世界一やさしい 決算書の教科書1年生

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決算書の読み方を身につける

決算書のつくり方は経理の担当者や公認会計士、税理士が知っておけば良いことですが、決算書の基本的な読み方は全てのビジネスパーソンが理解しておかなければならない大事な知識です。本書は、はじめて決算書を学ぶ人、なんとなく読めるが深い読み方を知らない人を対象に、決算書の基本、特にその読み方について解説しています。

小宮 一慶 (著)
出版社 : ソーテック社 (2017/10/21)、出典:出版社HP

はじめに

私は経営コンサルタントとして独立してもう20年以上になります。私の会社(小宮コンサルタンツ)は11人の小さな会社ですが、私は自社を経営する以外に、7社の会社の社外役員と5社の顧問をしています。中には上場している会社もあります。
それらのお客さまでは、取締役会などの会議に出ることが多いのですが、その際には、必ずといっていいほど、業績の報告や確認があります。簡単な場合でも、損益計算書をもとに売上高や利益の報告を受けます。時には、貸借対照表による財務状況の報告を受けることも少なくありません。また、決算の報告を受けるときには、それらの決算書の詳しい説明が行われます。もちろん、役員や顧問として、その際に疑問や問題点があれば指摘しなければなりません。

決算書は学び方を間違わなければ難しくない

貸借対照表や損益計算書のことを「決算書」といいますが、それらを難しいと感じる人は少なくないようです。しかし、慣れればそうでもありません。
「難しいと感じる人の多くは、そのつくり方から学ぶからではないか」と私は思っています。会計は規則なので、その規則に基づいて、決算書をつくるのはとても難しいからです。おそらく私もできないでしょう。しかし、私たち大方のビジネスパーソンには、決算書のつくり方を学ぶ必要性はないのです。「読めればいい」のです。
本書は、はじめて決算書を学ぶ人、これまで何度か勉強してみたけれど挫折してしまった人、何となく読めるが深い読み方を知らないという人を対象に、「決算書の基本、特にその、読み方」を解説している」ものです。
ビジネスの現場で、決算書のつくり方が必要なのは、経理の担当者や公認会計士、税理士などです。大多数のビジネスパーソンは基本的な読み方が分かればよく、それで十分だと私は思っています。
しかし逆に、「”決算書とは何か”また”その基本的な読み方”が分からないというのは、ビジネスパーソンにとっては、大きな要素が欠落している」ともいえなくはありません。そして、そのような人をもったいないと私が思うのは、「数時間勉強すればかなりのことが分かるのに、それをやらない」ことです。
本書は、そういう人のためにつくられた本です。本書を数時間かけて勉強すれば、決算書の読み方の基本は必ず分かるはずです。そうすると、自社やお客さま企業などの見え方が違ってくることは間違いありません。

決算書を読めるのはビジネスパーソンには必須のスキル

決算書が必要なのは、経営者や管理部門の人たち。そう思っていませんか?
私はすべてのビジネスパーソンが、決算書からその会社の経営状況を読み取る力を持つべきだと思っています。決算書から、会社や業界の状況を詳しく読み取ることができるからです。そして、それを読めることによって、会社への理解が高まり、働き方や、ひいては社会に対する考え方も大きく変わる可能性もあります。
決算書は「財務3表」と呼ばれる貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書の3つの計算書類のことです。「貸借対照表からは会社の”安全性”」「損益計算書からは”収益性”」「キャッシュ・フロー計算書からは”将来性”」などを、具体的な数字に基づいて読み取ることができます。
自分の会社の決算書から、安全性、収益性、将来性はしっかりしているかといったことを見極めるのは、自身の生活や将来設計のためにもとても重要なことだと思います。
取引先の信用調査にも、決算書を役立てることができます。取引先の会社が突然潰れて、お金を支払ったのに物が入ってこない、納品したのにお金が支払われない、なんてことがあっては困ります。
業界分析をする人にも、業界ごとに財務内容に特徴があるので、そこから読み取れることはたくさんあります。電鉄会社とアパレルの会社とは決算書の特徴が違うのです。
さらに、これから株式投資をしようという人、就職活動のために会社研究をしようという人にとっても、決算書を読み取る力は大きな助けとなるでしょう。
最近は、就職活動をする学生が、一般の人に有名な一部の大手企業に集中してしまうという風潮がありますが、あまり一般的に知られていない部品メーカーや素材メーカーの中にも、抜群の財務内容を持った優良企業がたくさんあります。ビジネス誌がよく企画する「人気企業ランキング」はイメージが先行したものです。それに頼ってしまうと数年後、「こんなはずではなかった」となりかねません。人気というものは数年で大きく変わります。現に、以前はとても人気だった電機メーカーは、ランキングを大きく落としています。
「就職先でも投資先でも、人気ではなく、働きやすさとともに、安全性、収益性、将来性といった本質的なことを確かめることが大切」なのです。

本書の構成 初心者の人でも理解しやすいようにわかりやすいところから話をしています

通常、私が決算書の読み方をお話しする際には、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書の順にお話ししています。実際に企業の決算書を読むときも、最初は貸借対照表を目にします。ただし「本書は、貸借対照表と損益計算書の順番を入れ替えてお話ししています」。
というのも、貸借対照表というのは少しつくりが複雑で、概念を理解できずに挫折してしまう人や、間違えたまま覚えてしまっている人が少なくないためです。
一方、損益計算書というのはとてもシンプルな構造で、言葉の定義さえ覚えてしまえば、誰でも簡単に理解できます。「本書は初心者の人に理解しやすいように、決算書とは何かの概要をお話ししたうえで、損益計算書からお話ししていきたい」と思います。もちろん、損益計算書を説明した後半部分には少し踏み込んだ内容も用意してあるので、中級レベルの人にもぜひ読んでいただきたいと思います。上級編として、少し難しい話もしているので、楽しみにしてください。
また、普段私がお話しする言い方と異なる部分もあります。これは決算書の初心者が理解できるように言い方を変えているためです。初心者目線の説明を心がけているので、安心してついてきてください。決算書には多くの企業情報が含まれています。最初はただの数字の羅列にしか見えないかもしれません。でも「読み慣れてくると、無機的だった数字が活き活きと動きはじめ、企業の特徴や方向性、経営者の考え方までもが、私たちに語りかけてくれます」。本書を読み進めれば、あなたは、そのレベルまで到達すると思います。
本書を読み終わる頃には、決算書への理解が深まり、それが、さらにあなたのビジネスへの興味を掻き立てていると思っています。
それでは、決算書を読み解く旅をスタートさせましょう。

小宮一慶

小宮 一慶 (著)
出版社 : ソーテック社 (2017/10/21)、出典:出版社HP

目次

はじめに

0時限目 そもそも「決算書」って何?
01 決算書って何のためにあるの?
①決算書をつくるのは「法律による義務」だから
②会社ではない個人事業主は決算書をつくらなくていい?
③同じ会社、同時期の決算書の数字が違う理由
④会社法の決算書と、金融商品取引法の決算書では何が違う?
⑤上級編 日本で使われている会計基準は3つある
02 決算書を見るときの注意点
①決算書の数字が真実とはかぎらない
②決算書を粉飾する理由
③銀行が決算書の粉飾を見破る方法
03 目的によって見るべきポイントが違う
①利害関係者は「安全性」「収益性」「将来性」のどれを重点に見るか
②株を買うときの決算書を見るポイント
04 危ない会社の見分け方
①自己資本比率10パーセントを切ったら危ない
②資産回転率が高い会社は要注意
③赤字が続いている会社はもちろん危ない
05 これから成長する会社の見分け方
①売上高と営業利益が右肩上がりか?
②投資金額と減価償却費のどちらが多い?
③上級編 減価償却累計額が大きい会社は資産が古い
④上級編 純資産がやせている会社は危ない

1時限目 「損益計算書」って何?
01 損益計算書 売上高から費用を引き、損が出たのか、利益が出たのかを計算する
①「売上高」からさまざまな費用を引いたものが損益計算書
②まずは上から順番に見ていくだけで十分
③営業外収益にはどんなものがある
02 なぜ「売上高」はそんなに重要なのか?
①売上高の多い少ないが会社そのものの存在意義に関わる
03 「売上原価」を見るときの注意点
①売上原価における最大の注意点
②売上原価を見るときには必ず棚卸資産をチェックせよ
③決算書は多面的に見ないと何も見えない
④上級編 財務会計の限界を補った管理会計を知っておこう
04 「粗利」ってよく聞くけど何のこと?
①売上総利益と粗利のビミョーな違い
②高収益企業の見分け方
05 営業利益でその会社の実力が分かる
①なぜ営業利益でその会社の実力が分かるのか?
②日本マクドナルドの場合
06 経常利益で何が分かるの?
①営業外の収益と損失を加算する
②子会社と関連会社の会計上の違いを知っておこう
③連結される子会社がより厳格に
07 特別利益や特別損失って何?
①過性の特別な利益や損失もちゃんと計上する
②過性の特別な利益や損失は特別な勘定科目で処理する
08 税金は、その年に実際に支払った税金額とはかぎらないのがミソ
①「税金等調整前」って何?
②中級編 当期純利益は2つに分けて考える
09 利益がなぜ大切なのか?
①その会社がどれだけ工夫しているのか分かるのが「利益」
10 数字を比べると見えてくるもの
①同業他社と比べてより生産性を上げる
②セグメント情報から成功している部門と失敗している部門を把握する

2時限目 「貸借対照表」って何?
01 貸借対照表 右側の負債と純資産で資金調達し、左側の資産で運用する
①右側と左側の合計金額は必ず同額になる
02 「流動」と「固定」の違い
①原則、1年以内か1年超かで分けるが、資産と負債で違う
②上級編 中小企業ではワンイヤールールが守られていない?
03 「流動資産」には何が分類される?
①当座資産 すぐに現金化できる現金や預金、売掛金、受取手形など
②棚卸資産 いろいろな在庫
③繰延税金資産 その他 貸倒引当金 流動資産のもろもろ細かいもの
04 「固定資産」には何が分類される?
①有形固定資産 手で触れることができる資産
②リース資産 リースしているものが資産になる
③無形固定資産 手で触れられない資産
④上級編 景気が悪くなると、減損で資産が目減りし、業績がさらに悪化する
⑤投資その他の資産 有価証券は「時価」で評価する
05 「負債」と「純資産」の違いは?
①負債を返せないと会社はつぶれる
②負債も流動と固定の2つに分けられる
③純資産は株主のもの
④上級編 バブルの名残の勘定科目たち
06 「自己資本比率」で何が分かるの?
①標準値は業種によって違う
07 会社の命綱、「資金繰り」を知る
①流動比率 短期の安定性が分かる
②流動比率 病院や介護業は資金繰りが厳しい理由
③上級編 売掛金を短期借入金で賄うのは危険
④当座比率 でも短期の安定性が分かる
⑤手元流動性 日々の安定性を見るのに最適
08 負債も純資産も調達するためのコストがかかる
①純資産の調達コストって何?
09 「ROE」と「ROA」はどちらが大事?
①「伊藤レポート」でROE8%が命題に
②ROAを上げれば、ROEも上がる
③上級編 トヨタが無借金経営にしない理由
10 こんな会社は買収されやすい
①財務内容がよくて時価総額が低い会社

3時限目 キャッシュ・フロー計算書はここがポイント
01 キャッシュ・フロー計算書って何?
①キャッシュ・フロー計算書は3つのセクションに分かれる
②営業キャッシュ・フローは「稼ぎ」を表す
③投資キャッシュ・フローで「将来性」が分かる
④財務キャッシュ・フローはその内容を吟味
02 キャッシュ・フローがなぜ重要なのか?
①利益とキャッシュ・フローの違い
②買収する会社の値段を計算する方法
③会社とファンドでは視点が違う
④企業が会社を買収するときは、値段が上がりがち?

4時限目 決算書から会社の稼ぐ力を読み取ろう
01 売上高成長率 売上は増えているか?
①売上高は市場でのプレゼンスの大きさ
02 資産回転率 資産は有効に活用されているか?
①資産の効率性を高める
03 売上原価率 コストは下がっているか?
①利は元にあり
04 売上高販管費率 人件費や広告宣伝費は適正か?
①販管費率を常にチェックする
②売上高販管費率も、同業他社と比較する
05 棚卸資産回転日数 在庫の量は増えていないか?
①在庫の回転数で、稼ぐ力が見えてくる
06 売上高営業利益率 本業でしっかり稼げているか?
①効率のいい経営ができているか見えてくる

5時限目 企業の決算書を実際に見てみよう
01 NTTドコモ 話題性は低いが、実は好業績企業なのはなぜか
①企業の決算書の探し方
②決算短信 まずは「決算月」「会計基準」を確認する
③決算短信 決算の概要から見ていく
④決算短信 連結貸借対照表 連結キャッシュ・フロー計算書 決算短信の数字を読み解く
02 ヤマトホールディングス 未払い残業代の支払いは業績にどう影響するのか
①決算短信 営業利益が半減しても安全かどうか読み解く
②宅配便の値上げは営業収益にどう跳ね返ってくるのか
03 東海旅客鉄道(JR東海) 莫大な費用をかけてもリニア新幹線へ動き出せるのはなぜか
①決算短信 すごい売上高営業利益率から稼ぐ力を読み解く
②連結キャッシュ・フロー計算書 どの事業が稼いでいるのか読み解く
③稼ぎすぎではないかと思うくらい稼いでいるからこそできる壮大な投資
04 三井物産 巨大商社という括りではなく、企業ごとの特徴を見る
①決算短信 資源価格の変動が業績に大きく影響する
②商社の決算書を見る際の注意点
05 楽天 ネット企業がなぜ球団を買ったのか
①決算短信 年々増え続ける売上と裏腹に減り続ける利益を読み解く
②セグメント情報 楽天の経営方針を読み解く
③決算短信 連結財務諸表 自己資本比率が低いのは金融業の特徴
06 任天堂 お金持ちの超スーパー安全企業
①決算短信 連結貸借対照表 ずば抜けた自己資本比率を読み解く
②連結キャッシュ・フロー計算書 積極的な投資をしているか読み解く
07 シマノ 積極投資を続ける優良企業
①決算短信 連結貸借対照表 高い経常利益率を読み解く
②連結貸借対照表 決算短信 連結キャッシュ・フロー計算書 積極的な投資をしているか読み解く
③決算短信 株価が高いか安いか読み解く
08 日本銀行 膨張し続ける資産に、破綻の危機を感じる
①貸借対照表 から日銀のしくみを読み解く
②損益計算書 日銀が儲かるしくみを読み解く
③財務諸表等 見えてくる日銀の不安

あとがき

小宮 一慶 (著)
出版社 : ソーテック社 (2017/10/21)、出典:出版社HP