国際経済学 第3版 (現代経済学入門)

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国際貿易を幅広く丁寧に学ぶ

この本は、貿易理論をテーマにしているテキストです。伝統的な貿易理論や新しい貿易理論の説明のみならず、新しく出てきた側面についても解説しており、国際経済学の内容が網羅されています。国際経済関係における問題について理論を現実とリンクさせて学べる本と言えます。

若杉 隆平 (著)
出版社 : 岩波書店 (2009/1/27)、出典:出版社HP

第3版へのはしがき

多角的自由貿易体制を基礎として半世紀以上にわたり拡大を続けてきた国際貿易が現代の世界経済の発展を支えてきたことには疑いのないところである.こうした国際貿易の拡大とともにその形態には変化が見られている.一次産品と工業品との産業間貿易の拡大,差別化された工業品の間での産業内貿易の拡大から,財・サービスにとどまらず,資本・技術の国際取引の拡大,企業の生産工程単位での国際分業の拡大などにより,国際貿易の形態は大きく変化している.また,貿易の拡大には,中国,インド,ブラジルなどの新興経済諸国やその他の東アジア諸国,EUへの新規加盟諸国などが大きな役割を果たしている.言うまでもなく,国際貿易の担い手は企業である.多様な特性を持つ企業が国際市場において取引する実態にも注目しなければならない.
国際貿易の発展は経済全体に対して利益をもたらすとしても,すべての人々に等しく利益をもたらすわけではない,利益の配分に預かることのできないグループが生まれることも確かである.このため,自由貿易は,保護主義を求める利益集団,戦略的に産業を育成しようとする国の政策によってしばしば危機に瀕することがある.GATT/WTOは自由貿易ルールを維持,深化する上での基盤としての役割を果たしているが,一方では自由貿易原則が後退するような現象が常に見られたことも確かである.1980年代に多発した先進国間での通商摩擦は,近年では,先進国と新興経済諸国の間での貿易紛争の激化に変化している.また,WTOのもとでの多国間での貿易自由化への合意が困難となっていることに対して,特定の国と国との間での地域統合を形成することにより,無差別でなく,特定国間での貿易自由化を進める動きが見られている.
このようなさまざまな国際経済をめぐる諸現象を正確に把握するためには,国際経済学の基礎的知識をいわば「文法」として理解しておくことが欠かせない.本書は,このような観点から,国際経済を分析し,理解する上で最低限度必要とされる基礎的な理論や知識を習得するための学部学生を念頭においた入門書として書かれている.この意図は,1996年に発行された『国際経済学』(第1版),2001年の同第2版と同じであるが,第3版では,国際経済の変化や国際経済学における最近までの研究蓄積を踏まえて,これまでの内容を大幅に改訂している.本書の内容は以下のように構成される.

(1) 最初に,国際経済に関するデータを紹介する.これは,国際経済の諸現象を理解するための入り口として,国際経済を統計面から理解しておくことが必要であるとの立場によるものである.
(2) 次いで,伝統的な貿易理論であるリカードの比較生産費,ヘクシャー=オリーンの貿易理論を紹介する.ここでは,国際経済学の基礎理論として習得しておくべき,比較優位の概念,国際分業の利益,完全競争下での貿易均衡,特殊的要素と国際貿易,完全競争下での輸出入にかかわる貿易政策などを取り上げる.
(3) しかしながら,寡占市場下における差別化された工業品の貿易の拡大は,伝統的な貿易理論では説明できない.このため登場したのが「新貿易理論」である.ここでは,不完全競争下での貿易理論,規模の経済性と産業内貿易,さらには先進国間での通商摩擦の一因となってきた戦略的貿易政策と貿易利益に関して取り上げる.
(4) 国際貿易において近年注目されるのは,貿易において企業が果たす役割の大きさである.企業は均質ではなく,生産性において差異がある.直接投資・技術取引の拡大,生産工程単位の海外生産委託と国際分業の拡大といった新たな貿易の拡大を解明するには,企業単位での国際取引を抜粋して論ずることはできない,近年,企業の存在を国際貿易に取り込んだ研究が進展し,新しい貿易理論を形成している.こうした「新々貿易理論」を紹介しながら,直接投資,技術移転,海外へのアウトソーシングなど国際貿易の新たな側面を取り上げる.
(5) 最後に,WTOを中心とする国際経済システムの形成に伴う諸問題について,理論と現実の両面から紹介する.

本書の主たる読者は,ミクロ経済学・マクロ経済学の初歩を修得した後に,国際経済学をはじめて学ぶ経済学部の学生を想定している.このため国際経済学の考え方をできる限りわかりやすく,かつ,コンパクトな形で解説することを第一の目的としている.各章において簡単な数式がいくつか見られるが,大半は数学に関する特別の予備知識を必要とするものではない.また,読者の直感的な理解をサポートするために図表を多用している.さらにコラムなどを通して,できる限り現実の問題に引き寄せて基礎的な理論を理解していただけるよう工夫したつもりである.
限られたスペースの中にできるだけ多くの内容を織り込むことを試みているので,厳密性を多少は犠牲にした部分があるかもしれないが,国際経済学における入門的知識を習得しようとする読者にとってなるだけ理解しやすいよう記述することに心掛けたつもりである.もちろん,本書におけるこのような構成と内容は,学部レベルで国際経済学の基礎を修得しようとする学部学生のみでなく,あらためて国際経済学の知識を整理しようとする社会人の読者にとっても役立つものと考える.

『国際経済学』(第1版)が刊行されて以来,その内容に関して数多くの先輩.同僚の経済学者から有益なコメントや示唆をいただいてきた.また,横浜国立大学,慶應義塾大学,京都大学において著者が担当してきた国際経済学の学部・大学院の講義・ゼミ,あるいは北海道大学,早稲田大学などに招かれて開講した講義などを通じて,多くの学部生・大学院生諸君からの意見を伺うことができた.これらは,極力,第3版の改訂に際して反映したつもりである.なお,伊藤萬里君(日本学術振興会特別研究員)と田中鮎夢君(京都大学大学院経済学研究科博士課程在学)には,原稿に目を通してもらうとともに索引の作成に協力してもらった.以前のものに比べて第3版は少なからず改善しているものと期待しているが,それはこれらの人たちによるところが大きいと考える.
第3版の刊行に際しても,第1版・第2版に引き続き,岩波書店編集部髙橋弘氏には,編集上の貴重なアドヴァイスを頂くとともに,改訂作業において種々お手を煩わすことになった.本書が現代の国際貿易を理解するための教科書として少しでも斬新なものとなっているとすれば,高橋氏のお力添えによるところが大きいここに心より感謝を申し上げたい.

2008年12月
若杉隆平

若杉 隆平 (著)
出版社 : 岩波書店 (2009/1/27)、出典:出版社HP

目次

第3版へのはしがき

第1章 国際経済と統計データ
1 国際収支
2 貿易構造と財別データ
3 国際貿易と企業
[column] 世界貿易の拡大と多様な国際取引

第2章 国際貿易の基礎
1 国際貿易による利益
2 交換比率と交易条件
3 生産・消費と交易条件変化
4 経済発展と貿易均衡
[column] 交易条件の変化と貿易利益

第3章 比較優位と国際貿易
1 比較優位と絶対優位
2 比較優位と貿易利益
3 交易条件の決定と貿易均衡
4 貿易利益
5 貿易パターンの決定
[column] リカードの比較生産費

第4章 生産要素の変化と国際貿易
1 ヘクシャー=オリーン・モデル
2 財価格と生産要素価格――ストルパー=サミュエルソンの定理
3 生産要素量の変化と生産――リプチンスキーの定理
[column] 食料輸入と土地

第5章 生産技術と貿易均衡
1 等生産量曲線と要素価格
2 要素価格フロンティア
3 ヘクシャー=オリーン・モデルと「統合経済」
4 生産要素表示と国際貿易
[column] 貿易制限は誰を保護するか

第6章 特殊的要素と国際貿易
1 特殊要素モデル
2 財価格の変化
3 生産要素量の変化
4 生産要素の部門間移動——短期と長期
[column] 多数財・多数生産要素における比較優位の実証研究

第7章 貿易政策の理論
1 輸入制限の部分均衡分析
2 輸出制限・補助金の部分均衡分析
3 輸入制限の一般均衡分析
4 輸出税・輸出補助金の一般均衡分析
[column] 輸出税と国際価格

第8章 不完全競争下における貿易政策
1 輸入数量制限と関税
2 市場の独占と貿易政策
3 最適関税
4 生産要素市場の価格硬直性とセーフガード
[column] 競争法の域外適用

第9章 規模経済性と産業内貿易
1 規模経済性と貿易利益
2 特化パターンと貿易利益
3 製品差別化と独占的競争
4 産業内貿易
[column] 「水平的」と「垂直的」産業内貿易

第10章 戦略的貿易政策と通商摩擦
1 戦略的貿易政策と輸出補助金
2 幼稚産業保護と外部性
3 保護貿易と技術革新
4 通商摩擦
5 非生産的利益追求行動
[column] 貿易理論と産業組織論の融合——実証研究

第11章 直接投資と多国籍企業
1 生産要素の移動
2 生産要素移動の経済的利益
3 直接投資
4 多国籍企業化の要因
5 合弁事業・ライセンシングの選択
6 日本の対外・対内直接投資
[column] 中国への直接投資

第12章 技術移転と国際貿易
1 技術移転と貿易利益
2 最適技術の選択
3 技術移転メカニズム
4 技術移転と知的財産権
5 知的財産権保護と貿易
6 技術移転と経済厚生
[column] 所得水準と知的財産権の保護

第13章 国際貿易と企業
1 海外アウトソーシング
2 企業の異質性と国際貿易
3 産業集積と国際貿易
4 産業空洞化
[column] 日本企業のオフショアリング

第14章 国際貿易ルール
1 国際貿易ルールの変遷
2 WTOの設立と貿易ルール
3 国際貿易ルールと開発途上国経済
4 環境保護
5 地域統合
[column] WTOルールと市場の質

付録1:オッファー曲線と貿易均衡
付録2:マーシャル=ラーナーの安定条件
付録3:貿易無差別曲線

リーディングリスト
索引

装丁 森裕昌

若杉 隆平 (著)
出版社 : 岩波書店 (2009/1/27)、出典:出版社HP