裁判官はこう考える 弁護士はこう実践する 民事裁判手続

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現役の裁判官と弁護士の本音がわかる!

裁判官と弁護士の双方の視点から、民事裁判手続について述べられています。互いの仕事に対して忌憚のない意見交換がされています。弁護士の実務テクニックも満載です。とっつきにくいと言われている手続法についてイメージしやすいため、これから勉強したいという方にとって非常に参考になる良書です。

柴﨑 哲夫 (著), 牧田 謙太郎 (著)
出版社 : 学陽書房 (2017/9/20)、出典:出版社HP

まえがき

本書は、私が裁判官の立場から、また、牧田謙太郎弁護士が弁護士の立場から、主として若手の裁判官と弁護士に対して、民事訴訟手続を進めるにあたって考慮してもらいたいと思われる事項を論じ、その上で、著者の二人が互いに意見交換をするということを、内容としている。
私は、平成27年4月に千葉地裁松戸支部に着任したが、千葉県弁護士会松戸支部から地裁松戸支部に対し、若手弁護士のための勉強会に裁判官を派遣してほしいとの要請があり、同年7月にその第一号として私が派遣された。

当日は、弁護士相互間の意見交換にコメンテーターのように参加する形で発言をしていたが、このとき特に優れたコメントをした覚えは全くない。しかし、初めて裁判官が出席したことでパンダの如き「珍獣の初来日」のような印象を持たれたためか、弁護士会には意外にも好意的に受け止めていただけたらしい。そして、勉強会に参加されていた弁護士から、そのときの様子が学陽書房編集部に伝えられ、同社から私に対して、執筆依頼があった。

最初の依頼内容は、現役裁判官の立場から、弁護士の仕事ぶりに困惑した例と、それに対する助言を本にしたいというものであった。ただ、そのとき私が気になったのは、裁判官が弁護士に対する苦言ないし要望を一方的に書くと、弁護士の抱える事情や個々の弁護士の立場についての理解を欠くものとなってしまわないかという点であった。

そして、まずは裁判官が弁護士に対する要望を書いた上で、弁護士がそれに対する意見を書いたものを付してはどうか、さらには、これとは逆に弁護士の裁判官に対する要望と、それに対する裁判官側の意見をも盛り込んではどうか、そのことによって、若手弁護士とともに若手裁判官への要望ないしアドバイス的な内容が盛り込めるのではないかと考え、その趣旨を学陽書房の編集者にお伝えしたところ、快く受け入れていただくことができた。

次いで、弁護士の側の執筆者として、勉強会で若手の指導を担当されていた牧田謙太郎弁護士に依頼したところ、御快諾をいただくことができた。かくして、牧田弁護士と私の二名による本書の執筆が実現したというわけである。このような経過から、本書は、一つの章がメインのパートである「主論」と「ひとこと」コメントという形で構成され、裁判官と弁護士のどちらか一方が「主論」を、他方が「ひとこと」コメントを担当している。

よりよい民事裁判を実現するためには、裁判官と弁護士が互いに十分協議することが重要であるとの点については、今更論じるまでもないが、どのような協議をするのが望ましいか、その過程で裁判官はどこまで踏み込んだ話を双方代理人にするのがよいかといった点について論じた文献は、あまり多くないように思う(この点、林道晴・太田秀哉『ライブ争点整理』(有斐閣、2014)は正に画期的な文献といえよう。)。私自身もこの問題に関心を持ち、良かれと思ったことを微力ながら実践してきたつもりであるが、本書中、私が裁判官の立場から論じている部分は、特に、裁判官と弁護士との協議のあり方と、裁判官が事実を把握することの重要性、そして事実認定の過程といった点に重きを置いている。弁護士の方々には、裁判官がどのような考えで訴訟手続に臨んでいるのかを、是非とも理解していただきたい。

牧田弁護士も、若手の弁護士と裁判官を念頭において、よりよい民事裁判が実現するために弁護士は何をすべきかについて、熱心に論じておられる。文中には裁判官に対する手厳しい御指摘も見られるが、裁判官としては若手であるか否かを問わず、この御指摘もよりよい民事裁判の実現のためであると受け止めていかなければならないものであろう。本書が、よりよい民事裁判の実現のためには訴訟手続をどのように進めていくべきかについて、若手法曹の理解に貢献することができれば、私ども二人にとってこの上ない喜びとなろう。

最後に、本書が成り立つきっかけをつくってくださるとともに、その後内容面について御助言をくださった、千葉県弁護士会松戸支部の羽角和之弁護士、そして執筆依頼から今日まで、絶えず牧田弁護士と私を督励してくださった、学陽書房編集部の伊藤真理江さんに、心から厚く御礼申し上げる。

2017年8月吉日
裁判官 柴﨑哲夫

柴﨑 哲夫 (著), 牧田 謙太郎 (著)
出版社 : 学陽書房 (2017/9/20)、出典:出版社HP

目次

第1章 裁判官から見た、弁護士との協働による事実の解明
1「裁判官はひたすら黙って……」は理想的?
2「よりよい民事裁判」と「正しい事実認定」
3認定の対象となる「事実」をめぐって
4弁論主義と要件事実理論は、正しい事実認定を阻害する?
5客観的真実を認定することの重要性
6法曹二者が共通して目指していくべきこと

弁護士からひとこと
1総論賛成、しかし各論は?
2弁護士の真実義務とは?
3依頼者との関係
4再度主論に立ち返る

第2章 弁護士から見た民事裁判に至るまで
1事件の受任
2委任契約の締結
3調査
4手続の選択

裁判官からひとこと
1弁護士の役割に期待すること
2「法的解決を目指す」との視点を忘れずに
3実体法規の選択と一般条項
4実体法規の選択と法的センスの問題
5手続の選択、特に民事保全で注意すべきこと
6裁判官も見習いたい「弁護士のあるべき態度」

第3章 弁護士から見た訴状の作成・提出
1訴状作成は大変な作業である
2民事訴訟法が求める訴状記載事項
3訴状の内容面のポイント
4訴状の形式面のポイント

裁判官からひとこと
1事情聴取での御苦労はお察し申し上げるが
2訴状作成の際は悩んでほしい
3訴状の記載事項について
4訴状とともに提出すべき証拠について
5「よって書き」、否むしろ「訴訟物」の摘示はしっかりと

第4章 弁護士から見た答弁書・準備書面の作成・提出
1被告事件の相談者が来たら
2答弁書はこう作る!
3認否と被告の主張の書き方
4三行半答弁書の是非
5委任状もお忘れなく
6第1回口頭弁論期日と依頼者対応
7準備書面を出す?出さない?
8準備書面と期日の関係
9期日に臨む心構え
10準備書面の作成
11準備書面の提出

裁判官からひとこと
1「認否」と「被告の主張」のコーナーを分けると読みやすい
2反対事実の主張立証を拒否すると、しっぺ返しが待っている
3委任状の原本が未着のときは、終結か続行か?
4被告本人のみが出頭した場合、代理人抜きで事情聴取をするか?
5期日には「口頭弁論をする気構えで臨んでほしい
6日本人の話がコロコロ変わっても「大人の対応」を
7期日終了直後の復習は裁判官も励行すべき

第5章 裁判官から見た書証と証拠説明書
1事実認定における書証の価値
2提出すべき書証とは何か
3どの時期に書証を出すべきか
4証拠説明書をめぐる問題

弁護士からひとこと
1書証の重要性
2書証を出すタイミング
3証拠説明書

第6章 裁判官から見た争点整理手続
1争点整理のあり方
2弁論か弁論準備か
3電話会議が認められる要件とは?
4進行協議期日

弁護士からひとこと
1争点整理手続
2弁論準備について
3電話会議について
4進行協議期日について

第7章 弁護士から見た陳述書、証拠申出、尋問準備
1書証の取り調べから人証の取り調べへ
2陳述書の作成
3証拠申出書
4証拠決定
5尋問の準備

裁判官からひとこと
1「ご意見は。」という抽象的な質問はせず、選択肢を示すべし
2人証ゼロは、個々の人証の必要性を検討した結果である
3人証ゼロの可能性は、早めに示唆しておくべき
4陳述書の証拠開示機能も、主尋問代用機能と同じく重要
5陳述書には、具体的事実を中心に盛り込むべし
6作成者の尋問をしない陳述書の証拠価値は高くない
7陳述書の提出は、「先攻・後攻」ではなく同時とするのが公平

第8章 裁判官から見た人証調べ
1証人及び当事者本人の採用
2人証調べの準備
3人証調べの実施
4証人や本人の供述態度と心証形成

弁護士からひとこと
1弁護士は尋問のプロのはずだが
2尋問一般の心得
3主尋問の注意点
4反対尋問の注意点
5異議の出し方
6尋問の終わりに

第9章 裁判官から見た日和解
訴訟上の和解についての基本的な考え方
2訴訟進行状況に応じた和解勧試の方法
3代理人及び当事者本人への接し方は?
4下された判決が、提示された和解案と真逆だった
5和解案を拒絶した当事者を、判決で不利益扱い?
6和解の席では当事者本人に何を言えばよいのか
7裁判官は、双方代理人を和解の協力者と認識すべしい

弁護士からひとこと
1和解の時期・タイミング
2裁判官の心証開示
3依頼者と和解を検討する

第10章 弁護士から見たイレギュラーケース対応と判決後の処理
1訴訟の中断・受継
2訴えの変更、反訴・別訴提起
3最終準備書面
4判決後の処理

裁判官からひとこと
1「有事」への備えはとても大切である
2本人死亡の際は、裁判所も事件をストップさせた方が
3訴えの変更に関する注意点あれこれ
4裁判官が最終準備書面に期待していることは
5差押対象財産の探索は大変。しかし節度をわきまえて
6「悪しき隣人」ではなく、「良き協力者」になろう

柴﨑 哲夫 (著), 牧田 謙太郎 (著)
出版社 : 学陽書房 (2017/9/20)、出典:出版社HP