医学のあゆみ ゲーム依存 271巻6号[雑誌]

【最新 – ネット依存・ゲーム依存を理解するためのおすすめ本 – 実態と対策を知る】も確認する

ゲーム障害の実態と対策がわかる

スマートフォンの普及でゲームをはじめとしたさまざまなコンテンツを,いつでもどこでも利用できるようになりました。それとともに,インターネットコンテンツ,とくにゲームをやめられないといった症状を示す症例が世界で多数報告されるようになりました。本特集では,現時点で把握されているエビデンスなどをそれぞれの専門家が執筆しています。ゲーム障害の理解促進,予防・対策実施の一助になる一冊です。

特集 ゲーム依存

はじめに
樋口進
ゲーム障害関連の疫学
金城文・尾崎米厚
ゲーム障害の脳画像研究
小林七彩・高橋英彦
なぜゲームに依存するのか
松崎尊信・樋口進
ゲーム依存(ゲーム障害)の診断と症状
館農勝
ゲーム障害の治療
中山秀紀・樋口進
ゲーム障害の認知行動療法
三原聡子
ゲーム依存に対する予防教育
豊田充崇
ゲーム依存症の家族へのアプローチ
吉田精次

CONTENTS

医学のあゆみ Vol.271 No.6 2019/11/9

連載

地域医療の将来展望⑧
地域医療と災害医療−その考え方と接点
井口清太郎

診療ガイドラインの作成方法と活用方法③
診療ガイドラインをめぐる医療者と患者市民の協働に向けて
江口成美

TOPICS

病理学
肺腺癌におけるECT2の役割
Zeinab Kosibaty・野口雅之

救急・集中治療医学
敗血症治療に対する核酸医薬開発と課題
船橋嘉夫

免疫学
高安動脈炎におけるNK細胞および CTLの重要性
吉藤元・寺尾知可史

FORUM

パリから見えるこの世界85
生物における情報の流れ,あるいは情報の定義は可能なのか
矢倉英隆

次号の特集予告

週刊「医学のあゆみ」バックナンバー

はじめに Introduction

樋口進
Susumu HIGUCHI
国立病院機構久里浜医療センター院長

2017年の全国の中高生に対する調査によると、ネット依存の疑われる学生の推計数は93万人に上り,2012年に比べて1.8倍に増えていた。また、ここ数年,各所でのネット依存関係の相談件数が増加しており、若者を中心にネット依存問題が急速に拡大していることが示唆されている。

2019年5月の世界保健総会で国際疾病分類の最新版であるICD-11が採択され、ゲーム障害(gaming disorder)が新たに加わった、既存の医学的エビデンスから、ギャンブルとともにゲームがはじめて依存の一疾患として認められたわけである。著者らは,日本初のネット依存専門外来を2011年に開いた。訪れる患者は若者が多く、未成年者が全体の2/3を占めている(男女比, 8:1).患者の90%以上はおもにオンラインゲームに依存している。最近とくにスマートフォン(スマホ)ゲームの割合が急速に増えているネット依存にはほかにSNS,動画,掲示板などもあるが,これらの依存では病院を受診しなければならないほど重症なケースは少ないと推測されるゲーム障害の健康・社会生活などへの影響は大きく、遅刻、欠席,成績低下,親への暴言・暴力,昼夜逆転、引きこもりなどが多くの者にみられる、既存の研究から、若者のゲーム障害は自然に改善することが少なく,何らかの治療介入をしなければ、ゲームにより彼らの大切な将来が閉ざされてしまうことになる。

ゲーム障害に関しては包括的対策が必要である。そのためには,まずゲーム障害の理解が進む必要がある、まだ歴史の短い疾病のため、医学的エビデンスの蓄積は十分とはいえない。本特集では、現時点で把握されているエビデンスなどをそれぞれの専門家に執筆いただいた.今後,実態解明,予防教育の広範な施行,相談システムの充実,医療体制の整備などが期待される、本特集がゲーム障害の理解促進,予防・対策実施の一助になれば幸甚である。

ゲーム障害関連の疫学
Epidemiology related to gaming disorder

金城文(写真) 尾崎米厚
Aya KINJO. Yoneatsu OSAKI
鳥取大学医学部社会医学講座環境予防医学分野

ゲームへの没頭によって健康や社会生活障害をきたす者の存在が指摘されるなか,2019年5月,ゲーム障害が収載された国際疾病分類第11版(ICD-11)が承認され、オンラインゲームとオフラインゲームの両方を含むゲーム障害が正式に疾患として位置づけられた.診断ガイドライン,評価尺度ともに開発中であり,いまだゲーム障害の有病率は世界的に明らかになっていない。ただし、DSM-5インターネットゲーム障害(1GD)の診断基準に基づく評価尺度を用いた諸外国の報告や、平日に5時間以上ゲームをする者が若い男性で1%を超えることから,わが国でもゲーム障害は1%を超えることが推測される.本稿では,ゲーム環境の変化とゲーム障害について確認した後に,わが国の中高生・成人の全国調査の結果を用いて,インターネットやゲームの利用に関する疫学調査の結果を述べる。

Key Word:ゲーム障害、インターネットゲーム障害(IGD), IGDT-10,YDQ

ゲーム環境の変化とゲーム障害
インターネット(以下,ネット)普及以前のゲームは単独あるいは家族や友人でプレイし、ゲームにはクリアが存在した、1990年代半ばネット普及後、オンラインで友人や不特定多数とプレイが可能なゲームが登場し、現在はゲーム上でオンラインの仲間と連帯し、音声機能を使って会話しながらゲームすることが可能になり、長時間ゲームにのめりこみやすくなった、ネット普及以前のゲームでも問題が報告されていたが,ゲームのオンライン化,スマートフォン(以下,スマホゲームの出現が問題を大きくしている.また,課金してくじを引き,当選すれば強力なアイテムや希少キャラクターを手に入れることができるギャンブル性を併せ持ったガチャ、プッシュ通信によりいつでもゲームへ注意を向けさせるキュー,コンピュータゲームをスポーツとして競技するエレクトロニックスポーツ(electronic sports: eスポーツ)は、ゲームによって起こる問題を複雑化させている。

米国精神医学会は2013年改訂の精神疾患の診断と統計マニュアル第5版(the fifth edition of Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM-5)で、インターネットゲーム障害(internet gaming disorder:IGD)を正式な疾患ではないが,“今後の研究のための病態”として掲載したIGDはネットワークに接続して他者とプレイするオンラインゲームに限定され、ネット,オンラインでのギャンブル,ソーシャルメディアやスマホの使用による問題は含まない。
2019年5月には、世界保健機関(World Health Organization:WHO)の総会で,ゲーム障害(gaming disorder)が収載された国際疾病分類第11版(11th Revision of the International Classification of Diseases:ICD-11)が加盟国により承認され、ゲーム障害は正式に疾患として位置づけられた.ゲーム障害もIGDと同じくゲームに限定されるが,オフラインゲームも含まれる点がIGDと異なる(図1)、ゲーム障害のICD-11への収載については、科学的根拠が不十分である,ゲームの害をめぐるモラル・パニックをもたらす可能性がある、ゲームは固有の障害ではなく困難への対処のメカニズムである、といった理由でゲーム障害を疾病として認めることに反対する専門家からの批判もある)、ゲーム障害の臨床的および公衆衛生的側面に関する研究の促進とエビデンスの蓄積が求められる)

図1 国際疾病分類第11版におけるゲーム障害の体系

ゲーム障害、インターネットゲーム障害 (IGD)の評価尺度と諸外国での有病率
ゲーム障害の診断ガイドライン,評価尺度(スクリーニング検査)ともにWHO専門家チームで開発中であり,本稿執筆時点ではゲーム障害の有病率は明らかになっていない..
DSM-5に基づいたIGDの評価尺度は複数開発されている、第6回国際行動嗜癖学会(2019年6月開催)での報告によると,2019年4月時点で26のゲームに特化した評価尺度が存在し、うち Ten-Item Internet Gaming Disorder Test (IGDT-10)”がIGDとゲーム障害の診断基準を最もカバーしていた(表1)オンラインゲームプレイヤーにおいて、IGDT-10を用いたIGDの有病率調査はヨーロッパの18歳以上で1.61%~ 4.48%、台湾の10~18歳で3.1%),フィンランド北部の職業学校学生(平均年齢17.5歳)1.3% 100と報告されている。これらの調査は対象者の抽出に偏りがあり、偏りのないサンプルでのIGDT10を用いた国を代表する有病率調査はいまだ報告されていない。SIGDT-10が開発される以前の評価尺度を用いたIGDの有病率は0.7~275%で、男性や年齢の若い者で有病率が高い傾向にあり、ゲームで起こった問題として,うつ病,不安障害,社会恐怖症,成績低下,暴力が報告されている11). IGDに先行する要因として社会恐怖症,注意欠如・多動性障害,自閉症スペクトラム障害,うつ病,衝動的な性格傾向,不安定な親子関係が報告されている。

全国調査からみた中高生のネット利用
2012年以降,厚生労働省研究班では中高生を対 象とした“未成年の喫煙・飲酒状況に関する実態 調査研究”にネット使用に関する調査項目をした。ゲーム使用に関する質問はオンラインゲームの使用を確認した1項目のみであった.
中高生において、ネットを3時間以上使用する者の割合は2012年から2017年で、平日26%から33%,休日36%から50%へ増加した、使用するネットサービスは、LINEなどの短いメッセージや画像でやり取りできるコミュニケーションツールが2012年19.1%から2017年78.8%と大幅に増加し、情報検索や動画サイトは変わらず高く、8割近くの中高生が利用している、オンラインゲームも2012年19.8%から2017年45.4%ヘ大幅に増加し、とくに男子は59.8%と、女子30.7%と比べて倍近くであった。使用する情報通信機器はパソコンや携帯電話が減少し,スマホが2012年38.6%, 2017年81.4%と大きく増加した。
ネットへの依存に関する評価尺度は,病的ギャンブルの症状をもとに開発されたYoung’s Diag. nostic Questionnaire(YDQ)を用いている、情報をもとにIGDT-10と比較した表1を示す) YDQは8項目中5項目以上該当した場合に病的使用と判定される。青少年では1.7%~26.7%と幅があり、アジアの青少年で高い傾向が報告されている。
YDQ5項目以上該当者は,2017年に中学生男子10.6%,高校男子13.2%,中学生女子 14.3%,高校女子18.9%と2倍近く増加し,全国では中高生合わせて約93万人に上ることが推計された(図2).

表1 本稿で使用したインターネットゲーム障害,ネット依存の評価尺度

図2 わが国の中高生におけるYDQ5項目以上該当者の変化
2012年と2017年の比較。Young’s Diagnostic Questionnaire(YDQ)は、Youngにより開発された病的 ギャンブルの症状を元にした尺度で、8項目の質問から構成され、5項目以上該当した場合に病的使用と判定するものである(割合は 2017年の全国中高生人口で年齢診調整済み)

ネット使用が原因で起こった問題では,成績低下が男子27.4%,女子31.0%,授業中の居眠りが男子21.8%,女子22.2%と高かった。暴言・暴力が男子1.9%,女子1.3%,高額の課金が男子1.0%,女子0.7%と,頻度は少ないが大きな問題も発生している。中高生でオンラインゲームの利用が広がっており、ゲーム障害やIGDはわが国の青少年において存在することが推測される。
全国調査からみた成人のネットとゲーム利用20歳以上については、成人の飲酒と生活習慣に関する全国調査”の2013年と2018年調査にネット使用に関する調査項目が、2018年調査にゲームの使用に関する調査項目が含まれていた、成人でYDQ5項目以上該当者の年齢調整割合は、2013年男性1.4%,女性0.9%から,2018年男性36%,女性24%と2倍以上に増加した、年代別では、2013年と2018年ともに20代で最も高く、年代が上がるごとに減少する、40代以上は、2013年にはYDQ5項目以上該当者が1%に満たなかったが、2018年には一定割合存在し、ネット使用問題が若者だけでなく、40代以上にも広がっていることがわかる(図3)。
2018年調査のゲーム使用に関する結果では、わが国の20歳以上成人における過去12カ月間にゲームをした者の年齢調整割合は男性46.9%、女性37.7%であった。年代別では、20代で男性 898%、女性78.7%と、過去12カ月以内にゲームをした者の割合が最も高く、年代が上がるにつれ低くなる(図4)、ゲームをした機器はスマホが33.2%と最も多く、次いでゲーム専用機器12.0%,パソコン7.7%,タブレット4.2%であった。ゲームをした場所で最も多いのは自宅39.7%で,次いで移動中10.4%,職場や学校7.1%となっている。ゲームセンター2.2%やネットカフェ0.5%でゲームをする割合は少なかった。過去12カ月以内にゲームをした者のうち,おもにオンラインでゲームをした割合は54.6%,おもにオフラインでゲームをした割合は37.7%、両方同じくらいが7.7%あった、ゲームのジャンルは、男性ではパズル14.9%,多人数参加型オンラインロールプレイングゲーム(massively multiplaver online role playing game:MMORPG)を含むロールプレイングゲーム(role playing game:RPG)系13.0%,アクション11.6%が多く、女性ではパズル系23.2%,次いで多い育成系7.4%と比べて突出して高かった。ゲームをする相手は一人が37.9%と最も多く、次いで家族や現実の友人(対面で)6.4%,ネット上の友人や知り合い3.3%,家族、友人(ネットを介して)2.5%,見知らぬ人0.9%であった、ゲームを5時間以上する者の割合は,平日男性0.6%、女性0.2%,休日男性11%であった。39歳以下に限定すると、ゲームを5時間以上する者の割合は、平日男性1.9%, 女性0.8%、休日男性8.8%、女性3.2%であり、若い世代で長時間ゲームをする者の割合が高い。

おわりに

わが国ではいまだゲーム障害やIGDをスクリーニングする信頼性・妥当性が検討された評価 尺度は存在せず、現時点ではゲーム障害やIGDの有病率は明らかになっていない.今後,信頼性妥当性の高い評価尺度の開発した後に,有病率が推定されていくことになるであろう乳幼児期から ゲームやネットに曝露されていることを考慮すると,幼児や小学生といったより低年齢も含めたモニタリングも必要である、ゲーム障害の発生予防,重症化予防,社会復帰に関する有効なエビデンスを蓄積し,個人がリスクを正確に把握できる環境を整備するとともに、国としてゲームやネットの問題に対する施策を確立していくことが望まれる。

文献/URL

1)The American Psychiatric Association (APA). The fifth edition of Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders;DSM-5.(https://www.psychiatry.org/psychia-trists/practice/dsm)
2) World Health Organization. ICD-11. (https://icd.who.int/en/)
3) Aarseth E et al. J Behav Addict,2017,6(3):267-270.
4) van Rooij AJ. J Behav Addict 201857(1):1-9.
5) Rumpf HJ et al. J Behav Addict 2018,7(3):556-61.
6) Daniel K. J Behav Addict 2019,8 Sup 1:34.
7) Király O et al. Addict Behav 2017,64:253-60.
8) Király Oetal.Psychol Addict Behay 2019333(1):91-103.
9) Chiu YC et al. J BehavAddict 2018;37(3):719-26.
10) Mannikko Net al. Scand J Psychol 2019360(3):252-60.
11) Mihara S, Higuchi S. Psychiatry Clin Neurosci 2017:71(7):425-44
12) Saunders JB et al. J Behav Addict 201736(3):271-9.
13) Young K. Cyberpsychology Behavior 1998;1(3):237-44.
14) 中山秀紀,樋口進臨床精神医学2016:45(3):301-7,
15) Kuss et al. Curr Pharm Des 2014%3B20(25):4026-52.
16) 日本精神神経学会ICD-11
新病名案.2018.(https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/ICD-11 Beta Name_of_Mental_Disorders%20List(tentative)20180601.pdf)
17) 尾崎米厚・他飲酒や喫煙等の実態調査と生活習慣病予防のための減酒の効果的な介入方法の開発に関する研究平成29年度報告書、分担研究報告書2017.(https://mhlwgrants.niph.go.jp/piph/search/NIDD00.do?resrchNum%3D201709021A)
18) 樋口進、国立研究開発法人日本医療研究開発機構平成28年度障害者対策総合研究開発事業、アルコール依存症の実態把握、地域連携による早期介入・回復プログラムの開発に明する研2016-0018 (未発表)