スイミング・サイエンス: 水泳を科学する

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スイマー必読のガイド

効率的な泳ぎのメソッドだけでなく、体力強化やけがの予防、技術や流体力学、生理機能、心理、安全など、水泳のすべてを網羅したガイドブックです。科学的分析による解説で、最高の泳ぎを実現するためには何をすべきかが分かります。

G・ジョン・マレン (編集), 黒輪篤嗣 (翻訳)
出版社 : 河出書房新社 (2018/7/14)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第1章 流体力学
チアゴ・M・バルボサ
第2章 技術
ロッド・ハヴリラク)
第3章 プールでのトレーニング
ロッド・ハヴリラク
第4章 陸上でのトレーニング
アラン・フィリップス

はじめに

水泳はあらゆる世代の人に楽しまれているスポーツだ。子どもたちは安全のために泳ぎを習うことを通じて、初めて水泳に触れることが多い。たいていはばしゃばしゃと水遊びをすることから始まって、やがて水中でくるくると回って遊ぶようになり、水に浮く感覚や水中特有の体の動きのおもしろさを知る。考えてみれば、泳ぐことぐらい人間にとって不自然な行為はなく、泳ぐためには一から体の動かし方を教わらなくてはいけない。

ほかのあらゆるスポーツと違って、空気より密度の高い環境で速さを競わなくてはならないのが水泳だ。水の密度の高さゆえ、あらゆる体の動きを正確にコントロールすることが求められる。少しでも間違った動きをして、抵抗を増やせば、たちまち大きくスピードを落としてしまう。だから、上手に泳ぐためにも、水泳をより楽しむためにも、水泳の科学をしっかり理解しておくことが大切になる。

1896年のオリンピックで競技種目に選ばれて以来、競泳の泳法やフォーム、水着、設備は大きく変化してきた。当初、競泳は海や川で行われていた。プールが使われるようになったのは、1908年からだ。男子選手は1940年代まで全身を覆う水着を着ていた。そのころは生地の性質のせいで、水着によって生じる抵抗もとても大きかった。レーンが初めてロープで仕切られたのは1924年、スタート台が導入されたのは1936年だ。ゴーグルの着用は1976年まで認められていなかった。

本書『スイミング・サイエンス』の執筆者は、水泳の物理学や心理学、技術、戦術に関する世界の第一人者たちだ。さらに本書には、水泳研究の最高権威で、草分けでもあるカウンシルマン博士をはじめ、水泳のあらゆる側面を研究している研究者たちの重要な発見の数々も紹介されている。それらの中には19世紀の発見もあれば、今年の発見もある。水泳には驚くほどほどさまざまな側面があり、本書で取り上げられている科学のテーマは多岐にわたる。史上最強のスイマーといわれるマイケル・フェルプスも、選手としての成長の段階に応じて、科学のいろいろな分野の知見を取り入れることで、自分の泳ぎを驚異的なレベルにまで引き上げてきた。技術の高さや、練習に真剣に取り組む姿勢や、練習の土台は米国メリーランド州ボルチモアでのジュニア選手時代を通じて培われたものだ。フェルプスは徹底的に体作りを行う――そのおかげで比較的けがに見舞われることが少なかった――とともに、メンタルの強化にも力を入れている。複数の金メダルを獲得しなくてはならないという想像を絶する重圧に耐えて、ミロラド・チャビッチとの歴史に残る名勝負を演じたのは、メンタルトレーニングの賜物だ。

本書では章ごとに異なる科学の分野を取り上げて、水泳を深く理解す必要な基礎知識を提供している。すべての人に当てはまる共通の解決等はない。したがって本書の執筆者たちは、万能の方法とか、ドリルの一覧とかを示すのではなく、スイマー自身にそれぞれにいちばん合った解決策を見いだしてもらえるよう、科学的な事実にもとづいた取り組み方を紹介している。第1章「流体力学」では、泳ぐ時に水と体がどう作用し合っているかを解説する。水中でのストリームライン姿勢の保ち方や、トルクやパワーを生み出す関節の動かし方を知ることが水泳には欠かせない。第2章「技術」では、生体力学的に効率のよい泳ぎ方を掘り下げる。水泳はほかのスポーツに比べ、技術の優劣によって差がつきやすい。ところがほとんどの人が最も改善を必要としているのが、この技術の部分でもある。なお紙幅の制約があり、キックや、平泳ぎのタイミング、クロールとバタフライのリカバリー、背泳ぎのフィニッシュ、リレーの飛び込み、ターンなど、いくつかの技術については省かざるをえなかった。第3章「プールでのトレニンニング」では、水泳時の生理学的な機能に着目し、どういうトレーニングが効果的かを考える。現代の競泳選手には強靭な肉体も求められる。そこで第4章「陸上でのトレーニング」では、プール外でのトレーニングによって体力や筋力を強化するうえで知っておきたい科学を紹介する。第5章「栄養」では、水泳で最高のパフォーマンスを発揮するためには、どんな栄養をどの程度摂取すればいいかを検討する。負荷の大きい運動をすれば、けがをしやすくなる。そこで第6章「けがの予防とリハビリ」では、各部位の損傷を避ける、または最小限に抑えるための最善の方法を探る。また、どの章にも、水泳の科学が特別な用具――数値流体力学や運動学、筋電図計測で使われている用具など――によってどう変わったかを詳しく見るコーナーも設けている。さらに「現場の科学」と題したページでは、科学的な知識がトップ選手たちにどういう直接的な恩恵をもたらしているかを、迫力満点の写真とともに紹介する。

関心のあるページを拾い読みしてもいいし、最初から最後まで通読して、概要をつかんでもいい。本書を読めば、水泳にどんな科学的な事実が秘められているかがわかるだろう。

水泳のパフォーマンスには流体力学が深く関わっている。本章では、水がスイマーの体とどのように作用し合っているかを、科学的に解き明かす。体の周りにはどのような水の流れができるか、泳ぐ時に生じるさまざまな力はどのようにエネルギーの消費に影響しているか、ひいては泳ぎ方の効率にどう影響しているかを掘り下げる。水泳の選手、コーチ、研究者は日夜、どうすればそれらの側面を改善できるか、知恵を絞っている。泳ぎ方の効率を高めてタイムをよくするため、最新の装置を使って、選手の泳ぎが分析されている。それらの分析の対象は泳ぎのフォームや水着はもちろん、泳いでいる時の指の位置いう細かいことにまで及ぶ。

G・ジョン・マレン (編集), 黒輪篤嗣 (翻訳)
出版社 : 河出書房新社 (2018/7/14)、出典:出版社HP