銀行業界大研究 (業界大研究シリーズ)

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銀行の業界研究を深める

銀行の最新情報、業界地図、業務内容など、幅広い側面から銀行業界を俯瞰しています。報道で使われる難解な専門用語の解説を挟んだり、業界構造の解説では監督官庁との関係の解説も加えるなど、わかりやすく解説しています。

はじめに

ほんの数年前までは、就職人気ランキングで常に上位を占めていた銀行が、上位から陥落しています。人気の理由はなんといってもその給与水準の高さでした。今もその状況に変化はありません。にもかかわらず、人気が急落しているのは、全国紙、中でも日本経済新聞が毎日のように、監督官庁である金融庁が、地方銀行にかけている再編圧力に関する記事を掲載しているためでしょう。

1980年代後半から1990年頃までのほんの2~3年でしたが、日本は空前のバブル景気に湧き、無節操な不動産担保融資が横行。平成の鬼平の異名をとった、日本銀行の三重野康総裁(当時)が、金利を引き上げてバブル潰しに打ってでたことを機にバブルは崩壊、銀行や証券、保険、ノンバンクから、一般事業会社に至るまで、天文学的な数字の不良債権、不良資産を抱えました。あまりにも急激な施策だったため、日本は十数年にわたって不況から脱することができなくなりました。後年、三重野総裁への評価が割れることとなったのはいうまでもありません。

90年代末期の金融危機は、旧大蔵省の「箸の上げ下げまで指導する」といわれた、護送船団行政が限界に達し、金融機関が抱えた巨額の不良債権を隠しきれなくなった結果起きたものです。旧大蔵省は間違いなく、銀行のフトコロ事情を逐一把握していたにもかかわらず、日本経済に与える影響を恐れるあまり、表沙汰にする決断ができないまま何年も抱え込み、問題を巨大化させるという罪を犯しました。

今、金融庁が地銀にプレッシャーをかけているのは、そのときの反省ゆえです。2006年頃までに銀行の不良債権の処理は一段落していましたが、長引く不況で銀行は体力の回復に時間を要しました。2012年頃からようやく景気が上向き、十分に体力を回復できた今のうちに、5年先、10年先も生き残れる将来像を描きなさい、描けないのなら描けるようにしなさい。これが金融庁のいっていることなのです。

銀行の人気が急落したのは、せっかく就職した銀行が、再編対象になってリストラされてはたまらないと考えたり、銀行はもはやオールドビジネスで衰退産業だと考える学生が増えたからではないでしょうか。もっとも、銀行は大昔から、高い採用基準を突破してきた同期同士を入行後も厳しい競争に晒し、選別し、各年代の人数をポストの数に合わせて調整してきました。つまり、再編があろうがなかろうが、銀行を就職先に選ぶということは、入行後も否応なく厳しい競争に晒されることを覚悟しなければならないのです。

こういうと、ドラマによく出てくる、出向先で邪魔者扱いされている負け組銀行員ばかりを想像するかもしれませんが、組織にとって必要な人材のスペックは、個別事情によって左右され、一様ではありません。銀行員は最も世の中でツブシが効きます。なぜか。一般事業会社では経営の中枢に近いところにいないと学ぶ機会を得ることすらできない、金融の実務を身につけているからです。天才的な技術者が世の中の役に立つ製品を作っても、経営に失敗すれば世の中に貢献することはできなくなります。経営の成功に金融実務に長けた人材は不可欠です。

どんな時代になっても金融機能と経営の基本的な構造は変わりません。昨今はフィンテックベンチャーがもてはやされていますが、新たな手段が登場しているにすぎません。将来、銀行は今の姿のままではなくなるかもしれませんが、金融機能が不要になることはありません。金融の仕組みを知るということは、世の中の仕組みを知るということとイコールだといっても過言ではありません。大きな組織に就職すれば一生安泰だった時代はとうの昔に終わり、実力に見合ったサラリーを求め、転職を繰り返すことへの社会的抵抗はほぼなくなっています。広く社会で通用する付加価値を身につける場という視点で企業を見た場合、銀行はかなり有益です。変革を迫られているだけに、若い行員に与えられるチャンスも拡大しています。

この本でそのことが皆さんにお伝えできれば幸いです。

2020年1月
伊藤 歩

目次

はじめに

Chapter1 銀行業界の仕事人
1 新ビジネスの協業企業発掘 株式会社三菱UFJ銀行 桂 寧志さん
2 経営者に寄り添う法人融資 株式会社横浜銀行厚木支店 黒川 翔さん
3 人生の決断を後押しするプロ集団 みずほ信託銀行株式会社 戸川恒平さん
4 回次世代ATMの開発業務 株式会社セブン銀行 柏熊俊克さん
5 愚直に融資で稼ぐリレバンのお手本 広島市信用組合 谷川弘起さん

Chapter2 銀行業界最新事情
1 増え続ける預金、低下する預貸率
2 低下する収益力
3 金融行政の最優先テーマは地銀再編
4 銀行法改正の衝撃

Chapter3 銀行業界地図
1 銀行とは
2 銀行を監督する官庁は
3 メガバンク
4 信託銀行
5 地銀・第二地銀
6 信金・信組
7 新たな形態の銀行
8 外国銀行の支店
9 ゆうちょ銀行

Chapter4 銀行の業務
1 組織図からわかる銀行の業務
2 貸借対照表からわかる銀行業務
3 損益計算書からわかる銀行業務

Chapter5 銀行業界の企業模様
1 三菱UFJフィナンシャル・グループ (MUFG)
2 三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)
3 みずほフィナンシャルグループ
4 りそなホールディングス
5 三井住友トラスト・ホールディングス
6 資産管理専業3大信託銀行
7 旧長信銀
8 新たな業態の銀行
9 コンコルディア・フィナンシャルグループ
10 めぶきフィナンシャルグループ
11 ふくおかフィナンシャルグループ
12 ほくほくフィナンシャルグループ
13 山口フィナンシャルグループ
14 地銀・第二地銀単独行
15 信用金庫
16 信用組合

Chapter6 銀行業界の就職と待遇
1 採用職種・人数
2 初任給と平均給与
3 勤務時間・休日・休暇制度・福利厚生
4 研修制度