法の精神がよくわかる
裁判員制度が導入され、みなさんも裁判員に選ばれる日がいつか来るかもしれません。裁判は、争いごとを解決し世の中をよくするための大事な手段です。本書では、法や裁判に関することが中高生にも理解できるようにわかりやすく解説されています。
はじめに
「裁判」という言葉を聞いて、あなたはどんなことを思い浮かべるでしょうか。黒い服をまとって壇上に座る、いかめしい裁判官を思い浮かべる人もいるでしょう。最近では、オウム真理教の代表者だった松本(麻原)被告、あるいはライブドアの社長だったホリエモンに対する裁判を思い出す人もいるかもしれません。それもたしかに裁判の例です。そして、多くの人は、裁判とは悪い人を罰するためのもので、自分とはあまり関係のないものと考えるかもしれません。
しかし実は、裁判にもいろいろな種類のものがあります。人の犯罪に関わる裁判のほかに、契約や財産、あるいは家族関係のもめ事から起きる裁判も、たくさんあります。また、一人の人が国を相手に訴えるような裁判もあります。それらの裁判は、わたしたちが住む社会を動かしている強力な仕組みの一つです。ですから、裁判はわたしたちの暮らしに大きな影響を与えます。そして、この世の中に生きている限り、誰でも自分自身が裁判に関わる可能性があります。
その裁判への関わり方も、誰かに訴えられたり犯罪を犯したと疑われたりして、否応なしに巻き込まれるだけではありません。裁判は、わたしたちが何かの目的を実現するために、だいじな手段として使えるものです。あなたも裁判という手段を使う必要に迫られるかもしれません。また、ほかの手段では実現できないあなたの願いが、裁判という仕組みを使うことによって実現できるかもしれません。
この本では、このような裁判の仕組みや働きについて、なるべくわかりやすく説明しようと思います。そして、多くの若い読者に、裁判について関心をもっていただきたいと思います。
そこで、はじめの章では、最近の話題である司法改革を簡単に紹介します。司法改革とは、裁判のあり方を大きく変えようとする試みです。それから第二章では、裁判の働きや手順を大まかに説明します。そのために、小学生や中学生が起こした裁判の実例を紹介します。こんな裁判もあることを知っていただければ、あなたにも裁判が身近なものに感じられるかもしれません。第三章では、裁判所で実際に裁判をしているところを見る方法や、あなた自身が裁判をする裁判員制度を説明します。第四章では、裁判や法律を扱うことを仕事にしている人たち、つまり弁護士・検察官・裁判官などのことを書きます。最後の第五章では、裁判と法との関係を考えます。
ただし、この本は、必ずしも最初から順を追って最後まで読まなくてもかまいません。とりあえず裁判を直に見てみたい方は、第三章から読んで下さい。弁護士や裁判官の仕事に興味のある方は、第四章から始めてもけっこうです。この本では、同じような言葉の説明が、繰り返し出てくるかもしれません。それは、法律や裁判についての言葉に慣れていただくためと、全体を順番どおりに読まなくても意味がわかるようにするためです。最後の章は、中学生・高校生の読者には、少し難しいかもしれません。もし読んでみてわからなければ、二、三年たってからもう一度読んでみて下さい。そうすれば、もっとよくわかるでしょう。
では最初は、司法改革の話です。
目次 新版 わたしたちと裁判
はじめに
第一章 司法改革とはなんだろうか
第二章 裁判とはどんなものか
1 髪型の自由を訴えた子どもたち
2 裁判は何のためにあるか
3 裁判の登場人物
4 訴訟のいろいろ
5 民事訴訟の手順
6 刑事訴訟の手順
7 訴訟でない裁判
8 裁判を受ける権利の保障
第三章 裁判所へ行ってみよう
1 裁判は誰でも見ることができる
2 どうやって傍聴するか
3 法廷ではどんなことをするか
4 市民の裁判参加
5 裁判員になったら
第四章 法律を扱う人たち
1 弁護士は、どんな人たちか
2 検察官は、どんな人たちか
3 裁判官は、どんな人たちか
4 弁護士・検察官・裁判官の関係
5 特定分野の法律家
6 法律の専門家の資格を得るには
第五章 裁判と法
1 法律に従って裁判するわけ
2 裁判での法律の働き方
3 法律の中味は、はっきりしているか?
4 法律の解釈による結論の違い
5 法を作る裁判
6 法を作るのは誰か
あとがき
イラスト=サトウナオミ
〈写真提供〉
法曹会(200ページ、法曹会刊『日本の裁判』より)