スマートシティはどうつくる? (NSRI選書)

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スマートシティの作り方について解説

本書は、主に「現在の都市が抱える問題点」、「そもそもスマート化とは」、「スマート化の導入」の3つの項目に分けられ、スマートシティの作り方について順序立てて解説されています。図やグラフの挿入も多いので、視覚的な面からも理解をサポートしてくれます。

山村真司 (著, 監修)
出版社 : 工作舎 (2015/1/23)、出典:出版社HP

刊行に寄せて

―都市、その可能性と脆弱性のはざまで― 野城智也

いにしえの時代、人々は様々な自然の脅威から身を守るために集って住むようになり「集落」を形成しました。集まって住む場所では交易が始まり、相前後して、政治や宗教の拠点機能が置かれ「まち」となっていきます。交易・政治・宗教がさらに人を呼び込んで、物流が盛んになり交通手段が整備されるとともに、続々と集まる人の成果を支える水や廃棄物にかかわるインフラも整備されていきました。そして、人の集積は様々な産業を勃興させるとともに様々な文化を生み、教育施設・医療施設も整備され、その魅力がさらに人を呼び込んで「都市」となっていったのです。

翻って、現代の都市に目を転じるとその規模の急速な拡大には目を見張るものがあります。西暦一八○○年時点では世界人口の僅か三%が都市人口でしたが二〇世紀末時点では四七%に達しています。一九五〇年で人口一00万人を越える都市は八三に過ぎませんでしたが、二〇一四年七月時点で五二七に増加し、人口一千万人を越える都市(圏)も三三あるといわれています。(二〇一四年一〇月二六日時点で、Principal Agglomerations of the World (http://www. citypopulation.de/world/ Agglomerations.html)に示されているデータによる。)また国連の推計によれば、現時点での都市居住人口は三二億人ですが、二〇三〇年には五〇億人に達します。

都市は、人・情報知識・産業を集積させ、その力を増しています。欧州・北米では知識経済化が進み、都市を舞台にしたイノベーションが戦略的に進められようとしています。例えば、ニューヨークのイーストリバー上に計画されているコーネル大学の新キャンパス、ロンドンのハーマースミス南方に計画されているインペリアルカレッジの新キャンパスは、都市を舞台にオープン・イノベーションを起こしていこうという野心的な試みです。都市の魅力を増し、才能と知識に溢れる多様な人材を集めることに成功した都市は、さらに成長をしていくという、国境を越えた都市間の競争が始まっているのです。こうした観点からみると、世界企業がアジア地区の司令塔を東京からシンガポールなどに移しはじめ、プライスウォーターハウスクーパース(PWC)の第六回目となる分析レポートCities of Opportunityで東京が世界で一三位と苦戦しているのは大いに気になるところです。

一方で、都市はその発展と併行してその脆弱性も高めています。現代の世界規模での都市化の中心は、開発途上国であり、新興国です。都市化の進行にインフラの整備が追いつかず、 水、衛生、環境、交通などの問題は深刻化しています。加えて、例えば、大多数の大規模都市が臨海部に接しているにもかかわらず、洪水や津波に対する防災対策は後手に回るなど、災害への危険性は増しています。また、増大する低所得者の人々の居住環境は悪化の一途を辿り、都市社会の深刻な分裂を生んでいます。また、世界中の都市における消費生活は、エコロジカル・フットプリントの増大を生み、気候温暖化も含め、深刻な地球規模での環境問題を生み出しています。

二一世紀の人類の文明を脅かすものがあるとすれば、非寛容が生むテロ・戦争、もしくは地球規模での環境問題でありましょう。残念なことに、都市における貧困が生む深刻な分裂が非寛容を生み、都市における莫大な消費は地球環境問題を生んでいるのです。約二〇年前、リチャード・ロジャースは、その著書『都市/この小さな惑星の』のなかで「人類が暮らすところ―私たちの都市―が、生態系の最大の破壊者であり、この惑星上で人間の生存を脅かす最大の脅威を与えているというのは皮肉なことだ。」という警句を発していますが、現実はロジャースの描く方向に動いていると考えざるをえません。まさに都市は、偉大な可能性と、脆弱性を隣あわせながら、成長し、変容しているのです。

さて、可能性と脆弱性の高まりが併行してすすむ状況のなかで、スマートシティやその関連語が盛んに使われ始めています。本書でも紹介されていますように、その意味合いは、国・地域によって多様ですが、私は、スマートシティとは「都市の可能性を引き出すとともに、その脆弱性を緩和できるような系統的・持続的な仕組を構築し運用している都市」という点では共通していると理解しています。国・地域によって、可能性にかかわる関心、脆弱性にかかわる課題は異なり、こうした文脈の違いがスマートシティの意味の地域差異性を生んでいると考えられます。

ここでいう「系統的・持続的な仕組」では、多岐にわたるデータの収集と分析・解析及び制御は不可欠で、ICTを活用しない限りその必要性を満たすことはできません(逆に、ICTという技術手段が大発展したからこそ、スマートシティという概念が創られたといっても過言ではないように思われます)。

「系統的・持続的な仕組」を適用することで、都市を動かし支える複雑で大規模な技術システム(例えばエネルギー・システム、交通システム)を賢く運用運営していくことが期待されます。ここで、注意すべきことは、これらの大規模な技術システムは、エネルギー供給事業者や、交通サービス提供者など事業者側だけでは思うように制御できず、使い手がどのように行動するかによっても大きく左右されるということです。一人一人の人間の行動はある意味では恣意的で予測は難しく、技術システムの運営者にとっては大きな不確実性が生まれます。しかし、それは供給者側の視点であって、一人一人の使い手には、信条や、選好など事情があるのです。こうした、それぞれの個の事情をまとめあげて、技術システムを運用運営していくのか、collective approach を支える新たな技術が求められています。

かつてはモノを多く持つことが富の象徴でしたが、現代社会では、むしろQOL(Quality of life)がより重視されはじめています。その価値転換を支えているのが、サイバーフィジカルシステム(CPS :Cyber Physical System) とも、Industry4.0 ともいわれる新しい産業概念です。スマートシティ構想で用いられる要素技術は、CPS、Industry4.0の好例といっても差し支えないと思われます。経済社会や技術社会における価値の再定義は進み、如何にして個の事情にあった価値を実現するのか、そして同時にcollective approachにより全体最適を実現するのかが問われているのです。

スマートシティを旧来の産業の枠組や発想で理解し行動すること、特に供給者視点で発想することは、非生産的な停滞を生むおそれがあります。そうなってしまっては「都市輸出」などという耳にここちよい標語もただただ虚ろになっていってしまうでありましょう。

私たちが、スマートシティの概念を実体化させ、都市の可能性を引き出し、脆弱性を緩和していくためには、従来の枠組の程椎を離れ、使い手の価値を基盤に、使いながら学び改良していくイノベーション・プロセスが不可欠です。そのような意味で、本書の「生活者の価値向上」という視点は極めて当を得たものです。本書が、スマートシティの的確な理解と、その健全なる具現化に大いなる貢献をすることを願ってやみません。

二〇一四年一〇月二六日
[やしろ・ともなり 東京大学生産技術研究所教授・工学博士]

山村真司 (著, 監修)
出版社 : 工作舎 (2015/1/23)、出典:出版社HP

目次

[刊行に寄せて」―都市、その可能性と脆弱性のはざまで 野城智也
[プロローグ]―「スマート」をキーワードとする“まちづくり”

第1章 都市の現況―膨張し続ける都市・成熟を超えた都市
1.1 世界的な都市人口の集中
世界の都市人口と都市建設の増加
アジアの都市化と巨大都市の増加

1.2 加速するエネルギー消費
世界のエネルギー事情
都市におけるCO2排出構造

1.3 高齢化する都市
世界的な高齢化がかかえる問題
高齢化社会に向けたまちづくりの課題

1.4 課題解決に向けて期待されるスマート化
スマートな発想への転換
生活者発想のスマート化を
将来のコミュニティ、社会とスマート化

第2章 スマート化とは何か?
2.1 スマート化の概念整理
環境やエネルギーにまつわる都市の呼び名
スマート化の始まりと広がり

2.2 スマート化に関する施策
日本のスマートシティ関連の施策の策定
自治体の取組み

2.3 都市コミュニティにおけるスマート化
コミュニティニーズの紐解きから始める
持続可能の視点からのスマート化
私たちがめざすコミュニティの将来像

2.4 スマート化の標準化の動きについて
なぜ標準化が必要なのか
先進国(主にEU、米国)の動き
日本の「CASBEE 都市」の場合
そのほかの国(中国、新興国)地域の動き

第3章 スマートシティ検討のプロセス
3.1 スマートシティ開発の現況
見なおされる世界の先端事例令
欧州のスマートシティ
米国のスマートシティ
新興国のスマートシティタ
日本のスマートシティ
国内外のスマートシティ開発の課題と展望

3.2 スマートシティ実現のための統合的検討プロセス
都市・コミュニティの類型化
統合的検討プロセスの提案

3.3 スマート化を実現するための事業の進め方
官民の関わり方、官(国、自治体)に求められるもの
実現化のための組織の構築について
都市経営指標による分析

第4章 スマートシティ技術の導入計画[1] 4.1 コミュニティづくりと都市計画の方法
スマート化の本質、コミュニティのあり方
都市構造スマート化のための二つのコンセプト
段階的な開発に対応したスマートユニットの提案
鉄道沿線型スマートシティ

4.2 建物の低炭素化の推進
建築・住宅レベルの省エネルギー
まち全体で省エネルギーを実現するために

4.3 エネルギー供給系インフラ計画
都市内の熱供給インフラ
都市内の電力供給インフラ
これからのエネルギー供給インフラ
再生可能エネルギーの種類と技術開発
未利用エネルギーの種類と適用先
未利用エネルギー導入の課題
ドイツ、「シュタットヴェルケ」によるバイオマスエネルギーの導入策

第5章 スマートシティ技術の導入計画[2] 5.1 上下水道系インフラ
水資源の保全と有効利用
上下水道インフラの維持管理

5.2 廃棄物処理系インフラ
廃棄物の現状と利活用の状況
日本と世界のバイオマスエネルギー
バイオマスエネルギー化の技術

5.3 インフラとしての緑・水環境
生活の豊かさを求めて
歯止めのかからないヒートアイランド現象
緑と水による風の道とクールスポット形成
緑によるストレス緩和

5.4 交通系インフラ(道路、公共交通、自動車)
交通インフラのスマート化の現状と課題
スマートコミュニティ実現のためのモビリティデザイン
EVを活用した新しい交通施策
総合的なモビリティパッケージデザインの事例
モビリティデザインと環境
エネルギーの包括的評価

5.5 ICT系インフラ
コミュニケーション系と物理情報マネジメント系
セキュリティ系インフラ
ICTが拓く次世代コミュニティサービス

エピローグ
参考資料/文献
写真クレジット
著者紹介

プロローグ

「スマート」をキーワードとする”まちづくり”

昨今「スマートシティ」という言葉をいろいろなところで耳にします。都市やまちがスマー トとはどういうことなのでしょうか。書籍やネットで調べてみると、テクノロジーによってつくられた都市やまちというイメージがありますが、本当でしょうか。スマートフォンやスマート家電とは違い「まち」ともなるとピンとこないという方も多いのではないでしょうか。混乱する一方で、ますます「スマートシティ」が世の中のキーワードとして大きなものになりつつあります。

スマート化については汎用的な定義はとくにありません。本来同じ土俵で議論されることのなかった物理的な取組みから社会学的な範囲までを一括りで「スマート○○」と言い表しているのが実状です。スマート化の流れは一過性に終わらず、あらゆる分野で議論が拡大し続けています。都市に関しても、これまで○○シティ、4人都市と、時代の流れに沿ったキーワードが表れては消えていきました。ところが「スマートシティ」は言われ続けて久しいのです。いったい私たちがくらす都市やまちはどうなっていくのでしょう。国連の予測では二〇三〇年には世界人口の約三分の二(五○億人)が都市に住み、GDPの二五%は人口の上位十数都市からもたらされるといわれています。経済活動のメインドライバーは現在にもまして、都市が担うことになります。

これにともなって、エネルギー消費は産業部門中心から都市部門へとシフトして、CO2排出量の三分の二が都市でのくらしや仕事から発生します。つまり、都大きなチャンスとリスクを同時に背負うことになるのです。情報技術の発達により、これまで考えられなかったような局地的な情報の把握・制御が可能な世の中になってきました。「スマート技術」によって、解決が難しいとされてきた都市の諸問題に対して光明を見いだせるのではないか?と私たちは感じ始めています。とはいえ、技術重視に陥ることなく、私たちがくらしたいまちとは、またコミュニティや空間がどうあってほしいのか、あるいはここで何がしたいのかといったまちづくりの本質を徹底して議論する必要があります。

複雑に絡みあう都市問題に対してスマート化はある解決策を提供できるはずです。その場合、たとえば次のような「まちの視点からの問い」に対する問いから議論を進めていくことが重要であると考えます。

[Q1]対象となるまちとは、コミュニティとは?
▶国内なのか海外なのか、中心市街地か郊外かなど、コミュニティ空間の位置づけを整理して考える必要があります。
[Q2]サスティナブルなコミュニティに求められるものとは?
▶Quality of Life 〈QOL〉の向上や負荷抑制等の持続可能性の両立を視野に入れて考える ことが重要です。
[Q3]都市インフラ充実の方法をどのように考えるのか?
▶いったん敷設した都市インフラの変更は容易ではありません。あらかじめ利便性×省エネルギー性×防災性能などのバランスを考慮した検討が必要です。
[Q4]膨れ上がる都市運営コスト、その削減が可能なのか?
▶エネルギー・資源の自立分散やエネルギー生産の外部依存率を下げるという視点での検討が求められます。

本書では、「スマートシティ」の位置づけやこれまでの動向、その行方について述べつつ、これらの問いに対する答えは何なのか、また問いの解決につながるようなスマートシティを実現するための方策について、その方法論を展開していきます。

山村真司 (著, 監修)
出版社 : 工作舎 (2015/1/23)、出典:出版社HP