2030年のフード&アグリテック ―農と食の未来を変える世界の先進ビジネス70―

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2030年の農業DX時代を展望

デジタルプラットフォームや代替肉などの農と食の新たな技術・製品分野を『フード&アグリティック』と呼び、これは、2030年までに農と食の持続可能な新たなシステムを想像することになるでしょう。本書では、フード&アグリティックを牽引する世界の企業70社を紹介し、2030年までの市場展望と農業経営を俯瞰します。

佐藤 光泰 (著), 石井 佑基 (著), 野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社 (編集)
出版社 : 同文舘出版 (2020/4/17)、出典:出版社HP

はじめに

2020年3月2日、米国大手IT企業のグーグル(アルファベット)社の傘下で社会課題の解決に取り組む研究開発組織X(旧グーグルX)社は、ビッグデータと人工知能(AI)を活用した水産養殖管理用のデジタルプラットフォームを開発したことを発表した。これは生管内の高精度カメラや3D画像処理技術を用いて魚1匹ごとの「顔」を認識し、AIが生簀内の魚の数や個々のサイズ、病気の有無などをリアルタイムに判別・記録する個体管理システムである。

X社はこれまで、自動運転技術で世界を席巻しているウェイモ社や“空飛ぶ風力発電として画期的なマカニ社をスピンアウトしており、「Tidal(タイダル)」と名付けられた水産養殖プロジェクトの行方に注目が集まる。

X社で陣頭指揮を執るのは、グーグル社の共同創業者であるセルゲイ・ブリン氏である。同氏は「動物福祉(動物愛護)」や「環境問題」に強い関心を持ち、2013年にオランダ・マーストリヒト大学で開発された世界初の培養肉に研究資金を投下したスポンサーとしても知られている。培養肉は牛の筋幹細胞を採取・培養して製造される代替肉で、「と畜」の必要がなく地球環境に負荷の小さい製品のため、別名“クリーンミート”とも呼ばれている。

培養肉は2022年頃の上市が見込まれるが、昨今、世界中で旋風を巻き起こしている代替食品は、植物由来の原料で製造された植物肉である。植物肉は米国のスタートアップであるビヨンド・ミート社とインポッシブル・フーズ社が2015年以降に市場を創造し、ビーガンやベジタリアンだけでなく、社会課題に高い関心を持つ若いリベラル層を中心とした消費者を取り込んだ。

植物肉が消費者の支持を集めた最大の理由は、テクノロジーの進化による「味」の飛躍的な改善である。両社の植物肉は本物の肉の見た目や味、香り、食感などを分子レベルで解析し、植物性原料のみでそれらを再現することに成功した。これまでの“もどき肉”とは味で一線を画する。

植物肉は一過性のブームで終わる気配はない。米国食肉最大手タイソン・フーズ社のノエル・ホワイトCEOは2019年末に、「2030年に植物肉が食肉市場の半分程度を占めていても不思議ではない」と述べているように、2015年のSDGs(持続可能な開発目標)の採択以降、消費者の嗜好は根本から変わり始めている。「エシカル消費」が表すように、彼らの関心は社会課題の解決であり、言い換えると持続可能な畜産の生産システムの構築である。

筆者はこのようなデジタルプラットフォームや代替肉などの農と食の新たな技術・製品分野を『フード&アグリテック』と呼んでいる。これは「フード(食品)」「アグリ(農業)」に、デジタルやロボットなどの「テクノロジー」を掛け合わせた造語であり、わが国が推し進める「スマート農業」に、一部の食品・流通分野を含めた農と食の新たなソリューション概念である。

フード&アグリテックは、「第三次農業革命」を通じて農業分野の生産性改善や効率・省力化に寄与すると同時に、農と食の産業にデジタルトランスフォーメーション(DX)を促す契機となる。つまり、製品やサービス、生産から流通までの各プロセス、ビジネスモデルなどが変革し、業界の垣根も徐々に取り払われ始める。異業種からの多様なプレーヤーの参入を通じて市場のすそ野の拡大が進む。結果として、2030年までにフード&アグリテックは「農と食の持続可能な新たなエコシステム」を創造することになろう。

本書ではフード&アグリテックを5つのセクターに分類し、第I部では各セクターの市場概要と動向などを俯瞰する。続く第Ⅱ部では、フード&アグリテックを牽引する世界のスタートアップ/企業70社を紹介し、第Ⅲ部では各セクターの2030年までの市場展望とDX時代の農業経営を俯瞰する。

フード&アグリテックが国内外で大きな注目を浴びている中、本書の内容が、農と食の産業に携わる関係者はもちろん、新規ビジネスを検討する異業種企業の皆様にとって、少しでもお役に立てれば幸いである。

最後に、この場を借りて、本書の訪問取材にご協力頂いた国内外の先進企業70社の皆様に心より御礼を申し上げる。また、出版の労をとって頂いた同文館出版株式会社の青柳裕之様と大関温子様に深謝するとともに、本書の出版に関して様々なサポートを受けた弊社の大野敦幸社長と同僚の皆に感謝したい。

2020年3月
野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社
調査部長 主席研究員 佐藤光泰

佐藤 光泰 (著), 石井 佑基 (著), 野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社 (編集)
出版社 : 同文舘出版 (2020/4/17)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第Ⅰ部 黎明期を迎えるフード&アグリテック市場

1 フード&アグリテックと第三次農業革命
1. フード&アグリテックが期待される背景
2. フード&アグリテックと第三次農業革命
3. 第三次農業革命に期待される成果

2 フード&アグリテックの市場概要
1. 次世代ファーム
(1) 植物工場
(2) 陸上・先端養殖
2. 農業ロボット
(1) ドローン
(2) 収穫ロボット
(3) ロボットトラクター
3. 生産プラットフォーム
①耕種農業分野
②畜産分野
③水産分野
4. 流通プラットフォーム
①中国
②米国
③欧州
④日本
5. アグリバイオ
(1) 代替タンパク
①植物肉
②培養肉
③植物性ミルク・乳製品
④昆虫タンパク(昆虫食)
(2)ゲノム編集

第II部 フード&アグリテックをリードする世界の先進スタートアップ/企業70社

1. 次世代ファーム
(1)植物工場
スプレッド (京都)
ファームシップ (東京)
本田屋商店 (千葉)
福井和郷 (福井)
成電工業 (群馬)
SANANBIO (中国)
Crop One HD (米国)
AeroFarms (米国)
Bowery Farming (米国)
Freight Farms (米国)
InFarm (ドイツ)
Growing Underground (英国)
Seedo (イスラエル)
(2)陸上・先端養殖
FRDジャパン (埼玉)
SalMar (ノルウェー)
ソウルオブジャパン (東京)

2. 農業ロボット
(1)ドローン
ナイルワークス (東京)
SZ DJI Technology (中国)
XAG (中国)
(2)収穫ロボット
inaho (神奈川)
Abundant Robotics (米国)
Octinion (ベルギー)
Lely HD(オランダ)
Tevel Aerobotics Technologies (イスラエル)
meshek(イスラエル)
(3)ロボットトラクター
クボタ(大阪)
ヤンマーアグリ(大阪)

3. 生産プラットフォーム
オプティム (東京)
スカイマティクス (東京)
ベジタリア (東京)
富士通 (東京)
ファームノート (北海道)
Farmer’s Business Network (KE)
The Climate Corporation (米国)
GRUPO HISPATEC (スペイン)
Priva (オランダ)
Connecterra (オランダ)
Nofence (ノルウェー)
Aimilk (イスラエル)
A.A.A Taranis (イスラエル)

4. 流通プラットフォーム
ポケットマルシェ (岩手)
マイファーム (京都)
羽田市場 (東京)
Meicai (中国)
Songxiaocai (中国)
Shenzhen Agricultural Products (中国)
Shanghai Hema Network Technology (中国)
Aggrigator (米国)
Pan European Fish Auctions (オランダ)
SEMMARIS (フランス)

5. アグリバイオ
(1)代替タンパク
インテグリカルチャー (東京)
BugMo (京都)
タベルモ (神奈川)
ムスカ (東京)
愛南リベラシオ (愛媛)
Gryllus (徳島)
エリー (東京)
Beyond Meat (米国)
Kite Hill (米国)
Memphis Meats (米国)
Finless Foods (米国)
Calysta (米国)
Mosa Meat (オランダ)
Nova Meat (スペイン)
Hargol FoodTech (イスラエル)
(2)ゲノム編集
エディットフォース (福岡)
プラチナバイオ (広島)
Calyxt (米国)
Ginkgo Bioworks (米国)
Inari Agriculture (米国)

第Ⅲ部 フード&アグリテックが促す農と食のデジタルトランスフォーメーション(DX)

1 フード&アグリテックの市場展望
1. 次世代ファーム
(1) 植物工場
(2) 陸上・先端養殖
2. 農業ロボット
(1) ドローン
(2) 収穫ロボット
(3) ロボットトラクター
3. 生産プラットフォーム
4. 流通プラットフォーム
5. アグリバイオ
(1) 代替タンパク
①植物肉
②培養肉
③植物性ミルク・乳製品
④植物卵(卵液)
⑤植物性・培養シーフード
⑥昆虫タンパク(昆虫食)
⑦その他食用タンパク(藻類など)
⑧代替飼料(代替魚粉など)
(2)ゲノム編集

2 フード&アグリテックと2030年の日本農業
1. フード&アグリテックを推進するコアテクノロジー
2. フード&アグリテックが創出する農と食の新市場
3. フード&アグリテックとデジタルトランスフォーメーション
4. デジタルトランスフォーメーション時代の農業経営

佐藤 光泰 (著), 石井 佑基 (著), 野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社 (編集)
出版社 : 同文舘出版 (2020/4/17)、出典:出版社HP