スマホ依存から脳を守る (朝日新書)

【最新 – ネット依存・ゲーム依存を理解するためのおすすめ本 – 実態と対策を知る】も確認する

スマホ依存症の正体を知る

著者は、アルコール依存、ギャンブル依存の治療を専門とする独立行政法人国立病院機構「久里浜医療センター」の精神科医長です。スマホの危険性を根拠と共にはっきりと突きつけられます。まずはこの本で、スマホ依存症の正体をよく知ることから始めてみましょう。

はじめに

あなたの子どもが、学校にも行かずにオンラインゲームばかりしていたら。あなたの大事な人が、実体のないゲームのアイテムに数百万円も費やしていたら。そして自分自身がある日、スマートフォンがないとどうにも我慢ができない状態に陥ってしまったらー。これから始めるのは、こうした病の話です。大人でも子どもでも罹り得る病気です。治療の第一歩は病の正体を知ること。そこから回復が始まります。

《ゲーム依存は疾患WHO決定》
2019(元和元)年5月8日、新聞の朝刊に世界保健機関(WHO)の報告が載りました。4日の総会で、電子ゲーム依存症が国際的に「ゲーム障害」という疾患として認められたという記事です。一言でいうと、ゲーム依存症が、ギャンブル依存症などと同じ精神疾患に分類されたのです。「ゲーム依存症は疾患である」
この事実を認める以前に、社会はゲームそしてそのプラットフォームとなるスマホ(スマートフォン)を受け入れすぎたー。こういえば、言いすぎだといわれるでしょうか。しかし、オンラインゲームを携帯可能にしたスマホなどの日常化が、若年層を中心に新しい疾患をもたらしたこと、この事実は否定しようがありません。

たとえば、あなたに未成年の息子さんや娘さんがいるとします。そんなお子さんたちから、「〇〇君の家では、ゲームを一日三時間までやっていいんだって。それなのに、どうしてうちは、一時間までなの?」と聞かれたら、あなたはどう答えますか。もしくは、あなたの家庭は、ゲームを禁止している(または、ゲーム機器を持たせていない)家庭であるかもしれませんね。そんな場合、「みんなゲームをしているのに、うちではなぜゲームはだめなの?」と聞かれたら、あなたは何と返事しますか。多くの親たちは、「それがうちのルールだから」とか、「ゲームをやりすぎると成績が下がるから」などと答えるのではないでしょうか。子どもに対する答えとしてはいずれも正解です。

ですが、反省するだけのコミュニケーション能力や自活できる生活力がない場合は引き下がるしかないかもしれません。しかし、ある程度学年が上がった子どもたちは、こうした親の返答に対して納得しません。彼らは面従腹背(うわべだけ従うふりをして、内心では従わないこと)をして、こっそり隠れてゲームをするかもしれません。中学生ぐらいになると、全く親の忠告を聞かずに長時間ゲームをすることだってあり得ます。「なぜ、長時間ゲームをしてはいけないの?」この質問にきちんと答えるためには、依存症について理解する必要があります。そして依存症についてよく知ることが、適切な対処につながります。

本書は、スマホもその大きな要因といえるインターネット依存症やゲーム依存症の実態を、精神科医の立場から一つひとつ見つめ直していくものです。本章では様々な例示をしながら、オンラインゲームやスマホのインターネットコンテンツの重大な負の側面である「依存症」について説明していきます。わかりやすさに主眼をおくために、すべての人にあてはまらない記述もあるかもしれません。研究などで証明されているものに関してはなるべく引用しますが、私自身の患者さんを診療した経験から述べていることもあります。ご了承ください。

・行為(ゲームなど)や人間関係に依存的になることを専門用語で「時期」といいますが、きなれない言葉なので、本書では「依存症」と言い換えます。
・特記の例外を除き、インターネットを使うゲームを「オンラインゲーム」と記します
・本書の「スマホ依存症)」は、スマートフォンの依存症)の他にインターネットやゲームなどができる機器の依存全般についてします。

目次

はじめに

第1章 依存物は最高だ!
依存物と同棲している子どもたち
依存症の定義
依存物の条件
1 快楽をもたらす
2 飽きない・飽きにくい・続けられる
オンラインゲームの依存的特性
その依存物が流行るワケ
「依存物は最高だ!」

第2章 脳内借金としてのスマホ依存症
依存症の発症
精神依存における「正の強化」と「負の強化」
正の強化
自の強化
精神力で「負の強化」を乗り越える?
「快楽」と「不快」の同時進行
知らないうちに猛獣に食べられている
依存症の正体の見えにくさ
依存症とひきこもり
依存症の複雑な因子
脳内借金としての依存症
依存症からの回復
離脱状態
回復と再燃

第3章 依存物との闘いの歴史
覚せい剤の発見と広がり
規制の効果と難しさ
アルコールの「性能強化」
アルコールの規制
米国の禁酒法の誕生と終局
イスラム教の禁酒
日本の「未成年者飲酒禁止法」
依存物と人間のつきあい
ゲームの発明と黎明期
オンラインゲームの誕生
インターネットメディアの依存的性質

第4章 スマホ依存症の実態
スマホ依存の正体
ケース1:13歳男子スマホ依存症・ゲーム障害
ケース2:16歳男子タブレット依存症・ゲーム障害
インターネットとスマホの普及
インターネット依存症の研究
何に依存しているのか?
インターネットゲーム障害
ゲーム障害
オンラインゲーム依存の兆候
合併する精神疾患や発達障害
注意欠如多動性症(ADHD)との合併
自閉スペクトラム症(ASD)との合併
空き時間による依存症の悪化

第5章 スマホ依存症対策の壁
一般的なスポーツとeスポーツの比校
教育や仕事と対決するゲーム
「プロゲーマー」という危ういワード
「虫域」の消失
遊具でもある学習用具?
依存は「自己責任」か
大人の依存症
未成年者の依存症

第6章 スマホ依存症からの回復
「節制しながら」か「全く断つ」か
断ネットか、節ネットか
断ゲームか、節ゲームか
スマホ依存症の治療
心理・精神療法
楽物療法
久里浜医療センターでの取り組み
専門デイケア
家族会
入院治療
治験キャンプ
スマホ依存症予防と回復
依存物に触れない自由・依存物から守られる権利

おわりに~スマホ依存症の未来
主な参考文献

カバーデザイン
アンズガー・フォルマー
田嶋佳子
イラスト
越井隆
図版作成
谷口正孝