巨匠に学ぶ配色の基本―名画はなぜ名画なのか? (リトルキュレーターシリーズ)

【最新 – 配色デザイン・配色パターンを学ぶおすすめ本】も確認する

名画の配色を学ぶ

「配色がうまくいっている名画」と「名画を加工して配色に失敗させた絵」が並んで掲載されており、「だからこの絵は名画なんだ!」と納得できます。とてもわかりやすいので、配色を勉強中の方もそれ以外の方でも楽しめる本です。理論的な説明がされているので理解しやすくなっています。

内田 広由紀 (著)
出版社 : 視覚デザイン研究所 (2009/2/25)、出典:出版社HP

巨匠に学ぶ 配色の基本 目次

名画の3条件
①共感を生む
名画は見る人を配色で元気にする
②美感を感じさせる
名画はすっきりして美しい気持ちに
③歓迎感を表す
名画は心を開放して明るくする

第1編 配色の基本型

色相型の効果
目指すイメージにぴったりの色相型で描く
①対決型 激しい緊張と開放感を表す
②視対決型 穏やかな緊張と開放感を表す
③三角型 すっきりした開放感を表す
④十字型 力強さと開放感を同時に表す
⑤全相型 自由で拘束の全くない開放感
⑥微全相型 穏やかで家庭的な開放感
⑦微開放型 穏やかな中に開放感を表す
⑧類似色型・⑨同系色型 仲間だけの落ち着いた世界
⑩微対決型 都会的でスタイリッシュ

色相の効果
それぞれの色相にはそれぞれのイメージがある
①紅色 幻想的な華やかさを表す
②赤色 健康的な活気と開放感を表す
③黄色 陽気な日常の気軽さを表す
④緑色 野性のパワーと自然を表す
⑤青色 堅実な働きと理性を表す
⑥紫色 優雅な高貴、神秘性を表す

トーンの効果
トーンのメッセージカは決定的です
①純色 積極的で力強い開放感
②明色 素直で明るい優しさを表す
③濁色 拘りと秘めた想いを表す
④淡濁色 拘りのある都会的な優しさ
⑤暗色 激しく強い意志と抑圧の力
⑥黒色 秘められた神秘の閉鎖空間
⑦白色 クリアで開放的な気持ち

コラム 色の配置3型 対決型・散開型・集中型
コラム マチエール 奥深い未知のメッセージを伝える
コラム 光のメッセージ−順光・全光・逆光
コラム 影 影は幻想と神秘を表す
コラム 不似合いな配色 不似合いな配色は、共感を生まない

第2編 配色の組み立て

引き立てとなじませ
組み立てと調整は引き立てとなじませで
①色相差 大差は生き生きと開放的
②明度差 小差は穏やかで優しくなじむ
③色量 小色量は優しい上品さを表す
④色数 多色は自然で落ち着く
⑤群化 全体がすっきりと緊張する
⑥アクセント バランスは崩さず生き生き
⑦リピート 画面全体が自然に融合する
⑧グラデーション&セパレーション 優しさ・情緒・穏やかさ
⑨バルール 近景を強く・遠景は弱く

第3編 主役を引き立てる

主役は気持ちを安定させる
主役は画面をすっきりさせる
①中央に・大きく・強い色で 堂々と力強い
②反対色 シャーブに生き生きさせる
③添え色 主役色は弱い色のままでも
④明度差を大きく 静かに生き生きとする
⑤領地を広く取る 優しい主役が強くなる

コラム 色彩のデフォルメ 固有色からの解放

所蔵先リスト
参考文献リスト
画家名索引

内田 広由紀 (著)
出版社 : 視覚デザイン研究所 (2009/2/25)、出典:出版社HP

名画の3条件 ①共感を生む

名画は見る人を配色で元気にする

私たちの心に深く残り続ける名画があります。これら名画の条件は三つあり、第一の絶対条件が「共感」です。画家が描いた想いが見る人の「共感」を呼び覚まし、心の奥から共鳴したときに名画が生まれます。

華やかで、生き生きした気持ちにさせるのは、どっち?
このカフェは今でもアルルの広場に残っていますが、実景はありふれた街角です。しかしゴッホは輝くような華やかさを感じ、暗い夜の屋外で夢中になって色彩を駆使してこの名作を描き上げました。a図は実京に近いトーンですが、b図は鮮やかなトーンの反対色です。どちらが一生き生きしていますか。

渋いトーンの同系色です
夜空も店先も渋く、暗い気分になります。華やかな輝きがなく画面がすっきりしません。反対色がきいていないと、閉鎖的で寂しい気分になります。
ゴッホは暗い屋外で描いたので、キャンバス上の色が本当はどんな色なのか、わかっていませんでした。でも、アトリエで描き直すとクールな気分になるので、現場で描き続けました。
当時の「夜のカフェ」は、酔っ払って帰れなくなったり、宿代のない人が夜明かしする場所でした。ときには売春婦が男と座っていることもありました。

鮮やかな反対色で描いています
反対色は華やかさを表し、鮮やかなトーンは生き生きと、きらきらする気持ちを表します。テントの鮮やかな黄色が星空の美しい青色を背景にして輝いています。反対色が引き立ちあい、見る人を元気づけます。

ゴッホは自分の才能に気付いていない?
スケッチは平凡ですが、完成作はすっかり変わります。主役もはっきり絞られました。スケッチはテーブルと人物を中心に描いていますが、完成作では黄色のテントが主役になって、テーブルは抑えられています。このためカフェの華やかさが鮮明に表れました。

名作と凡作の違いは配色の美しさ
実景は渋く寂しいカフェなのに、ゴッホが描くと見る人を元気にさせて共感が生まれ、長く記憶に残ります。この絵のポイントは鮮やかな反対色の効果です。

名画はしみじみした気持ちになる

日常のさり気ない光景を描いても何故か心に深く残り続ける名画があります。そのキーワードは「共感」です。画家が巧みに使った配色の原理が生きて、私たちに「共感」を感じさせています。

働く人のしみじみとした気持ちが伝わってくるのは、どれ?
台所で牛乳を注ぐメイドを描いています。働く喜びを強調すると元気で力強い画面になりますが、しみじみとした感じがなくなります。反対に、静かでしみじみとした雰囲気を表すと、働く活力がなくなってしまいます。a図は同系色ですが、b図は反対色の青色が加わり、背景が広い壁です。どちらがしみじみした気持ちになりますか。

お金持ちの義母と同居していたフェルメールには、たくさんの子供がいて総勢十四人の大所帯でした。彼には画商や、義母の手伝いで貸金業の回収をして副収入があったのに、ときには食べるのにも困っていました。でも、画面の青い布には高価な天然ウルトラマリンが使われています

同系色なので活気がない
背景は実際の台所と同じように雑然としています。衣装は黄色の同系色で落ち着いたイメージとなり、「働く」イメージに似合いません。反対色がないと開放感も表れません。一方、背景は台所道具があふれているのでしみじみとした情緒が感じられません。

反対色で生き生き
働く人のしみじみとした気持ちが表れています。メイドの衣装は黄色と青色の反対色の組み合わせで描かれています。反対色は開放的で活発なことを表すので、働く人のイメージに似合います。
広い影でしみじみする
メイドの背景の広い面積の白い漆喰の壁に、外光が優しい影をつくっています。このような明暗変化をグラデーションといい、優しく穏やかな気持ちを表し、しみじみとします。

X線調査によれば、壁には地図が掛かり足元には洗濯かごが描かれていました。途中から優しいグラデーションとなり、名作に変身しました。

反対色は、てきぱきと働く人を表す
図の青色と黄色の反対色は、てきぱきと「働く」ことを表しています。a図のように同系色にすると、そのイメージが消えてしまいます。またb図は、広い壁の影(グラデーション)がしみじみとした感じを表します。両方の効果が重なり、「しみじみとした労働の喜び」が表れます。

内田 広由紀 (著)
出版社 : 視覚デザイン研究所 (2009/2/25)、出典:出版社HP

名画の3条件 ②美感を感じさせる

名画はすっきりして美しい気持ちに

テレビの画像が乱れると、気に入った場面でも消したくなります。私たちは美しく整った、すっきりしたものを絶えず求めています。混乱した画面や、すっきりしない画面には美しさがなく、避けたくなります。

すっきりした気持ちになるのは、どっち?
マティスはフォーヴィスム(野獣派)と呼ばれ、奔放で自由な作品を描き続けました。しかし、一見気ままに描いているように見えますが、自由さの中にすっきりとした安定を探しています。a図の金魚は紅色で、b図は朱色です。すっきりとしていて安定した気持ちになるのはどちらでしょうか。

中央の金魚が紅色です
紅色は優しく華やかですが、力強さがないので「安定感」がありません。また、テーブル周辺が渋い灰色なので優しく癒されます。しかし、力強さがないためにすっきりしません。画面が混然として落ち着きません。
画面の中心となる主役には強さが求められ、よわよわしいと落ち着かない気持ちになります。紅色は華やかなので力強さに欠けて、主役にはふさわしくないのです。マティスは、華やかな紅色を好みましたが、この作品では主役を朱色で描いています。

金魚はフナを原種にして中国で飼育淘汰され、日本には室町時代に伝わり、浮世絵でも描かれました。ヨーロッパには十七、八世紀に伝わり、二〇世紀の初めには絵のモチーフとして流行しました。どっしりと安定した構図をさけて、軽快さの中に安定を探し続けたマティスにとって、揺れ動く全魚は絵心を刺激される格好のモチーフでした。

金魚が朱色です
紅色も朱色も同じように赤色と称しますが、効果はかなり違います。紅色に黄色を大量に加えるとこの朱色となり、力強い主役にふさわしい安定感が表れます。テーブル周辺の黒色が中心を強く引き締めて、生き生きしています。中心がすっきりと力強いのです。
マティスは二度モロッコを旅行し、そこで描いた絵に金魚が度々登場し、エキゾチックな夢を感じていました。鳥好きなマティスは、インコ、つぐみ、鳩、珍種の島などをホテルの部屋で三〇〇羽以上も飼っていて、部屋が森の中のようでした。ピカソが描いた鳩はマティスがあげたものです。
画家たちの間で流行した日本版画。でも、マティスやボナールたちが特に好きだったのは安く売っていた粗悪な複製画の方で、オリジナルの渋いトーンには「少しがっかり」と嘆いています。「古色だったり色があせていて、オリジナルしか見る機会がなかったなら、最初に受けたような感動はなかったかも…」

名画の条件は「美しい」こと
名画の条件に、「美感」があります。美感とは少し曖昧な言葉ですが、すっきりしてバランスが整っていることです。雑然と混乱していると「美感」が消え、的確ならばすっきりした気持ちになります。

内田 広由紀 (著)
出版社 : 視覚デザイン研究所 (2009/2/25)、出典:出版社HP

名画の3条件 ③歓迎感を表す

名画は心を開放して明るくする

初めて会った人の笑顔を見ると、好意を感じます。
絵画でも同じく、開放的で積極的な表現を見ると元気が出ます。見る人をわくわくさせるような配色の大胆さ、トリックの面白さが最大の歓迎感表現です。

生き生きと、楽しい気持ちになるのは、どっち?
この作品は『赤富士』の俗称で通るほど、誰でも知っている名作中の名作です。葛飾北斎はサービス精神にあふれる画家で、『神奈川沖浪裏』やこの『凱風快晴』などの大胆な配色と思いがけないトリックで見る人を楽しませます。a図は実景に近く、b図には四つのトリックが込められています。どちらが元気な気持ちになりますか。

四つのトリックを外して、実景に近づけてみました
四つのトリックがないので、すっかり平凡なつまらない赤富士になってしまいました。樹海の緑色を増やすと自然さが表れて、説明的な表現になりました。

『富嶽三十六景』は北斎の代表作ですが、風景画をよく描いたのは七〇代前半を中心にした十年間ほど。美人画や春画まで幅広く描いています。

四つのトリックが生きています
富士の山頂が真っ赤に焼けて鰯雲の青空と対比し、生き生きした気持ちになります。裾野に深い情感がわきます。
1817年の冬、北斎は名古屋で、もう年だから大作は描けないと噂され、大パフォーマンスをしようと思い立ちます。大群衆に披露したのは、広場に一二〇畳の紙を広げて、藁一束ぐらいの大筆で大達磨の半身を描くというものです。絵が完成しても、すぐにそれが何かわからないほど巨大なので、絵を櫓に滑車で吊りあげさせて観客の度肝を抜きました。江戸っ子気質なのか、大イベントに仕立てて大勢を楽しませた。心意気が面白いです。

名画の条件は見る人を元気にする
大胆な色使いや、思いがけないトリックが隠されていると、楽しい気分になります。これを「歓迎感」といいます。北斎は、単に上手に破綻なく描くのではなく、大胆な構図で私たちの印象に残る作品を描き続けました。サービス精神にあふれた画家でした。

内田 広由紀 (著)
出版社 : 視覚デザイン研究所 (2009/2/25)、出典:出版社HP