ページコンテンツ
【最新 – 配色デザイン・配色パターンを学ぶおすすめ本】も確認する
色彩の歴史を学ぶ
この本は色の歴史から芸術家、科学者の生涯まで多岐にわたって紹介されている色彩大全といえる一冊です。歴史上の学者やクリエイターたちが、それぞれに導き出した「美しい配色」のしくみを学ぶことができます。この本を読むことで、モチーフやテーマや、自分が伝えたいことに色を明確に使うことが楽しくなります。
目次
まえがき
i. 調和論の萌芽
i-1. アリストテレスの色彩調和論
i-2. ダ・ヴィンチの色彩調和論
ii. 色彩調和論の歴史
ii-1. 色彩調和論誕生――その時代背景
ii-2. ニュートンの色彩調和論
ii-3. ゲーテの色彩調和論
ii-4. シュヴルールの色彩調和論
ii-5. フィールドの色彩調和論
ii-6. ルードの色彩調和論
ii-7. マンセルの色彩調和論
ii-8. オストワルトの色彩調和論
ii-9. ムーン&スペンサーの色彩調和論
ii-10. イッテンの色彩調和論
ii-11. ビレンの色彩調和論
ii-12. ジャッドの色彩調和論
ii-13. NCS(Natural Color System)
ii-14. 色彩調和論の日本への伝播
iii. 絵画と色彩調和
iii-1. ドラクロワの色彩
iii-2. ターナーの色彩
iii-3. モネの色彩
iii-4. スーラの色彩
iii-5. ゴッホの色彩
iii-6. セザンヌの色彩
iii-7. ルドンの色彩
iii-8. マティスの色彩
iii-9. ドローネーの色彩
iii-10. カンディンスキーの色彩
iii-11. モンドリアンの色彩
iii-12. クレーの色彩
iii-13. アルバースの色彩
iv. PCCS (日本色研配色体系)と慣用的配色技法
iv-1. PCCSの概要
iv-2. 配色の基本的な考え方
iv-3. 慣用的に用いられる配色用語と技法
V. 歴史を刻んだカラー・デザイン
v-1. 景観の色彩調和
v-2. 建築の色彩調和
v-3, インテリアの色彩調和
v-4. インダストリアル・デザインの色彩調和
v-5. ファッションの色彩調和
Topics 1 対立する調和論1 ニュートン vs ゲーテ
Topics 2 画家たちの愛読書
Topics 3 対立する調和論2 オストワルトvsクレー
Topics 4 社会を助ける色彩
Topics5 西洋の調和観と日本の調和観
Topics 6 ドラクロワ礼賛
Topics 7 「太陽は神である」ターナーの愛した色
Topics 8 闇に魅せられた色彩観
Topics 9 バウハウスの色彩教育
Topics 10 ビコロールとトリコロール国旗における慣用的配色
索引
まえがき
ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチは手記のなかで「色彩はただ美という驚異をつくり出すばかりである。それは画家の力ではない。その美を生む色彩がそれである」と述べ、色同士が互いに引き立てあう「色彩調和」について論じている。古代ギリシア以来、「色彩調和」は「美」を創造する人々にとって、大きな課題であり、命題でもあった。
「調和」とは英語のハーモニー(Harmony)の訳語であるが、ハーモニーは西洋で古くから音楽との関係で捉えられてきた。ギリシア哲学のピュタゴラス学派では宇宙は協和音(調和)によって構成されている「天球の和音(2つ以上の高さの異なる音が同時に鳴るときの合成音の調べがよく合っていること)」であるとして、「調和」を宇宙の構成要素の1つと考えていた。一方、東洋でも漢語の「調和」は、やはり音楽に関連した用語であるとともに、さらに宇宙的な意味をもっていた。中国の戦国時代の哲学者荘子の思想をまとめた『荘子』「天運篇」には、黄帝が至高の音楽は「一清一濁、陰陽調和」、つまり、天界の音楽は「あるいは清く、あるいは濁り、陰にも陽にも調和したものである」と述べたとの記述がある。以上のように「調和」とは、洋の東西を問わず、宇宙を構成する音楽の和音(響き)から来ていることがわかる。
英語の「Harmony」はギリシア語のハルモニア(Harmonia)に由来する。ハルモニアはギリシア神話では「調和の女神」である。ハルモニア(ローマ神話ではコンコルディア)の母は、鍛冶の神ヘーパイストス(ローマ神話のウルカヌス)の妻で、美の女神アフロデイテ(ローマ神話のウェヌス、英語読みではヴィーナス)である。父は戦争・殺戮の神アレス(ローマ神話のマルス)である。アフロディテは人妻だから、アレスとの関係は許されない不義の関係であった。この話は有名で、後にボッティチェリ、ティツィアーノ、ブーシェなどの著名画家によって描かれ、数々の名作が生み出されている。アフロデイテは美の女神であり、アレスは血にまみれた殺戮の神だから、お互い相容れない性質の神である。その不義の子が調和の女神ハルモニアである。つまり美と殺戮という2つの対立的な概念のなかから生まれたものが調和であるという。ここに西洋独自の考え方がある。しかも成長したハルモニアはテーバイの創建者である地上の王カドモスと結婚するから、ここでも天上界と地上界という異なる世界を結びつける役割を果たすのである。この神話は異質な相容れない者同士の結合から調和が生まれるということを暗示している。
この話を色彩に関した象徴性で解けば、海の泡から生まれたアフロディテは緑の眼をしているから、緑によって象徴され、殺戮の神アレスは赤い血によって象徴されている(『イメージ・シンボル事典』アト・ド・フリース著〈大修館書店〉1984年による)。緑と赤が互いに求めあうという考え方(補色色相配色)は、やがてゲーテの『色彩論』につながっていく。対立した異質な概念を釣り合わせること、結びつけることがハーモニーを生み出すというのである。
本書は、西洋の代表的な研究者や学者の色彩調和論を検証しながら、色彩調和がどのように創造され、また絵画や建築・デザインにどのようにあらわされてきたかを検証したものである。
本書は次の構成をとっている。
第1章 調和論の萌芽
第2章 色彩調和論の歴史
第3章 絵画と色彩調和
第4章 PCCS(日本色研配色体系)と慣用的配色技法
第5章 歴史を刻んだカラー・デザイン
第1章では、古代ギリシアから中世までの色彩調和に関する考え方を概説する。第2章は本書の中核ともいうべき内容で、ニュートン、ゲーテ、シュヴルールからジャッド、NCSまで12に及ぶ代表的色彩調和論を紹介し、その概要を考察したものである。第3章はそれらの色彩調和論に影響を受けた色彩画家として有名な13人の絵画論を紹介している。第4章はわが国の代表的な表色体系である日本色研配色体系に基づいて配色技法の解説を行った。そして第5章は、建築からファッションに至る歴史を刻んだ代表的カラー・デザインの紹介をしている。
以上の西洋の代表的な色彩調和論を概括してみると、最終的にはアメリカの色彩学者ディーン・ブルースター・ジャッドがまとめた「秩序」「なじみ」「類似性」「明瞭性」の4つの原理(P.131-134)に集約される。だが、その調和論を導き出すアプローチの手法はさまざまであり、本書をこのアプローチの視点から解析し、読み解くこともできるだろう。それが「色彩調和論」を紐解く道標ともなるからである。以下にその要点を列挙する。
1 音楽と色彩との共振による調和論
音楽が「調和」を生み出す主な要素であるという視点の調和論。古代ギリシアのピュタゴラス、アリストテレスに始まり、ニュートン、ゲーテによって提言され、フィールド、イッテンと継続していく考え方である。やがてそれらはスーラをはじめ、マティスやドローネー、モンドリアン、カンディンスキー、クレーなどの色彩絵画で表現されていく。
2 視覚的均衡の原理
ダ・ヴィンチに端を発し、ゲーテの「色の求め合い」の補色配色論として確立し、ルード、シュヴルール、マンセル、そしてムーン&スペンサーにつながる補色色相対比を重視する色彩調和論の基本となった手法である。シュヴルールの影響を受けたドラクロワやモネ、ピサロ、シスレーなどの印象派、スーラ、シニャックなどの新印象派の画家たちの基本理念になっていく。現代アートではジェームズ・タレル、オラファー・エリアソンによって表現されている。
3 色彩の自然連鎖の法則
ルードによって提唱された技法で、色相の明度対比を重視した配色。オストワルトの等価値色系列ともほぼ一致し、ヘリングの「自然の色の体系」を経て、スウェーデンのNCSやわが国のPCCSに取り入れられている。絵画ではターナー作品などに見ることができる。
4 色相とトーンの2属性によるアプローチ
色の3属性によるのではなく、色相とトーン(等色相面)の2属性を基点とした配色へのアプローチである。シュヴルール・トーンを基点としてオストワルト、ビレンの等色相面を経て、NCS、PCCSによる手法として提言されている。現在、最も普及している配色手法の1つである。
5 物理補色の灰色を基準にした色彩調和
視覚的均衡の1つであるが、補色の混色によって得られる灰色を調和の基点とする考え方である。ニュートンからフィールドに引き継がれ、シュヴルール、マンセル、オストワルト、ビレンへと継続する配色法であり、画家のドラクロワ、ルドンなどが試みている。
6 調和の定量化の試み
フィールドの三原色調和の数値化に始まり、マンセルの面積比、イッテンの面積対比などを経て、ムーン&スペンサーによる調和・不調和の定量化につながっていく流れである。すべてを論理的、数比的に思考する西洋らしい調和論である。
本書は文化学園大学名誉教授の北畠先生が主宰する「色彩文化研究会」に属する研究者たちの共同執筆である。前作『色で巡る日本と世界』(青幻舎)に続く第2作目であるが、今回も北畠先生にはご専門の立場から多大なご指導をいただいた。またPCCSに関しては、日本色彩研究所の名取和幸理事、文化学園大学の大関徹教授からも貴重なご示唆を賜った。さらにNCSについては定講師の桜井輝子さんからも有益なご助言を数多くいただいた。このNCSについてはNCS認定講師の桜井輝子さんからも有益なご助言を数多くいただいた。この場を借りて厚くお礼申し上げる次第である。
本書は「色彩調和論」に対する研究者たちの想いの詰まった書籍である。まだまだ不勉強で、未熟なところも多々あると自戒しているが、最後に読者の皆さまからの温かいご指導、ご鞭撻をいただければ幸いである。
城一夫
平成30年9月吉日