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メインフレームの教科書
本書は、各銀行のオンラインシステムに共通する技術をまとめたものです。特に、メインフレームについて詳しく書かれており、メインフレームの教科書として読めるほか、メインフレームで構築された銀行オンラインシステムではどのような技術が使われているのかを知る資料としても活用できます。
はじめに
私が銀行のオンラインシステムに関わり始めたのは、ちょうど第3次オンラインシステムの開発の真っただ中でした。そのころは、第2次オンラインシステムを開発した先輩方から、当時のいろいろな苦労話や第3次オンラインシステムの設計思想について話を伺うことができました。
しかし、時が経ちシステムのハードウェアやソフトウェアの更改が幾度か行われ、担当者も交代していく中で、第3次オンラインシステムの設計思想を理解している人はだんだんと少なくなってきているように感じました。そのため、銀行オンラインシステムの稼動を支えてきた技術や考え方を後任者に伝えていく必要があると強く思うようになりました。
そのような経料で、第3次オンラインシステムの安定性や性能を高める技術の概要(本書の第3部にあたる部分)を、自分の手元でメモ書きとしてまとめていました。そんな折、たまたま社内で「技術文書を書いて発表しよう」という活動をしている花井志生さんに出会い、そのメモを整理して技術文書として書き直したのが本書の原型です。その後、花井さんに紹介されて、技術評論社から書籍という形で出版することになりました。
本書を執筆するにあたり、あらためて銀行オンラインシステムの歴史についていろいろな資料を調べました。その結果、第1次オンラインシステムや第2次オンラインシステムについては論文などの形式でシステムの構成に関する解説はあるのに、第3次オンラインシステムについてはシステムに関して記載した文書がほとんどないことに気がつきました。そのため、本書を執筆し公表する価値はあると再認識しました。
メインフレームは銀行のオンラインシステムの中心として現在も活躍していますし、その信頼性と性能は「メインフレーム並みの」という表現で語られることが多いことからもわかるとおり、ずっと高いレベルを保っています。そのようなことから、信頼性や性能を重視する銀行オンラインシステムでは、メインフレームは今後も使い続けられると考えています。
本書は特定の銀行のオンラインシステムについて記述したものではありません。むしろ、各銀行のオンラインシステムに共通する技術を、なるべく初心者の方でもわかるように記述したつもりです。
メインフレームで稼働する銀行オンラインシステムの開発や運用を担当する方にとっては、「どのような技術でシステムの安定稼働や性能が維持されているか」を学ぶ良い教科書になると確信しています。
WindowsやLinuxのサーバなどメインフレーム以外で稼働するシステムを担当する方、あるいは銀行オンラインシステムを担当していない方にとっては、「メインフレームで構築された銀行オンラインシステムでは、どのような技術が使われているのか」を知る資料として活用できるものと思います。
2016年はFinTechという言葉が広く認知された年と言えるでしょう。この新しい技術も取り入れて、今後数年内に銀行を取り巻くシステム環境は大きく変わる可能性があると思います。本書で紹介している現在の技術や設計思想は、新たなシステムがメインフレームで構築されるのであれば、そのまま使える部分が多いと思います。一方、メインフレーム以外で構築されるのであれば、どんな観点に注目すれば性能が良く安定したシステムを構築できるのかのヒントになると思います。本書を手元に置いて参考にしていただければ幸いです。
2016年12月
星野 武史
目次
はじめに
第1部 銀行の勘定系オンラインシステムの特徴と歴史
第1章 勘定系オンラインシステムとは
1-1 勘定系オンラインシステムとは
1-2 銀行オンラインシステムの歴史
第2章 第1次オンラインシステム以前
2-1 預金業務の多くは手作業
2-2 業務における課題
コラム 預金勘定元帳と記帳会計機
2-3 都市銀行独自の課題
第3章 第1次オンラインシステム
3-1 オンラインシステム登場の背景
3-2 この時代のオンラインシステムの特徴
3-2-1 単科目オンライン
3-2-2 どの支店からでも引き出し可能に
3-2-3 CDの登場
3-3 システムの構成
3-3-1 命令実行速度
3-3-2 窓口端末
3-3-3 機器の構成
3-4 その他の特徴
コラム IBM 1410/1440システム
第4章 第2次オンラインシステム
4-1 オンラインシステム更改の背景
4-1-1 科目間連動とCIFの利用
4-2 店舗外CDとATMの登場
コラム 入金専用の自動機
4-3 銀行間のCD提携
コラム 海外の銀行ATM
4-4 システムの構成
4-5 オンラインシステムに対する信頼性
コラム 世田谷火災と銀行業務への影響
第5章 第3次オンラインシステム
5-1 オンラインシステム更改の背景
5-2 システム更改内容と開発規模
5-3 システム的な特徴
5-3-1 システム構成
5-3-2 情報処理管理システムの採用
5-3-3 ホットスタンバイシステムの採用
5-3-4 データ共用のしくみの導入
5-3-5 開発生産性向上
5-3-6 サブシステム・パッケージの導入
5-3-7 情報系へのデータ受け渡しのしくみ
5-3-8 バッチ運用管理
コラム 銀行システムのネットワーク① ATMのネットワーク
コラム 銀行システムのネットワーク② 銀行間の振込
コラム 銀行システムのネットワーク③ 電信扱いと文書扱い
第6章 ポスト第3次オンラインシステム
6-1 システムの統合
6-2 ネットワークのTCP/IP化
6-3 インターネットバンキングの普及
6-4 システムの共同化
6-5 オープンシステムの登場
6-6 災害対策システムの高度化
第2部 システムを構成するハードウェア、ソフトウェア
第7章 銀行オンラインシステムの構成
7-1 銀行オンラインシステムの全体像
第8章 メインフレームとオペレーティングシステム「z/OS」
8-1 メインフレームとはどんなコンピュータか
8-1-1 名称の由来
8-1-2 ほかのコンピュータとの違い
コラム ホストとメインフレーム 用語の統一がされない世界
8-2 メインフレームとz/OSの特徴
8-2-1 アーキテクチャに基づいた仮想化
8-2-2 独立した入出力機構
8-2-3 マルチユーザを前提としたシステム
コラム JCLのREGIONパラメータ
8-2-4 属性つきのデータ
8-2-5 複数システムを前提としたシステム
第9章 IMSというミドルウェア
9-1 歴史
9-2 IMSのデータベース管理機能
9-2-1 DEDB
9-2-2 MSDB
9-2-3 DEDBの拡殻機能VSO
9-3 IMSのトランザクション管理機能
コラム ATMの画面と電文の関係
9-4 IMSのアドレス・スペース構成
9-4-1 制御リージョン
9-4-2 DBRCリージョン
9-4-3 DLISASリージョン
9-4-4 従属リージョン
9-5 FP機能
9-5-1 高い処理能力
9-5-2 高い可用性
9-5-3 大容量データベース
第10章 SAIL/CAP
10-1 SAILのメリット
10-1-1 開発および保守生産性の向上
10-1-2 高可用性
10-1-3 拡張性
10-1-4 運用容易性
10-1-5 レス・バッチ・システム機能
第11章 メインフレームが選択された理由
11-1 信頼性に優れている
11-2 可用性に優れている
11-3 互換性に優れている
11-4 拡張性に優れている
11-5 業務全体の処理効率が優れている
11-6 I/O処理の効率が優れている
第3部 システムの安定性、性能を高める技術
第12章 障害に強いシステムを作るための技術
12-1 計画外停止を起こさないために
12-2 データの二重化
12-2-1 オンライン資源の二重化
12-2-2 パッチデータの二重化
12-2-3 新しいデータの二重化の方式
12-3 サーバの二重化
12-3-1 ホットスタンバイ方式
12-3-2 並列処理方式
12-3-3 サーバの二重化のまとめ
12-4 ネットワークの二重化
12-5 データセンターの二重化
12-5-1 災害対策の9レベル
12-5-2 アメリカと日本の災害対策の違い
12-5-3 新たな災害対策の考慮
12-5-4 災害対策の方式
コラム GDPSとは
第13章 パフォーマンスを維持するための技術
13-1 基本機能としてのパフォーマンス向上技術
13-1-1 背景
13-1-2 データベース自体のI/O処理の高速化
13-1-3 データベースを高速化する技術
13-1-4 ブログラム呼び出しを高速化する技術
13-2 データベースI/Oの長時間化を防止する技術
13-2-1 背景
13-2-2 技術
13-3 業務プログラムの処理の長時間化を防止する技術
13-3-1 背景
13-3-2 技術
13-4 デッドロックを解消させる技術
13-4-1 背景
13-4-2 技術
13-5 ロック待ちの長時間化を防止する技術
13-5-1 背景
13-5-2 技術
13-6 その他の技術異常終了回数の制限
13-6-1 背景
13-6-2 技術
第4部 システム安定化への取り組みと今後
第14章 銀行オンラインシステムの技術を活かす取り組み
14-1 同じソフトウェアを使用してもシステムの安定性は異なる
14-1-1 使用している機能が異なる
14-1-2 ソフトウェアの修正度合いが異なる
14-1-3 システムに対する負荷が異なる
14-1-4 CPUのモデルや処理速度が変わる
14-1-5 統一したソリューションの展開
14-2 ソフトウェアの修正をどのように検証しているか
14-2-1 一般的なソフトウェアの修正と検証
14-2-2 銀行に特化した検証
14-3 パラメータを共通化することによるメリット
14-3-1 使用する機能が同じ
14-3-2 予定外の動きをしても見分けやすい
14-3-3 銀行に特化した検証をメーカー側で実施しやすい
14-4 安定化の取り組み事例
14-4-1 銀行に特化した検証
14-4-2 障害情報の横展開
14-4-3 ヒヤリハット情報の横展開
14-4-4 安定化のためのガイドラインと点検
第15章 銀行オンラインシステムの今後のゆくえ
15-1 災害対策機能の強化
15-1-1 取引集中による業務停止
15-1-2 電力の供給に対する認識の甘さ
15-2 オンラインシステムのソフトウェア構成は変わるか
15-2-1 現状の形態が続く場合の予想
15-2-2 共同システムに乗り換える場合の予想
15-2-3 システム全体を再構築する場合の予想
15-3 全銀システムの24時間化
15-4 海外の銀行などを参考としたシステム
15-4-1 clearXchange
15-4-2 Faster Payments
15-4-3 デビットカードの普及
参考文献/参考資料
索引
著者紹介、監修者紹介