BIG NINE 巨大ハイテク企業とAIが支配する人類の未来

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ビッグナインのAIビジネスがよくわかる

前半では、GoogleをはじめとするビッグナインがAI開発にどのように携わってきたのかがわかります。後半では、日々進化を遂げていくAIのこれからの50年を想定した未来が描かれ、私たちがどのような行動を起こすべきかの提案がされています。

エイミー・ウェブ (著), 稲垣みどり (翻訳)
出版社 : 光文社 (2020/1/15)、出典:出版社HP

目次

はじめに 手遅れになる前に

第一部 機械の中のお化け
第一章 心と機械AIの簡単な歴史
第二章 限られた人々からなるAIの種族
第三章 1000もの切り傷|AIが意図しない結果

第二部 私たちの未来
第四章 人工超知能までの道のり 警告
第五章 コンピューターの第三世代で成功する 楽観的なシナリオ
第六章 1000の切り傷とともに生きる 現実的なシナリオ
第七章 人工知能王朝 悲劇的なシナリオ

第三部 問題を解決する
第八章 小石と岩 AIの未来をよくする方法

謝辞
参考文献
原注

エイミー・ウェブ (著), 稲垣みどり (翻訳)
出版社 : 光文社 (2020/1/15)、出典:出版社HP

はじめに

手遅れになる前に
人工知能(AI=ArtificialIntelligence)は、すでに私たちの生活の中に入り込んでいるが、私たちが予想していたとおりに表舞台に登場したわけではない。AIは私たちの金融システム、送電網、小売り業のサプライチェーンなどを目立たないところで支えている。私たちが移動するときに道案内をし、打ち間違った単語を解読し、何を買い、聴き、観て、読めばいいのかを教えてくれる。いわば、目には見えない生活基盤だ。健康、医療、農業、交通、スポーツ、さらには恋愛やセックスや死など、いまやあらゆる場面にかかわっている。そういう意味でAIは、私たちの未来を形づくるテクノロジーだといえる。

AIは、テクノロジーにおける単なるトレンドや流行語でもなければ、一時的な娯楽でもない。AIはコンピューターの第三世代のテクノロジーだ。私たちは大きな変化のただ中にいる。その状況は産業革命の時代を生きた人々の状況と似ていなくもない。最初は誰も変化に気づかなかった。認識できないほど少しずつ変化していたからだ。だが最終的に、世界は様変わりした。次の世紀の道筋を形づくるのに十分な産業、軍事、政治資本を持つイギリスとアメリカが世界の二大勢力になったのである。

誰もがAIについて、私たちの未来にどんな影響を及ぼすのかを議論している。「ロボットに仕事を奪われる」「ロボットが経済を一変させる」「しまいにはロボットが人を殺しはじめる」といった説を耳にしたことがある人も多いだろう。「ロボット」を「機械」に置き換えれば、二〇〇年前に人々が話していたことと変わらなくなる。AIについて考えるとき、私たちは『2001年宇宙の旅』のHAL9000や、「ウォー・ゲーム」のウォーパー、『ターミネーター』のスカイネット、「宇宙家族ジェットソン』のロジー【訳注/アメリカ・カナダのアニメ。ロジーはメイドロボット】、『ウエストワールド」のドロレス【訳注/アメリカ西部開拓時代を再現したテーマパークを舞台とするドラマに登場するロボット】といった、大衆文化に見られる擬人化されたAIを連想しがちだ。AIを取り巻く生態系の内部で仕事をしている一部の人々以外は、誤った根拠のせいで、未来を夢のような世界――あるいは恐ろしい世界――だと思ってしまうかもしれない。

日頃からAIの研究や発展にかかわっている人でないと、未来を予測するのに必要なサインに気づくことはできない。そのため一般の人々は、映画で観た「ロボットが支配する世界」を引き合いに出してAIを語るか、反対に、きわめて楽観的な未来を思い描くかのどちらかになる。このような極端な見方は、AIの創成期からいわれてきた問題の一つである。AIの能力について過大な期待を寄せる人もいれば、制御不能な武器になるのではないかと危惧する人もいる。私がこの問題について多少なりとも詳しいとするなら、それは、過去一〇年間にわたって、AIの研究とその生態系内外の組織にいる人たちと過ごしてきたからだ。

私は、マイクロソフトやIBMをはじめとする数々の企業に助言し、AIとは直接関係のない組織の人たちとも何度も会ってきた。ベンチャー投資家やプライベート・エクイティ【訳注/未上場企業の株式】投資家、国防総省や国務省内のリーダー、それに規則をつくることが前進の唯一の道だと考えている立法者といった人たちだ。さらに私は、学術研究者や技術者たちと何百回もミーティングを重ねてきた。そこからわかったのは、AIに直接かかわる仕事をしている人たちは、ニュースでよく見聞きするような極端な考え方は持っていないということだ。

他の分野の研究者もそうだが、実際にAIの未来をつくっている人たちは未来への過度の期待をやわらげようという意識を持っている。彼らは忍耐、時間、費用、順応力とともにコツコツと複雑な問題に懸命に取り組んでいる(もちろんなかなか前に進まないことも多いが)。そのことを、私たちは忘れがちである。みな、頭がよく、世知に長け、思いやり深そうな人ばかりだ。

こうした研究者のほとんどは、米国のグーグル、アマゾン、アップル、IBM、マイクロソフト、フェイスブック、中国のバイドゥ、アリババ、テンセントといったテクノロジー関連の九つの巨大企業で働いている。いずれもAIをつくり、私たちを明るい未来へと導いてくれる企業であり、これらの企業のリーダーたちは、自分の利益のためではなく、大義のために働いていると私は信じている。彼らは、AIがヘルスケアや長寿に貢献し、差し迫った気候変動の問題を解決し、何百万もの人を貧困から救う可能性を見据えている。実際にこうした企業の仕事は、さまざまな業界で、さらには日常生活において目に見える効果を発揮している。

問題は、これらの九つの企業、ひいてはAI分野で働いている人たちにかかる外部からの圧力だ。その圧力が、私たちの未来をよりよいものにしようとする彼らの意志をくじいている。その責任はさまざまなところにある。アメリカでは、市場における絶え間ない需要の増大や、新しい製品やサービスに対する非現実的な要求によって、長期的な計画が成り立ちにくくなっているのも事実だ。私たちは、まるで研究開発の大躍進を事前に計画できるといわんばかりに、グーグル、アマゾン、アップル、フェイスブック、マイクロソフト、IBMは年次会議でAIの新製品に関する重大な発表をしてくれるだろうと期待している。前年よりも優れた商品が発表されなければ、あたかもその企業が失敗をしたかのようなレッテルを貼り、あるいは、AIはもうおしまいなのだろうかと不安になる。さらに、その企業のリーダーシップまで疑ってしまう。企業はいつでも、定期的に私たちを感嘆させてくれるものと思い込んでいるからだ。

じっくりと研究に取り組む時間を与えていないにもかかわらず、数カ月間公式な発表がないだけで、私たちはその企業が何か世間を動揺させるような秘密の研究を進めているのではないかと勘ぐってしまう。アメリカ政府は、AIについても、私たちの長期的な未来に対しても、壮大な計画を持っているわけではない。政府内部の組織力を高め、国際的な協力体制を強化し、将来的に起こりうる戦争に向けて軍事組織を構築するといった国家戦略が優先され、AIはめまぐるしく変化する政治の犠牲となってきた。AIの研究開発は気まぐれな商業セクターやウォール街にゆだねられ、アメリカ政府はAIを、新たな仕事を生み出し、発展の機会を与えてくれるものとは捉えずに、AIによって技術分野での失業が広がることばかりを心配してきたのだ。そして、国内のテクノロジー系大企業に非難の目を向け、戦略的な計画を立てる政府の中枢に企業が参加するのを許してこなかった。つまり、AIの開拓者たちは、私たち市民や学校、病院、都市、企業と信頼関係を築くために、互いに競争するしかなかったのだ。

現在のアメリカは、未来が見通せないという悲劇的な状況にある。第一に、「いまが大切」と考え、数年先のことしか見据えていない。テクノロジーの進歩は歓迎するが、その先の発展や自分たちの行動の結果にまでは責任を持とうとしていない。だからこそ、AIの今後の発展を六つの企業にゆだねているのである。だがその六社は目覚ましい成果を上げているものの、その利益の追求は必ずしも私たち個人の自由や民主的な理想とは一致しない。一方、中国では、AIの発展の道は政府の壮大な野心に握られている。中国はAIの覇権国家となるべく着々と土台を固めており、二〇一七年七月には、二〇三〇年までにAIのグローバル・リーダーになる計画を打ち出した。二〇三〇年の国内AI産業額を少なくとも一五〇〇億ドルと見積もり、政府系投資ファンドの一部を新しい研究所やスタートアップ企業、さらには次世代のAIに長けた人材を育成するための学校に投資するという。

二〇一七年一〇月、習近平国家主席は数千人を前に行った長い演説の中で、AIとビッグデータに関する計画を明らかにし、AIによって中国は世界有数の先進国へと進化を遂げるだろう、と述べた。すでに中国の経済規模は三〇年前の三〇倍に拡大している。バイドゥ、テンセント、アリババは株式公開会社ではあるが、中国企業の常として、中国政府の意向に従わなければならない。中国の一四億もの人口、すなわち一四億人分のデータは、AI時代における最大かつ最重要な天然資源といえる。アルゴリズムのパターン認識の精度を高めるには、膨大な量のデータが必要だ。そのため中国の投資家はメグビー(Megvii)やセンスタイム(SenseTime)といった顔認識システムに関心を持ち、市民が電話をかけたり、オンラインで買い物をしたり、ソーシャル・ネットワーク・サービスに写真を投稿したりするたびに生み出すデータは、バイドゥやアリババやテンセントが優秀なAIシステムを構築するのに役立っている。これこそが中国の強みといえるだろう。アメリカでは進歩の速度を落とすことになりかねないセキュリティーやプライバシーの制限が、中国には存在しないのだ。

私たちは、AIの発展の道筋を、中国政府が将来に対していかに壮大な計画を立てているかを加味して考えなければならない。二〇一八年四月、習近平国家主席は中国を国際的な「サイバー超大国」にするというビジョンを語り、中国の国営通信社である新華社通信はこのスピーチの一部を配信した。それによると、新たなサイバー空間の統制ネットワークとインターネットは「ポジティブな情報を広め、正しい政治の方向性を守り、一般の意見や価値観を正しい方向に導く」という。中国が従わせようとしている権威主義的なルールは、西洋で大切にされている言論の自由や市場主導の経済、権力分立とは無縁である。

中国国内で発生する情報をすべて掌握し、住民のデータや戦略的パートナーのデータを監視しようとする法令にはAIが組み込まれている。たとえば、外国籍企業は中国国民のデータを中国国内のサーバーに保存することが義務づけられており、そうすることで治安当局は個人データに自由にアクセスができる。また、「ポリス・クラウド」は特定の人々を監視し、追跡するよう設計されているが、対象となるのは精神的に問題を抱えている人、政府を公に批判した人、それにウイグルというイスラム教徒の少数民族だ。二〇一八年八月の国連の発表によると、中国西部にある未公表の収容所に何百人ものウイグル人が収容されているとの報告があったという。中国の「一体化統合作戦プラットフォーム(IJOP)」は、AIを利用してパターンから外れたものを見つけだす。たとえば、請求書の支払いが遅れたときにはただちにAIが察知し、不正を働かせないようにする。

AIを利用した「社会信用システム(ソーシャル・クレジット・システム)」は、このような問題のない社会を目指して開発されたものだ。よい行いをしたら加点、交通違反切符を切られたら減点、といった具合に市民はさまざまなデータポイントで評価される。点数が低い人は、仕事を探すにしても、家を買うにしても、子どもを学校に入学させるにしても、困難にぶつかる。高得点の市民の顔が公開される都市もある。一方、山東などの都市では、交通規則や信号を無視して道路を横断した市民の顔がデジタル掲示板に公開され、そのデータは自動的にウェイボー(中国で人気のソーシャル・ネットワーク・サービス)に送られる。

あまりにも現実離れしていると感じるかもしれないが、中国はかつて一人っ子政策を導入して社会を変えようとした国だということを思い出せば、ありえない話ではない。こうした政策は、習近平国家主席の側近たちが考え出したものである。彼らはこの一〇年間で中国という国のイメージを変え、支配的なグローバル国家として生まれ変わらせることに専念してきた。現在の中国は、毛沢東が台頭していた時代以降でもっとも権威主義的だといえる。そして、その目的のために積極的にAIが活用されている。「一帯一路」というのは、かつてのシルクロードのように、中国とヨーロッパを中東とアフリカ経由でつなぐルートの広大なインフラストラクチャー計画である。

単に橋や高速道路をつくろうというのではない。監視技術を輸出し、その過程でデータを集める「グローバル・エネルギー・インターコネクション」は、自分たちで管理できる世界初の電力供給網を整備することを目指す計画だ。中国はすでに新種の高電圧ケーブルを開発しているという。この技術を用いて西方の地域から上海まで電力を運び、さらには近隣諸国の電力提供者になろうとしている。こうした計画は、長い時間をかけてじわじわと国の力を強めていくのに最適である。二〇一八年三月、中国の全国人民代表大会は、国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正案を採択した。これにより、習近平は生涯にわたって国家主席の座を保持できることになった。

彼の最終目的ははっきりしている。新たな世界秩序をつくり、その事実上のリーダーを中国が務めるというものだ。中国がその実現に向けて外交政策を推し進めているあいだ、アメリカは長年の国際協力や取り決めに背を向け、トランプ大統領は新たな竹のカーテン【訳注/とくに一九五〇年~一九六〇年代の中国と他国とのあいだの政治・軍事・思想的障壁】を構築した。AIの未来は現在、二つの道に分かれて進んでいて、そのどちらもが、必ずしも人類にとって最善の道とはいえない。中国のAI推進は習近平国家主席が率いる新たな世界秩序計画の一部となる一方で、アメリカでは、市場原理や消費者主義がAIの主な推進力となっている。この二つの道は、私たちが見逃している重大なポイントだ。それを明らかにすることがAIの問題を考えるうえで重要であり、本書の目的でもある。

先ほど言及した九つの企業は、機械に秘められた暗号を解き、人間と同じように思考できるシステムを構築するという崇高なゴールを目指しているのかもしれない。だがそれは、人類に取り返しのつかない害を及ぼす恐れがある。AIは根本的にポジティブな力だと、私は信じている。そして、次世代の人たちが理想的な未来を実現するのに役立つ、とも。

とはいえ、私は現実主義者だ。誰もが知っているとおり、どんなによい人でもうっかり他人に害を及ぼしてしまうことがある。テクノロジー、とくにAIに関しては、常に意図された「正しい使い方」と意図されていない「誤った使い方」を想定しておかなければならない。なぜそのことが現在、そして近い将来において重要なのかというと、世界経済や労働力、農業、運輸、銀行、環境モニタリング、教育、軍事、国家安全保障など、すでにすべてのことにAIがかかわっているからだ。このままアメリカと中国が現在の開発の道を進んでいけば、二〇六九年は二〇一九年とはだいぶ様相が変わっているはずである。社会構造や社会制度がAIに頼るようになればなるほど、私たちのためになされている決定が、私たちだけではなく機械にとっても都合がいいということがわかってくる。

技術的にも地政学的にも、AIの発展は重大な段階をいくつか通り過ぎようとしているが、AIが進歩を遂げるにつれて私たちの目には見えなくなってきている。データがどのように集められてふるいにかけられているかは曖昧であり、自律システムがどのように判断をしているのかもわかりにくくなっている。つまり私たちは現在、日常生活にAIがどのように影響を及ぼしているのかを理解できていないまま、この先何年も、あるいは何十年にもわたる急速なAIの発展を迎え入れようとしている。

AIの現状の歩みを見ていくことによって、AIに関する理解を深めてもらうのが本書の目的だ。人工知能についてわかりやすく伝えることによって、将来に備えて読者のみなさんにより多くの知識を持っていただきたいと思っている。手遅れになる前に、AIが存在する未来を明確にすることで、みなさんの個人的な生活にAIが関係していると実感してほしい。私たちは、文字どおり実存的危機に直面している。AIが出現して以降、誰もが根本的な疑問を呈してこなかった。少数の人たちがみんなのためという名目でつくったシステムに力を持たせると社会はどうなるのか?その判断に市場の力や野心的な政党のバイアスがかかっていたとしたらどうなるのか?

その答えは、アクセスの拒否、社会の慣習や経済のルール、他人とのコミュニケーションといった観点での私たちの未来にも反映される。本書は、AIについて一般的な議論をするものではない。よりよい未来のための警告であり、青写真だ。アメリカが長期的な計画を避けている状況に疑問を呈し、企業や学校、政府内でのAIに対する準備不足を取り上げ、中国の地政学、経済、外交戦略を浮き彫りにし、中国が新世界秩序の構築という壮大なビジョンに向けて歩む様子を明らかにする。この先を読んでいただくとわかるが、私たちの未来には英雄が必要なのだ。難しい状況下での勇敢なリーダーシップが求められる。

本書の第一部では、AIとは何か、「ビッグ・ナイン(九つの巨大企業)」がその開発にどう携わってきたかについて見ていき、アメリカの六社と中国三社(バイドゥ、アリババ、テンセント)についてさらに詳述する。第二部では、特化型人工知能、汎用人工知能、スーパーインテリジェンスと進化を遂げていくAIのこれからの五〇年を想定した未来の姿を描いていく。楽観的なもの、現実的なもの、悲劇的なもの、という三つのシナリオを用意した。シナリオはデータをもとにしたシリアスなものであり、AIがどのような進化を遂げうるか、その結果、私たちの生活がどのように変わりうるのかを垣間見ることができるだろう。第三部では、それぞれのシナリオに出てくる問題に対する解決案、今から準備できる案を提供し、私たちが行動を起こせるよう、具体策を提案する。

誰もが、人工知能の未来に対して大切な役割を果たすことができる。AIに関する決断は、たとえそれが些細な決断であっても人類の歴史を永久に変えてしまう恐れがある。利他的な志のもとで希望に満ちて設計されたはずのAIシステムが、もしかしたら、いつのまにか人類に破滅をもたらす存在になっていることに気がつくかもしれない。だが、そうでなくてもいい。とにかくページをめくってほしい。次はどうなるのか、ただぼんやりと思い描いている場合ではない。AIはすでに目の前に存在している。

エイミー・ウェブ (著), 稲垣みどり (翻訳)
出版社 : 光文社 (2020/1/15)、出典:出版社HP