物流を学ぶ

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物流の全体像がわかる

物流は他のサービスとことなって発生と同時に消費される即時材の特徴を持ち合わせています。また、物流の起点や結節点となり、不特定の貨物が利用する港、航空、鉄道は公共性が高く、物流の一端は行政のインフラ整備に大きく依存しています。本書は、トラックや鉄道貨物などの個別具体的な物流の機能と特性や物流の歴史まで総合的に解説しています。

山本 裕 (著, 編集), 男澤智治 (著, 編集)
出版社 : 中央経済社 (2020/4/18)、出典:出版社HP

はじめに

この本は,大学の学部で「物流論」や「ロジスティクス論」または専門ゼミナールのなかで使用されることを目的に書かれたものです。物流という言葉は小中学校や高等学校の社会科の教科書で聞いたことはあるかと思いますが,物流について一から勉強してきた人は少ないと思います。

しかし,物流は私たちの日常生活に密接に関連しています。たとえば,コンビニ,スーパーで買い物をする時,そこに並べられている商品を届けるのは誰でしょうか。また,Amazonや楽天などのネット通販を利用した際に注文した商品を誰が自宅まで届けるでしょうか。このような取引をした時に,モノを届ける物流がなければ私たちは何もすることができませんね。さらに,2011年3月の東日本大震災,2014年4月の熊本地震など,発災直後に被災地に食料や緊急物資を届ける,これも物流の重要な役割です。

近年は,企業の国際化が一般化しており,トヨタ自動車をはじめ世界中に生産拠点,販売拠点を構える日本企業が多数あります。これらの企業において,国際間の部品や原材料,中間財,最終製品を届ける,または保管する物流が必要でしょう。

このように,物流やロジスティクスは,日常生活や企業の経営活動になくてはならない,ライフラインのようなものです。言い換えれば,物流は水や電気,ガスと同じような働きをしていますね。したがって,学生の皆さんが,将来就職する先はメーカー,卸売業,小売業であれ,物流を勉強しておくことは,とても重要となっています。

<本書の構成>
それでは,読み始める前に,本書の構成について解説します。

「第1章 物流を学ぶ」では,物流の基本機能やこれから物流を深く学ぶにあたって,その概要を知るためのガイドについて書かれています。「第2章 サプライチェーン・マネジメント」では,サプライチェーン・マネジメント(SCM:Supply Chain Management)の重要性およびその内容を学びます。さらに,サプライチェーン戦略の位置づけやブロックチェーンの活用方策も学びます。

第3章から第8章にかけては,陸・海・空の各輸送モードやインフラ,結節点としての倉庫の機能について学びます。「第3章 トラック輸送と宅配便」では,わが国における国内輸送の主力であるトラック輸送の概要,近年とくに伸びが著しい「宅配便」のシステムについて最新動向も踏まえて学びます。「第4章 物流倉庫」では,倉庫について概観した後,倉庫を核とした物流ネットワーク,倉庫内の運用について学びます。

「第5章 日本の鉄道貨物輸送」では,トラック輸送を補完する鉄道輸送の概要,モーダルシフト政策と鉄道輸送の可能性について学びます。「第6章 国際コンテナ輸送と船荷証券」では,現実に世界でどのように国際コンテナを使用して貿易が行われているのか,その具体的な内容と船荷証券B/L(Bill of Lading)について学びます。「第7章 港湾物流」では,港湾の重要性を踏まえながら港湾の役割と機能についての理解を深めるとともに,港湾の管理・運営体制の形態と特徴,国際港湾としての競争力強化に向けた港湾整備戦略について学びます。さらに,近年さまざまな分野で導入されているIoTやAIなどの情報通信技術を活用した次世代型港湾整備も進んでいることから,その整備事例についても併せて学びます。「第8章 航空輸送」では,航空輸送の役割や特徴を多面的に理解し,より効果的な輸送手配や物流管理を図るための基礎的知識を学びます。

第9章と第10章は,国際複合一貫輸送の事例としてインターモーダル,シームレス物流を取り上げています。
「第9章 国際複合一貫輸送:インターモーダル」では,国際的な鉄道貨物輸送として,国をまたぐ国際鉄道貨物輸送を学びます。第5章で日本国内のJR貨物による鉄道貨物輸送を学びましたが,それが,国際的な流れに合ったものなのかどうか,国際的な鉄道貨物輸送の発展と成果を今後どのように取り入れていくべきかなど,日本の現状を念頭に置きながら,学びます。とくに,近年中国政府が力を入れている「一帯一路」と関係した中欧班列についても併説しています。「第10章EUの物流実情」では,産業活動が地球規模で展開されるなかで,IT・IoT・自動(無人)化を駆使した完全シームレスSCM(Supply Chain Management)物流(さらにスマート物流)の高付加価値化が重要であるとしています。そのなかで,ドイツの「第4次産業革命:インダストリー4.0」などについて紹介しています。

「第11章 物流産業の現状と行政の取り組み」では,国内の物流産業の現状と直面している課題,物流産業が抱えている課題に対応するための行政の取り組みを紹介しています。昨今,日本の物流サービスは,物流ニーズの変化や,少子高齢化による労働力不足,働き方改革による労働環境改善の必要性などを背景に,物流の効率化や生産性の向上が重要な課題となっており,現在の優れた物流網を将来にわたって維持し,新たなニーズに応えるべく発展させていくためには,関係者が連携し,さまざまな対策を行う必要が生じています。

「第12章 戦後のわが国物流の総括とこれからの物流」では,戦後のわが国の物流について6つの段階に分けて整理しています。また,これからの物流について,「ロジスティクス4.0」,さらに,最近の新しい物流の動きについて,「自動運転」「先端技術の導入」について紹介しています。

本書の特長は,6名の大学教員に加え,6名の実務経験者・行政関係者と共同で執筆した点にあります。大学教員による理論的な内容のみではなく,民間や行政の方が執筆者に加わることで,読者は物流のダイナミズムに触れることができるのではないかと自負しております。今回の執筆者は,日本物流学会九州支部の研究会メンバーであり,支部メンバーによる初めての共同研究の場となりました。

本書は学生のみならず,これから物流企業に就職を目指す方や物流部門に初めて配属された方など幅広い方にご愛読いただければ幸いです。最後に,本書の出版にあたっては,中央経済社の小坂井和重氏に大変お世話になりました。この場をお借りして御礼申し上げます。

2020年3月
編著者
山本 裕
男澤 智治

山本 裕 (著, 編集), 男澤智治 (著, 編集)
出版社 : 中央経済社 (2020/4/18)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 物流を学ぶ
●本章の学びの目的
1 物流とは何か
(1) 物流の概念
(2) 物流の機能

2 物流の課題
(1) 物流と利便性の関係
(2) モーダルシフトと物流効率化の工夫

3 物流を調査・研究する
(1) 定期船輸送とは何か:海運史から
(2) コンテナ輸送と世界経済の関係
(3) 運賃の科学

4 物流を学ぶにあたって
〈参考文献〉
〈練習問題〉

第2章 サプライチェーン・マネジメント
●本章の学びの目的
1 サプライチェーンとは何か
(1) サプライチェーンの構成
(2) サプライチェーンの目的

2 サプライチェーン設計
(1) 2つのサプライチェーン戦略
(2) 拠点の立地計画

3 デジタル時代のSCM
(1) 情報の価値
(2) 情報技術の活用:IoT, AI, ブロックチェーン
〈参考文献〉
〈練習問題〉

第3章 トラック輸送と宅配便
●本章の学びの目的
1 トラック輸送の「今」
(1) 物流の主役としてのトラック輸送
(2) トラック輸送事業発展の経緯
(3) トラック輸送の仕組み

2 宅配便:究極のトラック輸送
(1) 宅配便の誕生と発展
(2) 現在の宅配便のすがた
(3) 進化する宅配便

3 トラック輸送と宅配便の課題と未来
(1) 人手不足と過酷な労働環境
(2) 宅配便が抱える問題:物量の急激な増加
(3) 輸送効率と生産性向上への取り組み/42
(4) ラストマイル問題解決への糸口
〈参考文献〉
〈練習問題〉

第4章 物流倉庫
●本章の学びの目的
1 物流倉庫とは
(1) 物流倉庫の機能
(2) 倉庫業法による区分

2 物流倉庫を核とした物流ネットワーク
(1) 物流ネットワークの考え方
(2) 物流倉庫の数とタイプ
(3) 倉庫の集約と分散

3 物流倉庫内の管理と運用
(1) 倉庫内作業フロー
(2) ロケーション管理
(3) ピッキング方法
(4) ダブル・トランザクション方式
(5) 倉庫管理システム
(6) 倉庫内レイアウト

4 近年の動向
(1) 共同保管
(2) 省人化・自動化への取り組み
〈参考文献〉
〈練習問題〉

第5章 日本の鉄道貨物輸送
●本章の学びの目的
1 鉄道貨物輸送の沿革と現状
(1) 沿革:新橋~横浜鉄道開業翌年から始まる
(2) 現状分析:変わらないシェア

2 貨物鉄道会社
(1) JR貨物
(2) 臨海鉄道・民営鉄道

3 モーダルシフトの可能性
(1) モーダルシフトの必要性
(2) モーダルシフトを推進するには
〈参考文献〉
〈練習問題〉

第6章 国際コンテナ輸送と船荷証券
●本章の学びの目的
1 貿易と国際コンテナ輸送
(1) 在来船とコンテナ船
(2) 国際コンテナ輸送

2 船荷証券
(1) 船荷証券の役割
(2) 船荷証券と信用状決済
(3) 船荷証券の記載内容と船会社の責任範囲
(4) 船荷証券の種類,約款,準拠法
〈参考文献〉
〈練習問題〉

第7章 港湾物流
●本章の学びの目的
1 港湾とは何か
(1) 港湾の役割
(2) 港湾の機能
(3) 港湾の分類

2 港湾の管理運営と整備
(1) 港湾施設の管理主体
(2) 港湾の運営形態
(3) 港湾運営会社制度の概要
(4) 港湾整備戦略

3 新技術を活用した次世代港湾整備
(1) IoTの活用
(2) AIの活用
(3) 自動化の活用

4 まとめ
〈参考文献〉
〈練習問題〉

第8章 航空輸送
●本章の学びの目的
1 航空輸送活用の動因

2 航空貨物輸送の概要
(1) 輸送要件
(2) 搭載容器
(3) 輸出国での流れ
(4) 輸入国での流れ
(5) 国際空港

3 IATAと航空運賃の仕組み
(1) ICAOとIATAの役割
(2) 海運との違い:輸送モード選択要素
(3) E-Freight:電子化

4 現状の課題と将来展望
(1) 高速輸送のボトルネック
(2) インテグレーターと国際宅配便
(3) 環境問題
〈参考文献〉
〈練習問題〉

第9章 国際複合一貫輸送:インターモーダル
●本章の学びの目的/1371コンテナ輸送の誕生
(1) コンテナリゼーション以前:~1960年代
(2) コンテナリゼーション以後:1960年代~
(3) コンテナの規格と種類

2 国際鉄道コンテナ輸送の発展と国際複合一貫輸送
(1) 北米大陸横断鉄道コンテナ輸送
(2) ユーラシア大陸横断鉄道コンテナ輸送

3 グローバルロジスティクスに必要な条件
〈参考文献〉
〈練習問題〉

第10章 EUの物流実情
●本章の学びの目的
1 最先端の完全シームレス物流

2 完全シームレス物流の基本について
(1) 完全シームレス物流の基本
(2) シームレス物流から高度なスマート物流へ
(3) 物流の梱包レスとセット替え不要
(4) 日進の完全シームレス物流

3 ドイツのシームレス物流の事例
(1) IoTを活用したロジスティクス4.0/スマート物流へ
(2) ロジスティクス4.0(IoT)の製造・物流の最高率事例と経済効果
(3) ハンブルグ港のスマート物流

4 EUの港湾等の最先騎自動化と情報システム
(1) 国際港湾での荷役自動化・オンライン情報化・通関システム
(2) EU方式の情報システムによる一貫遠隔管理
(3) EUの共通運輸政策

5 EUのスマート物流(完全シームレス物流)に学べ
〈参考文献〉
〈練習問題〉

第11章 物流産業の現状と行政の取り組み
●本章の学びの目的
1 物流産業の現状
(1) 国内物流の変化
(2) 市場取引の変化と物流への影響
(3) 深刻化する少子高齢化と労働力不足

2 物流産業と環境問題
(1) 地球環境問題
(2) 物流分野のCO2排出量

3 行政の取り組み
(1) 物流効率化に向けた対応策
(2) 物流効率化に向けた支援策
(3) 物流の効率化・生産性向上の具体例
(4) 物流分野における環境政策
〈参考文献〉
〈練習問題〉

第12章 戦後のわが国物流の総括とこれからの物流
●本章の学びの目的
1 戦後のわが国の物流
(1) 高度経済成長と物流:戦後~1960年代
(2) 石油危機と物流:1970年代
(3) 低成長時代の物流:1970~80年代
(4) 物流の国際化と円高への対応:1985年~
(5) 物流の高度化の進展:1990年代~
(6) 近年の物流動向:2000年~現在

2 これからの物流
(1) ロジスティクス4.0
(2) 日本ロジスティクスシステム協会の提言

3 新しい物流の動き
(1) 自動運転
(2) 先端技術の導入
〈参考文献〉
〈練習問題〉

索引

山本 裕 (著, 編集), 男澤智治 (著, 編集)
出版社 : 中央経済社 (2020/4/18)、出典:出版社HP