地図で見るアフリカハンドブック

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地図を見て理解を深める

着眼点が個性的でユニークなので、楽しく読めます。色々なテーマを基に描かれたアフリカの地図を立て続けに見る事で、この大陸のどの地域にどのような特色があり、それがどのような問題に繋がっているのか、という事柄が、立体的に理解出来るのは非常に面白いです。

ジェロー・マグラン (著), アラン・デュブレッソン (著), オリヴィエ・ニノ (著), 鳥取絹子 (翻訳)
出版社: 原書房 (2019/3/26)、出典:出版社HP

目次

はじめに
グローバル化でのアフリカの軌道を問いただす

2050年には25億人のアフリカ人
人口がかたよっている大陸
人口の動態——とりもどした人口と不確実性
教育は人口と開発の中心問題
不確実な公衆衛生の向上
大陸内部を移住する人の多さ
都市の挑戦——万人のためのアフリカの都市を創案する
キンシャサ——創造の熱気あふれるインフォーマルの中心都市

重圧のかかる環境
不確実で変わりやすい気候
水地域で共同管理する方向へ?
ナャド湖——人口と気候変動の重圧
ナイル、つねにもっとも狙われる川問題となっている森林破壊
砂漠化——その定義と答え
保護区の多いアフリカ

経済の転換期か?
不変の1次産品経済か、それとも新経済か?
農業問題の方程式
2段構えのケニア農業
採掘事業で新機軸?
不可欠なエネルギー
インフラ一大工事中の大陸
産業で新興なるか?
ICT——新しい経済?
南アフリカ、グローバル化しつつ弱点のあるアフリカの巨人

国家、社会、国土——緊張と再編成
各国、分離独立の論理と国内強化にゆれる
紛争のアフリカ
中央アフリカ共和国、失敗国家
地域統合の長い歩み
民主主義の過渡期——小休止か、それとも沈滞か?
不可分一体の都市と地方経済成長で利を得るのはだれか?

アフリカと世界
新旧のパートナーシップ
アフリカでの中国の存在感にみる両面性
未開発地と土地の争奪戦
アフリカ、世界的な犯罪市場の中継地
サハラ砂漠、グローバル化で狙われる連結地点
アフリカ人のディアスポラ(民族離散)

付録
参考文献
参考ウェブサイト
略語一覽

ジェロー・マグラン (著), アラン・デュブレッソン (著), オリヴィエ・ニノ (著), 鳥取絹子 (翻訳)
出版社: 原書房 (2019/3/26)、出典:出版社HP

はじめに

・グローバル化でのアフリカの軌道を問いただす
グローバル化による世界の再編成の現状を分析すると、アジアが新興しているのに対し、ヨーロッパとアメリカが相対的に衰退しているは明らかなのだが、アフリカの占める地位はどうもはっきりとしない。はたしてアフリカは、これからも紛争と環境破壊、破綻した公衆衛生の犠牲になり、貧しく不安定な大陸のまま、世界の中心からはずれていくのだろうか?それとも、世界的な資本主義の最後 のフロンティアとして、ほかに類を見ない自然資源「鉱物資源、生物資源、景観など]と、人口の伸び、都市化を成長の担保に、いまこそ変わりつつあるのだろうか?

・ほかと同じ大陸か?
アフリカについて問いただすとは、つまり「アフリカ悲観論」や「アフリカ楽観論」といった型にはまった考えから完全に離れ、その多様性をとりいれて考えることである。2つの偏見から透けて見えるのは、この大陸を世界のほかの大陸とは違うと見ているのは明らかで、それではカメルーン人の歴史家で哲学者のアキーユ・ンベンベが強調するように、現実のアフリカを反映しないことになる。アフリカ大陸の面積は3030万平方キロメートル―中国とインド、西ヨーロッパ、アメリカ合衆国を合わせた面積に相当で、そこに2018年現在、12億5000万人が住んでいる。ひと塊となった大陸部周囲につらなる大小の列島は、1億6000年前にあったとされる巨大なゴンドワナ大陸が分裂した結果である。

しかし、アフリカが細分化されているのはなにより政治的な要因によるもので、大半が熱帯である大陸の多様な地形や、何千という言語を話す民族のことは忘れられている。そんなアフリカの国々に共通しているのは、少数の例外(リベリア、エチオピア)をのぞき、19世紀の終わりからヨーロッパの大国の植民地となり、1960年代に多くが独立してからは、開発途上国に埋没したまま抜けだせていないことである。アフリカには現在、54の国家がある。国境の制定は外的な要因だったとしても、いかんせんその影響力は決定的だ。各国はあたえられた領土の枠組で、平和的にしろ、悲劇的にしろ、それぞれ特異な歴史をきざむことになったのである。

アフリカ情勢についての西欧の分析の多くは単純化されるきらいがある。フランスの農学者でエコロジスト、ルネ・デュモンが「アフリカはハンディを背負ってスタートした」(1962年)で述べた意見は、1960年代においては異端で、当時支配的だったのは、「アフリカはヨーロッパからの開発の遅れを猛スピードでとりもどしている」という見方だった。続く1980-1990年の10年間は、災害大陸(干ばつ、飢饉、戦争)として、世界体制の周辺に追いこまれることが多くなる。近年の2000-2018年間はもっと複雑だ。多くは、元世界銀行副総裁のジャン=ミシェル・セヴェリーノと彼の特別補佐官オリヴィエ・レイの意見と歩調を合わせ、2人の共著書のタイトルのように「アフリカの新時代」(2010年)が来たとみなしている。

その要因としては、新興各国との新しいパートナーシップ、人口増加と都市化による国内市場の拡大、教育とインフラの向上、独裁政権の減少と民主化の要求、国連で2015年までに達成する目標として合意された「ミレニアム開発目標」(MDGs)に象徴される開発政策の新たな高まり、などがあげられ、アフリカは新興地域に仲間入りしたようでもある(実際、大陸内の市場が大きくなったことで経済が活性化、グローバル化のなかで力をつけていることが確認される)。しかしそのいっぽうで、さまざまな危機(内戦、テロ、感染病など)によって、「アフリカ悲観論」が根強く残っている面もある。たとえば、開発問題の専門家セルジュ・ミハイロフは、著書「アフリカニスタン(アフガニスタンの過ちとアフリカを引っかけた造語)、アフリカの危機はわれわれの近くにもおよぶのか?」で、地中海からそう遠くないサヘル地域「サハラ砂漠南縁部」で、貧困にあえぎながらも人口が爆発的に増えていることが、ヨーロッパにとって事実上の「爆弾」になっていると訴えている。

・軌道と分岐点
本書では、データにもとづいた地図でグローバル化のなかでの現在のアフリカの立ち位置を明確にしたいと思っている。現在の活力に満ちた状況は、アフリカ大陸のさまざまなレベル(国家、地方、大都市)で、軌道を多様化させるのには絶好だ。ちなみに、一部の国は新興国(南アフリカ、モロッコ)に組み入れられているのに対し、貧困と政治的な無秩序の負のスパイラルにおちいっている国(中央アフリカ共和国、ソマリア)もある。状況はきわめて複雑で、経済と人口、環境の動向が同時期に、さまざまな時点でからみあっているのが特徴だ。「アフリカ経済の歩みはいたって遅い。

人口の動向は、アフリカを専門とするイギリス人歴史家、ジョン・イリフェが強調するように(2009年)、鍵となるパラーメーターの1つである。広大な空間を移動しながら暮らす、多いとはいえない人口に税を課すのが非常にむずかしいことから、アフリカの指導者は遠方との貿易を管理することで権力を築くことが多かった。それはたとえば、フランス人地理学者のロラン・プルティエが指摘するように、18世紀から19世紀に最盛期を迎えていた奴隷貿易である。これが先例となって、未加工の原材料(農業、鉱業林業)の輸出に頼る姿源依存型経済に頭襲され、19世紀終わりから、植民地時代をへて独立してからも実施されている。こうして、経済が原材料の世界相場に左右される脆弱な国家が生まれることになる。これらの国々は、現在までのところ、多様な工程で経済全般を押し上げることができず、結果、より多くの人々の生活 が持続的に向上する意味での発展からは見放されている。

1960年代の至福の時代(原材料の相場が高騰)のあとは、相場の下落で経済成長が失墜(1970-1980年)した。つづく冷戦の終了(1990年)と、関連する支援の打ち切りなどで、アフリカの国々は貧困と政治危機のスパイラルにおちいり、各国は構造的な修正計画をよぎなくされた。次いで2000年から2014年にかけて、新たな好機が訪れる。中国の成長が世界の原材料相場を支えたのである。債務の帳消しと、新自由主義経済の改革(ゆるい税制と、法的な安全性)に引きつけられた対外投資が、とくに新興国(中国がいちばん目立つが、一国だけではない)から競ってつぎこまれた。くわえて、国外移住者からの送金や、グローバル化された金融が、合法・違法にかかわらず流れてくる。この間、経済は成長して、資金が流通、各国はふたたび開発計画をスタートさせた。しかし、2014年から2017年はふたたび原材料相場が下落し、実行中の変革の本質が問われるようになる。

ところでアフリカの人口は、奴隷貿易や植民地時代の武力衝突などで減少していたのだが、第2次世界大戦以降、猛烈な勢いでとりもどしている。世界の人口転移の最新版では、アフリカ人は1900年には1億人だったのが、2000年には10億人になり、2050年には24億5000万人に達し、2100年に32億人から44億人のあいだで安定すると予想されている。都市化率も上昇している(人口に占める都市住民の割合は、1950年には、パーセントだったのが、2015年、+10パーセント)。これらの変化は、かつてない規模とペースで起きており、好機をもたらすと同時に挑戦にもなっている。好機といえるのは、新興国を目ざすには、けた違いの消費とインフラ整備が欠かせないのだが、その点、都市化で経済力をつけた中流階級には相当の消費が期待できるからだ。

そうなると、外部依存型経済で貧困におちいってきた長い歴史とも決別し、大陸内部で生産性のある多様な分野に活路を提供する可能性も見えてくる。総人口のなかで非労働力人口(15歳以下と、65歳以上)の割合が減少すれば、アフリカにもついに「人口ボーナス」期労働力人口が増加して、消費や投資への購買力が高まり、経済成長が促進されること――が訪れることになる。そのいい例が、経済で急成長している中国だ。このシナリオでは、毎年、労働市場に参入する若い世代に見あう雇用が生まれることが想定されるのだが、そのいっぽうで、 政治・社会が急激に不安定になるリスクもはらんでいる。これらをふまえたうえで、別の新たな開発軌道として考えられるのは、世界の投資をアジアからアフリカへ移動させ、安価な労働市場としては最後の鉱脈を発掘することで、産業に舵を切ってスタートすることだろう。この過程をふむと、都市部の新たなサービス業と、農村経済の多様化につながり、アフリカの農業と都市部市場の関係もより密接になるはずだ。

それにくわえて、人口の伸びで想定されるのは、環境との均衡を保ちつつ、増加した人口を養うために農業のパフォーマンスを向上させることである。そのためには、フランスの地理学者ジャン=ピエール・レゾン(1997年)や、農学者ミシェル・グリフォン(2006年)が強調するように、環境に配慮しつつ農作物の増産をはかる「緑の革命」が必要になるだろう。しかも、アフリカ大陸の大半はいまだに農村部で貧困なことから、気候変動の影がよけいに重くのしかかっている。それによる結果はさまざま――その地域が乾燥化に向かうかどうかにより――であろうし、住民が気候変動に対応できるような設備にしても、いまだ確実なものはないのが現実だ。この不安を反映しているのが、2015年、国連の「ミレニアム開発目標」(MDGs)を受け継ぐ形で合意された「持続可能な開発目標」(SDGs)[2030年を目標]に、環境問題が統合されていることだろう。ちなみにこの重要問題は、2014年、「アフリカ連合」(AU-2001年に創設)に属する各国首脳が、前身「アフリカ統一機構」(OAU)の創設100周年を見越して合意した、長期的ヴィジョン「アジェンダ2063」にもしっかりと明記されている。

最後に、本書で使用した統計の出典についてひと言ふれておこう。強調したいのは、アフリカにかんする数字のデータでは信頼できるものがきわめて少ないことである。これは毎度のことなのだが、近年は状況が新しくなっている。実際に現在は、さまざまな組織が過剰なほどの統計的な情報を発信している。しかし、国連アフリカ経済委員会によると、アフリカで国際的基準に合致する統計を所有しているのはわずか12か国だけである。これでは情報は豊富でも、世界銀行チーフ・ディレクターのシャンタ・デバラジ ャンの表現を借りると、「アフリカの統計学の悲劇」は防ぎようがないだろう。アフリカでは、統計にかける国家予算や調整能力不足、計算方法の変化などから、慎重に扱うべき統計がおろそかにされている事実がある。たとえば2013年、ナイジェリアではGDP国内生産が再計算されて89パーセント増となるなど2倍近くに上昇、一挙に南アフリカを抜いてアフリカ最大の経済国になったのだが、貧困度はいっこうに減少していないのだ。それでも、いまや豊富な情報があれば、それを地図にして、将来を展望し、アフリカのおもな動向を理解することは可能なのである。

ジェロー・マグラン (著), アラン・デュブレッソン (著), オリヴィエ・ニノ (著), 鳥取絹子 (翻訳)
出版社: 原書房 (2019/3/26)、出典:出版社HP