観光学キーワード (有斐閣双書キーワード)

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観光に関するキーワードを解説

本書は、そのタイトル通り観光にまつわるキーワードを挙げ、それについて解説するという形式です。1単語につき見開き1ページで解説され、それが100ワード分掲載されています。キーワードごとの解説になっているので自分の学びたい事項から学習を進めることができます。

山下 晋司 (編集)
出版社 : 有斐閣 (2011/6/9)、出典:出版社HP

はじめに

2003年に小泉純一郎首相(当時)が「観光立国宣言」を行って以来,日本では観光関連学科がさかんに設立されるようになった。2009年までに観光関連学科・大学院を持つ大学は全国で39を数える。その半数以上が,小泉発言を受け,観光立国推進基本法が成立した2006年から2009年の間に設置されている。少子高齢化の中,構造不況業種の1つである大学においては,降って湧いたブームといった観がある。しかし、観光関連学科の数はまだ決して多いとはいえない。国立大学は3校のみである。観光の歴史は長いが,観光学,観光教育はまだ始まったばかりなのだ。そうした中で,観光教育の現場では,教員は観光学を志す学生に何を教え,どのような学生を育てるのか,学生は何を学び,学んだことをどのように活かすのかという極めて基本的な問いがある。

「観光学」を冠した本には,塩田正志・長谷政弘編『観光学』(1994年, 同文舘出版)長谷政弘編『観光学辞典』(1997年,同文舘出版),岡本伸之編『観光学入門ポストマス・ツーリズムの観光学』(2001年,有斐閣),溝尾良隆『観光学——基本と実践』(2003年,古今書院),堀川紀年・石井雄二・前田弘編『国際観光学を学ぶ人のために』(2003年,世界思想社), 井口貢編『観光学への扉』(学芸出版社,2008年)などがある。だが,観光学とは何か,まだ手探りの段階にあるというのが実情だろう。

本書の刊行は,今日の観光現象を理解するためのキーワードを100ほど選定し,解説を試みたものである。教科書のように体系的に観光学を概説したものではないので,はじめから読み進んでいくというより,講義を受けながら,あるいは実務を担当しながら,該当するキーワードを辞典で引くように,読み理解を広げるというのが最も推奨される読み方であろう。本書が日本の観光学と観光教育の発展に貢献できれば,と願っている。

刊行を間近に控えた2011年3月11日,東日本を「1000年に1度の」大地震,大津波が襲った。福島第一原子力発電所が被災し,いまなお予断を許さない事態が続いている。日本政府観光局(JNTO)は,訪日外国人は3月に半減したと発表し,とりわけ原発事故により日本の安全・安心イメージが崩れ,渡航自粛を打ち出す国が相次いだことが響いた,としている。観光は,安全であることが前提だ。逆にいえば,観光における安全 (リスク)管理が厳しく求められることになる。「安全」は今後,観光学の 重要なキーワードとなるだろう。

2011年4月15日
山下晋司

目次

第1章 観光学の構図―観光研究への視角
1 観光学を学ぶ人のために
2 観光というテーマ
3 観光の定義
4 観光の誕生
5 巡礼
6 観光のまなざし
7 場所の成立
8 観光の条件
9 観光動機
10 観光経験
11 観光する主体
12 観光とジェンダー
13 観光と植民地主義

第2章 観光を支える制度―国家の政策から持続可能性まで
14 観光政策
15 政府観光局
16 観光立国推進基本法
17 日本人の海外旅行戦略
18 ビジットジャパン
19 世界遺産
20 無形文化遺産保護条約
21 文化財保護法
22 文化的景観
23 ナショナルトラスト
24 国立公園
25 サステナビリティ
26 エコツーリズムの推進
27 環境協力金と環境負担金
28 モニタリング

第3章 観光を仕掛ける装置―運輸技術から情報社会まで
29 移動のテクノロジー
30 鉄道敷設と霊場
31 空港
32 ヒルステーション
33 観光地とリゾート
34 温泉
35 万国博覧会
36 テーマパーク
37 ディズニーランド
38 ホテルからホームステイまで
39 メディア
40 写真
41 情報社会とツーリズム

第4章 ツーリズムビジネス―観光産業の仕組み
42 ツーリズムビジネス
43 観光の経済的インパクト
44 観光産業の市場構造
45 観光財・サービスの需要と供給
46 観光需要の弾力性
47 観光需要予測
48 観光財・サービスの価格の差別化
49 観光資源の評価
50 観光税の経済分析
51 観光地の選択
52 観光地ライフサイクル

第5章 さまざまな観光実践―マスツーリズムからポストモダンツーリズムまで
53 マスツーリズム
54 オルタナティブツーリズム
55 エコツーリズム
56 グリーンツーリズム
57 エスニックツーリズム
58 ヘリテージツーリズム
59 アーバンツーリズム
60 スポーツツーリズム
61 メディカルツーリズムとヘルスツーリズム
62 スタディツーリズム
63 ワーキングホリデー
64 留学
65 ロングステイ
66 ポストコロニアルツーリズム
67 ポストモダンツーリズム

第6章 観光開発と地域社会―地域おこしの手法としての観光
68 地域開発としての観光開発
69 まちづくり手法としてのツーリズム
70 観光開発のためのガイドライン
71 地方自治体と観光行政
72 観光資源
73 宝探し
74 ふるさとの資源化
75 ホストとゲスト
76 内発的発展と自律的発展
77 地域主導型観光
78 観光開発と地域アイデンティティ

第7章 資源化される文化―文化こそ観光開発の重要な資源
79 観光と文化
80 文化の客体化
81 文化の商品化
82 意味の消費
83 本物志向
84 町並み保存
85 見世物としての祭礼
86 観光の中の民俗芸能
87 郷土料理
88 ツーリストアート
89 近代化遺産
90 アニメツーリズム

第8章 観光実務―観光という仕事
91 ツーリズムというビジネス
92 旅行業と旅行業法
93 イールドマネジメント
94 ツーリズムマーケティングの仕方
95 観光ブランド戦略
96 観光商品の作り方
97 マーケティングの実践
98 観光宣伝と広報
99 ガイドとインタープリテーション
100 観光教育

巻末資料
参照文献
事項索引
人名索引

○参照文献は巻末に一覧を設け,本文中には著者名または編者名と刊行年,必要な場合には引用頁数を( )に入れて記した。
《例》
(山下 1999:1-7)
山下晋司 1999 『バリ 観光人類学のレッスン」東京大学出版会
(ターナー 1976)
ターナー, V.W.(富倉光雄訳)1996「儀礼の過程(新装版)』新思索社
(MacCannell 1976)
MacCannell, D. 1976, The Tourist: A New Theory of the Leisure Class, Schocken Books
○章扉および本文中の写真は、すべて筆者が撮影したものである。

本書のコピー,スキャン,デジタル化等の無断複製は著作権法上での例外を除き禁じられています。本書を代行業者等の第三者に依頼してスキャンやデジタル化することは,たとえ個人や家庭内での利用でも著作権法違反です。

☆執筆者紹介(五十音順) と執筆分担(キーワードの番号)(※編者)
稲垣 勉(いながき つとむ)
6,7,9,10,13,32,33,36,53,67,72,75,82
ベトナム国家大ハノイ・人文社会科学大学観光学部客員教授
専攻:観光消費論,文化研究

小沢健市(おざわ けんいち)
14,42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52.93
立教大学名誉教授,帝京大学経済学部教授
専攻:観光経済学

海津ゆりえ(かいづ ゆりえ)
23,25,26,27,28,54,55,56,70,73,77,99
文教大学国際学部教授
専攻:地域計画エコツーリズム.サステナブルツーリズム

葛野 浩昭(くずの ひろあき)
4,8,35,37,60,61,62,63,66,74,80,81,98
立教大学観光学部教授
専攻:文化人類学,先住民研究

小林 天心(こばやしてんしん)
15,16,17,31,71,83,91,92,94,95,96,97,98
元・観光進化研究所代表。
専攻:国際観光論,ツーリズムプランニング,旅行業経営論

中西裕二(なかにしゅうじ)
5,21,24,30,34,39,59,64,85,86,87,89
日本女子大学人間社会学部教授
専攻:民俗学,文化人類学

※山下 晋司(やましたしんじ)
1,2,3,11,12,18,29,38,40,65,78,79
東京大学名誉教授
専攻:文化人類学,観光人類学,グローバル化と人の移動

山村高淑(やまむらたかよし)
19,20,22,41,57,58,68,69,76,84,88,90
北海道大学観光学高等研究センター教授
専攻:観光開発論,文化資源デザイン論

山下 晋司 (編集)
出版社 : 有斐閣 (2011/6/9)、出典:出版社HP