はじめに
1. 熊野参詣
2. お伊勢参り
3. 民間信仰の研究と観光
おわりに

第11章 ニューツーリズム
はじめに
1. ニューツーリズム誕生の経緯
2. 様々なニューツーリズム
おわりに

第12章 観光と政策
はじめに
1. 観光政策の基本的な理解
2. 世界における観光政策の展開
3. 日本における観光政策の展開
4. 観光振興と地方創生
おわりに

資料
1. 観光の歴史年表
2. 日本人出国者数と訪日外国人旅行者数の推移
索引

中村 忠司 (著, 編集), 王 静 (著, 編集), 稲本 恵子 (著), 渡部 美智子 (著), 山口 隆子 (著), 白神 昌也 (著), 中村 真典 (著), 橘 弘文 (著)
出版社 : 晃洋書房 (2019/3/10)、出典:出版社HP