SEのための金融入門―銀行業務の仕組みとリスク

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金融業の基礎を知る

本書は、金融業の業務についての基礎知識、業務全体の流れを説明しています。金融系のシステムについて詳しく解説されているわけではなく、金融業の全体像を知ることのできるものとなっているため、初めて金融系のシステムに関わる人が金融業界の基礎を知る際に役立つものとなっています。

はじめに−「SEのための金融入門」の改版にあたって

社内勉強会の内容を取りまとめた「SEのための金融入門」を上梓してから7年が経過しました。お陰様で毎年少しずつ増刷を重ね、多くの方に読んでいただくことができました。著者としては、感謝の気持ちでいっぱいです。さて、この7年間を振り返ると、世界は、米国サブプライム・ローン(格付の低い人向け住宅ローン等)の不良債権化に始まった金融危機と景気後退とを経験しました。

日本の銀行もその埒外にいることはできませんでした。新しい不良債権の増加に悩まされています。このため、あらためて、銀行のバランス・シートのリストラが避けられなくなっています。こうしたなかで、生き残りをかけた銀行間の競争は、熾烈になっています。低コストで柔軟なシステム開発も、銀行が生き残るための大きな力になっているといえましょう。金融自由化も進み、これが、多様な金融商品を生み出しています。その流れのなかで、銀行のユニバーサル・バンキング(銀行が貸出のほか保険、証券など幅広く金融業務を営むこと)も定着してきました。

銀行の窓口に行けば、投資信託や外債、個人年金保険といった保険・証券商品を購入できるようになりました。銀行の支店が、銀行と証券会社の窓口に分かれているところも、目につくようになりました。また、巨大な金融商品となった日本国債は、そのほとんどを、金融機関が保有しているといっても過言ではありません。銀行業務のいろいろなところにその影響が出ています。それだけに、金融機関のシステム開発に携わるSEに要求される金融業務知識は、一段と広がり、かつ深まってきているように思われます。ユーザーのニーズを的確につかむために、伝統的な預金・貸出にとどまらず、証券も含めた幅広い知識が必要となっています。

今回の改訂では、こうした状況を念頭に置き、銀行業務を中心にしながらも、証券業務もある程度理解できるよう配慮してみました。また、日本国債については、その際立った特徴を、財政・金融両面から幾分踏み込んで解説してみました。

執筆にあたっては、新しい出来事を追うだけではなく、新しい出来事を理解するための知識を深めることを心がけました。この点は初版のときと変わりありません。経済インフラとしての銀行機能が不可欠ななかで、時代の要請に沿った金融システムを提供していき続けるためにも、金融業務を原点から理解することがSEに求められていると考えた結果です。

なお、特に断りのない限り、本書で銀行という言葉は間接金融を担っている預金取扱金融機関のことを指しています。信用金庫や信用組合等、「銀行」と表記されない金融機関も、広く銀行に包含されるものとして記述しています。銀行の経営指標は、原則として、全銀協の「全国銀行決算発表」等による集計値を代表的な銀行に見立てて評価しています。個別の銀行の経営には幅があり、内容も千差万別なので、説明はあくまで業界の平均的姿に関するものと理解してください。

なお、本書のなかで意見や評価にわたる部分は、筆者個人の見解であり、NTTデータシステム技術株式会社としての見解ではありません。また、本書は、著者の金融機関勤務や弊社の金融システム開発経験をもとにしています。したがって、特に参考にした著書はありませんが、金融庁、日本銀行、全銀協等の公表資料や諸統計、銀行のディスクロージャー誌等は大変参考にさせていただきました。

最後に、社団法人金融財政事情研究会出版部の佐藤友紀氏には、出版にあたっていろいろお世話いただきました。あらためて御礼申しあげます。

平成22年5月
NTTデータシステム技術株式会社
小泉 保彦

目次

第1章 銀行の貸借対照表と損益計算書
1 銀行の貸借対照表(バランス・シート、B/S)
貸借対照表(バランス・シート)の構造
2 銀行の貸借対照表を読むときの留意点
不良債権の圧縮/保有株式の価格変動リスク管理/国債の価格変動リスク管理/純資産(自己資本)の重要性と質の改善
3 銀行の損益計算書(プロフィットアンド・ロスステートメント、P/L)
銀行の経常収益(資金運用収益、役務取引等収益)について/銀行の経常利益(資金運用益、役務取引等収支)について/業務純益という利益概念/利回りと利鞘という概念/運用面の利回り/調達面の利回り/収益対策として利鞘を考えるときの留意点/収益対策として手数料を考えるときの留意点/銀行の収益の向かう方向
4 IFRS(国際財務報告基準)について
IFRSの適用について/IFRS適用に至る経緯と展望/IFRSの考え方と日本基準との差異/銀行の財務諸表への影響

第2章 間接金融と直接金融
1 金融の2様態と間接金融の優位
間接金融優位の実情/間接金融と直接金融の仕組み/間接金融のビジネス・モデルと成立条件/直接金融のビジネス・モデルと成立条件
2 間接金融と直接金融を理解するための留意点
市場型間接金融について/サブプライム・ローン問題/銀行業と証券業の兼業の現状について/銀・証分離の歴史的経緯とその理由

第3章 銀行の自己資本と自己資本規制
1 わが国の銀行の自己資本(「バブル」とその崩壊を振り返って)
BIS規制の自己資本の概念/自己資本規制と株式含み益/不動産に対する根抵当の設定
2 わが国の銀行の純資産(旧資本勘定)関連項目の推移と資本対策
貸倒引当金、繰延税金資産/純資産勘定/純資産を考えるときの追加的留意点(無コスト資金の役割)
3 BIS規制の経緯と考え方
BIS規制の経緯/BIS規制の考え方
4 現在のBIS規制(「新BIS規制」)
「新BIS規制(バーゼルII)」の第一の柱/「新BIS規制 (バーゼルII)」の第二・第三の柱/「新BIS規制」(バーゼルII)の枠組みの強化について

第4章 融資の種類とリスクについて
1 融資業務の特徴
2 おもな与信
与信業務の分類/手形割引(銀行与信の原点)/貸付(手形貸付と証書貸付)/当座貸越(利用方法の拡大)/支払承諾(保証行為の信用リスク)
3 与信構成にみる信用リスクの拡大
4 運転資金と設備資金、長期資金と短期資金
運転資金と設備資金の違い/資金使途とは何か(支手決済資金のこと)/長期資金と短期資金を分けるもの
5 与信リスクの種類
融資の5原則/安全性の毀損(与信先の破綻)/収益性の毀損(利息の延滞等)/流動性の毀損(返済の滞り)

第5章 与信リスクはどのように管理するのか
1 与信リスク管理の三つの側面
2 融資構造の工夫によるリスク分散(第一の方法)
小口分散によるリスクの拡散/業種分散によるリスクの拡散/地域分散によるリスクの拡散
3 保全によるリスクの回避(第二の方法)
不動産担保による保全/その他の保全措置
4 審査によるリスク判定(第三の方法)
5 与信先格付(審査の補完)
与信先の銀行内格付/債務者格付(企業格付)と案件格付(与信格付)の違い/企業格付における定量評価と定性評価の意味/格付定着が遅れた背景(メイン・バンク制度や土地神話)/格付の重要性に関する認識の変化/自己査定上の与信区分について
6 顕在化した不良与信の処理方法
不良資産の「管理」/引当(間接償却)の意味するもの/債権放棄の意味するもの/債権売却の意味するもの/不良債権の最終処理(直接償却、担保処分、回収等)

第6章 銀行の証券業務について
1 銀行の有価証券運用目的
2 商品有価証券取扱いの経緯(公共債ディーリング)
3 投資有価証券保有の現状と評価
預貸率、預証率の意味するもの/銀行の有価証券保有内訳の特徴
4 国債について
銀行の国債保有動機/国債の価格変動リスク/財政からみた日本国債/金融市場からみた日本国債
5 地方銀行の地方債保有とその背景
6 銀行の株式保有について
政策投資株(持合株)の抱える問題/純投資株(運用・転売目的)の運用方法
7 時価会計の意味するもの
時価会計と銀行経営上の留意点/時価会計導入前の国債評価方法について/時価会計の長所と短所について

第7章 資金吸収と預金保険制度
1 預金吸収の経営上の位置づけ
2 流動性預金と固定性預金の違い
3 預金保険とペイオフについて
預金保険/ペイオフについて
4 実質金利による貸出採算の判定
5 定額貯金等の抱えるリスク
6 譲渡性預金は預金か
7 銀行の預金業務等の推進について
預金集め等業務推進の枠組み/推進部門と渉外係員について/テリトリーとその管理について/付利競争や商品による差別化への模索

第8章 金融派生商品(デリバティブズ)の基本形について
1 金融派生商品(デリバティブズ)の基本形は何か
金融派生商品(デリバティブズ)の種類と想定元本/先物(フューチャー)はどういう取引か/スワップ(通貨スワップ、金利スワップ)はどういう取引か/オプションはどういう取引か
2 デリバティブズを活用した商品の例(仕組債)
3 金融派生商品の取引目的
ヘッジの意味するもの/投機(スペキュレーション)の意味するもの
4 金融派生商品のリスクについて
5 金融派生商品の信用リスク(カレント・エクスポージャー)の計算方法
6 オプション取引固有のリスクについて

第9章 銀行のALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)の基礎
1 ALMの概念をどうとらえるか
2 ALMの必要性がどうして認識されるようになったのか
3 RAROCとは何か(ALMのもう一つの原点)
4 マチュリティー・ラダー管理とは何か
マチュリティー・ラダーによる金利ミスマッチの測定/金利シミュレーションの必要性とその方法/マチュリティー・ラダーをどのように活用するのか/金利ミスマッチ管理の方法(運用・調達構造の改善) /金利ミスマッチ管理の方法(金利スワップ)/時価会計による損益のフレとマチュリティー・ラダーへの影響
5 VaR(バリュー・アットリスク)について
VaRの概念/VaRの計測方法/VaR運用上の留意点(VaRの有効性を保証する条件)
6 BPV(ベーシスポイントバリュー)について
7 わが国の金融機関におけるリスクの総合管理(RAROC的アプローチ)

第10章 勘定系事務と事務リスクの管理について
1 勘定系事務の構造
基本業務を遂行するための勘定経理/勘定系事務の流れ
2 定系事務の基本ルール
事務の3原則/現物主義(現物重視の意味)/記録主義(記録重視の意味)/検証主義(検証重視の意味)
3 営業店事務の具体例
現金在高帳と現金管理事務/重要用紙の管理/預金口座の開設/便宜扱い(電話依頼による現金の届け、無帳・無印の払出し等)/キャッシュカード・通帳・印鑑の管理/過振りの管理(準与信事務)/給与振込みの管理
4 事務リスク管理の経営上の位置づけ

第11章 営業店の収益管理はどうなっているのか
1 独立採算制度(本支店レートに基づく内部損益の振替)
2 営業推進上の本支店レートの活用
3 金利リスク管理と本支店レート
差額法と総額法/本支店レート水準の決定方法/金利リスクの管理部署と本支店レート

第12章 為替業務と資金決済システムについて
1 銀行の決済機能と資金決済システムについて
預金による資金決済について/決済システムの全体像/決済システムのリスク
2 わが国の資金集中決済制度の概要について
民間集中決済制度の種類/全銀データ通信システム(内国為替の決済)/手形交換制度(手形や小切手取引の資金決済)
3 集中決済システムの決済リスク管理
制度参加銀行がデフォルトしたときにはどうするのか(リワインドと損失補てん)/リワインド・ルールとその問題点(手形交換)/損失補てんとその問題点(内国為替、旧外為円決済)/内国為替(全録データ通信)の具体的なリスク管理策/旧外為円決済システムの具体的なリスク管理策
4 日本銀行当座預金による最終資金決済とその方法
時点処理とRTGS/次世代RTGSによるRTGSの効率化
5 資金決済と証券決済をつなぐもの(DVP)
DVP(デリバリー・バーサス・ペイメント)の概要/DVPの現状/PVP(ペイメント・バーサス・ペイメント)の概要
6 証券取引のリスク管理(T+0、T+1)とSTP化
未決済期間の短縮(T+0、T+1)/証券取引のSTP化(T+1、T+0実現の条件)

おわりに